自分の身の振り方を考えているうちに夜は更けていた
彼女が飲まなかったコーヒーを飲み干したが
やはり好きにはなれなかった
彼女がそこに立っていた。
私を見つめるふたつの小さな月が、少しだけ左右に揺れた。きっと私は相当にひどい顔をしていたんだろう。ごまかそうとしても、彼女はそういうことが分かってしまう。だから彼女はこうして黙っている。それが彼女の優しさの形なのだ。
「…まだ服を着ていないのですか。」
「研究がちょうど佳境でねぇ、汗ばんでしまったから着るのが億劫だったんだよ。」
体についた水滴は汗などではない。おそらく彼女もそれは理解しているのだろう。
「なぁ、着るのが面倒だから、君が着せてくれないか?」
「……」
彼女の手が私の制服に伸びる。彼女は優しいのだ。
「冗談だよ、さすがに私にも恥じらいというものくらいあるさ。」
「…あなたのそういうところ、嫌いです。」
彼女が少しだけ笑ったような気がした。私は微笑み返すことができただろうか。
制服というものは合理性に欠く。所属をあらわすという意味では有用であるかもしれない。だがそれでは制服の形式や材質を他校と異なるものにする必要がある。洗濯をするには型くずれや色落ちなどさまざまな配慮が必要であるうえに、1着が非常に高価である。運動をするには適さないし、これを着用して就寝するなどもってのほかだ。生地も硬く重いものが多い。その日は特に重く不快であった。
校舎の外に出ると、昼間の賑わいが嘘のように鎮まり、学園は眠っていた。優しい月明かりが静かに照らしている。
夜だというのに、彼女は制服を着ていた。風が吹くと彼女の制服からはかすかに汗とコーヒーの香りがした。彼女の香りだ。
「走ってきたのかい?」
口を開いてすぐ無粋なことをした、と後悔した。10秒ほどの気が遠くなるような長い時間を経てから、はい。とだけ返事があった。
「なぁ、少しだけ歩かないか?」
空の月には雲がかかり、風が彼女の髪を揺らした。
「やはりすこしだけ汗ばんでしまってね、涼みたいんだが君もどうだろうか?」
彼女がこちらを見る。金色の目が月明かりを反射している。
「なに、君が私を探すハメになったのも、君が走るハメになったのも、元をたどれば全て私のせいだ、君はそちらの寮長に怒られたりなんかしないさ。もちろん私は寮長に怒られるだろうが、もう門限なんてとうの昔に過ぎているんだ。少しくらい遅れたって大丈夫だろう?」
どれだけの時間が経っただろうか、私にはわからない。私には返事を待つことと、寮へと一歩二歩、遅々とした歩みを進めることしかできない。
三歩目を踏み出そうというときに、はい。とだけ返事があった。
30分という瞬きをするような時間でしかないが、私は彼女と夜の学園を歩いた。
アグネスタキオンが1話からずっと服を着ていないのですが、下着姿なのか全裸なのかはご想像にお任せします。
私はどちらも好きです。
マンハッタンカフェの汗は絶対にいいにおいがします。
マンハッタンカフェはいつもコーヒーの香りを身にまとっていますが、カフェインジャンキーではありません。一気に飲むとお腹がいたくなるため、ゆっくり飲むせいで常にコーヒーを飲んでいるように見えるだけです。