THE LAST PHANTASM -OBITO-   作:大兄貴

31 / 72
三十一話 盲目

 神無毘橋の戦い。洞窟が崩落して岩石の雨が降り注ぎ、右半身を大岩に圧し潰され死を覚悟した瞬間。体の大部分が破壊されてもなお生き延びたのは、偶発的に発動した神威の力で大岩の隙間を『すり抜け』、ちょうどその真下に存在したアジトの通路に落下し命拾いしたからだと、目覚めた後にマダラは語った。死を回避したのは偶然に過ぎず、無限月読という大願を託す駒として、自分の前を歩かせるのは誰でも良かったのだと。

 しかし――それは全て綿密に練られた計画によるものだったと、後の第四次忍界大戦にて本人から聞かされた。実際には死の床に就く直前、マダラの命を受けたゼツがこの体を包み込み、固有能力である『物体透過』を使用してアジトへ故意に導いたと。初めから駒として利用し、数多の死体を跨がせる算段を立てていたのだと。

 今でもそう思ってはいるが、この考えが果たして真実なのか、今一度本人に問いかける場を設ける優しさなど黒ゼツにはない。

 

 忌々しい記憶が脳裏に蘇り、走馬灯のように駆け巡る。

 自身に全てを与え、全てを託し、全てを任せた人間。トビとして、影のマダラとして、かつて己の全てを変える原因を作り、世界を救った救世主として、マダラとして天寿を全うするという大役を任せた男。自身に最も近しい存在だった忍――よもやその張本人に現世で今一度、このような場所で再会を果たすなど何者に予期できようか。

 

 ひび割れた土気色の肌。腰まで伸びた刺々しい長髪を揺らし、体には黒い外套をまとっている。木棺の中から踏み出したのは紛れもない『うちはマダラ』の転生体だった。

 黒ずみ濁った目、赤黒い瞳。穢土転生で蘇った死人の証。直線的な巴紋様、直巴の万華鏡写輪眼は、永遠の光を宿す証である。うちは一族の長の証である巨大な瓢箪型の団扇も携えている。あの戦争で神樹の根に吸収され失われたものと踏んでいたが、黒ゼツが終戦後に見つけ出して回収したのだろう。

 純狐が嬉しそうに見守る中、黒ゼツはにやり笑いを広げる。放心状態に近い表情で立ち尽くしていたオビトだったが、我に返るのに時間はかからなかった。

 

「穢土転生を会得し、死体漁りまで可能だったお前だ……奴ほどの忍を駒として利用しないはずはない。輪廻眼を手にした時点で、必要な材料は入手できただろうからな」

 

 穢土転生は死者をこの世に蘇らせる術。呪印札を用いて転生体の人格を消失させ、術者の意のままに操作できる禁術である。発動に際して贄となる生きた肉体と、毛髪や血液など一定量の個人情報物質を必要とする。転生とは言っても本人で、変わったのは内面ではなく外側、具体的には皮膚や肉など人体の全てが塵芥で構成されている。

 マダラの死体が火ノ国のいずこに埋葬されていたかは知りようもないが、黒ゼツは得意の捜索能力を駆使して在り処を特定し、死体から輪廻眼と一緒に個人情報物質を奪ったのだろう。

 

「なら柱間の方は――」

 

 数万の忍を相手取るよりも、マダラ一人を敵に回す方が厄介なのは間違いない。その男を語る上では外せない、切っても切れない関係にある者が存在する。木ノ葉隠れの初代火影・千手柱間である。マダラと共に木ノ葉を興した生涯の友であり、幾度となく拳を交えた好敵手であり、唯一渡り合えたとされる忍。柱間の体細胞をベースに培養された白ゼツを右半身に移植し生き長らえ、彼を象徴する木遁忍術を使用できるオビトとも繋がりのある人物だ。

