THE LAST PHANTASM -OBITO-   作:大兄貴

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十八話 雹の人形遣い

 白黒の魔法使い・霧雨魔理沙の頼みで森の奥へ踏み込み、茸共を悉く無視しながらマーガトロイド邸を目指していたオビト。薄暗い前方にぼんやりと光が差し込んだ時、樹々を抜けて開けた場所に出るやいなや、不可解な顔で足を止める。

 

 結果として黒ゼツの姿はなかったが、道中で感じていたチャクラの発生源を思うに、ここが茸共の本拠地であることは間違いない。

 森の中であれほど熱烈な歓迎を見せていた茸共が、邸宅付近には影も形もない。周辺には争った形跡もなく、魔理沙と出会った場所とは変わって平穏そのもの。彼女の予想が外れたのか、戦闘の真っ最中であるはずのアリスの姿も見当たらない。

 マーガトロイド邸であろう、森に囲まれた石造りの家屋が前方に映る。

 

「そこのアナタ。誰かお探しかしら?」

 

 見当たらないのはあくまでも、茸共と対立して交戦するアリスの姿である。

 冷静沈着に佇む金髪蒼眼の少女が、書物を胸に抱いて、ゆったりとオビトに対峙している。魔理沙に見る焦りの色など微塵もなく、小首を傾げて薄ら笑いを浮かべている。

 

「アリスとやらを探している。ここに居ると聞いてな」

「それなら、アナタの目の前に。私がアリス――アリス・マーガトロイドよ。よろしくね、外来人さん」

 

 写輪眼で少女のチャクラを見通すオビト。魔理沙の言葉を信じて分身系統による偽装を考慮し偽者か否かを疑ったものの外れたようだ。

 日向一族の白眼とは違い、個人レベルでの性質の差異は識別できないが、少なくともアリスの体が安定性を有し、魔理沙に見る魔力系統のチャクラに満ち満ちているのは判った。

 

 一応は白ゼツの変化である場合も考えた。それは可能性の低さからの言葉である。

 白ゼツは胞子の術で採取した他者のチャクラを用いて、対象者の姿形や声帯、チャクラをもそっくり真似て本物に化けることができる。分身を看破するのとは違い、写輪眼をもってしても見透かせぬほどの完璧に近い出来である。彼の変化の術は忍界随一と評してもいい。あの思慮深いイタチですら欺くほどだ。ちなみにこの能力には、お調子者のトビとして動いていた頃に散々と世話になった。

 しかし違うようだ。白黒ゼツはいずれも、そもそもカグヤの産物である。見透かす手段はただ一つ、親元たるカグヤに見る大筒木の力、十尾と同質のチャクラによる感知をもって、白ゼツの『悪意』を感じ取ること。元々そのような能力は持たなかったが、この体は紆余曲折を経て十尾のチャクラを得ているため、アシュラの転生者ほど細やかには感じないものの、精神を研ぎ澄ませば十尾チャクラとそれ以外との差異程度は見分けられる。

 

「無駄足だったか……茸共に襲われていると聞いたんだがな」

 

 これにより目の前の少女が本物のアリスであると判別できた。オビトにはそれとは別に、彼女が敵意をもってこの場に立つのだと判った。

 

「見当違いね。だって、あの子たちを操っているのは、私なんだから」

「なら騒動の源はお前か?」

「ええ」アリスはあっさりと認める。「隠す気はないし、教えてほしいなら話してあげるわ。この森に特別濃度の高い魔力をばら撒いて、菌類のエネルギーを過度に増大させて、妖怪化させた。だからあの子たちの親は私――」

 

 冷たい口調で喋り続けるアリス。陶酔したように甲高い声で捲し立てている。

 

「――霊夢や魔理沙にけしかけたのは、私の子供であり部下なの。お分かり?」

「……呆気なくバラすものだ」

「言ったじゃない。隠す気はないって」

 

 アリスから悪意を感じ取れず、正体を隠すようなら写輪眼の幻術で情報を吐かせようとも考えたが、本物のアリスと知れば逸らなかったのは正しい判断だったと言える。

 先ほどアリスに加勢するよう頼まれた魔理沙を思い返す。出会ったばかりの他人ながら、彼女の言葉が嘘偽りに塗れているとは思えなかった。

 

