一生懸命走る。わたしはそれが得意だった。でも、一緒に走ってるみんなも同じはずだ。みんな勝ちたいから、みんな速くなりたいから、だから一生懸命走ってるんだ。たとえ今走ってるような模擬レースだって、みんな手は抜かない。だからわたしはこうして前に出られない。
結果は5着。最下位だった。それでもみんなはわたしをバカにしたり、いじめたりはしない。どうすれば速くなれるのか、どういうトレーニングをすればいいのか一緒に考えてくれる。優しく親切にしてくれるのはとても嬉しいのだけれどすごく申し訳ない気持ちになる。
「おい、ウララ。」
わたしの名前を呼ぶ声がした。聴き慣れた声の持ち主はすぐそばに居る。
「なあに?シャカールちゃん?」
「良い走りだったぞ。」
シャカールちゃんは私の先輩でいつも親切に走り方を教えてくれる。すごく速いウマ娘のひとりで、ダービーはほんの少しの差で2着になってしまったけれど皐月賞と菊花賞を勝っている。エアシャカール先輩って呼ばなきゃいけないのかもしれないけど、シャカールちゃんが「シャカールでいい」と言ったのでシャカールちゃんと呼んでいる。
「今週末、またレースに出るんだろ、トレーナーはなんて言ったんだ。」
「あのね、きゅうりいんさんは疲れるかもしれないからおやすみにしようって行ったの。だけどウララは__」
「じゃあなんで休んでないんだ!」
「ひっ……」
シャカールちゃんは見た目はちょっとこわいけど、これまでこんな風に怒鳴ることは一度も無かった。
「悪い……言い過ぎた……」
シャカールちゃんは何も悪くない。悪いのはトレーナーさんの言いつけを守らなかったわたしなのに、シャカールちゃんは謝った。
「なんで走っていたんだ」
今度は優しく落ち着いた声で訊いてきた。
「あのね、みんなウララに走りかたを教えてくれるの。みんなすっごく速いし、すっごく頭もよくて、どんどん速くなれる気がするんだけど…」
どこも痛くなんかないのに、なぜか涙がでてしまう。
「あのね、思っちゃうんだ……ウララは1回も勝てないんじゃないかって……ウララは、トレセン学園に……居ちゃいけないんじゃないか……って……」
本当ならば、トレセン学園はわたしみたいなウマ娘が居ていい場所なんかじゃないことは薄々わかっている。みんな速くて追いつくことさえできない。わたしのかけっこのずっと先でみんなはレースをしている。
「ウララね…もっと速くなりたいの、もっと速くなって、レースに勝って、みんなにありがとうって、言いたいの……」
「そうか…」
わたしが泣き止むまでシャカールちゃんはそばにいてくれた。
「なあ、ウララ。」
泣き止んで呼吸が落ち着くと呼びかけてきた。
「会わせたいヤツが居るんだ。」
そう言うとシャカールちゃんは私の手を引いた。
もうちっとだけ続くんじゃ