THE LAST PHANTASM -OBITO- 作:大兄貴
スキマに身を包まれ目を瞑り、忽ち意識を失ったと思いきや、気づいた時には紫も空間も消え去り、見覚えのない黒一色の場所に佇んでいた。スキマや国産ノ狭間にも類を見ない、不可思議な雰囲気が周辺を包んでいる。
何もない場所に居たのは今さっきまでの話。しばらく闇の中を当てもなく彷徨っていたが、急に視界がぼやけたかと思えば、何度拝んだのか分からない見知った異空間、『神威』の空間が周りに浮かび上がったのだ。
「何が起きた? 何故こんな……」
ここはいずこか。これに勝る反応が他にあろうか。
神威ではない。使用時には必ず視界にひずみが渦巻く。そもそも黒ゼツのせいで自由が利かない体だ。舞台の暗幕を上げたわけでもないのに、何の前触れもなく、何もせずに神威の空間が現れるなどあり得ない。あるいはかつて仙人化した時のように、何かの拍子に十尾か何かの精神空間にでも入り込んだのか。確かにイメージ自体は可能だが――。
「お前のよく知る場所と思っていい……ここはな」
辺り一面にそびえ立つ四角い石柱の群、うち一つの天辺部分から冷徹な声が下りてきた。
八雲紫という稀有な前例がある以上、神威に拠らず専有空間へ侵入できる輩が出てきても不思議ではない。本来なら干渉不可能な場所にも入り込む常識破りの輩だ。問題は非常識な力を持つソイツが何者か。
「六道でもあったお前だ。今なら自然な形で受け入れられるはずだがな」
恐る恐る見上げると映ったのは、『誰よりも』見知った男の姿。黒く刺々しい長髪に仁王立ちと腕組み、がっしりとした体つきの男――そこに居たのはうちはマダラだった。
それだけではない。別の輩まで見える始末である。
「オビトちゃ~んっ!」
真っ白な肉塊で覆われた人型が手を振っている。見間違いなのか――記憶が正しければソレは――生理現象における『大』の感覚を、やたらとしつこく訊いてきた馬鹿ではなかろうか。チャクラの消耗からくる幻覚とでも思いたかったが、五感をフルで動かすに残念ながら外れたようだ。
「ほほう」肉人形は明るく笑う。「うーん……チャクラはだいぶ弱々しいけど、なんか前より目つきイイしィ……カカシと仲直りしたおかげかな? それとも死んだ影響かなあ?」
「馬鹿な」オビトは唖然とするしかない。
「ねえねえ、せっかく生き返ったんだしさ、今度こそ○○○する時の感覚がどんなのか、教えてくれるでしょ?」
マダラの存在だけでも不意を突かれたのに、柱間細胞の人造体である『グルグル』らしき生命体まで降りてくる始末だ。
「何故、お前らが……なにがなんだか分からんぞ」
口数が多く喧しいグルグルは、意味の分からないことを開口一番に喋りまくっている。いちいち突っ込む気も余裕もオビトにはない。幼なげながら飄々と振る舞い、真意を掴みづらい面倒な輩だ。
(……落ち着け。幻術だ。そうに決まっている……でなければ困る)
両者共にどう考えても本物を名乗るのに相応しくない。まず本物のマダラなら月の都に居るが、ここは都どころか現実の空間ですらない。服装にしても、黒ゼツに着せられたであろう黒い衣ではなく、忍界大戦当時に見たうちは一族の古い鎧を着用している。そしてこのマダラからは、何故かチャクラを全く感じられない。ガワをなぞった張りぼてとしか思えない。
次にグルグルらしき肉人形だが、こいつの方は厄介なことに見分けがつかない。しかし本物が居るなら忍界の方だろう。十尾が現世から消えた影響で、外道魔像からのチャクラの供給が完全に絶たれ、戦場に居た残りの量産型白ゼツ諸共に灰と化して朽ちたはずだが、○○○などと抜かしている時点で、以前の記憶を持っていることになる。ちなみにグルグルとは、幼少期にマダラのアジトで出遭った時、その特異な外観を見て勝手につけた人造体のあだ名。顔はのっぺらぼうで右目部分に黒い穴が開いており、それを中心に渦を巻くような模様を刻んでいたことから命名した。影のマダラとして暗躍していた頃に被っていた面の原型でもある。
