report:超光速の粒子とその行方   作:Patch

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report:欠けているもの

 皐月賞まであとひと月。弥生賞のあと休養もかねてオフとなったが、現在私はトレーナー室で資料とにらめっこ中である。

 

「しかしどういうことなのかねぇ?トレーナー君」

「やはりクラシックへの気合いの入り方は違う、ってことですかね?」

 

 私の前走、弥生賞は中山芝2000である。皐月賞も中山芝2000、同じコースを走る。

 中山の特徴はやはりスタンド前から第1コーナーまで続く急坂だ。この坂を越えて最終直線にも坂がある。先行争いで好位を追走し、最後まで脚を残した者が勝つ。コースが同じ以上、弥生賞も皐月賞も同じであるはずだ。

 だが、弥生賞と皐月賞では大きな差があった。GⅡとGⅠであること、クラシック3冠の初戦であることなどレースの格としての差はもちろんある。だが、レースの内容も大きく違うのだ。弥生賞と比べた場合、皐月賞のタイムは圧倒的に速い。2秒から3秒もの差がつくことが珍しくないのだ。

 

 トゥインクルシリーズでは一般的に1バ身差は2.4メートルと換算される。レースの距離や内容によって変動するが、1バ身のタイム差は遅いレースであっても0.2秒ほどである。これをもとに単純計算をおこなうと1秒差で12m。だいたい5バ身差がつく。

 私は弥生賞で2着のライジングエンペラーに5バ身差をつけて勝利した。生憎の不良馬場ではあったがあの差がおおよそ1秒差なのだ。それよりも速いペースで走らなければいけない。

 

 皐月賞の私と弥生賞の私がいると考えよう。

 弥生賞の私より皐月賞の私が2秒速く走るのであれば、皐月賞の私は弥生賞の私に対して24m差≒10バ身差をつけて走らなければならない。余談ではあるが10バ身差は掲示板で『大差』と表示される。

 

 過去の自分から2秒速くなる。その速度の差は最終直線で生まれたりはしない。レースの駆け引きと自分の能力によって生み出される。

 私はクラーモントが行う幻惑的なペースに打ち勝つことができた。ハイペースで流れるであろう皐月賞でも、惑わされることなく自分のレースを走れるだろう。

 私は不良馬場となった弥生賞でもなんとか走り切り、勝利することができた。道悪でも勝てるということは私の自信になった。

 

「トレーナー君、私に足りないものはなんだろうか。」

 これまで私は負けていない。だからこそ難しい質問だろう。だが、思いの外すぐに返答は返ってきた。

「道徳心…ですかね。」

 このトレーナー、言うようになった。

 

「そういうのではなくてだね、勝利に必要そうな要素だよ。この際精神的なフワッとしたものでもいい。愛とか夢とか勇気とか」

 

 しばらく考える。ひと月後には皐月賞が待っている。その間に探すようでは遅すぎる。

 

 トレーナーがゆっくりと口を開く。

「圧倒的な速さ…誰もまだ走ったことがないような、絶対の速さ…とか……」

 そこから出てきたものは奇しくも私が追い求めていたものだった。

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