「来たわね、トレーナー! さっそく今日のトレーニングを始めましょ!」
「おう、もちろんだ。まずは軽くスクワット千回からいくか」
スカーレットは相変わらずトレーニングに対して貪欲だな。その精神、俺も見習わなければな。
「……アタシは全然いいんだけど、またトレーナーも一緒にするの? まだまだメニューはあるんだし、百回位にしておいたら?」
コイツ!俺が同じメニューについて行けないとでも言うつもりか。ナメやがって!
「いや、ちゃんと最後までやりきるってとこは疑ってないわよ? けど、終わるまでの時間が私の倍じゃ収まらないだろうし、待ち時間が休憩にしても長すぎるのよね」
ぐっ……、事実だから言い返せねぇ。元々、ウマ娘の育成なんざ興味なくて勝つための方法を探す一環でトレーナーになったんだ。極論、コイツらがどうなろうと知ったことではなかったのだが、いつの間にか絆されてしまった。それに、俺よりも圧倒的に高い身体能力を有しているとはいえ、その感性と人生(?)経験はまだ子供なのだ。放り出すわけにはいかない。
「……このメモに今日のメニューは全て書いてある。俺を待ってる必要はないから、休憩はちゃんと取りながら先にこなしてろ」
今に見ていろ。いずれ、お前より強くなって『まだ終わらないの? スカーレットは鈍足だな』って鼻で嗤ってやるからな。
「またアホみたいなこと考えてるでしょ。全てにおいて一番になるアタシに勝てないのは仕方のないことよ。速さも、可愛さもね。そこにウマ娘も人間も関係なんてないんだから、気にしなくていいのに」
「はぁー?? 俺がトレーナーとして付くんだからウマ娘としては当然一番にしてやる。けどな、種族統一の一番は渡さねーから!速さも、可愛さもだ!」
「一番にしてやるって部分、スズカさんにもおんなじようなこと言ってるわよね。そういうとこはホント信用できないわ」
アイツはあんまり俺が育てたって感じがしないんだよなー。なんか自分の走りがどーたらで悩んでたから『走りたいように走るのが一番じゃね?』って言ったら、勝手に覚醒してハイパー無敵モードみたいになったし。
「ふーん、まぁいいわ。そんなスズカさんに勝つのが、私の大きな目標の一つであり楽しみでもあるんだから」
スズカが目標ねぇ。同じチームで出るレース被られてもデメリットしかないんだが、やりたいのならしょうがないか。
「ま、なんにせよ仲良くなったみたいでよかったよ」
以前は会う度に目線で火花散らしてたからなぁ。互いに相手を尊重できない性格ってわけじゃないし、相性は悪くないと思ってたんだが。
「譲れないことはあったけど、取り合うより複数で囲んだほうが確実って結論になったからよ」
レースの一着は譲れないってことなんだろうけど、囲むってなにをだ?
「というかさっきの一番になるってやつ、そのビジュアルで可愛さの一番は無理があるんじゃない? 割と身長高いし筋肉も付いてるじゃない。目指すなら、カッコいいの一番にしなさいよ」
「うるせぇ! 俺が勝ちたいのはお前たちウマ娘だ! だったら速さと可愛さは譲れねーだろうが。俺がセンターでうまぴょいするのを指を咥えて見させてやるからな!」
もちろん歌と踊りの練習もこっそりやっている。キレッキレのパフォーマンスを披露してやるよ。
「ぶふっ。もう、変なこと言わないでよ! 踊ってるところ想像しちゃったじゃない。まぁ、ライブはともかく新年会のかくし芸には良さそうね」
かくし芸じゃねーよ!勝利の舞だ!