――正体は魔像を触媒に抽出して作られた、十尾チャクラと変異型柱間細胞の融合体。全ての量産型の原型体であるゼツ、その変異体がグルグルだ。魔像の力で改良した柱間細胞の塊であるため、この右半身と同じ成分で構成されている。幼少期にはリハビリに手を貸してくれたりと根は親切だった。
問題はそんな輩が神威空間に居る理由である。考えるほどにオビトは混乱せざるを得ない。
「安心しろ。どっちも本物ではない」
「だったら何だ?」
「言うなら」偽マダラは冷静に喋る。「お前に宿る『チャクラ』。以前、輪廻眼と十尾を取り込み変質した、お前自身のチャクラ性質――その中で最も濃い部分だ。自覚はあるだろうがな」
「独立したチャクラ体……なんで二つもある?」
「存在が明確に分けられている。端的に言うなら俺は輪廻眼、十尾がそいつだ」
近寄って初めて気づいたが、偽マダラの両目は写輪眼でも輪廻眼でもない。九つの勾玉が波紋状に繋ぎ合わさった紋様の瞳だ。地上で月に幻視した、カグヤと同じ輪廻写輪眼。どうやら偽グルグルとは互いに影響を及ぼし合うようだ。
再現されたに止まるチャクラの産物だと解っていても、安易に直視するようなものではない。
「姿は記憶に根強く残るものを借りたに過ぎん。お前と同じ姿よりは混乱しないだろう」
「……それを言うには遅い」
呆れた表情のオビトだが、偽マダラは悪びれる様子を見せない。偽グルグルに至ってはケタケタ笑っている。
自分に化けようが、黒ゼツやカグヤになろうが、カカシやリンになろうが同じ反応を見せただろう。詰まるところ輪廻眼のチャクラや十尾チャクラが形と意思を持ち、記憶を漁って人物の姿を模り、この場所に具現化したわけだ。
十尾の計り知れない生命力ゆえか、紫の境界操作が原因なのかは判らないが、ひとまずの問題は別にある。
「もういい……そっちの白団子はどう説明する。初対面とは思えない饒舌っぷりだろうが」
「ご挨拶だなあ。観念して○○○する感覚を教えてくれるなら、答えちゃってもいいけどね」
「舌をひき千切られたいんならな」
「いいよーん。僕ら実体ないから傷つかないし死なないしィ……君が死なないから死ねないしィ? チャクラだしィ? ていうか今の君ってさ、力使えないんだっけ? 情けないなあ。僕に偉そうな口利けるの?」
偽グルグルは誇らしげに胸を張る。自然な流れで論点を逸らしまくる物言いは、実に話し合いの大敵でしかない。
「簡単なことだ」偽マダラが代弁する。「視神経と脳を中心に循環する特殊なチャクラ体として、知識や経験を含むお前の記憶を、俺たちは大雑把にだが持っている……そいつはお前の中で、『こんな奴』として定着しているのだろう。それが再現されただけのことだ」
「……生まれながらってわけか。あたかも己の記憶のように語るなど、滑稽極まりないな」
「おやァん? なんだいオビト、生意気に振舞っちゃってイイのかな――?」
偽グルグルの右眼孔が光った時には遅かった。無駄に気合の入った「ふんっ!」という声と同時に、掌から生やした棒、もとい挿し木がオビトの尻を見事に千年殺しした。
膝を着いたオビトを前に、得意げな様子で大笑いする偽グルグル。調子に乗りすぎた白団子を偽マダラが粛清して場を収めた。
四角い石柱の上で向かい合う三人。大体の事情を聞いた後、らしくのない発言が目立ったことを密かに自嘲しつつ、オビトはあらためて偽物二人を眺めた。
前者は輪廻眼の六道チャクラの集合体で、性格は本物を柔らかくした感じだ。後者は十尾チャクラと、それを用いて培養された柱間細胞に宿る木遁チャクラの混合体で、性格は本物とほとんど遜色ない――といったところ。忍界に居た方と同一人物ではないにしろ、本物の記憶を宿す偽グルグルの方は、本人として扱っても矛盾は生じないだろう。
「そいつに聞いた通りだ。今はカグヤのチャクラで縛られていて自由に動けない……体に根を張る呪印札をどうにかしなければ、奴と戦うことすらできん」