「これでは話もできんな……」

 

 姿を見せた時点で最初から敵対する気だったのだろう、大して会話せぬままに戦いの火ぶたは切られた。アリスが不意に「行きなさい」という声と共に手を挙げ、その隣に配置された謎の壺から茸妖怪が次々と飛び出し、奇声を発しながらオビトに襲いかかった。

 

――数にして八体。先の戦闘を視るに忍術の効かぬ相手でもない。

 邸宅一帯は森に囲まれ薄明るく、術を行使できる分には広くドームのように開けている。加えて敵は知能が低いのか猪突猛進、直線的な見切りやすい動作。向こうにして小手調べ程度の矮小な駒だろう。

 

「仕方がない」オビトは印を結ぶ。「火遁――『豪火球の術』!」

 

 茸を燃やし尽くすために選ばれたのは、うちは一族が最も得意とする代表的な火遁忍術。木ノ葉隠れでは知らぬ者のいない名の通った術である。

 口内より放たれた火球は地面を焼き抉り直進し、膨張し続けながら複数の茸妖怪を呆気なく呑み込むと、烏合の衆を生み出す壺と動かないアリスへ迫る。

 

「……?」

 

 炎が舐める前に逃げたのか、巻き込まれ焼き焦げたかは火球が視界を塞いで判らなかった。

 答えはすぐに現れた。間髪容れず地面を蹴ると同時に、たった今オビトの立っていた地面を巨大な矛が刺し貫いた。ちょうど真横である。

 そびえる影が砂塵に紛れ両目を光らせている。いつの間に口寄せしたのか、五メートルはあろうかという巨体が眼前に立ち塞がり、その奥にアリスが立っていた。

 彼女の指先から伸びる糸らしき物が銀色に輝いている。距離をとったオビトは金髪の少女を模った人形を観察した。

 

「傀儡使い。お前もとはな……見知った物とは違うが。思ったより随分と大きい」

「へえ?」アリスは恍惚としている。「……少しばかり気になるわね。他にも人形遣いをご存知なの? もしかしてアナタ?」

「オレではない。昔の話だ」

 

 人形遣い、すなわち傀儡使いとしてよく知る人物が一人いた。他の追随を許さぬほどの卓越した傀儡技術をもって、自里のみならず他国にまで名を轟かせ、天才傀儡造形師としても謳われたサソリ。里の傀儡部隊に所属していた頃は、敵の血で周辺の砂を真っ赤に染めていたことから、『赤砂』という異名で恐れられていた実力者。風ノ国・砂隠れの里出身の元暁の構成員である。傀儡使いとしてのアリスの実力は未知数ながら、あの者と比較すると彼女の物は迫力に欠けているように思える。

 何と言うべきか――子供の絵本や御伽話の世界にでも居そうな、ふわふわとした容姿の少女で、戦場の血生臭さが似合う見た目とは縁遠い。何も知らぬ外来人なら誰しも、第一印象ではそう思わざるを得ないだろう。真実は果たしていかほどか。

 

(普通の物なら糸を切る以外に……糸の直結部分が弱点だったな)

 

 傀儡において最も重要なのは性能。頑丈さや機能性など性能が全てと言っていい。傀儡使いは厳選された高品質の木材や粘土、鉱物を用いた複雑な仕込みを己の『作品』に施し、外部からの衝撃はもちろん、複雑な動きを実現するために必要な球体関節部や、仕込みを起動した時の反動に耐え得る強度を持つ最高クラスの外殻の作り込みには注力するが、傀儡の外見にはあまり拘らない。傀儡は子供に披露する人形劇ではなく、敵を仕留めるために造形するからだ。

 故に傀儡は中身こそ重要であり、崇高なる傀儡とは比肩するもののない、永久不変で窮極の性能を宿した作品を言うのだ――というのは暁にトビとして姿を見せる前に盗み聞いたサソリの熱弁である。

 サソリの殺伐とした作品とは真逆で、アリスの傀儡は外見が人間の少女と遜色ない。色素の薄い白い肌にふわふわとしたフリルをあしらった小奇麗な洋服に身を包んでいる。泥汚れや返り血の付着を想定して造形された傀儡とは思えない。