 柱間はマダラ以上の実力を持つ唯一の忍。二人を同時に相手取るくらいなら、五影全員と戦う方がマシとさえ思わせる。しかも今のマダラは生前の劣化体とはいえ、木遁を使うには十分な量の柱間細胞や輪廻眼を持つ分、全盛期並かそれ以上に仕上がっている。この二人は別格であり、本来なら穢土転生ですら縛り切れないが、大筒木カグヤのチャクラを持つ今の黒ゼツなら制御できる可能性は否定できない。

 

「忍ノ神ト謳ワレ……マダラヨリ強カッタ『千手柱間』ノ個人情報物質……確保シナイ理由ハナイ。見ツケルノハコイツヨリ簡単ダッタ」

 

 影のマダラとして動いていた頃、マダラの死体は輪廻天生で蘇らせるその時まで、誰にも見つからぬようアジトの奥深くに隠して厳重に管理していた。そんなマダラとは違い、柱間の骸は歴代火影と共に木ノ葉に安置され、見つけ出すのは白黒ゼツでなくともできる。

 柱間の体は生命力が強すぎて死後も全く腐敗しておらず、穢土転生に必要な材料は簡単に調達できただろう。体細胞だけなら大蛇丸も所有するはずだ。

 

「……揃えて収めたってわけか」

「イヤ……ソウハナラナカッタ」黒ゼツは静かに否定する。「アノ時ノ力ト器デハ……マダラト共ニ制御デキルホド術ガ洗練サレテナクテナ……不出来ナ今ノ器デハ一人ガ限度一杯……他ニハコイツホド都合ノイイ駒ハナカッタカラナ」

 

 マダラの名は五大国に止まらず忍界中に広く知れ渡っている。岩隠れの現里長・オオノキの独断襲撃など、後の五大国間の関係を悪化させる原因を作った人物でもある。

 第四次忍界大戦のさなか、六道の輪廻天生の術で生者として蘇り、カグヤとの戦いの後は遺体を残して逝ったマダラ。彼の眼孔に収まる輪廻眼は特に該当するが、マダラの体は忍にとって宝の山も同然で、善からぬ者共にとっても喉から手が出るほど欲しい代物。さらなる争いの火種として悪用されるであろうことは目に見えていた。故に五大国はマダラの遺体と輪廻眼をどう処分するかで議論を交わし、他の遺体と同様に扱うと決めたとしても、発見されぬよう考え得る限りの手段で隠しただろう。灰も残らぬよう焼却処分した可能性も十分にあった。もっとも、忍界大戦の終結後に忍連合が、マダラの遺体を「発見できていたら」の話だが。

 現に黒ゼツは遺体を見つけ出した。輪廻眼を回収した上、転生体を駒として手元に置いている。術の精度か体やチャクラの問題か、柱間までは手中に収めていない様子だが、それでも黒ゼツに都合よく事が動いている。

 

――忍界から遠く離れた別次元の世界、『幻想郷』にて二度目の邂逅を果たした。状況はさらに悪化したと言わざるを得ない。

 

「見る限り」紫は注意深く観察する。「本人の意識はない感じね。完全な操り人形と化している」

「呪印札で自我を奪えば意のままに操れる。だが奴の不安定なチャクラ……」

 

 穢土転生の詳細に関しては、当時に協力関係を結んでいた薬師カブトから情報を聞き出していた。呪印札付きの道具を転生体に埋め込むのは、対象を抑制し自由に操る上でも必要な作業だが、意識を奪うことで反乱を防ぐ意味もある。自我さえ与えなければマダラだろうと問答無用で制御できる。

 ただしリスクもある。呪印の効力により行動を御されていても、様々な要因から自我が失われず、術者のチャクラや力が転生体を下回っていたり、術を解除する専用の印を転生体が生前に知っていた場合、転生された側から口寄せ契約を一方的に破棄して、術者による干渉の一切を断ち切ることができる。

