時系列はマックイーンがGⅡでテイオーに負ける前。
本作ではマックイーンはテイオーを敬称付けて呼んでるんだけど、アニメを見た結果呼び捨てにさせたくなった……。
表記乱れがあったら許してください。
GW中の暇潰しにしていただくの目標だったので、とりあえず明日以降の投稿は不定期です。
ちなみに私のGWはとっくに終わっています。
「それじゃあ、作戦会議をはじめよっか」
「私とテイオーでなんの作戦を会議するんですの」
いきなり麻袋を被せて拉致されたと思ったら、食堂に連れて来られていた。ゴールドシップかと思って危うくバットを振りそうになりましたわ。
「もちろんトレーナーを籠絡するための方法に決まってるじゃん!」
やっぱりその話ですのね。
「申し訳なくないですけれど、お断りさせていただきますわ。協定もありますし、彼のチームに所属している私には、わざわざリスクを負う必要性がありませんもの」
トレーナーを狙うウマ娘は多い。なにがそこまで私たちの琴線に触れているのかと言えば、彼の必死に走る姿なのだが、興奮のあまり先走るものが出ないように一定のルールを定めたのだ。
・ウマ娘の側から彼に勝負を挑むのは禁止。ただし挑まれた場合は全力でやってよし。
・勝負を挑まれた際にウマ娘の側から賭けや見返りを求めるのは禁止。
ただし彼から提言された場合は内容に見合う範疇で乗ってよし。
・彼のトレーニングに支障がでる干渉の仕方は禁止。
概ねこのようなルールだ。膂力で勝るウマ娘は簡単に間違いを犯すことができる。だからこそ、手に入れたいという欲求はあれど、無理矢理なことはしてはいけないのだ。
「それも分かってるけどさぁ、これタキオンさんとか相当有利だよね。トレーナーご用達じゃん」
たしかにその通りだろう。要は彼がムキになってしまうレースを絡めたウマ娘側からのアタックは禁止という話なのだが、彼の趣味に同調したり協力する分には制限もない。サプリメントの供給やダンスレッスンの手伝いで接触することはOKだし、カフェさんのように彼からお願いされたのなら、コーヒーを一緒に飲むのも有りなのだ。
「ぐぬぬ、私も紅茶党から鞍替えしようかしら」
「ブラックコーヒーの味はボクには分かんないんだよなぁ……」
まぁ、コーヒー自体はインスタントでも構わないらしいのだが、どうやらカフェさんの物静かなところが良いらしい。
「はぁ。物静かさなら、深窓の令嬢たるこの私がいますのに」
「ボク、今の自分は結構図太いと思ってるんだけど、マックイーンには勝てそうにないよ」
それ、どういう意味ですの。私よりお嬢様然としたウマ娘はそうおりませんわよ。
「マックイーンの自己評価はともかくさ、ダンスはウマ娘なら誰でも教えられるからボクが特別有利ってわけでもないし、ここいらで出し抜く策が必要だと思ってるんだよね」
「たとえそうだとしても、私たちがルールを破っていいことにはなりませんわ」
特に彼のチームに所属している私はその辺りをシビアに考えなければならない。隙を見せればチームを追われ、他のウマ娘に取って代わられかねないのだから。
「でもさぁ、正直チームの中で一番出遅れてるのってマックイーンだよ? このまま大人しく負けを認めるつもりなの?」
「はぁ!? 出遅れてなんていませんわ! いったいなにを根拠に言ってるんですの!」
誉れ高きメジロの一員にして、容姿端麗なこの私が出遅れているなんてあり得ませんわ!
「だってさぁ、スズカさんはトレーナーが一番最初に担当したウマ娘じゃん? 普段の接し方を見てると、やっぱりスズカさんに対してだけは違うんだよねぇ。はっきりなにが違うって言えないのがモヤモヤするんだけど。マヤちんに頼んで見てもらおうかなぁ」
たしかに。基本的にトレーナーさんがウマ娘を見る目にあるのは羨望と嫉妬だ。だが、スズカさんに対してだけは、明確に他のなにかが混ざっている。
「だとしても、それは恋愛云々ではないでしょう。そうであればとっくに決着は付いているはずです」
まぁ、スズカさんもあれで拗らせているところがあるから、なにも進展しなかった可能性もありますが。
「いやぁ、わかんないよ。トレーナーってウマ娘に対しては勝ち負けに拘るからね。ウマ娘に惚れるのは負けって判断してたら、頑なに認めないと思うよ?」
さすがにそこまで子供だとは……いえ、ウマ娘に可愛さでも勝つとか意味不明なことを言うお子様でしたわね。
「スズカさんはともかく、スカーレットさんと私の間になんの差があるというんですの。現状、実績の面でも私は負けていませんわ」
「スカーレットは胸に必殺兵器付けてるじゃん。トレーナーがデカいの好きだったらそれだけで勝負が決まっちゃう反則技だよ」
……あれは中一が持って来ていい武装じゃないですよね。あの質量を抱えて私たちと同等のスピードを出すなんておかしいですわ。脂肪じゃなくてスタミナ回復用のタンクなのでは?