 身なりだけでは判断しまいが、戦闘向きの傀儡とは言えず、武器を握るだけで大層な仕込みを施してあるようにも見えない。それとも一回りして敵を油断させる造りなのか。

 

「躍り疲れて、眠りなさい」

 

 オビトが抱いた疑問については、アリスの使役する巨大な『ゴリアテ』が身をもって答えた。

 操り手の指の動きに合わせ、両手に開いた穴が光を集束させると、標的を狙い弾幕の集中放火を浴びせかけた。体躯と威力は比例するのか凄まじい猛攻で、七色の光弾は地面を無差別に抉り飛ばし、周辺一帯は忽ち砂煙に覆い尽くされる。傀儡の性能は本物のようだ。

 容赦の欠片もない無慈悲な弾幕は、人間相手なら跡形もなく消し飛ばすほどの破壊力。高威力の火遁をもってしても、この量を燃やし崩すのは難しい。振り下ろされる剣圧も相当なもので、オビトが跳んで回避する度に地面が深々と抉れていった。

 

 剣圧の影響で動きの鈍ったオビトの隙を見て、すかさず弾幕での追撃を試みるアリス。しかし不思議なことに、今度は魔法の糸の手応えを感じなかった。それだけではない、ゴリアテ人形は力尽きたかのように、煙が晴れると共にその場に崩れ落ちた。指先と人形を繋いでいた糸が突如として消え失せたのだ。

 現れたオビトの赤い瞳には、黒い三方手裏剣状の模様が浮かぶ。思わぬ現象に苛まれたアリスは明るい金髪を振り乱し、鋭い目でオビトを睨みつける。

 

「こんなの初見ではありえない。アナタ、何をしたの? どうやって糸をピンポイントで切って……」

「切ってなどいない。狙いは糸でもない」動かないゴリアテを映すオビト。「お前の指先から伸びていた糸……チャクラ糸とほぼ同質の代物だ。なら傀儡の動作もさっきの光も、全ては糸を通じたチャクラコントロールで行っていたはずだ。単に手動で踊らせていたわけではない」

「チャクラ……糸じゃなくて、人形の脆い部位を見抜いて――?」

「その方が安全だ。傀儡にとって最も繊細で、最もチャクラが集合する心臓部――そして四肢の球体関節部の裏側に密集する糸の群、それを制御する部分を、オレの瞳力で引き千切り隔離した。時空間にな」

 

 サソリなどの傀儡使いのように造詣が深いわけではないが、書物から得た知識という意味でなら、オビトも対策の一つや二つは頭に入れていた。

 大きさや形状、素材の強度や柔軟性、内部の仕込み。傀儡を構成する数々のパーツで最も重要視されるのは、機動性を決定する要とも言える関節部分。この部位の出来不出来で性能が決まると言ってもいい。故に傀儡使いは、繋いだチャクラ糸で傀儡を完璧に制御するため、傀儡の素材と己のチャクラが符合し最適化できるよう考えて作り込む。とりわけ他の部位と直結しており、動きを決める関節部分を造形する際は、細心の注意を払う必要がある。

 結果として複雑かつ繊細に存在せざるを得なくなる唯一の部位――関節部分の制御に外部から力を加えて崩すか、あるいは制御部位を直接消失させてしまえば、よほど特殊染みた加工が施されていない限りは無力化できる。多少面倒だが再生可能な糸を切るより確実で、上手くいけば繋ぎ直して再び起動させることも叶わない。

 ちなみに磁遁の血継限界を扱える稀有な者なら、操った砂や砂鉄を傀儡内部に混入させて、異物と磁力で内部を循環するチャクラの均衡を乱して動きを止める方が簡単である。サソリが持っていた三代目風影の人傀儡は例外だが。アレには砂鉄を自在に操る力が生前の経絡系ごと核として現存するため、磁遁でも弱点を突けないどころか、逆に能力で利用され武器を与える結果となる。そう考えるとサソリは、自前の技術で傀儡の弱点すら徹底的に潰し尽くせる、稀代の造形師であり傀儡使いだったと言える。

 

