report:超光速の粒子とその行方   作:Patch

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彼女がレースを見ていた。
いつかどこかで行ったやりとりがリフレインする。

彼女は1月にデビューを控えている。
彼女は私のかけがえのない友人である。

私の次のレースは12月末のラジオたんぱ杯ジュニアステークス
ジュニア王者を決めるこの戦いに勝つ
そして春のクラシックでは、ジュニア王者として彼女に敗北を贈ろう

勝負とは、そういうものだ。


report:停滞という前進

「ラジオたんぱ杯ジュニアステークス、きびしくなりそうですね…」

「ああ、私も同感だ。」

 

「ピッチ走法の練習増やしますか…?」

 

 普段は小動物のようだが、やはり一流のトレーナー一族の者である。私の走りを見て、的確なレースの分析を行うことができている。侮れない。

「クラシック3冠路線をすすむならば、当然菊花賞も視野に入れているんだろう?ならばステイヤーに対抗できるようトレーニングも積むべきだ、違うかな?」

 

 ピッチ走法は脚の回転数を上げて速度を得る走法である。ストライド走法に比べて急加速が可能で斜面やコーナーなどに強い。しかしながら脚を速く動かすということは体力の低下につながる上、最高速ではストライド走法に劣る。

 ストライド走法は脚の歩幅を大きく取り、飛ぶように走る走法である。体力の消費を抑え、ピッチ走法よりも最高速が速い。しかしそのぶん瞬発力に欠け、コーナーや坂で失速しやすい。

 ピッチ走法とストライド走法はローギアとトップギアのようなものだ。短距離を得意とするスプリンターはピッチ走法を得意とする者が多く、長距離を得意とするステイヤーはストライド走法を得意とする者が多い。

 

 私は直線の坂でピッチを上げた。トレーナーはそれを見たんだろう。脚をつく回数が増えることで、末足に磨きがかかる。次のレースも阪神の芝2000、コースも知っている。確かに勝てる可能性は上がる。

 だが、次のレースではそのような小細工が通用する相手ではない。

 

「やっぱり、クラーモントとジャングルポケット…ですか…?」

「ご名答、やはり君は優秀なトレーナーだなあ!」

 

 クラーモントは帰国子女のウマ娘だ。私がメイクデビューで戦ったライジングエンペラーとは比較にならないほど広いストライドを持つ。ライジングエンペラーがスポーツカーならば、クラーモントはダンプカーである。恵まれた体格から放つ一回の蹴りは想像以上のパワーとスピードをもたらす。その走りはまさに加速力のあるトップギア、反則だ。一瞬でも余裕を与えれば全てを轢き潰される。ステイヤーとしての適性もあり、リードを許せばそこで勝負が決まる。

 

 ジャングルポケットはダービーの可能性さえ有ると言われる有力ウマ娘だ。9月に札幌で行われたメイクデビューで地獄のような死闘を演じた。ハイスピードで最終コーナーまで流れるレース、先頭の逃げ馬を後方から差した。粘る相手を最後にスタミナでねじ伏せ、クビ差で勝って見せた。

 我が学園の生徒は一勝も出来ずに姿を消す生徒がほとんどである。既に何人もの生徒が学園を去った。だが、ジャングルポケットのデビュー戦に出場したウマ娘全員が未だ学園に在籍し、勝ち星を挙げている。

 あのレースに出場したウマ娘は全員がたぐい稀なる実力者であったが、末脚の切れ味とその粘り強さにかなう者は同期の中にいなかった。ジャングルポケットが強すぎたのだ。

 

 スピードとパワーの両立。先行するクラーモントを差し切り、追い込みをかけるジャングルポケットから逃げる。

 可能性から絶対のイメージを作る。私にはそれができる。

 

 おそらく、金色の目をした彼女もそうなのだろう。彼女の見えない友達もそういった類なのだ。だから私は彼女に惹かれるのかもしれない。

 

「時間も無い、練習を大幅に変えることはできない。相手は強い」

 ならば君はどうするか、とトレーナーに問うてみる。

 

「本番に備えて待ちましょう。我慢の時です。いつも通りのトレーニングで、体調を整えて、全力で挑むんです。当日にレースを読めば勝てます。」

 フルーツポンチ、たくさん作りますからね、と余計な言葉まで続いた。トレーナーは勝利を確信している。

「同感だ。」

 小さくではあるが、聞こえるように呟いた。




祝・日間総合ルーキーランキング27位
祝・日間2次創作ルーキーランキング21位

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