「いまのところトレーナーが興味を示すそぶりは見たことないけど、大きいのが嫌いってこともなさそうだしさ。マックイーンとしてはかなり厳しい勝負になるんじゃない?」
ぐぅぅ。否定したい。けれどその一点で勝負すると私の惨敗……。
「ほらね? 勝てる材料がない状況で意地張るのは悪手だと思わない?」
「いいえ、メジロには金と権力と高貴な血筋がありますわ! これも嫌いな人はそんなにいないでしょう!?」
金と権力と血筋は持ってりゃ嬉しいコレクションじゃないのですわ。強力な資産なんですわ。資産は使わなきゃ。そのために長い時間を掛け集めてきたのですから!
「あー、それ言ってみたんだけどね。金とか名声は興味ないってさ。高潔というよりは趣味嗜好が子供だよね。そこが良いんだけどさ」
そんな、それじゃあ私はいったいどうすればいいんですの。私が他に持っているものって?……猛虎魂?
「ウマ魂含めると二つ持ってることになるけど、魂ってそんなに持ってても大丈夫なの? ……まぁそれは置いておいて。悪い提案じゃないと思うんだよね。ボク、マックイーンとならトレーナーを分け合えると思うんだ」
テイオー……。
「ボクが八でマックイーンが二くらいならさ」
「いい度胸ですわ。メジロの家訓は『売られた喧嘩は全買い』でしてよ」
そんな家訓はないが、臆して退くなどそれ以上にあり得ない。
「最近マックイーンも逞しくなったよね。それもトレーナーのおかげかな? ……そう考えると腹立ってきたからやっぱり勝負しよっか」
お互いにガタリと席から立ち上がると、周りにいた子達がさーっと波のように引いていった。関係ない方たちを巻き込んだりしませんのに。
「そういえば協定にウマ娘同士で賭けレースをしちゃダメってなかったよね。ボクが勝ったらチームから抜けてもらおうかな~」
「あら、取らぬ狸のなんとやらですわね。なら、私が勝ったら二度とトレーナーに粉掛けないでいただけます?」
バチバチと目線で火花を散らせ合う。ここで最大の不安要素を排除しておくのも悪くはない。
「……お前ら、公共の場でなにをやってるんだ。周りに迷惑だろう」
「あっ! トレーナー! なになに何してるの~。食事? だったら一緒に食べようよ~」
変わり身はやっ!ああやって素直に甘えられるのはテイオーの美点ですわね。私たちのチームは三者三様にその辺が下手ですが、私も思い切って甘えてみましょうか。
「構わんがそのやる気を抑えろ。これから模擬レースでもするつもりだったのか?」
「ええ、最近はテイオーとも走っていませんでしたから、いい機会だと思って。おほほほ」
どこが問題なのか分からないが、どうやら私は物静か枠だと思われていないらしい。ここいらでイメージ改善を図りたいので少し言動に気を付けよう。
「だったら俺も交ぜてくれよ。昨日、またラップタイム更新したんだ。もうお前らには負けてやらねーからな」
タイムが数秒縮んだ程度ではなにも変わりませんけどね。手抜きは失礼ですし、そこそこにボコしましょうか。……いや、感覚がマヒしているが、トレーナーのラップタイムはヒトが簡単に更新していいものではなかった気もする。
「もし俺が負けたらお願いきいてやるぞ」
……ふぅ、全力で潰さねばならないようですわね。
「トレーナー、吐いた唾は飲めないからね? ボク、今ならスピードの向こう側に余裕で到達するよ?」
「え、なんでさっきよりやる気が漲ってるの?」
鴨がネギと調味料を背負って油まみれで歩いてきたのですから、調理して美味しくいただくのがマナーというものでしょう。
「テイオー、三二〇〇mで構いませんわね?」
「うん。とりあえずマックイーンとの勝敗は気にしないよ。長距離で確実にトレーナーを潰そう」
こういうところは気が合いますわね。
「……あのぅ、強気な発言の後に申し訳ないんですけど、一○○mとかでお願いできませんかね」
できるわけねぇでしょう。大人しく己の浅慮を噛み締めてくださいませ。
ごめんゴルシ。俺、お前がくれた石でなにも得られなかったよ……。