THE LAST PHANTASM -OBITO-   作:大兄貴

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十二話 レミリア

 血溜まりの中に仰向けで倒れたオビトは、虚ろな目でフランドールを見上げていた。

 狂気に染まりし緋色の瞳に映るのは、無残にも四肢をもがれ達磨状態となった血だらけの体。呼吸の度に口元から血の泡を吐き出している。

 二人の傍には首のない妖精メイドの死骸が転がっている。指に付着した血を二人目のフランが舐めると、三人目のフランはその光景に不似合いな可愛らしい笑顔を見せる。

 辺り一面が血に塗れている。四人目のフランが掌を握ると、オビトの頭部が西瓜のように真っ赤に弾け飛ぶ。

 

「禁忌『フォーオブアカインド』」透き通るような声が輪唱する。「目を合わせたらダメなら……そうしないように、されないように数で押さえ込んじゃえばいいじゃない。手を出さないとは言ってないのに、どうして油断するのかなあ……」

 

 狂気に満ちた甲高い笑い声が、無機質な異空間の中で縦横無尽に反響し続けていた。

 

 などということもなく、フランドールや妖精メイドと共に地下空間を神威で脱出した五体満足のオビトは、本当に紅茶をご所望だった悪魔の妹、命拾いしたメイドと四階の踊り場で別れた後、今や悪あがきにも思える罠を回避しつつ――館の正面から向かって一番右奥にある目的の部屋を、咲夜の言葉通り目指して走り、赤い絨毯の上に放置された奇怪な饅頭を踏んづけると、餡子で横滑りしながら部屋の前へ無事に到着した。

 橋の上で咲夜が話していた礼儀だのは残念ながら、館を攻略するうちに忘却の彼方である。故にオビトはノックもなしに躊躇なく扉を開け放つと、次なる罠を警戒しながら中へ踏み込む。

 

「ここか……」

 

 道中で飽きるほどに見かけた新手の罠も、レミリアと妖精の姿もなかった。館内が霞むほど贅沢極まった内装が映るも、椅子やテーブルなどの家具があるのみ。

 咲夜は彼女が自室に居るかのように話していた。従者をも欺いたのか咲夜もグルなのか、紅茶のおかわりを取りに行ったのか、あるいは予期せぬ生理現象でも襲いかかったか。とにかく室内はもぬけの殻だった。

 周辺を調べ回りながら色々と思案するうちに、ふと天蓋つきベッドの傍、血のように紅い絨毯の上に展開されている謎の陣に気づいた。それもついさっき神威を無効化した転移結界と同じ文字とチャクラが術式に組み込まれている。妖精メイド曰くなんたら高等術式とかいうはた迷惑な代物だ。心底面倒臭そうな顔をするオビト。

 部屋からは何本もの羽ペンや羊皮紙、古書や外套や下着などが見つかるだけで、術式の他には変わったものもないようだ。これ以上の進展は期待できない。オビトが渋々結界の中に足を入れると、術式の起動により辺り一面が紅色の光に包まれた。

 

(奴とは話をつけて、平穏に終わらせたいもんだがな……)

 

 紅魔館に突入する前、里の和菓子屋でレミリアに遭遇した時――否、彼女を始めとする幻想郷の住民達に遭う前から思っていたことだ。争い事など起こさないに越したことはないと。オビトは終始戦闘に対しては消極的だった。 

 

 イタチのように平和を愛するわけでも、格好だけの偽善的な平和主義者であるわけでもない。

――生者と死者は対極に位置する。幻想郷に住む霊夢やレミリア達、忍世界に住むナルトやサスケのような命ある者とは違い、時が止まった死者は世界の歴史において、時を刻む資格を剥奪された者と考えていた。カグヤの異空間で実感した死を境に、本来なら穢土に留まるべきではない、永遠の眠りに就くべき存在になったと。再び命を宿して生き返ったに過ぎないと。

 同じ生者として新たな歴史を紡いでみる、という選択肢も一度は頭をよぎった。そして神威空間で黒ゼツを目の当たりにした時、とっくに死して現世より消えていた身の上として、『うちはオビト』という忍の歴史が夢を見ていた現実に気づかされた。

 

(…………)

 

