「はぁ~い、トレーナー君。元気してる?」
全然元気じゃないんだなぁ、これが。
「あらあら、なにか困りごとでもあったのかしら。チームの戦績は順調だったわよねぇ」
まぁ、スカーレットもマックイーンもGⅡでテイオーに負けたとはいえ、他には大差をつけての二着だからな。不調と呼ぶにはほど遠いのかも。
「悩みがあるならお姉さんに相談してみたらどうかしら。お世話になってるから力になるわよ」
はて、マルゼンスキーをお世話したことなんてあっただろうか。
「ナウなヤングにバカウケなお店やスイーツを教えてくれたじゃない。後輩の子たちにも教えたんだけど、とっても評判がよかったわよ~」
あー、あれね。俺が子供のときに流行ってたやつ、パンナコッタとベルギーワッフルだっけ。昔懐かしだよなー。
「むかし……なつかし……? そういえばみんな『お母さんたちが昔よく食べたって言ってました』って、あれ?」
おっと、俺の気のせいだったよ。ベルギーワッフルの専門店とかあるし、きっとその後輩たちは田舎から出てきたんだろう。お母さんはあれだよ、ちょっと強がって昔って言っちゃったんだよ。
「そ、そうよね。少し焦っちゃったわ。でも大丈夫。これからも流行の最先端を走るスーパーカーとして、情報を発信していくわ!」
少しくらい隙があったほうが可愛げがあっていいんじゃないかなって俺も思うよ。
「やだ可愛いだなんて、お世辞が上手ね。それで、元気がなかったのはどうしてなのかしら」
……マルゼンスキーなら信用できるし、話しても大丈夫かもな。
「これは俺の友人の話なんだけどな。どうやら自分の担当ではないウマ娘から泊りがけの旅行に誘われたらしい。ちょっと断りづらい状況にあるみたいで、どうしたらいいかと悩んでいるんだ。いや、本当に友人の話で俺は関係ないんだけどね?」
とりあえずこれで誤魔化しながら相談できるだろう。
「あらあらまぁまぁ、でも分かるわ。学生の時分は大人な関係に憧れるものよね~。私もそういうトレンディドラマみたいなシチュエーションを経験してみたいわねぇ」
あらあらまぁまぁって、おばちゃんの井戸端会議みたいな反応だな。
「なにか言ったかしら?」
あ、いえなんでもないです。
「でも、流石にそれはマズイわよね。テイオーちゃん、まだ中等部だし」
だよなー。間違いなんて起きるはずもないけど、周りに好き勝手言われるようなことになれば、アイツの経歴に傷が付きかねな……ん?
「……俺、テイオーなんて言ってないよね」
「そりゃ、言わなくても分かるわよ。『これ友人のことなんだけど』が自分の悩みじゃないことってあり得るのかしら」
なんでそこは鋭いんだよ!いつもの時代遅れブームBOTみたいにボケたところ発揮しろや!
「あ? 誰がボケたババアだって?」
言ってねぇよ!
「ふーん、トレーナー君は私のことをそんな風に思ってたんだ~。あーあー、私悲しいな。悲しすぎてうまスタに今の内容あげちゃいそう」
コイツ、普通に脅迫してきやがった……!俺の力になるんじゃなかったのかよ。
「ピチピチの女の子をババア扱いする男の子のことなんて知りませ~ん」
まぁ言動はともかく見た目はピチピチか?そういやマルゼンスキーって一体何歳なんだろうか。
「もう! 女の子の年齢と体重を聞くなんてデリカシーのない男の子はモテないわよ!」
年齢はともかく、体重は見ればなんとなく分かるけどな。トレセン学園のトレーナーには必修技能だろう。
「やだぁ、エッチ~」
うわぁ、その反応もなんか懐かしいなぁ。九十年代くらいか?
