THE LAST PHANTASM -OBITO-   作:大兄貴

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六話 うちはせんべい

 博麗神社の素敵な巫女、博麗霊夢の機嫌はすこぶる悪かった。

 稀に見る妖怪退治の高額な報酬をつぎ込んで、久方ぶりの素晴らしく豪勢な夕食と快適な食休みも終えて、これからせっかく幸福な気分で布団に寝転がり、眠りに就こうとした矢先にスキマが開き、彼女にして招かれざる客である八雲紫が信用ならない笑顔を貼りつけて現れたのだ。

 しかも訪問者は紫だけに止まらず。今度は和室の障子が開くなり、彼女にして得体の知れない人間が縁側を踏んで入室してきた。見た目の割に白髪で何故か半裸であり、可愛らしい容姿の妖精を引き連れていたので、霊夢は内心で変人の変態と直感したのだが、事情を話した紫により誤解が解かれた結果、男は幸いか祓い棒による悶着と災難を逃れることになった。

 

「クロ、ねえ……」

「猫みたいに言わないの」

「いきなりすぎて、ピンと来ないわよ。こっちは本人すら見てないわけだし」

「貴方なら信じてくれるわよね。お友だちでしょう?」

「そりゃね。あんたは茶菓子の数をごまかす嫌な奴だけど、その手の異変にかかわる嘘だけは吐かないし。友なんとかってとこは知らないけど」

「…………」

 

 無駄に深みのあるやり取りを眺めながら、オビトは勝手に煎餅をかじっていた。妖精の方は饅頭を指でつつき不思議そうな表情。

 

 転写封印を仕込んだ輪廻眼で黒ゼツがどこかに消えた後、ひとまずは神威空間から博麗神社の境内に帰還した。待ち時間が退屈すぎたのか、地べたに寝転んで呑気に眠っていた案内役を掴み、当初の目的であった神社を訪ねて今に至る。

――紫と意味ありげな戯れを繰り広げる少女が博麗霊夢。最東端で結界の境目に位置する『博麗神社』に居住する人物で、幻想郷で発生した異変の解決を生業とする巫女。

 幻想郷では重要な役職に在るようで、立場ゆえにこれまで多くの人や妖怪達と共に色々な異変を解決しては、騒がしい宴会を飽きもせずに開いてきたようだ。一仕事終えた後の一杯ほど格別なものはないとの話も、幼少の頃よりマダラとして生きていた関係で酒の味も知らず、任務終わりの安堵や解放感も疾うの昔に忘却の彼方。

 紫と同じ幼い外見ゆえ、当初なら「年端もいかん小娘」などと、霊夢を何の変哲もない一般人と見なしていたが、ミスティアや紫といった前例ありきでは信用するしかない。管理者と接触できる者が普通の子供であるとは考えまい。オビトは煎餅をかじりつつ何気なしに思った。

 

「ねえあんたさ、遠慮って言葉とか知らないの。どんだけ好きなのよそれ」

 

 ボリボリボリボリという硬い物が噛み砕かれる音。霊夢は紫との無駄なやり取りを切ると、卓袱台に頬杖を着きながらまじまじとオビトを眺めた。煎餅ばかり数を減らして、白饅頭とお茶には手をつけていない。

 

「コレは来客用の菓子……オレが辛抱する必要などないはずだがな。博麗霊夢」

「そ、そうね。残り物だし、気に入ってくれたならいいけど」

「うちは煎餅には遠く及ばんとはいえ……なかなかに価値のある代物」

「なによその感想」

 

 血で血を洗う殺伐とした忍界とは異なり、平穏な幻想郷でのんびりと暮らす霊夢には、付き人よろしい妖精曰く「勉強を教えるのが下手そうな」オビトの言葉はピンと来ない。

 

「さすがは大結界を司る博麗の巫女だ、お前の高品質な煎餅を確保しておく手腕には驚かされる。ここまでの物をそろえておくとはな……」

「巫女と煎餅のくだり関係ないじゃん」

 

