report:超光速の粒子とその行方   作:Patch

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模擬レースのあと、私につきまとうトレーナーができた。
トレーナー契約を迫ってくるのだ。
ラボにそのトレーナーが現れた。帰ってもらいたいから。試薬を混ぜた不味いコーヒーを出した。
薄汚いボロボロのノートとトレーナーの姿に全力が現れていた。
私はその姿に可能性を賭けてみることにした。


report:点と線を繋ぐふたつの裂け目

 召し上がれ、と出されたからと言ってそのまま口にするのはいかがなものか。私の出したものを疑いもなく口にする姿は実験動物のそれを彷彿とさせる。なんとも腹立たしい女だ。面白くない。

 その女は今、グラウンドの観覧席に座っている。水色の髪をしているから嫌でも目立つ。まだ効果が持続しているようだ。

 戯れに水薬を渡したら、あの女はそれをニコニコ笑いながら飲み干した。奴の行動は全くの知性を感じさせない。端的に言えばバカだ。だから何度も体が発光することになるし、髪の色が変わるのだ。遠巻きにウマ娘がヒソヒソと噂しているのが見える。側から見ればその姿は奇人・変人の類だ。その予想は正鵠を射ている。奴は奇人で変人だ。

 

 奇人が観覧席に座っているのを私はラボから見ている。のぞきの趣味は無いのだが、これだけのために双眼鏡を買った。要らなくなったら同室のウマ娘に譲ろう。ヤツはのぞきが趣味だ。

 

 あの女は毎日私のもとを訪れては練習メニュー表を渡してくる。私がラボにいなければ机に置いていく。私がラボにいれば、直接手渡して泥水を啜って帰っていく。もちろん今日も来た。だから髪が水色に変色している。

 こうしてあの女と練習することを放棄しているわけだが、あの女は毎日グラウンドに出ている。昨日は暇を持て余して芝の手入れをしていた。おとといは教官の真似事をしていた。腹立たしい。私の専属トレーナーであれば私に向き合うべきだ。私の相手をしろ。暇だ。

 別にあの女と練習をしたくないわけではない。普段は全くの知性を感じさせないくせに、練習メニューだけは緻密に考え抜かれている。模擬レースの序盤で私がつまさきを保護して走っていたのを見抜いているのか、フォームの調整項目、特にテンポ走にラダーなどストライドの拡大と体へ負荷を軽減を狙うものが基本となっている。トレーナーとしての才能の片鱗がこれでもかと乗った紙を見せつけて行くのだ。あの女の指導に興味が湧かないわけがない。奇人がどこまでやれるのか見てみたいとさえ思う。

 しかしながらあの女には知性を所持していない。バカなのだ。もし今ここで私がジャージを着てグラウンドに出ていけば、ヤツのことだから犬のように駆けずり回って宙返りをして喜ぶだろう。もしかしたら空を飛ぶかもしれない。制服でグラウンドに出ても同じことをするかもしれない。あの女は知性を所持していないからな。

 だから観覧席に座っていて貰わなければならない。ヤツは休むことを知らないのだ。黄緑色に発光するのは結構である。ホタルのようで綺麗だ。だがホタルのように短命では困る。

 ヤツも女であった。艶のあるみどり髪をしていれば、今日も芝の手入れや教官の真似事をしていただろう。だがそれは笑顔で水薬を飲んだために不可能になった。明日もまた飲ませよう。心痛しではあるが、致し方なしである。生徒会長が喜びそうなセリフだ。副会長はやる気が下がるのだろう。

 日が落ちてくる。まだあの女は観覧席に座って私を待っている。グラウンドにいたウマ娘たちはたんだんと引き上げていく。女の髪はもう水色ではない。十分に休息はできただろう。

 気まぐれにジャージに着替えた。アイシングスプレーを持って外に出る。先ほど仕上がったものだ。

 全ては気まぐれなのだ、あの女のためではない。

 

 あの女が私に向かって駆けてくる。宙返りしたり空を飛んだりはしなかったが、やはり知性が備わっていないようだ。

 辺りは暗く、月が出てくる。しかしホタルの光はもう無い。明かりに照らされて緑に芝が輝いているだけだ。その上を私が走る。

 嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる女を尻目に、やはり私は、気分で動くのはやめようと思った。


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