 然るに終わりを迎えるにはもう少し猶予が必要となる。此度この世界に姿を見せた黒き意志の存在が終わりを許さない。

 あの者の愚かしい謀を葬ることこそ、トビやマダラとして重ねた多くの罪を背負い為すべき、幻想世界におけるうちはオビトとしての最後の任務。蘇りし者として真に戦うべきは黒ゼツであり、未来へ歩む幻想郷の人や妖怪達ではない。

 しかしながら――相手がレミリアのような幼子では、事が上手く運ぶとも思えない。全くもって厄介な話である。

 

 転移魔法陣に組み込まれた、移動先を固定させるための文字列がどこを指すかは判らないが、別の舞台を用意する辺り戦う気は満々だと直感する。その場合はおそらく、フランドールに見たような広い場所に転移するはずだ。地下の次は屋外にでも出るかもしれない。

 

――勝手で好戦的な妖怪が多い。

 

 紫の忠告を思い返してみると、まさしくその通りであった。

 冗談半分ほどにも受け取っていたが、物事とはどうしてかくも、なかなか思い通りに運んではくれないのか。

 

 

――◇◇◇

 

 

 見飽きた真っ赤な内装が溶けるように視界から消えると、入れ替わるように現れたのは月明かりの照らす幻想的な景色。外気には微かな霧がかかっている。やはり外に飛ばされたようだ。

 生ぬるい風が頬を撫ぜる。見渡す限り薄明るく、月光により青白い。足元は石材質、前方には紅い時計塔がそびえており、斜めを向いた巨大な文字盤が確認できる。

 どうやら館の屋上に出たようで、ぼんやりと小島を囲む広大な霧の湖が見渡せる。遠方の湖畔は霧のせいで見通せない。

 

「綺麗なお月様でしょう?」

 

 館の空には不気味な月。写輪眼で時計塔の上辺りを直視した時、少女の気取ったような声が下りてきた。

 

「よくぞ途中で逃げ出さず――数々の罠を潜り抜けて、我が親愛なる月夜の舞台へ参ったものだ。うちはオビト」

「御託はいい。案内役をさっさと引き渡せ。そうすればすぐにでも消えてやる」

「あら、褒めてあげたのに。無粋な男ね」

「それともう一つ」

 

 文字通り上からの物言いをする彼女に対して、オビトは冷静な言葉を投げ返す。

 

「オレはお前と悶着を起こす気はない。先に言っておく」

 

 時計塔の天辺にて客人を待っていたレミリア。何の意図かは知らないが、高潔な夜の王らしく確かに映えて見える。

 そんな彼女は大きく翼を羽ばたかせると飛翔し、真っ赤な眼光を見せながら屋上に下りてきた。足先から軽やかに着地すると、一定の距離まで近づいてきて、静かに足を止める。

 対峙したオビトを見やり、レミリアは呆れたように腕を組む。

 

「相変わらず無愛想ねえ……アナタにその気がなくとも、こちらは剣を交えたいがために、わざわざこの舞台を用意したの。何のために人質までとったと思ってるのかしら」

「つまり大人しく返すつもりも、オレを帰す気もないんだな」

「ふふん」レミリアは微笑を見せる。「いやね、私って目を惹かれたものには……とことん興味を貫き通す性分でねえ。面白い外来人なら尚更。それにアナタ、どうせあの子を返したら返したで、例のワープ魔法で帰ってしまうのでしょう?」

「……何故オレの神威を知っている?」

「カムイって言うのね、あれ。覚えておくわ。あなたの名と一緒にね」

 

 レミリアに筒抜けだった瞳術の存在。弱点を見抜かれたわけでもなく、能力自体がバレたところで致命的でもなければ、死ぬわけでもない。しかし彼女には披露していなかった。少しは注意を向けるべきだったのか。そう考えつつオビトは、四階廊下の転移術式や、フランドールとのやり取りを思い返した。

 先ほどからレミリアは瞼を瞑り、瞳術対策かと思われる姿勢をとっている。元より強かそうな彼女がやると、どうにも遊びか眠っているように見える。

 

「地下での一連の出来事……お前自身の感知能力によるものか?」

「種を明かすと」上品に笑うレミリア。「……館内で私の目の届かない場所はない。アナタの活躍は最初からここに至るまで、全て観察させてもらったわ。パチェの手を借りて飛ばした方もそう。監視のための細工を怠るわけないでしょう」

「館の罠も妖精も全部、目で観て楽しむのに差し向けたわけか。お前の娯楽として」

「妹はまあ、少し事情が違うけどね」

 

