ウマれた意味を探すRPG   作:ゆーり

12 / 25
軽やかステップ、イナズマステップ、巧みなステップ、ライトニングステップ全部乗せで好ポジション(マウント)取られたトレーナーの図。


究極テイオーステップ

「なにかがおかしい……」

 

 なぜだ、いい加減に諦めてもいいはずなのに全くそんな素振りがない。むしろ、謎の余裕に満ちている気がするのはどういうことなんだ?

 

「まさか、いやでもそんなはずは」

 

 考え得るなかでも最悪の想像をしてしまい、胃に酸っぱいものが込み上げてくる。もしそうだとしたら、俺は破滅だ。

 

「トレーナー、なにかあったの? すごく具合が悪そうだけど。辛いならボクの部屋で少し休んでいく?」

 

 トレーナーがウマ娘の部屋で休んだら警察沙汰だろう。そもそも、具合が悪くなった原因はお前にあるんだが。

 

「これで断るの何回目だよ。もう芽はないって理解できただろ。俺はお前の専属にはならないよ、テイオー」

 

 そう、俺の吐き気の原因は、目の前でなんとも人好きのする笑顔をしているトウカイテイオーにある。どれだけ断っても、俺を専属にするんだと逆スカウトを諦めてくれないのだ。

 

「トレーナーこそ、いい加減に理解してほしいなぁ。ボクが諦めることは"絶対"にないって」

 

 なんでこんなに強気なの。諦めようが諦めまいが、俺がNOと言ってるんだからそれまでじゃないの?

 

「だったらこの話は永遠に平行線だろう。俺に決定権がある以上、絶対に諦めなかったとしても結果は変わらないぞ」

 

 そう、そのはずなのだ。だが、ずっと嫌な予感が消えない。具体的にはコイツが菊花賞に勝った辺りから。

 

「それはどうかなぁ。なんだかんだと言ってウマ娘の世界は実力主義。相応の結果を出せば、ある程度の我儘は許されるんだよ?」

 

 コイツ、オペラオーの妄言みたいにGⅠを総ナメして帝政でも敷くつもりなんだろうか。

 

「だとしても、お前の我儘を通さない程度にはうちの連中も結果を出すさ。スズカに勝つ気でいるみたいだが、足元を疎かにしていると他のやつに転ばされるぞ」

 

 あの反省会バイキングの翌日、マックイーンは手酷い敗北を喫した己への戒めとテイオーに勝利するための願掛けとして、断スイーツ宣言をした。それ以降のアイツは鬼気迫るものがある。スイーツを摂取できていない反動なのか、頬は痩せこけ、目には隈が浮かび、常になにごとかをブツブツと呟いている。完全に危険人物だ。……まだ宣言から十日も経っていないのだが、こんな調子で大丈夫なのだろうか。

 

「あ、その話スカーレットから自慢気に聞かされたよ! もう、なんでボクも連れて行ってくれないのさ! 自分のチームのウマ娘に囲まれて、うはうはハーレム気分だったんでしょ!」

 

 女性しかいないんだから、男性トレーナーだと必然的に傍目からはそうなるだろ。俺にはそんなつもり欠片もないけど。

 

「ふんだ。マックイーンがどれだけ本気だったとしても関係ないよ。それはこっちだって同じなんだから。ボクを除け者にした罰として、今度の天皇賞(春)でマックイーンに勝てたら、一日デートしてもらうからね!」

 

 なにをマヤノみたいなこと言ってるんだ。俺とはそんなイベント起きないから。行きたいのなら、お小遣いをあげるから友達と楽しんできなさい。……いや、待てよ。

 

「分かったよテイオー。何でもかんでもダメとしか言わないのは良くないよな。お前が春天を獲れたら、一日デートしよう」

 

 よく考えたらテイオーとのデートなんて安いものだ。マックイーンが勝ったら俺は目をつむった状態でなにかも分からない判を押させられるかもしれないのだ。連帯保証人の承諾書とかだったら目も当てられない。

 

「ホ、ホントに!?」

 

 ああ、男に二言はないさ。

 

「ど、どうしよう。勝ったら二十四時間独占できるってことだよね。それだけあれば、一気に勝負を決められちゃうよね」

 

 二十四時間はダメだろ。俺が監督責任で怒られるわ。

 

「ちっ、まぁその時になればどうとでも出来るからいいや」

 

 ……もしかして、目先の危険を回避するために泥沼に足突っ込んじまったかな、これ。 

 

「はぁ……。専属の件もそうだが、なんで俺に拘る。いまのお前に教えられることなんてないし、担当トレーナーに不満があるわけじゃないんだろ。こんな大っぴらに担当変えに動くのは不義理なんじゃないか」

