自分でもこれがなんのジャンルなのかよく分かってないが、たぶんラブコメ?
それは何時のことだったか。まだ、小学生にもなってない時分、その夢を抱いた。
レース場を颯爽と駆けるウマ娘たち。真剣に、全力で、誰よりも速くあろうとするその姿に目を奪われた。自分も同じようにと思い外を全力で駆けてみれば、流れる景色と心地よい疲労に心が躍った。何時か自分も彼女たちのように、そう考えて、そのために全力で走り始めた。
この夢と想いは、誰にもバカになんてさせない。……けれど、もしも己に罪があるとするならば。人間の男性である自分が、そんな夢想を抱いてしまったことだろう。
現実を知ったのは、小学校に入って一年も経たないころだった。クラスのかけっこでも自分より足の速い子はいなかった。別に天狗になってた訳じゃない。けれど、クラスで一番足が速かったから運動会のリレー代表に選ばれた。そして、一つ上の学年のウマ娘の子と競争して、どうしようもない違いというものを思い知った。
「はぁ……はぁ……」
なんでだ。体格に大した違いなんてない。手足だって、ずっと俺より細いじゃないか。心肺機能だって、あの体格で優れているわけがない。
そんな、いくつもの不条理が頭のなかを巡る。小学校は、自分に言い訳をしながら過ごした。女性のほうが男性より成長期が早いから。自分の肉体が成長しきれば、それまでに努力をして技術と経験を積めば……そんな、種族という壁の前ではなんの足しにもならないことに必死になって、認めたくない事実から目を逸らしていた。
そして、中学校を卒業して高校生になり、肉体の全盛を迎え始めて……彼女たちとの差はもはや背も見えないほどに広がっていた。勝ち負け以前に、同じ舞台に立つ資格すら自分にはないのだと、絶望という名の毒が、心をどうしようもなく蝕んでくる。
「くそっ……。嫌だ、絶対に認めない。負けたくない。俺だって、あの景色を見たいんだ。誰よりも速くゴールしたいんだ」
体は、これ以上は無理だと付いてこない。心は軋んで悲鳴を上げている。それでも、抱いた夢を捨てられない。ここまで走ってきた想いを、なかったことにしたくない。
「絶対、絶対に諦めない」
例えそれが、地獄への道行きだとしても。
「ゼェ……ハァ……、も、もう一本だスズカ」
今のは惜しかった。あとちょっとやれば勝てそうな気がする。
「今日はここまでにしましょうトレーナーさん。全然惜しくないですから。人間がウマ娘の走る中距離を全力疾走するのは無理があります」
「フゥ……フゥ……。なに言ってんだ俺は勝つぞお前! そのために体を鍛えてるんだ。この前だってゴールドシップに勝ったからな!」
「ゴールドシップさんに? ああ、ドロップキックかましてきたゴールドシップさんの脚を掴んでジャイアントスイングしてたやつですね。でもあれ、途中で力尽きて投げられなかったんじゃ?」
あいつ体がデカくて重いからなぁ。
「いいんだ。遠心力がなくなったあと、頭から地面に落ちて悶絶してたから。これは勝ちなんだ」
「そのあと組伏せられて泣かされてましたよね。控えめに言っても引き分けでは?」
……違うから、一勝一敗だから。俺があいつに勝った事実は消えないから。
「スズカって、先頭を走ることさえできれば後はどうでもいいくせに、意外と細かくて口煩いよね」
「ど、どうでもよくはありません! それにこの性質はウマ娘ならみんなそうです!」
いや、スペとオグリは食欲に屈したし、マックイーンも甘味置けば止まったぞ。スカーレットは……ダメかもしれんね。
「それと先頭云々も今は少し違います。そういう意味でも、トレーナーさんには感謝してます。誰にも前を走らせたくなかった私に、別の楽しみ方を教えてくれたんですから」
え、嘘だろ。ゲートが開いてからゴールするまで、一瞬たりとも先頭を譲りたくないスズカに別の楽しみ方?そんなことあったか?
