世界樹の迷宮X X モンスターハンター   作:りす吉

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エピローグ

 

 

 ハンターたちとの別れから数日後。

 

 アイルーの勤めていたオープンカフェにて、パフェを食べるリーパーたちの姿があった。

 

「ふぇぇん、アイルーちゃぁぁ~~ん!」

 

「もうっ。リーダーったら、いい加減に泣き止めなのだわ」

 

「寂しいのはわかりますけど、ハッピーエンドでよかったじゃないですか」

 

 ヒーローは、泣いていた。これ以上ないくらい、泣いていた。

 

 アイルーたちと別れてからというもの、ずっと泣いている。

 

 涙は枯れ果てることなく、鼻水も垂れ流し続けており、寝食も忘れて四六時中泣き喚いている。彼女を慰める為にリーパーとゾディアックはこのカフェに連れ出したのだが、いくらスプーンで口の中にクリームやフルーツを押し込んでも当人が泣き続けているので咀嚼されることなく唾液とともにボトボトと机の上にこぼれ落ちている。汚ねぇ。

 

「それに、ちゃんとお別れできてよかったじゃないですか。私たちは気絶してたからさよならも言えなかったんですよ」

 

「そうなのだわ。野営地で目覚めたら『もう全部終わりました』じゃ、損な役回りなのだわ。私だって猫吉に挨拶したかったのだわ」

 

「わかってるけど……」

 

「ピピ~」

 

 ヒーローが涙を拭いていると、彼女の頭にのっていた竜がむくりと顔を上げていた。

 

「あ、起きたのだわ」

 

「ヒーローさん、赤ちゃんがご飯をねだってますよ」

 

 ぐすぐすとべそをかく彼女に代わって、リーパーたちが口を開けた竜の口にパフェを与えていく。

 

「ピチュピチュ」

 

 と、小鳥のように鳴きながら竜は美味しそうに喉をならす。

 

 ヒーローの頭にしがみついているのは、リオレウスの赤ちゃんだ。体皮は赤いが、牙は生え揃ってはおらず、丸っこいフォルムで爛々とした目のせいもあって愛くるしい姿をしている。

 

「ピ~ピ~」

 

 満腹になったリオレウスはヒーローの頭から降りると、彼女の膝に座って丸っこい頭頂をお腹や胸に押し当ててくる。

 

「ほら、お子さんが遊んでほしいみたいなのだわ」

 

「この子をアイルーちゃんだと思えばいいじゃないですか」

 

「……ぐすっ。ぜんぜん似てない」

 

 とは言いつつも、ヒーローはどこからか取り出した猫じゃらしでリオレウスをあやしている。

 

 リオレウスは嬉しそうに短い前足を伸ばして猫じゃらしを捕まえようとしている。このリオレウスは、討伐されたリオレイアが産み落とした卵から孵ったのだ。ハンターたちの気球艇が去った後に生まれ、偶然近くにいたヒーローを母親と思い込んで懐いてしまっているのだ。

 

「それにしてもこのカフェ。お客さんが減っているのだわ」

 

 リーパーがテーブルを見回すと、閑古鳥とはいかないものの以前よりも客足はまばらになっている。

 

「店長さんもアイルーちゃんがいなくなったのが寂しくて、お店の活気もなくなったみたいですよ」

 

「なんだかんだ、猫吉ってみんなから好かれてたのだわね」

 

「でも、落ち込んでばかりもいられないから、今度猫風の肉球ケーキを作ってお客さんを取り返してみせるって意気込んでました」

 

「に、肉球ケーキ……。発想はともかく、店長は頑張るつもりなのだわね……」

 

「アイルーが頑張って帰れたのに、うじうじしていられないって言ってました」

 

「…………そうですよね。私も、落ち込んでばかりいたらダメですよね」

 

 ヒーローが立ち直りかける。だが、彼女が情緒不安定なのはアイルーとの別れだけが原因ではなかった。

 

「で、このタイミングで言いにくんだけど、リオレウスの事は決めたのだわ?」

 

「うん。私が育てる」

 

「あ、あの、ヒーローさん。ここはレンジャーさんの言う通りに、リオレウスは大人になったらハンターさんたちの大陸に放すべきじゃないでしょうか?」

 

「やだやだやだぁ~~! ピーちゃんは私が育てるんだもん! 私がお母さんだもん!」

 

 リオレウスを抱きしめるなりヒーローはまたも大音量で泣き始めた。

 

 彼女が泣き続ける二つ目の原因がこれである。

 

