report:超光速の粒子とその行方   作:Patch

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私はトゥインクルシリーズに夢をみてここにいる
だが自らの研究により選手生命が永くはないことを知る
思い切り泣いた、嘲ってもみせた
でも、走り抜けなければならない


report:屈折と反射を見つめる目

 トゥインクルシリーズには「足を使い果たす」という慣用句がある。

この現象はトゥインクルシリーズのレースの性質に起因するレースにおける致命的なミスである。

 現在のレースでは最大18人のウマ娘が同時に出走する。勝敗は至極簡単であり、誰が先にゴールラインを切るかである。タイムアタックではない。そのためレースの最中ウマ娘はさまざまな駆け引きを行うことになる。この駆け引きこそが勝利を掴むために重要なのだ。いかに素晴らしい逃げをうっても、直線で差し切られては意味がない。いかに素晴らしい末脚があろうと、逃げるウマ娘を捕らえきれなければ意味がない。この駆け引きの中で、焦り取り乱したウマ娘は自らの走りが出来なくなる。そしてレース終盤、皆がラストスパートをかける中、前へ出れずにずるずると後退していく。

 これが「足を使い果たす」という現象である。

 

 ウマ娘として、私はすでに足を使い果たしてしまっていたのだろう。夢にあてられ、はるか先を逃げるそれについて行こうと、一生懸命に駆けていた。だがそれも足を使い果たした私にはもう追いかけることすらかなわない。ずっとずっと遠い手を伸ばしても届かないところ、影も姿も見えない遥か彼方へと消えていった。

 あの試薬の一件から、他のウマ娘の背中を追うことはできないという自覚もあった。

「退学勧告ねぇ……」

 コーヒーの香りとともに持ち込まれた茶封筒の中身である。走れない、走らないというウマ娘はこのトゥインクルシリーズに不要なのだ。

 

 学園ではトゥインクルシリーズ出走に向けてトレーナーを雇い、チームを組んだり、個別で指導したり、とさまざまなサポートを行なっている。トレーナーによるスカウトを受けたこともあったが、研究を阻害されることは避けたいと思い断り続けていた。それも良くなかった。トゥインクルシリーズへの参加意思が無いとお上の目には映ったらしい。 

 このまま学園に在籍することになれば、走ることは免れない。ウマ娘の足の故障は命に関わることもある。そして研究に充てられる時間は大幅に減るだろう。

 

「ふぅ……」

 

 諦めはついていた。ウマ娘の可能性の先にたどり着くのは私でなくとも良かった。そもそも私は学園の鼻つまみ者なのだ、誰にも迷惑をかけずに去り、研究が続けられればそれで良い。

 

 

 冷めたコーヒーが青白い月明かりを反射する。

 そろそろ服を着よう。裸に白衣を羽織るだけでは肌寒い5月の夜。

 つまさきを見ても、もうすでに光ってはいない。

 

 コーヒーを飲み干す。ひどい味だ。

 

 滑車が耳障りな音を立てて引き戸が開く。金色の目がふたつ、こちらを見つめていた。

「…門限、過ぎてますよ。寮長さんがあなたのことを探してます。」

 

「おや、また君かぁ。どうやら私は好かれてしまったようだ。」

「……」

 精一杯おどけてみせる。慰めるかのような静かな沈黙がここにあった。

 やはりコーヒーは嫌いだ。 




研究者こそコーヒー飲んでそうなのに子ども舌のタキオンかわいいよね。
最近私も紅茶とコーヒーが止まりません
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