「瞳力、時空間……空間操作の類を?」アリスは棘のある声で聞き返す。

「似たようなものだ。お前は擬似的な経絡系を通じて、チャクラを傀儡の各部位に送っていた。その傀儡の構造を知らん以上、それ以外を無闇に狙って仕込み発動の危険に触れるより……動きを安全かつ完全に止めるためにも、源を断つ方が早いと踏んだ」

 

 傀儡を丸ごと神威空間へ飛ばすのも一つの手だ。球体関節の陰など視通さずとも、その方が遥かに手間暇は少ない。然るに境界操作やら時間操作、吸血鬼やらが蔓延る常識破りの幻想郷に、忍界の物差しや常識を当てはめるのは浅いと判断した。時空間へ転送させる際にも、転送した後にも注意を払わねばならないと。忍界と同じ感覚で臨むよりかは、念には念として、時空間の側からグサリとやられる可能性を考慮する方が賢明である。

 アリスは胸元の書物を手に取り開くと、チャクラの直結部を失い正常な循環機能を奪われ、起動不能となったゴリアテ人形を召還した。納得できない様子でオビトを見返す。

 

「ありえないわ……やっぱり。どんな能力を持っていても、人形の内部に張り巡らせた魔力の流れを、こうも短時間で見抜くなんて芸当――できるわけがない。別の力を隠しているはずよ」

「――オレの『眼』は魔力を色で見分ける。チャクラで作られた紛い物の経絡をな。本物じゃなかっただけ運が良かったが……この眼にそんな力はない」

 

 写輪眼はチャクラの色や質を識別するに止まり、対象の経絡系を見透かし弱点を突くのは白眼の専売特許。チャクラ糸に酷似した糸で傀儡を操る相手にこそ通用した手である。

 落ち着きを取り戻すためか、すうっと深呼吸するアリス。

 

「これが噂の外来人……」アリスは口元を歪める。「……もう一つ。わざわざそんな手を使ったのは何故。アナタならもっと簡単で、有効なやり方を把握できていたはず。私をコケにしたかっただけかしら?」

「勘違いするな。武装解除に止めたのは、この場でお前を下に視たからではない。確かめたかっただけだ」

「確かめる、ですって?」

 

 途端にアリスの方は歯を食いしばり、素早い動作で魔導書のページを捲り始める。

 

「無駄だ」オビトが踏み出す。「意思なき文字通りの傀儡の力など、何者にも通じない。アリスとか言ったか……お前の後ろには何がいる?」

 

 敵意を剥きだすアリスの動作は止まることを知らない。打って変わって冷静さを欠いている。

 

「さっきから何を言っているの? 私の持ち札を一つ破ったくらいで、鼻高々と勝ち誇って――人間風情が調子に乗らないでっ!」

 

 魔導書から口寄せのごとく次々と飛び出す上海、蓬莱人形の大群。各々銀色のナイフや槍を握っている。両手の指を細やかに動かし、アリスの合図で弾幕を交えつつ一斉に襲いかかる。

 左眼の視界に展開した結界空間に無数の対象物を捉え、瞳力により生じたいくつもの歪に人形達を巻き込む。擬似経絡を失った兵士達は糸が切れたように地面へ落下して動かなくなった。

 生き残った別の上海、蓬莱が両脇より奇襲を仕掛けると、胸部と右肩を貫かれたオビトが硬直する。アリスに笑みが広がるも、影分身の霧消と共にすぐさま消え去る。術者本人による迎撃を避け、本体たるオビトは一直線にアリスの元へ走った。

 今やアリスは頭を抱えて、「来ないで!」と大声で訴え立ち尽くしている。それ以上の迎撃も逃走もせず、オビトの接近を前に恐々とした表情を見せるだけ。

 

「やはりか。奴のことだ……簡単に口を割らせるはずもない」

「こんな、どうして――?」

「終わりだ」

 

 オビトは蒼眼を直視する。自らを幻惑させる赤い瞳を最後として、少女の意識は完全に途絶えた。

 

 

――◇◇◇

 

 

 静寂が戻った邸宅の前で、意識を失ったアリスの体はオビトに抱えられていた。傍には火球で粉砕された壺の残骸が散らばっている。

 茸の発生源を断ち、被害も最小限で済んだものの、本人の容態は普通ではなかった。魔理沙の様子と言葉を聞いておかしいとは思ったが、アリスは幻術にかかっていた。

 