 無限に再生する体とチャクラが制御なく暴れ回る恐ろしさは容易に想像できよう。術を解除しても止まらず、術者が逆に殺される可能性もある。マダラや柱間などの忍に安易に自我を植えるのは自殺行為である。

 

「完璧に抑える力まではない。心身か時間的な問題か、環境が要因かは判別しづらいけど……力が膨れ上がる前に叩けば、悪い事態は避けられるかもしれないわね」

 

 術のリスクがある以上、今の弱った状態では転生体の意識を殺し続けるだろう。黒ゼツ自身の力はマダラに遠く及ばない。おまけにマダラは解除の印を知り、自ら縛りを解ける稀有な一人。忍界大戦のさなかにマダラが穢土転生の拘束力を跳ね除けたのは、何より本人に自我が残っていたからだ。術者がカグヤの影響を受ける輩である以上、常識破りの手段を講じてこないとも限らないが――忍界と幻想郷の悪い部分をとことん盛ったような存在が黒ゼツだ。

 自我を持たず本人の意思で行動できない。術者が全てを仕切り動かす分、戦い方は黒ゼツ次第であることを意味する。つまりマダラは己本来の動きを見せられない。転生体を倒して封印する絶好の機は、黒ゼツがマダラを超えた力を得るまでの間となる。

 

「相手が相手だ……いざって時の覚悟は要る。そいつを想定して動くべきか」

 

――マダラに及ばないのは此方も同じ。輪廻眼や柱間の木遁など、理由は挙げたらキリがない。本物の輪廻眼を持つ黒ゼツに純狐まで加わるとなれば、早い話が絶体絶命のピンチという結論に至らざるを得ない。それでもマダラに限って言えば、外部から術で無理やり御されている分、縛りに比例して力は抑制され、つけ入る隙は生じるはずだ。

 穢土転生を止めるには、術者を幻術で操り解かせる方が手っ取り早いが、輪廻眼やカグヤのチャクラを持つ黒ゼツに幻術は通らない。器に縛られた魂を成仏させるなり、封印するなりしか手はない。封印術を使える者の助力が必須である。封印術式を埋めた呪印の杭なら、カブトの裏切りを想定して用意した物が神威空間に保存してある。

 何より今は、境界操作を持つ八雲紫が味方の側についている。マダラを相手に勝算が見えないわけではない。純狐に比べたら対策もしやすいだろう。

 

「こんなにも人の命を侮辱する術が、アナタの世界にあったなんて。倫理を無視した卑劣極まりない所業ね」

「……止めるには封印か、魂を解放するしかない。お前の能力は使えるか?」

「私の力は解釈次第でどんな形にも有効化する。魂を穢土に縛りつけるのは、人間が作り出した術の効力に変わりはない……術式を構築する数字の組み合わせにバラつきを加えれば、互いの均衡が崩れて術そのものが機能しなくなる。穢土転生とやらも失われることになるわね。余程の悪意ある干渉がない限り――」

「――ああそれと」純狐がぽんと手を叩いた。「縛りを解くための小細工は無意味ですからね」

「え?」

「駒の性能を高めてあるのよ。さっきも言ったけど、お前ごときの境界操作は神たる者に通用しないので。はい、コレが悪意ある干渉です」

「く――」目を丸くする紫。「むぐぐ……この性悪女……」

 

 普段の胡散臭さはどこへやら、境界の妖怪が判りやすく怒りに震える光景など、滅多に見られるものでもないのだろう。相当痛い所を突かれたようだ。

 隙間妖怪に面と向かって生意気な口が利けるのは、純狐のような人外中の人外くらいのものか。紫も純狐も敵同士でなければ、ある意味でなら案外仲良くできたかもしれない。尊大な貌で腕を組む純狐を眺めながら、緊張感が削がれるのを自覚しつつそう思っていたオビトだが、黒ゼツがいる場でそんな場面は長く続かない。

 