偽マダラもグルグルも、具象化したチャクラ体として宿主(オビト)の記憶を保有する。○○○と団子と煎餅の話ばかりで会話がほとんど成立しない白団子は置くとして、偽マダラから詳しい話を聞くに、二人は外部より働いた力の影響で顕現したようだ。文字通りの外なら紫が何かをした可能性もあるが――。
「んでんで?」
「この際だ」オビトの目が開いた。「手があるか確かめておきたい……お前らに」
チャクラのことはチャクラに訊く。端から見れば支離滅裂な理屈ながら、いずれも普通のチャクラではない。この二人は黒ゼツと同じ性質に加え、オビトとしての記憶を有している。半ば賭けなのは重々承知だ。幸いにも馬鹿ではない方のチャクラ体も居るわけで、紫以外に打つ手のない現状では聞かない理由はない。強大な妖の手を借りたとはいえ、受け身で何もせずに事を待つのは性に合わなかった。
偽マダラはマダラ気質を発揮しつつ黙している。グルグルは笑みを引っ込めると、首を傾げてオビトを見返した。
「随分おめでたいんだね。それじゃ君、味方だとか思ってんの? 僕らのこと?」
意外なことに○○○とは無関係な話題に反応したグルグル。口調は相変わらず軽々しく砕けていて子供のようだが、声は僅かに低くなった。
「……不本意だがな。意思が芽生えようと仲間意識なんぞ湧かないが、収まる所には収まっている」
「あのさァ。たしかに僕、リハビリやらなんやらに付き合ってあげたよ昔? でもそれってマダラの命令だったわけ。君を一刻も早く動かしたかったんであって、味方してたわけじゃァないの。そもそも僕って十尾だよ、十尾。わかってんの?」
グルグルは嫌味ったらしい口調で語りかける。オビトは黙って視線を投げている。
言葉に嘘はない。大岩に半身を潰され死を待つだけだった者を介抱し、失われた体の機能を回復させる手伝いまでしたのは、マダラの命により駒として利用できるよう準備を整えるため。人懐っこく見えるために勘違いしやすいが、色々な物事に対する好奇心が旺盛なだけで、善意から助けたわけでは決してない。
偽マダラにしても、無限月読のために移植した輪廻眼のチャクラ体であり、元よりこの体に宿っていた力ではない。いずれも外から後づけしたものだ。
「――僕は『お母上様』に入ってたチャクラなわけ。わらわら蟻みたいに小煩い忍共を超尾獣玉で消し炭にしたり、挿し木の雨でぐッちゃぐちゃに潰した、悪~い力の一部なわけね。今の君の意志に反しまくってると思うんだけど、そこんとこどーなんだい? ありがちな友情とか、利害だのって便利な言葉でも引っ張り出してくる?」
「他意はない」オビトは素っ気ない。「お前らはかつて、オレが自ら抑え込んだチャクラだ。この体に巣食う以上、宿主の意向には従ってもらう。主従関係など自明の理だ」
「ほんッと生意気に育ったねェ? こりゃどっちが上か、思い知らせなきゃダメかもだねェ……君にはさ」
予備動作もなしにオビト目掛けて射出される挿し木。術者の印により自在に形状を変えるソレは、対象に触れると同時に枝を伸ばし、枝分かれして串刺しにする。血塗れの人間ツリーを作り出すのだ。喰らえば致命傷は避けられない。殺傷力と致死性が極めて高い木遁忍術である。
オビトにも事実、己を介して十尾にこの術を使わせて、忍連合の軍勢を皆殺しにした悍ましい過去がある。神威を使用できない今の状態で直撃を許せば、死にはせずとも再起不能となるだろう。
「チャクラ相手に戦っても、何も生まれん」
物理的な干渉を『神威』でやり過ごしつつ反撃する戦法を得意とするだけで、膂力を補う目的で行使していたわけではない。神威の使い手以前にオビトは忍として、人間離れした身体能力を有している。吸血鬼や天狗が相手ならともかく、忍でもない者が投擲する木の棒程度を回避できない道理はない。