 一口に幻術と言うなら多々あろう。しかしただの術ではない。紛れもない写輪眼による瞳術で操られていた。

 何者の仕業であるかは大体想像がつくも、具体的にどのような瞳術だったのか。

 

 月読や別天神など高度な幻術は除外される。月読は特定の人物にしか扱えない上、瞬間的に行う程度の解術で対処できる半端な術ではない。通常の写輪眼でも使いようでは解術も可能だが、その場合は並外れた瞳力と精神力を要する。

 もう一つは幻術の最高峰とされる別天神。此方も除外だろう。月読と同様に特定の人物にしか行使が許されず、簡単には解術できない。この術は対象を無自覚のままコントロール下に置く瞳術で、術者から下された命令と実行があたかも本人の意思決定によるものと思い込むため、先のような目に見える惑いや違和感を覚えるなどあり得ない。万華鏡の固有瞳術ではなく、写輪眼の基本瞳術を使われたと考えていいだろう。

 イタチと彼の友であるうちはシスイの姿がよぎる。この魂を穢土転生で一度蘇らせたように、彼らの穢土転生体を黒ゼツが手中に収めている可能性も完全には否定できない。

 

(…………)

 

――穢土転生の術。今にして思えば、この体も少し前までは塵芥で構築されていたのだ。

 この術で復活させた死人は生前の能力を宿す。他方、生前と比べると能力を十二分に発揮できない。輪廻眼の瞳力が最たる例だろう。穢土転生は死した者を不完全な状態で蘇らせるに過ぎないのだ。

 神威は穢土転生の体でも行使は可能だが、精度を削がれた瞳術では博麗大結界に干渉できない可能性がある。不可能という判断も下せないわけではない。それなら完全な状態で行使させる方を選ぶはずだ。神威という唯一無二の瞳術の力を最大限に引き出すため、『うちはオビト』を輪廻天生の術で生き返らせたとも考えられる。命ある生者として復活させる輪廻天生なら不完全も何もない。

 輪廻天生の術は負担が重いだけで、行使自体は比較的容易である。要するに輪廻眼さえ扱えれば事は済む。かつて本物のマダラを同じ術で蘇らせた身として、その辺りは間違いないと断言できる。ちなみに術者のチャクラと体次第では、使用に際して必ずしも命を落とすわけではない。

 

(奴はマダラの眼を持っていた……)

 

 写輪眼による解術が成功したことから、黒ゼツの両眼として働く写輪眼、つまりマダラの幻術眼を行使したとする方が自然である。しかし腑に落ちない。

 柱間細胞をもって輪廻眼を扱えたとしても、うちは一族どころか忍でもない輩が、写輪眼の基本能力を満足に行使できるはずもない。そのうちの最上級能力である幻術眼、しかも己の眼となるには到底至らぬ借り物の力で。此方の意図せぬ未知の力を、現在の黒ゼツは持っているのか。あるいはマダラの死体に触れた関係から、本人を再び復活させた可能性も――。

 それにしても。写輪眼の力を受けた者の元を、写輪眼を持つ者が訪れるなど、偶然と言えるだろうか。

 

「お前らか……終わったようだな」

 

 オビトの足が止まったのは、茸軍団の通り道となっていた邸宅付近の出入り口から、霊夢と魔理沙の二人が抜けてきたからだった。

 魔理沙は息も絶え絶えながら、ぐったりとしたアリスを見るなり駆け寄った。霊夢は落ち着いた様子で肩を回している。

 

「結局、面倒だったのは最初だけ。慣れたらそんなでもなかったわ。すぐにどーにかなったから」

「おいこれ――どうなったんだ? さっきの連中にやられて、なんだってこんな――」

「命に別条はない」オビトは静かに言った。「話は後だ。怪我はないが、相当消耗している。休めるところを探さねばならん」

「ならとりあえず、お邪魔させてもらいましょう。そっちの話も中で聞くわ」

 

 霊夢は魔理沙とオビトを振り返ると、無人となったマーガトロイド邸を肩越しに指した。

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