「……仕方ないわね。異界の者同士、ここは分担する方が得策。あの似非藍は任せなさい」

「さっきの境界操作は届いてたしな……オレは関係の深い方を相手取る。知識や経験の有無で戦況は大きく変わるものだ」

 

 紫は「気をつけて」と言い残すなり、見下した表情の純狐を標的に捉える。おそらく今この場で純狐を抑えられるのは紫一人だろう。他方でマダラに近しい者として、最善の手段で対応できるのはマダラ自身の知識、術を本人から直に叩き込まれた元偽マダラ。

 

 マダラは圧倒的な瞳力やチャクラもさることながら、忍術や幻術、体術など忍としてのレベルがずば抜けている。騒擾だらけで常に死と隣り合わせにある戦乱を生き抜いてきた猛者共の中でも飛び抜けており、並の忍では到底太刀打ちできない。最低でも里の影以上でなければ勝負にならない輩だ。影のマダラとして積み上げた十数年分の戦闘技術や経験の他、万華鏡写輪眼が両眼共に揃っていなければ、勝敗など一瞬で決していただろう。

 うちは一族を束にしても届かない瞳力を相手取るかどうか以前に、同じ写輪眼同士の戦いでは隙などほとんど生じない。結局のところ物を言うのは一つしかない。

 

「……!」

 

 不意に黒ゼツが印を結ぶと、マダラの転生体は電光石火のごとく飛び出した。操られるがままに体術を駆使し、強烈な蹴りをオビトにお見舞いする。挿し木の棒を使い紙一重で受け流すと、洞察眼で動きを見切りつつ反撃の糸口を探し、容赦ない打撃を浴びせるマダラと打ち合う。

 最強の忍と呼ばれた柱間とマダラの二人が、何故に相反する関係にあったのか。溢れ出すチャクラや瞳力がオビトを超えている、という事実が答えを教えてくれる。写輪眼使い同士の打ち合いといえど、長く続けば続くほど『力』がある方に勝機は傾き、純粋な瞳力がここでの勝敗を決める。それこそが目で語る戦いなのだ。

 オビトが繰り出す攻撃を何度も受け流し、首筋を狙い迫る右脚。咄嗟の後退とすり抜けを発動して回避するも、接近戦の中で隙を見せたオビトを逃がさず、遠方から黒ゼツの声が轟いた。

 

「『豪火滅却』」

 

 転生体の口内より大量の火球が噴き出し、混じり合った無数の火炎が壁となり燃え広がる。尋常な炎ではない。神威の旋風で広範囲に巻いた螺旋状の爆風が迫りくる業火と衝突した瞬間、視界が見渡す限り真っ赤に染まった。規模と勢いのあまり二度目の神威に遅れが生じ、右腕に焼けるような痛みが走る。

 致命傷は辛うじて避けたオビト。煙を裂いた転生体が至近距離に迫り、虚ろな赤い眼が見開かれた。直巴紋様が映ると共に視界が歪み、目の前に日向の『白眼』を宿した女の姿が顕現する。

 

(これは……)

 

 背丈の何倍もの長さの白髪を不気味に揺らすのは、額に第三の瞳力を宿した卯の女神。大量の髪が意思を持つ生物のように蠢き、肢体に巻きつくと、沈黙するオビトの体を締め上げた。眼孔より冷たい液体が伝うのをはっきりと感じ取る。

 脳裏を満たし始めたのは、無限月読により生命を吸い上げられ、干乾びて死にゆく犠牲者達の成れの果て。真っ白に染まりつつある人型達が手を伸ばしている。意識と共に体の力が抜けていく――。

 

「オビト!」

 

 遠くから覚えのある声が聞こえた。我に返るなり両眼にチャクラを込め、瞳力を爆発的に解放してイメージを跳ね除けた。途端にカグヤが霧消し、元の洞窟が視界に現れる。

 頭を押さえながらも蹴りで無理やり距離を取り、左眼神威の追撃。標的を逸れて転生体の右腕を千切り飛ばした。腕の切り口に呪印杭が深々と打ち込まれ、塵芥が集まり治りつつあった傷の再生が止まる。封印を試みるためさらに瞳力を込めようとするも、頭部に走った痛みでオビトは片膝を着いた。