対応は早かった。数多の挿し木を易々とかわしながら、瞬く間にグルグルとの距離を詰めるオビト。咄嗟に伸ばされた樹木を蹴りでへし折り、至近距離で拳を握り締めた。
「トビでもなければ、マダラでもない。ガキの頃とも違う。それを忘れるな」
あとは簡単な動作で顎に刺せば終わりだが、オビトはすんでのところで動きを止めた。グルグルは目を丸くしている。
「オビト、君って……」
神威空間は痛いほどの沈黙に包まれる――こともなく、途端にグルグルは吹き出してしまった。
緊張した空気が張り裂けると、グルグルは腹を抱えて笑い始めた。
「――くく、あっはははははっ! なんだいオビト、なーにマジになっちゃってんの? 馬鹿だなァ。こんなんお遊びに決まってるでしょ!」
「当たり前だ」オビトは不満げに言う。「お前の思考など見通している。本当にオレのチャクラかどうか、そいつを確かめたに過ぎん」
大雑把にでも頭の中を共有する輩の動きを、本体たる者が避けられないなど筋が通らない。それはグルグルとて承知のはずである。
「で、どうだったい?」
「今の応酬で納得した。ただ……」
「うん?」
「お前は本物と同じでうるさい。鬱陶しいから黙る場面では黙れ」
「気が向いたら了解するよ」
「…………」
表情が存在しないだけで感情は豊か、飄々とした口調は無邪気な性格を引き立たせる。長らく傍観していた偽マダラが咳払いすると、再び空気に調和をもたらした。今のやり取りで満足したのか、グルグルは素直に口を閉ざしている。
結局のところ、チャクラと境界操作が作用し合い、二つのチャクラは精神世界に自由な形で具現化できたが、その存在自体は十尾本体との綱引きの時からあった。両者共に人格を持ち、グルグルの方は色彩が濃すぎる。
単なるチャクラ体として扱うべきか。その前に一言二言ほど問いかけて、敵味方を明確に判別するべきか。
「お前は用心深い」偽マダラはオビトに目をやる。「ハッキリさせておこう。俺もこいつも、お前に敵対なんぞしちゃいない。輪廻眼やカグヤに宿る力の一部ではあるが、それは昔の話だ。あの精神空間での綱引きでお前に敗れた時から、どちらもお前本来のチャクラとして同化を果たした。変容したチャクラがその証だ」
「うんうん。ていうか僕らってさ、君がいないと存在できないんだよね。尾獣みたいに人柱力が死んだら復活とか、年月を経て自然の中から再構築! みたいにはいかないのさ。さっきも言ったけど……君が死んでチャクラが消えたら、僕らも消えちゃう。つまり君とは運命共同体、死ぬまでず~っと一緒ってわけさ」
「そいつは保身がワケか?」
オビトが怪訝な表情で尋ねると、グルグルは再び首を傾げて唸った。九十度ほど曲がっている。
「そうなるんだろうけど。違うんだよねなんか」
「どういう意味だ」
「なんていうのかな。僕らは独立した人格として……君への敵意ってのが、そもそもないんだ。お母上様の無念を晴らそうとか、取って代わろうとかも、思ってないっていうか、思えないっていうか。かといって部下とかでもないんで、気軽に話せる友だちみたいな感覚でいいよ。僕もその方が楽だしね」
「……どっちもお前のチャクラだ。深く考えるな。疑うだけ無駄だ」
沈黙の後に口を開いた偽マダラを前に、オビトは先ほど逸れた話題を思い出す。
「今のオレは自由に動けん。奴にとって不利な行動を抑制されている。だがお前らなら……」
黒ゼツの話した通りならば、呪印の力を構成するのはカグヤ、つまり十尾のチャクラ。個々の人格を持つ二人が同質のチャクラ体であれば、この体を流れるチャクラを縛り制御する力に対して、内側から干渉できる可能性は十分にある。手立てさえあれば痛みなど詮ないことだ。
「僕ら任せ? らしくないねェ」
「奴は忍ならざる輩……人外で神の類。力の差は解っているつもりだ」
死して二度目の生を授かってもなお、黒ゼツは脳裏に根強く残り続ける輩だ。圧倒的な力の差を実際に教え込まれた身として、それこそ心理的な外傷を負っても不思議ではない。これまで幾度となくカグヤを連想した理由でもあるのだろう。現にカグヤの呪縛を振り解く以前に、黒ゼツに体を掌握されるまでは、呪印の存在に気づくことすら叶わなかった。