「はいはい。それじゃ、軽くストレッチしてトレーニングを始めましょうか。待たずに先に行くけど、無理はしないこと。頑張るのは好感持てるけど、怪我しちゃったら無意味なんだからね?」
「俺、これでもトレーナーなんだが? なんで担当のウマ娘に怪我の心配をされてるんだ。お前は俺のママか。そんなことに気を回さなくていいんだよ」
「誰がママよ。母性が恋しいならクリークさん呼ぶけど?」
「冗談でもそれを言うんじゃねーよ! 俺の人生でも一、二位を争う苦い敗北を味わった相手だぞ! もうできるだけ関わりたくないんだよ」
『頑張ってるトレーナーさんを甘やかしてあげます~』とかいきなり言ってきたから、冗談じゃねぇ俺がお前をパパとして甘やかしてやる!って勝負を挑んだら秒で負けて赤ちゃんにさせられたからな。ウマ娘に勝てるようになったとしても、アイツに挑むのは最後だ。もし、もう一度負けたら俺の自尊心がもたない。
「一、二位を争うってアレと同等のが他にもあるんだ……。私も赤ちゃんにされるなら死んだほうがマシだとは思うけど。ちなみにもう一つの苦い敗北経験ってなんなの? ウララに短距離で二十バ身差つけられて負けたやつ?」
人の嫌な記憶を掘り起こすのやめろって。負けても楽しそうなウララを見てると自分の覚悟が揺らぎそうになるから、アイツも別の意味で危険なんだよな。
「もう一つは……ニシノフラワーにハンデで指二本で腕相撲してもらったのに負けた時だ」
「あー、それはなんというかご愁傷様。私ほどじゃないけど、フラワーは小柄で可愛いもんねー。勝てそうな気がするわよね」
お前に俺の気持ちが分かるかよ。小さな年下の女の子に申し訳なさそうな顔されて『指一本にしましょうか?』って言われた俺の気持ちがよ。まぁ、一応試そうとしたら、指一本だと組むのが難しくてダメだったんだけどな。
「ところでトレーナー、今お付き合いしてる女性はいるの?」
「急にどうしたんだよ。話変わりすぎだろ」
「いいえ、ちゃんと話の続きよ。とにかく答えなさい」
「いないけど。人の身でお前たちに勝とうとしてるんだ。余計なことにかまけてる時間はない」
「そう。じゃあ、好きなウマ娘のタイプは?」
そこは好きな女性のタイプを聞くところだろ。ウマ娘限定ってことは走りに関してか?
「うーん、好きなウマ娘ねぇ。好ましくないやつが思い浮かばないんだが、あえて挙げるならサクラバクシンオーかな」
他のトレーナーが付いてなきゃ、俺が育てたかった。
「は? なに自分の育成してるウマ娘を置いて他の娘の名前挙げてんのよ」
そっちが聞いてきたんだろーが。
「……で、どこが良いわけ? 底抜けに明るいのがタイプなの?」
「いや、好ましい性格なのは否定しないけど、挙げた理由は適正距離への反抗心だな。短距離以外を諦めない、あの不条理を覆さんとする精神性は大変素晴らしい」
俺も似てるところがあるからだろうか。例え夢破れるのだとしても、全距離を走らさせてあげたかった。
「あれは不条理に抗ってるんじゃなくて、自分の適正に気付いてないだけでしょ。悪く言うつもりはないけど、彼女かなりアホの娘よ?」
「小賢しいのに比べたら、真っ直ぐなアホのほうが遥かに上等だろ。そもそも、お前もスズカも根っこはアホの部類だろ。でなきゃ俺はトレーナー引き受けねーよ」
「私は賢さでも一番よ!」
その考え方、まんまバクシンオーじゃないか?まぁ、内心でどう思ってたって構わないか。顔立ちや立ち振る舞いで勘違いしそうになるけど、お前の一番になるためなら、どこまでも泥臭くなれる根性論と努力、俺は大好きだからな。俺が勝つ日までは協力してやるさ
ずっと勘違いしてたんだけど、ティアラって勝負服じゃないときも付いてるんですね。