「トレーナーさん、いったいスズカさんになにを言ったんですか!」
……オレ ナニモ イッテナイ。
「誤魔化す自信ないなら素直に言ってください! 露骨すぎて逆に反応しづらいです!」
へぇへぇ、俺が悪うございましたよ。ちょっとした例え話の引き合いにスぺを出したらスズカが勝手に誤解したんですー。
「なに開き直ってるんですか! 悪いことをしたのに謝れないのは人間としてダメだってお母ちゃんが言ってました!」
むぅ、たしかにその通りだな。スぺ、俺が悪かった。お前を巻き込むつもりはなかったんだがな。スズカからの誤解は解けたのか?
「ちゃんと謝れて偉いです、許します! ……誤解はその、解けたと言いますか別の問題に発展したと言いますか」
え、そうなの。スズカが掛かり気味になったのは悪かったと思うけど、事実として俺とは何もないんだから、話自体はすぐに終わったもんだとばっかり。
「ちょっとタイミングが悪くてですね。絶交一歩手前と言いますか、危うく凄惨な事件が起きる寸前だったと言いますか」
そんなことになってたの!?でも、何もないですって言えばいいだけなんじゃ……。
「実はその、私ってこの前のGⅠで勝ったじゃないですか」
ああ、後半の追い上げが素晴らしい圧巻の走りだったな。
「それでお母ちゃんが地元からすっごく出来のいいニンジンを送ってくれたんです。……三本だけ」
へぇー、俺は会ったことないけど良いお母さんだな。それにしても三本か。スぺにとっては五円チョコ三個くらいだから、味はともかく食った気はしないよな。
「そうそう、そうなんですよ……って私はそんなに食い意地張ってないですよ!」
む、言い過ぎたか。カプリコ三個くらいか?
「ニンジン三本はニンジン三本ですよ! ただ私が三十本は余裕で食べられるだけです!」
それはお前が食い意地張ってない証明になるのか。それで、そのニンジン三本がどう問題になったんだよ。
「そのニンジン、とっても色艶が良くて瑞々しくて、なんでも地元で今年採れた中でも最高品質のやつだったみたいなんです」
それはすごいな。俺はニンジンの良し悪しに詳しくはないが、野菜も高い品質のものは本当に美味しいからなぁ。
「それでその、スズカさんにも分けてあげれば良かったんですけど、全部自分で食べたくて隠しちゃってたんです」
これ以上ないほど食い意地張ってるじゃねーか。でもまぁ、お前に食べてもらうために送ったんだし、ダメってことはないだろ。
「昨日、トレーニングが終わって部屋に帰ったらスズカさんに『ねぇ、スぺちゃん。私に隠していることはない?』って聞かれて」
お、おう……。
「私、ニンジンのことがバレたと思って、つい勢いで言っちゃったんです。『あげません!!』って……」
あ、そっかぁ。
「今思えばアレ、トレーナーさんのことを言ってたんですよね。私、完全に勘違いしてて、スズカさんの体がブレたと思ったら意識を失っていました」
えぇ……問答無用かよ。トレーナーの不祥事なんて担当ウマ娘からしたら言語道断とはいえ、そこまで強引に解決しようとせんでも。
「どうやら気を失っている間にどこかに運ばれたみたいで、意識が戻った私が見たのは、血走った目でバットをフルスイングするマックイーンさんでした」
なにやってんのアイツ。
「ブツブツと何かを呟いていて、聞き耳を立てると『この泥棒ウマが、食品だけじゃ飽き足らずトレーナーまで食い荒らす気だったな。こっちは今後一生、スイーツを口にできないかもしれない時だってのに許せねぇ』って」
アイツ、自分で断スイーツ宣言しといてストレス発散のために他人に当たるなよ……。
「もうバットの音もブォン!とかじゃなくて大砲でも打ったのかって感じで空気を突き破る音がしてて、私怖くて」
いやもうなんかごめんよスぺ。マックイーンの素振りはただの威嚇だと思うけど、まさかそんなことになっていたなんてな。
「部屋の電気がついたと思ったら、スズカさんとマックイーンさん以外にもウマ娘が何人か居たんですけど、『大人しく手を引くなら普段通りの生活に戻れる』って言われて……」
そうか、本当に大変だったんだな。そのアホなウマ娘どもには俺から言って聞かせるから、とりあえず心配はしなくていいんだぞ?
「私、ニンジン食べたさに言ってしまったんです。La victoire est à moi!(調子に乗んな)って」
……君、ここ一番でクソ度胸あるよね。
「だって、あの数で等分したら私が食べられるの丸一本もなかったんですもん……」
食いしん坊ってすげーな。それにしても特に怪我とかはないみたいだけど、よく何事もなく帰してもらえたな。
「どうやら反抗されるとは思っていなかったみたいで。スズカさんが崩れ落ちて『そんな、選りによって一番の親友に掻っ攫われるなんて。ウマ娘はプリティにダービーを走るのであって、灰髪の怪物も昼ドラ展開もないはずなのに……』って言ってるのをみんなで慰め始めたので逃げてきました」
スズカはいったいなにを言ってるんだ。じゃあマジでなにも解決してない状態なのかよ。俺は誤解を解きに行ってくるから、部屋の場所おしえてくれるか?
「無我夢中で逃げてたから分からないです。……それでトレーナーさん。スズカさんになにを言ったんですか。あんなになるなんて普通じゃないですよ」
いやぁ、ちょっと俺とスペが外泊したらどう思うか聞いただけなんどけどな。
「な、なな何を急に言い出すんですか! こ、恋人でもない男の人と外泊なんてはしたないです!」
いや、うん、そうだよね。そうやって俺が罵倒されて終わりのはずだったんだけどなぁ。
「そ、そういうのはちゃんと順序を踏むものです。一目惚れというのも悪くありませんけど、仲良くなって告白してデートしてから……」
あ、うん分かったから。これ例え話だから。スペに対して特別な感情とか別にないから。
「わ、私のことを弄んだんですか!?」
やだ、この娘すごく面倒くさい。
「…………トレーナー、これはいったいどういうことなのかな?」
「て、テイオーさん?」
どうもこうも何もないんだが。なんでテイオーはビヨンド・ザ・ホライゾン着てんの。誰かと勝負でもするの?
「ふふ、完全に油断していたよ。のほほんとした花より団子なウマ娘かと思っていたのに、食べ物以外も大食いとはね」
なんか上手いこと言おうとしてるのかもしれないが、特に上手くないぞ。
「ご、誤解ですテイオーさん! 私、トレーナーさんよりニンジンの方が好きです!」
それもそれですごく引っ掛かる物言いだな。
「信用できるもんか! 現にスペちゃんはトレーナーに弄ばれたんだろ! ボクだってそんなことされたことないのに!!」
……なんかもうどうでもよくなってきたわ。あと、俺はウマ娘を弄んだことは一度もねーよ。
「私、それは嘘だと思います。かなりの数を弄んでますよね」
なんでだよ。ウマ娘どもを弄べるなら俺の精神はこんなに捻じ曲がってないから。
「羨ましい……じゃなくて! もうこれ以上の言葉は不要だよ。トレーナーに弄ばれる権利を賭けて勝負だ、スペちゃん!」
あー、もうめちゃくちゃだよ。
ベルト系の装飾が二の腕とか腿とかに巻かれてるの凄く好きなんですよね(性癖)
今日エアグルーヴとマヤノの育成してたこととは特に関係ないんですけどね。