 霊夢は困惑した表情で紫を見たが、本人はそっぽを向いて口笛を演奏中。丸投げである。

 ならばと妖精に助け舟を求める。本人は細かく千切った白饅頭の欠片を頬張り、「そういうやつよ」と言うだけで終わってしまった。

 

「ねえ。そのなんたら煎餅ってそんなに美味しいの? あんたが言うとなんか、むしょーに食べたくなるんだけど? どーしてくれんのよ」

「なんたらではない。うちは煎餅、だ。ここにないのが悔やまれる……お前もあの味を知れば、二度とうちはの名を忘れもせんだろうがな」

「いや、まず『うちは』ってのが分かんないし。忘れるもなにも」

 

 明らかに影響を受けてむさぼり始めた霊夢。妖精は二人のやり取りを眺めつつ饅頭を指差す。

 

「こっちは食べないの? 美味しいよ」

「饅頭など眼中にない。やはりうちはの……あれほどの味はそう簡単に再現できまい」

「オビト……こんな感じだったっけ」

 

 出会った頃、というよりほんの少し前のオビトを思い出しながら、妖精は混乱した様子で呟いた。

 

――うちはでも愛想が良いと評判の心優しき者達により数十年もの長い歳月を経営難に陥ることもなく存続を可能としていた、うちは一族の中では知らぬ者のいなかった有名な老舗の煎餅専門店。それがうちは煎餅である。隠れ店的な小さな店にしては商品の多さに驚かされる店で、明るく賑やかな通りに面した立地から利便性も良好だった。

 うちは煎餅はうちはの家紋や写輪眼紋様の判が押された見た目が特徴だ。客用のお茶受けや小腹が空いた時には最適な菓子であり、年配の者はもちろん、アカデミーや修業や任務帰りに友人と立ち寄る子供も多く、うちは一族のほぼ全ての者達からは最高のおやつとして愛されていた。うちはらしく深い愛情を注ぐ者が大半で、中には主食にする人もいたらしい。長い期間を熟成させた特製の醤油や代々受け継がれてきた秘伝のタレがミソで、店の周辺にはいつも煎餅の焼ける芳ばしい匂いが漂い、その風味に魅了された者の中には一刻も早く食したいがため、煎餅を購入しに訪れる手間暇さえ邪魔と判断して、そのためだけに近所に引っ越す者も相次いだ。その多大な人気は観光客を呼び込むほどで、うちは一族の自治区に止まらず、木ノ葉の里のほとんど全域で広く流行したという。

 噂では三代目火影や相談役が非番の日に商品を買い漁り、煎餅作りを手伝っていた時代もあったとか。さらに木ノ葉の暗部組織『根』の首領である志村ダンゾウらしき人物を見たとの目撃情報もあったらしい。

 

 うちは煎餅の凄まじい人気は木ノ葉の里に飽き足らず、火ノ国のあちこちにも飛び火した。あまりの人気に里の上層部が動き、他国との外交にも密かに取り入られ、うちは煎餅の配達任務や配達員の護衛任務といったDやCランクの特別任務も組まれた。国境付近など危険な輩がうろつく地域への配達があったほか、うちは煎餅に興味を抱いた抜け忍達に品の運搬が襲撃される事件が頻発した結果、ランクが一気に二つ引き上げられた時もあったようだ。しかしながら、そのおかげでうちはの財政は潤い、様々なところへ金が回り、一族の豊かな生活を支えるものとなっていた。噂だが一族総出で量産や大規模な宣伝を行おうという案も出ていたらしい。

 その後、トビとして各国を暗躍していた頃に風の噂で聞いた話だが、うちは煎餅の兄弟店や弟子なるものを名乗る不逞な輩も多々いたようだ。果たして万人受けする味ゆえか、千手に拮抗せしうちはの名前ゆえかは不明ながら、下手をすれば五大国の同業者達を敵に回すおそれがあった、れっきとした大事件だったと言えよう。

 

