これは、僕のある日の日常である。
「おい、鈴屋!卓球やめて将棋しようぜ!」
「は?」
僕の名前は
今、後輩と部活動の真っ最中である。
そして、そんな僕に頭おかしい事言ってきた
けど、一方で授業は毎回のように爆睡、体育では我が校初の寝ながら長距離走を完走、クラブ活動ですらもまともにやらない超問題児でもある。
そして、今日も今日とで、奴は平常運転。
クラブ始まって五分でこれである。
本当にどういう神経をしているのだろう。
「やらないぞ僕は。やりたいならお前一人でやれ」
「えー!一人で将棋とかつまんないだろ!」
いや、一人でやれよ。人をお前の暇潰しに巻き込むな。
「そもそも昨日遊んだばかりだろ。そんな二日も三日もお前に付き合わされたくない」
「あー、昨日のお前との命を賭けたデュエルのことか!あれ、超面白かったよな!」
デュエルとは大袈裟な………ただの囲碁だろ。
それもお互いルールを知らなくてやった囲碁。そんなものがまともに成り立つ訳がなく………結果カオスと化した。
例えば、チェスの駒であるピジョップを城に見立てて置いたり、将棋の駒である飛車を立たせて置いてブロックする等々………他所のゲームの駒を使って遊ぶゲームが古今東西何処にあるのか。
「そもそも、将棋盤とか駒とか持ってきてないだろ」
「いや、それならあるけど」
「え?」
俺が声を発すると同時に何かが置かれた音がした。
まさか、と思って見ると、そこには木製のいかにも値が張りそうな将棋盤とその上で整然と隊列を組んだ駒達がいた。
驚きのあまり、一瞬、呆然としてしまい、後輩のサーブに対応することができなかった。
僕は後輩に詫びを入れながら訊く。
「何処から持ってきたんだ、そんなもの?」
「あー、昨日うちの隣の隣の山田さんが貸してくれた!」
まじか、山田さん。なんで、こんな奴のために貸してしまったんだ。
いや………待て。それよりもだ。
「何処から持ってきたんだ、これ?明らかにさっきまでなかったし、収納できるところもなかったはず………」
「おいおい、鈴屋。そういう事を聞くのは野暮ってもんだぜ?」
答えにもなっていない解答をして、ドヤ顔で喋る白金。なにも理解できないが、訊いたところで適当にはぐらかされて終わる気がするため深くは追及しないことにしよう。
とりあえず、練習をしよう。こんな奴にかまってられない。
「………とにかく僕はやらない。やるなら一人寂しくやってろ」
「えー、一人でやるなんてやだやだー!」
白金は高校生二年生とは思えないくらい激しく喚いて駄々をこねる。
ガキか、お前は!
「あのー………行かないであげていいんですか」
練習相手の後輩が気まずそうに俺に尋ねる。どうやら白金の駄々をまともに受け止めているらしく、顔には心配の色が浮かんでいる。
どうやら白金のことを気遣ってくれているらしい。
「大丈夫だ。それより練習の続きだ続き」
「いや、でも白金先輩が………」
「あいつのことは気にするな。どうせルールも知らないゲームを持ってきて暇を潰したいだけだから」
「はぁ!?ルールくらい知ってるわい!駒を動かして王将を取るゲームだろ!」
そんなの誰でも知ってるわ、このあんぽんたん。
よく、そんなんで将棋やろうとか言い出したな。
………というか、暇つぶしであることは認めるんだな。
「どうせ、お前の事だ。何も考えずに勢いだけで言ったんだろう?」
「ギクリ………そ、そんな事ねぇし」
「図星じゃねぇか」
ギクリって言っちゃってるんだから。
まぁ、そうじゃないにしてもやる気なんてさらさらないが。
…
……
「………」
「あのー………先輩。白金先輩がすごい睨んでらっしゃるんですけど」
「気にするな、ただ睨んでるだけだ」
あれから三十分。
俺は後輩達と練習メニューを淡々とこなし続けている。
白金は僕に誘いをを断られた上に無視され続けて機嫌を悪くして、ひたすら対局していた。対局といっても一人でやっているだけであるが。
「………」
「先輩、白金先輩がすごい泣きそうな顔をしていますよ」
ちらりと見ると、たしかに白金の目は潤んでいた。
だが、あいつのことだ。どうせ、目薬とか常備している可能性もある。
「………」
「あのー、先輩。僕あそこの二人に入れてもらおうと思うので、はい」
「ちょっ、おい!」
後輩は僕を置いて一人で向こうのグループへと行った。
僕は一人卓球台にぽつねんと一人置かれた。別に卓球の練習は壁に玉打ちするだけでも練習にはなるが自分一人それをするのはどこか抵抗がある。
かと言って、相手がいない奴は………
「………」
いたわ。
無言でさっきから一人で将棋をしている奴が。
「なぁ、「俺はやらねぇぞ」………だろうな」
白金はぷいと顔を逸らして拒否反応をする。
一度でもこうなると、相手が根をあげるまであのままだ。
はぁ………しょうがない。
俺は白金の対面へと腰掛ける。
意図に気付いた白金はにっと笑う。
「………一局だけだぞ」
「わかったわかった。じゃ、やろうぜ」
「なにをやるんだ?二人とも」
明らかに高校生ではない野太い声が聞こえてきた。
おそるおそる振り返ると、そこにはいかつい顔をし、生徒からはその顔の怖さから恐れられる團 鬼緒先生(あだ名はオニオン)がいた。
先生はこちらを鋭い目で睨みつけ、
「なにをやろうとしているんだ?」
と俺たちに訊く。
俺は何も答えずにただ先生の言葉を待っていた。
だが、あいつは
「ちょっと思考トレーニングをしようとしただけです、先生!」
と、威勢よく答えた。
もちろん、そんな答えが通用するはずもなく、僕と白金はみっちりと叱られ、グラウンド六周走らされた。
僕はグラウンドを走りながら夕焼けに向かってもう二度と白金の口車に乗らないことを心に誓った。
登場人物紹介
鈴屋 環(すずや たまき)
高校二年生。卓球部では補欠。
白金とは小学校からの付き合い。
特技はミステリー小説の犯人を当てること
白金 敦(しろがね あつし)
高校二年生。卓球部ではレギュラーメンバーで一番。
鈴屋のことは親友と思っている。
最近とある漫画にあったバスケをしながらけん玉(通称バスけん)の技を練習及び発明をしている。
後輩(こうはい)
高校一年生。
人見知り。
本作で鈴屋のことを「先輩」と呼んでいたのは名前を覚えていなかったためだったりする。
團 鬼緒(だん おにお)
卓球部の顧問。
モヒカンにサングラス、体育のジャージと中々な見た目をしている。
担当の教科は家庭科。
得意料理はマカロン。