 確かにレミリアの場合は、対侵入者の罠や刺客を用意するにあたり、館主としての真面目でそれらしい理由よりも、娯楽や見世物など面白味を出すための自分本意な理由で動く方が納得できる。むしろこの状況で本来の主らしい行動をとるなど、幼染みた彼女には興を削ぐ愚行に他ならない。

 

「アナタの運命は、私の手の中……この結末は初めから決まっていたのよ。でしょう?」

「高みの見物か」オビトは静かに言う。「……まあいい。それで、あいつはどこに居る」

 

 幻想郷の住人達との争いを望まぬオビトにとって、彼女が真面目でも幼稚でも戦闘狂でも、どのような狙いで館に招いたかなど興味の外。関心があるのは人質として連れ去られた案内役の妖精のみ。引き渡しさえすれば用はなくなる。

 

「死んだわよ、もう。あなたのお迎えがあまりに遅いから」

 

 素っ気なく言い放ったレミリア。オビトは表情を変えなかった。

 

「どこに居る、と訊いたはずだ」

「聞こえなかった? 哀れね」レミリアは滑らかに言う。「――死んだって言ったの。うるさかったから、うちのメイドに頼んでね、厨房のミキサーにかけといたわ。口は汚かったけれど、血の色は案外綺麗だったから拍子抜けしたわね――試飲してみたけど、甘めな血肉でそこそこ美味しかったわよ。ご馳走様」

 

 瞼を瞑ったオビトから憤りの情は感じられない。

 

「話が違うな。あいつは人質だったはずだが……オレを騙そうと?」

「言い換えるなら」レミリアは指を鳴らし、姿勢を少し落とす。「そうねえ……人質もどき。あの子は単なる釣り餌。こう表現すべきだったわね――あの子は初めから、アナタをおびき寄せるための使い捨て」

「使い捨て?」

「ええ。そもそも来たら返すだなんて、約束はしてないでしょう?」

 

 ここにきてオビトが目に見える反応を行う前に、足裏を蹴ったレミリアが鋭い爪で掴みかかる。

 時計塔の天辺から館の屋上まで、直線距離でもかなり離れていたというのに、鴉天狗にも比肩せし速力と動作でオビトの胴体を捉えるまで、ほんの一秒程度もかからなかった。

 レミリアの一撃は勢いよく腹部を貫通したが、オビトという引き裂くべき対象を――すり抜けてしまった。

 

「なら最後の問いかけだ。お前の話に嘘偽りはないのか?」

「嘘を吐くように見えるとでも? 意外と優しいのね、アナタのような輩も」

 

 オビトは万華鏡を瞳に映して、鋭利な爪を無言で受け入れている。

 

 霊体に触れただけで手応えはない。貫いたままの姿勢で静止し、今度は空いた左掌を開いてみせるレミリア。

 どこからともなく赤い霧が収束し渦巻いて、真っ赤な一振りの剣が瞬時に形成される。緋色に輝く一閃が走り、鋭い切っ先が沈み込むも、結果は変わらず体は流すべき血を見せない。

 細い両腕を伸ばした状態で、レミリアは不敵に口元を歪める。この状況を心から楽しんでいるようだ。

 

「にしても……やっぱりすり抜けるか。その綺麗な目、アナタ曰く写輪眼とやらの能力みたいね。羨ましいわ」

 

 人間の体を容易に裂く爪を引き抜いたレミリア。血霧を凝固させた鋭利な紅い剣でオビトの腹部を貫いたまま、余裕からか妖しい笑みを見せる。今や彼女は以前の幼さを捨て、見た目にそぐわない夜の王としての威圧感を発している。

 

「どうしたの? ただの案内係だと聞いていたけど。本当に大切な子だったり? そんな柄じゃないと思っていたのに」

 

 無表情で身動き一つしないオビトを眺めた後、勝ち誇った貌で何かを投げ捨ててみせた。

 ひらり、ひらりと風に乗って宙を舞う、くたびれた小さな衣服。見覚えのある水玉模様が目に映る。

 

「お前が思うような奴ではない。昨日今日の知り合いだ」

「そうよね」レミリアがくすりと笑う。「まあでも――あの子は自然の化身たる妖精だもの。頭や心臓を潰して粉々にしても、本当の意味で死にはしないでしょう。この幻想郷から自然の力が全て失われない限りね。どこかでしぶとく生まれ変わるわ、きっと」

 