 うちは煎餅を経営するならば――他国に知れ渡っている名を利用しない手はない。

 自治区内で経営拡大の元手となる資金を集めて、宣伝と共に区外へ進出する。重要なのは里に広く名を轟かすことだ。里人や観光客のほか、上忍や暗部、あわよくば火影のお墨つきをもらい、外交や特別任務を特設、豊富な資金を頂戴する。他国との繋がりのある者に気に入られれば、里外への進出も夢ではない。里の全域に展開した店で十分な金が集まれば、後は千手と対をなすうちはの家紋や写輪眼を武器に火ノ国全土に勢力を拡大する。他国とのパイプがある者、火ノ国を訪れる者なら好し、大名の耳に入ればなお好し。大名連中の信用を得られたら儲けもので、そこまで勢力を広げれば後は受身でも金が入る。里どころか国一番の億万長者も夢ではない――などということは全く、毛ほども考えていない。煎餅さえあればいいのだ。

 かくいう自身も、当時は親代わりの祖母に頼まれてはうちは煎餅に通い詰めて、煎餅好きな祖母の影響を受けて毎日毎日頬を膨らませながらバリボリとかじっていた。通いすぎて店主と親しくなり、よくおまけをしてもらっては喜びに顔をほころばせていたものだ。知らず知らずのうちにパイプを築き上げてしまい、焼き上げの工程でひび割れたり、二つに割れたりした売り物にならない失敗作、いわゆる壊れ煎餅が激安で入手できたり、運が良い時はタダで貰い受けたことも。嬉しさのあまり歓喜に吼えながらベッドの上で飛び跳ねていたものだ。

 

(うちはオビト……か)

 

 木ノ葉の抜け忍となるまでの、里における平和な生活は、うちはオビトとしての自分を取り戻して初めて、かけがえのない思い出として記憶の一ページに刻まれた。幼少の懐かしい記憶を辿り、子供っぽいことを考えてしまうのも、争いだらけの忍界に身を置いていないゆえか。

 古ぼけた畳を無言で映しながら煎餅を呑み込んだオビト。あの日の暮らしには戻れずとも、かつての思い出を忘れないよう生きていけたら、それでいい。

 

 妖精は卓袱台に尻を着けてのんびりと二人を見ている。しばらくの間は物珍しい目でオビトを眺めていた霊夢も、やがて真面目な顔を作るなり、そっと湯のみを置いて「さてと?」と腕を組んだ。

 

「まあ、そうねえ」霊夢の目が紫に移る。「あんた直々の頼みだし、調査については一応了承するわ。目に見える異変は起きてないし、深く踏み込むのは先になりそうだけど」

「奴の姿を見ていないからな……お前は」

「実感のあるなしじゃあ違ってくるからね。心構えとか――んでさっきの話じゃ、そいつは神出鬼没で、霊力――じゃない、『ちゃくら』を真似る力を持ってるって?」

「そうだ。調査に乗り出すなら、情報のかく乱や同士討ちの可能性を考慮しつつ、人目のつきやすい場所でも隅々まで注意を払って動くべきだろう」

 

 幻想郷における力の定義は粗方聞いている。忍世界で言うチャクラ、すなわち精神エネルギーは霊力、妖力、魔力、気力などと分けて呼ばれるようだ。

 霊力は主に巫女が有する。結界を張ったり、封印術を施したり、霊撃で妖怪を浄化したりと、妖力とは対極に位置する神聖なる霊的な力。

 妖力は獣を含む妖怪達が保有する。物質を起こす幅広く一般的で汎用的な力の源で、幻想郷で最も多いのはこの力。

 魔力は知性を司り、魔法使いや魔女と呼ばれる、人間に近しい種族が主に有している。

 気力は怪力無双を起こす。鬼と呼ばれる、妖怪の最上位種族が持っている。

 例外もある。人鬼や吸血鬼など実力者の中には、妖力以外にも魔力や気力など複数の性質を持つ。この霊夢も気力を併せ持つようだ。曰く異なる力同士の強弱関係は複雑な要素が絡むので、深く考えるのは後でも遅くはない。

 忍界に当てはめるなら――霊力は封印術や感知、結界忍術。妖力は火遁や水遁など一般的な忍術全般、魔力は微細なチャクラコントロールを要する医療忍術、気力は身体能力を高める八門などの体術を司るといったところ。

 

(マシな対処ができる輩で止まればいいが……)

 