「ゼェゼェ言いながら必死に走ってるトレーナーさんを周回遅れにして悠々と追い抜くの、クセになってしまったみたいで。あれが差しウマの快感なんでしょうか」
こ、このアマ……!私、無害ですみたいな顔しておいて、とんだサディストじゃねーか。
「ち、調子に乗ってられるのも今日までだからな! お前に勝つための策を用意してきたんだ! 人間にレースで負けたって泣きべそかかせてやる!」
「へぇ、構いませんよ。受けて立ちます。手は抜いてあげませんけど」
おい待て、そんな目でこっちを見るな。お前はそんな流し目で大人な雰囲気を出すウマ娘じゃないだろ。神秘性のある高嶺の花を装った天然ちゃんだったはずだ。
「で、何のレースにしますか? 人間らしく百メートル走でもいいですよ」
はっ!自分が負けないと思ってるやつは隙だらけだな。己の迂闊さを呪え!
「距離は六千キロメートル! 途中九つのチェックポイントを通過し、先にゴールした方の勝ちだ! あと、妨害行為は反則だからな」
「スティール・ボール・ラン!? ウマ娘とか人間の問題じゃなくないですか?」
あ、スズカ知ってるんだ。漫画とか読まなさそうだけど、一応レース漫画だし誰かに勧められたのかな。
「もう手段は選んでいられないんだ。走って先にゴールした方が勝ち。これさえ守れば全てはレースなんだ」
結局、諦めきれないまま此処まで来て、勝つ可能性を探るため必死でウマ娘を研究していたら、トレーナーになってしまっていた。でも、こんな手段しか取れないんじゃ、いい加減に現実を受け入れるべきなのかもしれない。
「ふふ、そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよトレーナーさん。トレーナーさんは、既にレースでウマ娘に勝てているんですから」
「……え? どういう意味だそれ」
「私はトレーナーさんのウマ娘です。そして、トレーナーさんは何時も私を見守っていくれている。レースの時だって、体の物理的な距離は離れていても、心は一番傍に居てくれます。そして、私はレースで一着になる。なら、私の一番近くに居てくれているトレーナーさんは二着ですよね? 私、誰にも先頭を譲るつもりはありませんから、トレーナーさんもずっと二着で他のウマ娘に勝ち続けます」
えぇ……。それは俺がウマ娘にレースで勝ったと言っていいのか?精神的勝利ってやつ?……いや、まてよ。
「俺の心がレース中もスズカを見守ってるのはその通りだけど、それ後ろに居るとは限らないよね? 俺が前に居たら、実質一着でスズカに勝ってるじゃねーか! やったぜ!」
むしろ、常にスズカを前から見守っていることにすれば、俺はスズカに対して常勝不敗では?はは、強すぎて困っちゃうね。
「も、もう! 私、いいこと言ったのに、そうやってすぐに茶化すんですから! これからも絶対にトレーナーさんにレースで負けてなんてあげませんから!」
に、人間の可能性は無限大だから。いつか必ず追い縋って追い抜いてみせるから。
「……そうですね。可能性はゼロじゃありません。その夢が叶わないなんて、三女神様にだって断言させません。だから、諦めちゃダメですよ? 私に勝てる日が来るまで、ずっと私を追い掛けてきてください」
「あったりまえだろ!俺、諦めの悪さでも負ける気ないから。勝つまで一生追っかけてやるぜ!」
「うふふ。……ええ、是非そうしてください。一生、絶対に、追い付かせてあげませんから」
私のうまぴょい・温泉童貞を捧げたのは委員長ではなくスズカです(迫真)
好きなウマ娘はサイレンススズカ、マルゼンスキー、サクラバクシンオー。
早く育成させてほしいウマ娘はエイシンフラッシュとマンハッタンカフェ。
私は女の子を肉体的にも精神的にも虐めたいドSな人間のはずなのに、その昂りを文字に起こすとなぜか男性オリ主が虐められてるんだ。おかしい、何かが変だ。間違っている……。