 オビトは特に何も言わず、館の屋上を煌々と照らす月を仰いだ。

 

 全てはレミリアの思う通り。この世界で目覚めた時に偶然出会ったに過ぎない。言うなら何者にも取って代われる、小うるさいだけで何の変哲もない花精。

 当たり前だが友情だの愛情だのは、『はたけカカシ』や『のはらリン』と比べたら天地の差がある。古くからの知り合いだったり、ぼろぼろになるまで殴り合ったり、命の駆け引きをしたり、任務の中で極限を共に切り抜けたわけでもない。絆や愛どころか喜怒哀楽さえぶつけたことはない。それこそレミリアの言う通り、使い捨ての駒と見なしていたと指摘されても言い返せない。第一あの名無しの妖精とは、出会ってから丸一日も経っていないのだ。

 

(……?)

 

――ここでオビトに疑問が芽生える。どうしてこんなことを考えるのだろうか、と。

 このような思考は、忍界で暗躍していた頃とは真逆。現在でさえ心身に染み込んでとれない『うちはマダラ』の色と比べて異質極まりない。しかし替えが利くはずの少女を悪魔の手から奪い返すために、紅魔館を訪れたのは事実。

 目覚めた妖怪の山、煎餅だらけの博麗神社、素晴らしき和菓子店。無感情な己の意に反して、翡翠色の髪と金色の瞳、持ち前の明るさと悪戯っぽさ、生意気ながら向日葵のような笑顔が脳裏をよぎる。

 

「気にすることもないわ。外来人のアナタには、どうだっていいのだから」

「イヤ……解らんな。オレにも」

 

 顔を上げてレミリアを見るなり、初めて自嘲し笑んだオビト。

 

「はっきりとは解らんが、こんなオレにも一つは言える」

「……何かしら?」

 

 怒りや悲しみなどもない、いつも通りの冷静さ。レミリアの方はそんなオビトを観察している。

 

「おそらくは――あいつのようにお調子者で能天気で生意気で、何も知らない小娘だろうと――償い切れない罪を犯した者にさえ親しげに話しかけ、自らの貴重な時間を使う物好きを――心のどこかで、面白おかしく思ったのかもしれん」

「へえ?」

「そんな奴がもし、オレなんぞと居たがために、自らを失ったのなら」

 

 上手く言葉に表すにはマダラとして生きた時間が長すぎたのかもしれないが、誰でもなかった『仮面の男』ならば決して口に出さなかった。

 もしかすると今の自分とも言えない、親友との永別の際にほんの一瞬だけ芽生えた――他の誰よりお調子者で生意気で喧しかった『うちはオビト』としての感情が、この少女と相対した己自身に一欠けらでも零れ落ちたのかもしれない。だとしたら本当に馬鹿馬鹿しく思えてしまうものだ。

 

「それがアナタの意志かい?」

 

 口元から冷たい笑みを消すと、今度は残忍性を露にするレミリア。

 

「大層なモノじゃない」至近距離でレミリアを睨むオビト。「これだけは言える……奇しくもオレは、此度のくだらん騒ぎに巻き込まれた者のため――期せずした意志をもって、動くしかなさそうだ。レミリア・スカーレット」

「嬉しいわ」レミリアはオビトを見返した。「ならアナタには、それ相応の敬意を表しましょう。人間、それも外来人だからと甘く囁かれるのは――アナタ自身が望まないだろうから」

 

 レミリアが手をかざすと小さな体が不自然に揺らぐ。開かれたオビトの赤い両目が細まった。

 少女の姿形が忽ち紅色の霧と化し、段々と頭から消えていく。霧は体勢を整えるオビトを中心として煙のように広がって巻き上がり、一人、また一人とレミリアの幻影は数を増やしていく。

 逃げ場のないオビトを嘲笑うかのように、無数のレミリアが壁となり不自然に揺れている。

 

「夜の王たる者が作りし美しき幻想。我が三千世界の針山をもって、心地好い至上の悦楽を感じさせてあげましょう」

 

 標的を取り囲んだレミリア達は、皆が一斉に口を開いて笑う。無数の掌から降り注ぐ弾幕の雨にオビトは消える。

 目も眩むほどの凄まじい閃光が四方八方に飛び散る。すり抜けられると理解しながらも、なおも猛攻の手を緩める気配を見せない。無限に降り注ぐ強大な魔力――集中砲火を浴び続けていれば、オビトでも蜂の巣にならざるを得ない。