 各々の類似性や仕組みを事前に頭に入れておけば、天狗や夜雀のような問答無用の敵対者が現れた時に対処しやすくなる。たとえば魔力を扱う者を相手取る場合、術者本体に攻撃を向けて集中力を乱せば有利に立ち回ることができる。

 神威なら大抵の物や事象は避けられるが、ここは見知った忍世界ではなく未知で未踏の幻想世界。どんな不測な事態が発生するかも判らない以上、最低限の用心程度はしておいて損はない。

 極端な例だが、無限月読の試作版である『限定月読』。現実を模したあの幻術世界を作って入り込んだ時は、仲間であるはずの暁全勢力の敵対を始めとして、意図せぬ歪みがいくつも生じたものだ。必ずしも全てを掌握できぬ世界では、何が起きるか予測がつかない。

 

「はあ……めんどくさいなあもう。コソコソ隠れんじゃないっての。まんま忍者って感じねそいつ」

 

 黒ゼツの方は黒幕として対処するとしても、白ゼツ出現のおそれも問題である。本物の輪廻眼を手に入れるに止まらず、不完全ながらも形として扱えるほどだ。柱間細胞の培養技術と材料、触媒となる外道魔像をも黒ゼツが掌握済みと仮定するなら、白ゼツの兵を作り出す可能性もある。まだ見ぬ脅威も考慮すべきだろう。

 白ゼツについてオビトが考えを巡らせていると、霊夢は急須でお茶を淹れてから口を開いた。

 

「とにかくあんたは、そのクロゼツってのを退治したい。つまり外来人だけど、しばらく外には帰らない。こっちに留まるってことでいいの?」

「……そうなるな」

「ふうん。だったらその間の衣食住が要りようになるけど――まずは服を着なさい服を。さっきから気になって仕方ないっての」

「それくらいは必要よね。女の子の前で半裸はよろしくないわ」

 

 右手に煎餅、左手に白饅頭を持ち、交互に貪っていた紫が急に話に入ってきた。妖精は今日一日で疲れたのか欠伸混じりに目を擦っている。

 

「…………」

 

 幻想郷に迷い込み、帰還を望む外来人を元いた世界へ帰すのも、結界を管理する巫女の役目の一つ。しかしながら、見ず知らずの外来人を保護して気前よく衣食住を提供するわけでも、その責任を負うわけでもない。博麗の巫女は最低限の補助を行うだけで、幻想郷に留まる外来人は人間の里に自力で赴き、里長に話をつけて独力で問題を解決する。後は好きにやらせて放置である。物事はそう都合よく運ばないのだ。

 その辺を霊夢が簡単に説明すると、オビトは黙したまま瞼を瞑り、すぐにまた開いた。赤い瞳に三方手裏剣模様が浮かぶ。

 右眼を中心に螺旋状のひずみが生ずるなり、オビトの姿が吸い込まれて消えた。

 

「なんなの?」

「うーん。阿礼乙女の具体性を欠いた言葉で表現するなら、あの子のは『空間を司る程度の能力』、ってとこかしらねえ」

「『掃除をする程度の能力』じゃなかったんだ……」

 

 霊夢は妖精の呑気な言葉を、「限定されすぎでしょ」と呆れながら指摘した。

 二人があれこれ意見を述べている間に、再び空間にひずみが生じてオビトが出てきた。分厚く丈の長い外套状の黒い装束を身にまとい、背中にはうちは一族の家紋である『団扇』の刺繍がある。

 オビトは息を吐き、無言で座布団に腰を下ろした。バリボリと聞き慣れた音がし始める。

 

「すぐにそれかいっ! 空間同士を行き来するってのは聞かされたけど、なんでさも当然のように着てるのよ」

「着ろと言ったのはお前だ」

「じゃなくて、どーいう理屈なのかなって」

「あらかじめ向こうに保管していた物を引っ張り出しただけだ。難しい理屈ではない」

 