 懐かれたので仕方なくギルドハウスへ連れ帰ったヒーローたちであったが、今後の処理についてレンジャーと揉めていたのだ。最初はヒーローも――アイルーに会う口実でもあるが――リオレウスが成長したらハンターたちの大陸に連れていくつもりだった。

 

 しかし常に自分から離れず、泣いている自分を心細げに見上げる竜の赤ちゃんと暮らしているうちに母性が芽生えてしまい、手放せなくなっていたのだ。

 

「それに、ハンターさんの大陸に連れ帰ったら狩られちゃうかもしれないもん!」

 

「こっちの大陸にいたって野良竜と間違えられて倒されるのだわ?」

 

「野良じゃないもん! ちゃんと首輪つけるもん!」

 

「竜の首輪なんて聞いたことないのだわ!」

 

「キュワ~」

 

 当のリオレウスはというと、会話の意味などわからず大あくびをしている。遊びつかれて眠くなったのか、リオレウスはヒーローの膝上で丸まり鼻提灯を出しながら寝息を立て始めた。

 

「たしかにリオレイアたちから被害は受けたよ! でもこんな小さな子を放り出すなんてできないよ~!」

 

「今は可愛くても、成長したら初見殺し間違いなしのFOEになりますよ? それでもギルドハウスに置くつもりですか?」

 

 ゾディアックの指摘にヒーローは押し黙ったままリオレウスを抱きしめる。そこへ、断りもなく彼女たちの円卓席に腰かける者たちがいた。レンジャーとミスティックである。

 

「ただいま。ああ、疲れた。なんで王族の話ってあんなに長いんだよ」

 

「こらこら。誰かに聞かれるとこの国から追い出されるぞ」

 

 彼らはリオレイアたちの討伐、そしてハンターの救出を達成したことでギルドの代表としてペルセフォネ王女から褒美を与えられていたのだ。なぜ王女がこの件を知っていたかというと、ハンターたちが垂水ノ樹海を気球艇で通過する際、無線でマギニアと連絡を取り合っていたのが原因である。

 

 気球艇や飛行機が他国の領空に近づく場合、事前に所属国名と接近目的を告知する義務がある。これを怠ると相手国に領空侵犯の嫌疑をかけられて撃墜されても文句はいえなくなるからだ。

 

 そして、帰り際にハンター側が無線で告げたヒーローへの賛辞が偶然ペルセフォネ王女の耳に入り、褒美を貰えることになったというわけだ。本来ならヒーローが代表すべきところだが、このとおり情緒不安定なので彼らが赴いたのである。

 

「ご褒美ってなんでした?」

 

「現金だよ。ロマンがないぜ」

 

「あって困るものじゃない。素直に喜ぼう」

 

「あっ! そうなのだわ! これで皆で美味しいものを食べに行こうなのだわ!」

 

「美味しい食事か……」

 

「悪くないな」

 

「私もリー子さんに賛成っ!」

 

 声を弾ませる四人とは対称的に、ヒーローはどんよりと落ち込んでいる。

 

「リーダー。悪いが、ペルセフォネ王女にリオレウスの件を報告させてもらった」

 

「ピーちゃんのことを? 酷い! なにがなんでも私からピーちゃんを奪うつもりですか!」

 

「話は最後まで聞きなさい。ペルセフォネ王女は許してくれたよ。君がしっかり管理さえすれば、飛竜を飼ってもいいと」

 

「えっ、本当ですか!」

 

「ただし、我々に飛竜を飼う資格がないと判断されれば野生に返すとのことだ」

 

 条件付きではあったものの、そんなことは王女からの認可に比べれば些細なことだ。

 

「よ、よかったですね、リーダー!」

 

「うん! やったね! ピーちゃん! これからもお母さんと一緒だよ!」 

 

「ピ~?」

 

 リオレウスを抱きしめるヒーローであったが、リーパーたちは不安を拭いきられなかった。

 

「……本当に、大丈夫なのだわ?」

 

「僕も心配だ。よりによってコイツが母親なんて……」

 

「アーロモードには魔物と心を通わせる冒険者もいるらしい。それが本当なら、リオレウスとの共闘も可能かもしれんというのが王女の見解だ」

 

「ピーちゃん! ピーちゃん! ピっピっピっピっピ~~~~ちゃん!」

 

 ヒーローが椅子の上で立ち上がり、リオレウスを高い高いしてあやす。当初は不安を抱いていた面々であったが、意外なことにヒーローはリオレウスをまっとうな(?)竜として育て上げるのだった。周囲の反対とは裏腹に、マギニアにて飛竜に跨がる英雄談が語り継がれるようになるのはそれから数年後のことであった。

 

 

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