report:超光速の粒子とその行方   作:Patch

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ゲートが開く。
スタート前の直線、クラーモントを先行させまいと誰もが前を目指して駆ける。
中段にクラーモントとジャングルポケットが並ぶ。その後ろに私。
前へ出るイメージが湧かない、何かがおかしい。違和感があった。

いつもの走り、いつものペースで走るしかない。
すると、クラーモントの背中が近づく。
このレースはペースが遅い。1番人気のクラーモントがペースを支配していた。絶対のイメージはその遥か先にあった。

それを追い、私は駆けた。
直線では誰も追いつけない、私はレースに勝利した。


report:地下にとどく光

 誰もが未来に夢を見る。たとえ何もしていなくとも、何かの進展を期待し「こうなったらいいな」と思うものだ。

 思い描く未来に自らを近づけるために人々は努力する。何もしていないよりは何か努力をしていたほうがいい。思い描く未来を達成するには効率的だ。

 だが、努力をすること自体が不可能なときはどうだろうか。何もできない。何も得られない。何も形にならないという現実と、自分の思い描く未来という幻影との乖離に苦しむ。このままではいけないという焦りが身を焼くような苦しみを生む。

 レースまで2週間と少し。私はこの苦しみに焼かれ続けた。

 よく人は「努力が足りない」と言う。だがそれ誤りだ。努力ができる状態にある時点で全てに恵まれている。

 停滞することしかできないという現実、ウマ娘がもつ可能性の先へ至るという夢想。耐えるしかない。だが勝たねばならない。このジレンマは私の目を曇らせるには十分の要素だった。

 勝てないのではないかとさえ思った。絶対の強さを持つ生徒会長との勝負の中で磨かれた可能性のイメージが、勝負の中で見えなくなった。

 だが、その曇りを拭い去ったのは他でもない私のトレーナーだった。図ってか図らずかはわからない。いや、きっと全て分かっていたのだろう。トレーナーの「いつも通り」という言葉に助けられたのだ。いつも通り走っていたからこそ、クラーモントが作るペースの異常に気付いたのだ。心の内を読まれたようで、やはり少しだけ腹立たしい。だが、今回はトレーナー君に手柄を持たせてやろう。他人の手柄を横取りするのは下衆というものだ。私はそこまで落ちぶれてはいない。

 レース場は未だ熱狂している。興奮冷めやらぬ中、風が優しく体を撫でる。火照った体を冷ますにはちょうど良いそれは誰もを平等に私達を包む。勝者への祝福のようで、敗者への慰めでもあった。

 

 地下バ道の中は薄暗く冷たい。ここは以前も通った。

 控室に戻れば、以前のように私のかわいいモルモットが鼻水を垂らしながら泣いているだろう。頭の悪いこと、トレーナーであるか疑わしくなるようなことを言って、また私を困惑させるのだろう。

 今回こそは異常な量になってしまっているが、また以前のように美味しいお弁当、もといフルーツポンチをいただくとしよう。あとフルーツポンチの量はいつも通りの量に戻してもらおう。

 

 いつも怒ってばかりだが、今回こそトレーナーに感謝の言葉を送ろう。

 

 少しだけ足取りが軽くなる。黄緑色に光る通路誘導灯が足下を照らしていた。


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