 

(奴の瞳力をここまで……だが)

 

 写輪眼使いが視覚に訴える幻術で押し負けるのは、同じ写輪眼使いと対峙した場合のみ。六道の輪廻眼まで開眼した『永遠の万華鏡写輪眼』を真正面から相手取るとなると、どれだけ上手く立ち回ろうと相応の苦痛は避けられない。

 とはいえ、これまで隙が見えなかった転生体の虚を突けたのは、術者である黒ゼツの操作を受けていたが故。本物ならこうはいかない。今回は穢土転生のリスクに助けられたようだ。

 

 生物の動きには程遠い機械的な動作で体勢を整えると、足裏を蹴り再び迫った隻腕の転生体が、佇むオビトの一歩手前で動きを止めた。肌の表面が朱色の呪印で埋め尽くされている。

 受信体として機能する杭にチャクラが送られ、塵芥に閉じ込められた魂を拘束し始めた――。

 

「ココマデダ……十分挨拶ハ交ワセタダロウ。長ク動カスノハ疲レルンデナ」

 

 地面の土が隆起して木棺が突き出し、封印しかかった転生体が内部に呑み込まれた。

 

「くそッ――…!」

 

 木棺は蓋を閉じると、再び地面に沈み込み消えていく。逃がすまいと動いたオビトだったが、黒ゼツの口内から噴き出した焼けつく粉塵が視界を塞ぎ怯まされ、熱風から跳び退かされた。

 次第に煙が薄まり周囲が明瞭になると、頭上の空間が割れて純狐が現れる。どうやら別空間で戦っていたようで、悔しげな表情の紫がオビトの隣に降り立ち、純狐の方は肩を押さえながらも、得意げな表情で黒ゼツの近くに着地した。

 紫は無傷ながら、怒った表情で腰に手を当てている。神威空間で出遭った時の怪しげな彼女とは別人である。

 

「無駄ナコトハ考エナイ方ガイイ。逃ゲヲ決メタオレニ手傷ヲ負ワセルノハ不可能……暁デ一緒ダッタオ前ナラ解ルハズダ……オ前モ愚カデハナイ」

 

 印を結ばんと動くオビトを眺めながら、黒ゼツは嘲笑を交えつつ猫なで声で言った。その姿が岩盤の下へ沈み込んでいく。二人が手を打つ前に純狐が指を鳴らすと、背後の繭が樹の根諸共に爆発四散した。

 熱風と分厚い砂塵に覆われる中、洞窟内に反響する冷たい声を聞いた。

 

――世界ノ歴史ガ塗リ変ワル……最後ノ時ヲ暫シ待テ。

 

 視界が明ける頃には黒ゼツの姿は消えており、純狐もオビトを見ながら「さようなら」と陽気に手を振り、霞のように掻き消えた。残ったのは洞窟内を包む静寂、オビトと紫の二人だけ。

 

 紫はスキマ製の椅子に腰かけ、オビトは頭上を仰いだ。岩盤から細やかな塵が降っている。先の炎と爆発で地盤が安定していない。

 洞窟は間もなく崩落して、樹の根の残骸諸共に地の底へ沈む。問題の根の残骸をいくつか調べてみたが、誰の物かも知れないチャクラが内部を循環していた形跡以外、怪しい点は見受けられなかった。ここへ踏み込んだ時には用済みとなっていた代物だろう。

 

(奴が……)

 

 魔法の森での出来事を思い返す。先ほど直に感じたチャクラを考えても、傀儡使いの少女に幻術をかけた者はマダラの転生体。後の永遠亭襲撃も転生体を伴った純狐。イタチやシスイなど他の誰でもない、再び蘇ったマダラ本人の瞳術が及んでいたのだ。それも最悪の方向で。