「九十年代!? 今よ今! 世間を席巻してる漫画とかで使われてる表現よ!」
……マイブームってことにしておけばいいか。で、なんでテイオーだって分かるんだよ。
「それはまぁ、見てればねぇ。担当外って言ってたし、言いそうな中で一番可能性の高い子の名前を挙げただけよ」
テイオーってガキだし、遊園地いきたいってしょっちゅう言ってそうだもんな。
「それにしてもいいわねぇ~、青春って感じで。私も誰かいい人を作ろうかしら」
マルゼンスキーなら、それこそ引く手あまたじゃないのか。外見だけなら男を侍らせてても違和感ないけど。
「実際は侍らせるどころか交際経験もないんだけどね。そうだトレーナー君、私とお試しで付き合ってみない?」
いや、俺そもそもウマ娘は対象外だし。
「…………え?」
そんな愕然とした顔されてもな。なんか変なこと言ったか?
「変というかその、それはなにかの冗談よね?」
冗談でもなんでもないぞ。そもそも男女交際に費やす暇なんてないが、仮にあったとしてもウマ娘は対象外だ。
「ち、ちなみになんでか聞いても構わないかしら。お姉さんちょーっと可愛がってる後輩たちの未来を憂いてる感じなんだけど」
俺の恋愛対象とマルゼンスキーの後輩になんの関係があるんだ。理由はあれだ、ウマ娘は俺にとっては打ち倒すべき敵だからな。
「あー、なるほどねー。そういえばトレーナー君、かなり拗らせてる感じだったわね」
うっせぇわ。お前だって倒してやるリストに入ってるからな。
「ま、まぁあれよね。激しい戦いの末に芽生える感情ってあるし、むしろそっちの方が燃えるわよね!」
ブライアンとヒシアマ姉さんみたいな関係のことか?俺がウマ娘に関して抱いている感情はもっと鬱屈としてヘドロみたいなのだけどな。
「それ、自分で言っちゃうんだ。その割には担当の子たちの面倒はしっかり見てるわよね」
俺は学園に所属するトレーナーだからな。給料分は働くさ。
「あれ? でも、マヤちゃんとかネイちゃんからも相談受けたりしてなかったかしら。あんまりレースに関係ないことで」
……まぁ、子供の悩みを聞くのは大人の役目だからな。親元に居ない以上、身近にいる連中が対応するしかない。俺の個人的な感情でアイツらの先を捻じ曲げるのは、勝利ではないからな。
「うん、私の考えていたよりも遥かに面倒な拗らせ方をしてることは分かったわ。でも、そうなると正攻法でいっても効果が薄そうね……」
どうしたんだ急に考え込んで。と言うか、俺の『友人』の悩みへのアドバイスがまだ貰えてないんだが。
「その設定は続けるのね……。そうね、悩まずにいくところまでいくべきだと思うわ!」
やっぱボケてんじゃねぇかこの女。
「次言ったらグーで殴るからね。もちろん顔よ?」
……はい、気を付けます。いや、待ってくれよ。それで良い訳がないだろ。
「杞憂!! どうせ相手の子の経歴がーとか考えてるんでしょうけど、大切なのは互いの気持ちよ! 向こうが望んでいるなら受け入れる度量が男の子には必要よ!」
なんで理事長のモノマネ?
「とにかく! 四の五の言わずに男の子ならレッツチャレンジよ。それとも、まさか相手がウマ娘だからって逃げるつもり?」
はぁ!?誰が逃げるか受けて立ってやらぁ!!
ピッ
「はい、言質取りました~」
……ウマ娘の間ではボイスレコーダーが必需品なの?
「そういうことだから。断れないなら諦めて一緒に行くしかないわね。心配しなくても、理事長とたづなさんに協力してもらえば外部への言い訳なんてどうにでもなるわよ。それじゃ、私はちょっと用事ができたから、これで失礼するわね」
……断るためのアドバイスが欲しかったのに、なんの役にも立たなかったな。ウマ娘の意見はアテにならんし、桐生院にでも相談してみるか。
ネタもとっくに切れてるのでいつ更新が止まるか分からないけど勘弁してほしい。