他者からの指摘を受けて逸早く気づいていたとしても、目の前の二人が――六道と十尾チャクラの存在がなければ、認識も対抗もできないままに、排するという選択肢は潰されていた。この目を欺くほどのチャクラを恐れぬはずもない。
「オレは……あの場で途方に暮れるしかなかった。紫が来なければな。道を開いたのはあいつだ」
「うんまあ、僕らにしても居られなかったろうしね。こうやって」
「その紫だがな」偽マダラは腕組み姿勢でぼんやりと喋る。「奴の力……境界の力が及んだようだ。どういう術を講じたかは知らんが、お前に根づいたモノを見つけ出した。だからお前も俺もここにいる」
「お前らがチャクラ体として顕現したのは、紫の力によるもの、だったな。ならここは……」
黒ゼツが残したチャクラに八雲紫の力は通じない。紫本人も言ったように十尾チャクラでなければ、同質のチャクラ体である呪印の力は認識できない。
自身の意識が満を持して覚醒し、チャクラ達が境界の力を受けて現れた。黒ゼツが仕掛けた障壁に歪みか亀裂が入り、紫による干渉を許したのだ。
「初めは暗い所を彷徨っていた。何も視えなかった。だが今は……お前らを含めて全部が視えている」
無意識に右目を手で押さえるオビト。その影響で揺らぎが生じるモノは一つしかない。
ならば揺らぎが生じた、この場所の正体は。
「それが答えだ」
――『うちは』の血族を語る上で外せないものがある。深い愛情とそれに起因する憎しみがもたらす特異な瞳力は、他に類を見ない。
十数年もの長い歳月を偽のマダラとして、トビとして、オビトとして、己を己自身として動かしてきた最大の感覚器。命の脈動を打つ心臓や脳すら及びもつかないほどの、うちはにとって唯一無二の武器であり鎧。黒染めの刻印は他のどこでもない――この右眼に溶け込んでいたのだ。
心臓になど打ち込むより効果的で、この上なく皮肉が効いている。いい場所に植えつけたものだ。
「道理でオレには……『見えない』はずだ」
此度の物語は全てが掌の上だった。紅魔館の屋上から月を、十尾の眼を重ねて視た時にしてもそうだ。結局は最初から最後までいいように扱われ、盲目的に動いていたに過ぎなかった。この体のチャクラと生命力を散々と搾り取った挙句、最後は置き土産として、大切なものを自らの手で捨てさせるための一本道まで残した。心の穴を突いて利用する――ここまでだと笑いさえ込み上げてくる。
然るに思い出したのは、輝夜の楽観的な言葉だった。いいように扱われた事実があっても、失われていないものが、決して失わないものが一つだけある。『うちはオビト』という忍を元の道に引っ張り戻してくれた、大切な力の存在を。
今にして思えば、これを機に忌々しい過去の己自身と完全に決別して、新たな自分に罪を背負わせてみるのも一つの道と言えるかもしれない。
「歯車とはこうも思い通りに回るか。文句の一つも出んとはな……」
どちらも察してくれた様子だった。抱いた決意を捻じ曲げようとする者など、ありがたいことに誰一人として居ない。グルグルは偽マダラに目配せした後、鋭利な挿し木を掌に形成してみせた。
この空間には紫も、お節介な妖精もいない。幻想郷の他の住民も、月の民も誰も。ただ一人だ。
「僕らは君だからね。たとえ世界が滅んだって、君が死なない限り、僕らは最後まで見届ける心構えだよ。安心していっておいで」
目の前の壁を破壊して初めて、黒ゼツの思い通りにならない道に踏み入れることができる。そのためにどれほどの痛みが伴おうと、心は折れやしないだろう。後悔はしないだろう。
自分勝手なのは承知だ。星の数ほどの文句を受け止める覚悟など、忍び耐える覚悟など、疾うに。
「そうしよう」
さあ、行こう。かけがえのない友が、紫達が繋いでくれた希望を。一粒たりとも終わらせないために。