 

 いまテイオーを担当しているトレーナーは決して天才ではなく、無敵のテイオーに更なる進化を促せる程の引き出しは持っていないだろう。それでも、テイオーの功績に気後れすることなく傍で支えようとしている出来た人だ。

 

「うん、あの人に不満なんてないよ。怪我をして不貞腐れてたボクのことも決して見捨てようとはしなかったし、信頼してる。けど、不義理云々は問題ないかな。専属として逆スカウトしたいって話は一番最初に伝えたけど『全然OK』ってGOサイン出してくれたよ」

 

 えぇ……、GⅠを何勝するつもりなんだって稀代のウマ娘をそんな簡単に手放そうとするなんて正気か。もしかしたら俺が思っている以上に器のデカイ人なのかも。

 

「それに、教えられることが何もないなんてことはあり得ないよ。ボクが復活して菊花賞を獲れたのは、あの日、トレーナーから教えてもらったことが原動力になったんだよ。だから、ボクにもっと色々なことを教えてほしいな」

 

 あの日ねぇ。……なんかすごく恥ずかしいことをベラベラ話した気がするから記憶から抹消したんだよな。

 

「へぇ~、抹消したんだ。じゃあ、いまからここで一言一句違わず言うから、思い出してね?」

 

 あの、勘弁してくれませんかテイオーさん。

 

「本当に魔が差したんです。あんな偉そうに上から目線の説教をするつもりはなかったんです……」

 

 よく考えなくても担当外の二冠ウマ娘になに言ってんだという話だ。変にやる気にさせて怪我の悪化に繋がったりすれば責任の取りようがない。

 

「むぅー、それってあの時のことを後悔してるってこと? もしそうなら、ボクにとっては結構ショックなことなんだけどなー」

 

「……言った言葉に嘘はない。ただ、勢いに任せて話すことじゃなかったとも思っている」

 

 放課後になってそれなりに時間も経ってたからさー、もう居るわけないって思ってたんですよ。

 

「念のため確認させてほしいかな。あの日のことに、一つも嘘はない。それでいいよね?」

 

 さっきの俺の発言となにが違うのか分からんが、その通りだ。

 

「ああ。お前の怪我を喜んでしまったクソ野郎ってことも本当のことだ」

 

 あ、やばいなんか今更すごい自己嫌悪してきたかも。中学生に嫉妬して怪我を喜ぶとか、人格面が人類の底辺を這っている気がする……。

 

「なるほどなるほど~。つまり悪いと思って反省しているわけだね?」

 

 はい、そうです。

 

「信賞必罰。この場合はボクという被害者がいるわけで、誠意を持った対応が必要だと思わない?」

 

 ……思います。

 

「ボクね、遊園地のナイトパレードを見て、敷地内のホテルに泊まって二日連続で遊びつくすっていうの、ずっとやってみたかったんだよね~」

 

「そ、それは流石に、世間様が許さないというか、あらぬ誤解を招きかねず……」

 

 コイツ、もしかして俺のトレーナー生命を殺りにきてるのか!?

 

「泊まる部屋は別だし、ちゃんと担当トレーナーや両親の許可は取るよ? 事情を隠したりもしない。ただ保護者として付いてきてもらうだけだよ。ほら、うちのチームってボクはともかく他の子は今が大切な時期だからさ、あの人にチームを空けさせるのも気が引けるんだよ」

 

 ぐぬぬぬ……いや、でも……。

 

「もちろん、マックイーンに天皇賞(春)で勝てたらでいいよ」

 

 ……ハイ、ワカリマシタ。

 

「やったぁ~! 負けるつもりは元々なかったけど、これは当日隕石が降ってきても止まれないよ。よ~し、ボクもレースまでは全力トレーニングだ! それじゃあトレーナー、約束は"絶対"に守ってよね! 楽しみにしてるから~」

 

 …………ああ、お互い頑張ろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Prrrrr…………

 

「なんですのトレーナー。私、いま気が立っておりますの。くだらない用事なら承知しませ……」

 

「マックイーン、今日からお前の生活は全て俺が管理するから。春天、死ぬ気で勝て。もしも負けるようなことがあれば、二度とスイーツを口に入れられると思うなよ」

 

「は!? え、いきなりなんですの! ちょっ」

 

 ツーツーツー……

 

 条件、天皇賞(春)じゃなくて宝塚にしとけばよかったかも……。




テイオーステップはテイオーが大人の階段をホップステップジャンプすることだって聞いたゾ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。