 この衣は第四次忍界大戦時に着用していた物と同じで、うちは一族の普段着兼戦闘用の装束である。喧嘩っ早く物騒な妖怪達が跳梁跋扈する世界を飛び回るなら、非戦闘員が着る小奇麗な衣服よりは、丈夫で動きやすい戦闘衣を着ない理由はない。ついでに霊夢達の言葉に従い、白い目で睨まれる事態を未然に払拭する必要も多少はある。

 

「へえ、便利ね。色々使い道のありそうな力」

「容量無限の収納箱だよね? ねね、そーでしょ?」

「間違いではないが……日常的な使い道を見出したことはないな」

 

 妖精の言う通り、神威空間に収容量の限界はない。時空間移動に用いる無数のマーキング物質や、第四次忍界大戦時に使う物として「空間そのものに混ぜ込んで」備蓄していた様々な忍具、その他もしもの時のために用意した大量の雑多な道具を持ち運んでいる。衣服は一応ということで混入させた物だ。よもや命ある人間として蘇り、再び神威空間から物を出し入れする破目になるとは夢にも思わなかったが。

 衣食住を気にする必要がないのは確かに大きい。これらは人間にとって不可欠なものだ。衣はもちろん、食は右半身の体細胞に宿る異常な生命力が栄養補給の必要性を完全に否定、住も要るなら要るで神威空間で事足りる。体細胞や神威がなくとも忍である以上、飲まず食わずは珍しくなく、長期任務では野宿も当たり前だ。今さら気にすることではない。

 オビトが新たな煎餅を手にした時、霊夢は興味深げな表情で身を乗り出した。

 

「いいじゃんそれ。ねえあんた、特別に居候させてあげるから、境内の掃除とかゴミ処理とか任せていい? どっちにも利があるでしょ?」

「止めておこう」即答するオビト。「それに……これまで当たり前のようにやってきたことを他者に頼り放棄すれば、あとに待っているのは堕落。それは時に己の成長を阻害させる」

「あンですってェ? あんたボリボリ食ってるでしょうが」

「確かにな」

「そこは認めるのね」

「好き嫌いの問題だからな……こればかりは」

「まったく、ケチくさいわね」霊夢は仕方なしに笑う。「……でもま、割とマトモなこと言うじゃない。常識人なんて私以外じゃあ、幻想郷でも珍しいのよね」

「ええっ! 貴方、常識人だったの!?」

「当たり前でしょ! 聞いた反応してんじゃないよっ!」

 

 茶菓に夢中だった紫の大げさな反応に、霊夢はどんっと顔を近づけて抗議。妖精はくすくすと笑い声を漏らしている。

 何枚目かも数えていない煎餅を相変わらずバリボリと食べながら、ゆったりと瞼を瞑るオビト。

 

(こんな光景を見るとはな……以前なら思いもしなかった)

 

 黒ゼツという悪意の塊が体から取り除かれたとはいえ、いまだにマダラとしての口調と言動は色濃く残る。

 古き友人であるカカシの前ならともかく、見知らぬ者の前では顕著に表れる。オビトとしての自分を戻しても、こればかりはどうにもならない。衣服に付着したしつこい染み汚れにも似ている。

 目の前で繰り広げられる、ほのぼのとした日常を眺めていると、懐かしい感覚を思い出す気がした。不明瞭で幸福か不幸かは判別できないが。

 小さな体に饅頭を収めて満足した妖精は、二人に向けていた視線をオビトへと移した。

 

「巫女に挨拶できたし、話は大体聞いたわよね。探すにしても幻想郷を巡らなきゃだし……人里にでも行ってみる?」

「無難か。案内が望みとはいえ、オレになど時間を費やしていいのか?」

「トーゼン」妖精は胸を張る。「同じ毎日ってのも飽きがくるのよ。わたしの場合は、妖怪の山での当たり前の生活。そこんとこは妖精も妖怪も人間も変わらないと思う。へんてこな奴とつるむの楽しそうだもん」

「そんな理由でか。悪戯に執着はあっても悪意を持たぬなど、忍ではない者の考えはよく解らん」

「妖精の本能、わたしの性分よ。ていうか執着って……ほんとヘンな言い方するのねえ、オビトって」

 

 オビトがまたしても煎餅を手にしたところで、ため息混じりに妖精は呟いた。

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