 

「……奴らは以前、チャクラの森で色々と画策していた。この世界を探り、根を介してチャクラを集めていたのかもしれん……お前たちの情報と共に」

「覚えがある。そんな言い草ね」

「思い当たる節はあるがな。昔の古く浅い記憶だから、当てにはしない方がいい」

「あら」紫は微笑を戻している。「そうせざるを得ないでしょう? この状況では」

 

 根の外形と機能を視るに、かつてマダラのアジトにあった物に酷似している。外道魔像のチャクラ供給装置の一部に。マダラは自らの命を生き長らえさせるため、老衰し消え往く生命エネルギーを魔像から供給して命を繋いでいたのだ。さらにアレは白ゼツを像から抽出する際にも使用され、偽者マダラ時代に何度も弄った経験がある。供給元となる魔像は、現在はカグヤの『始球空間』に存在するため、魔像とは無関係なチャクラの受け皿か何かに過ぎないのだろう。白ゼツまで敵として現れることはおそらくない。

 兎にも角にも黒ゼツ達が消えた今、このような場所に長居する理由はない。空間が崩壊し始めている。根の残骸から紫へ視線を移すと、オビトは「お前はどうする?」と問いかけた。

 

「私にしか為し得ないこともある。アナタたちが幻想郷を離れる間、騒ぎが起こらないとも限らないからね」

「他の協力者が不透明だからな……」

「急を要する事態に備えて、各地に配置した結界術式の維持。見直しと更新が必要な場所も、今回の遭遇でいくつも浮き彫りになった。大結界の管理は同時進行だと結構大変でね――私としてはなるべく、ここを留守にするわけにはいかないから、最低限の助力に止まると思うけれど」

「それで構わん」

 

 八雲紫は普通の妖怪ではない。種族や力の強弱などあり触れた話ではなく、一世界を管理する立場にある特殊な妖、という意味である。幻想郷に住む人間、妖怪達とは異なり自由に動き回る立場にはない。聞くところによると紫は出不精な性格らしいが、さすがに管理者としての身の上には代わらないだろう。黒ゼツに純狐以外の協力者が居るかも判らない状況で、管理者が地上を離れるなど論外である。自由奔放なレミリア辺りならともかく。

 この世界を誰より愛する。それを思わせる幻想郷縁起の記述、本人の談もあるなら尚更に。

 

「……お前、他所に力を割きながら渡り合っていたのか? 純狐の奴と」

「そうなるわね。こんな立場だもの」

 

 胸を張って得意げな顔になる紫。心なしか普段より無邪気で幼く見えた。

 オビトが踵を返しつつ「大した奴だ」と呟き、今度は紫が「アナタは?」と問いかける。

 

「『月』だ。さっきも言った通り……奴らもそこを目指すだろうからな」

 

 純狐の飄々とした言葉には裏がある。先の判りやすい『お別れ』に違和感を覚えたのは、相手が純狐だからに他ならない。

 

「アナタ、独りで行くつもりかしら? その身体で」

「当然だ」

「ここは幻想郷」紫の微笑が消えている。「何のかかわりも影響も持たなかったアナタにも――我々と同じ先を見る者として、皆の手を取ることに迷いはないはず。アナタも同じ外来人なのよ、オビト」

「……今回の件は礼を言う。これはオレに課せられた最後の使命だ。お前らには関係のない事情もある」

「怖れているのかしら。深い底を」

「的外れだな」歩き出すオビト。「お前の言う通り……オレは共通の目的のために動いているんだ。はっきり味方と見なしてもいい。ならばそれ以上の言葉を紡ぐ必要が、どこにある」

 

 紫は何も言わずに見つめている。洞窟が本格的な崩落を始める中、発生した渦状の歪に吸い込まれ、オビトはその場から消えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。