 レミリアは突如として動きを止めた。彼女の静止に伴い、猛威を振るっていた弾幕の嵐も止む。

 数多の幻影の中でも、驚愕の色を浮かべているレミリアの一人。姿形は幻影のそれと全く同じ。しかし砂煙の中から現われたオビトの瞳は、紛れもない本物の彼女を映していた。

 

「霧分身か。大した小娘だ……印も結ばんとはな」

 

 分身系統の術の発動にも印が必須である。印を結ぶ動作を見切る写輪眼で捕捉していたが、先のレミリアは印も結ばずに術を使って見せた。実体を持つ影分身はもちろん、ここまで精巧な分身を作るのにも、ある程度の時間と下準備は必要となる。それも彼女には不要とでも言うのか。

 吸血鬼が持つ速度と腕力、まだ視ぬ異能をも隠し持つ可能性。現時点では咲夜の時間操作やフランドールの万物破壊能力には届かずとも、世辞を抜いても大した使い手には違いない。

 次々と消え往く紅い霧分身に混じり、空からオビトを見下ろす吸血鬼。

 

「やられたわね」レミリアは微笑む。「迂闊だったわ、体が動かなくなっちゃった。まさかこうも短時間で見抜かれるとはねえ。すり抜けだけに飽き足らず、別の能力も持っていた。ってことかしら」

「印すら結ばん、その力。術の仕組みは知らんが、根本はチャクラ――魔力とやらを分配して作るはず」

「チャクラとやらの認識はないけど。でも魔力と言うならそうかもね。その眼で私と霧を見分けたとでも?」

 

 人里での小さな悶着が嘘のように、子供っぽさなど微塵も感じさせないレミリア。

 

「館に張り巡らせたお前の監視とやらでも、全ては見抜けなかったようだな。この眼はチャクラを色で見分ける……本体と分身の微細な差異を看破することも」

 

 霧を形成する無数の水滴、大量の分身体が厄介には違いない。写輪眼を相手にする際に数で攻めるのは有効な手だ。

 なおも表情を崩さないレミリアを視ながら、紅霧の干渉範囲外を視認して見抜き、確実に距離をとる。どうにもこの光景、忍界での出来事を思い出してしまう。

 

「眼を持ってるだけじゃない。相当使いこなしてるってわけね」

「この手のまやかしや誤魔化しなど、今のオレには通らん。分身共には驚かされたがな」

 

 仮面を被った男、トビとして月の眼計画を目論んでいた頃――同じ暁の構成員の一人だったデイダラと、暁を狙って動いていたサスケとの激闘を影から見ていた時の記憶。レミリアとデイダラとでは全てにおいて差異があるものの、いずれも能力の要が『チャクラ』というエネルギーそのものであると断定するには十分すぎた。

 デイダラが『作品』の爆発を利用し散布する、ナノサイズの目に見えぬ爆弾『C4』と理屈は同じ。空気中にばら撒かれたレミリアの霧は、辺り広範囲に広がりを見せつつあった。それらはどれほど視界を埋めようと、結局のところチャクラに変わりはない。霧をC4のように散布しようと分身を作ろうと、写輪眼はチャクラの差異を識別し隙を逃がさない。収束して数を成そうとも、最も多量で一定の安定性を持つチャクラを保有する本体は一つしかない。少なくとも本物と分身とを判別する分には、チャクラの化け物・尾獣を御する精度の瞳力をもってすれば容易い。

 

 ところで霧は、呼吸を通しても生物の体内へと侵入する。レミリアが霧を自由自在に凝固させ実体を作り出せると判っていたら、彼女が隠すであろうもう一つの力――紅霧の形態変化による体内からの干渉など、多彩な攻撃を予期して瞬時に見切ることもできる。体内から破壊するえげつない技を――人のことは言えまいが――本当に使えるなら用心に越したことはない。

 レミリアは体を硬直させたまま、いつもの不敵な微笑を浮かべている。

 

「生意気ね。けれど、何をしても無駄かもよ」

「かもな」オビトは両目を開いた。「そうだとしても、本物を逃がす理由にはならん……念には念だ」

 

 幻術眼により動きを止めざるを得ないレミリア。右眼より時空間とのひずみを通じて現れた巨大な四方手裏剣が飛び出すと、旋風をまとい勢いと威力を増した刃を高速回転させながら、その体を真っ二つに切り裂いた。

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