「トレーナーさん、助けてほしいの!」
優雅に缶コーヒーを飲んでいると、一人のウマ娘が部屋に突撃してきた。どうでもいいけど入るときはノックくらいしなさい。
「アイネスか。またお一人様一個までの限定品の買い出しか?」
タマほど家計が切迫しているわけではないようだが。まぁ、自堕落に散財しているよりいいか。
「それもお願いしたいけど今日は違う用件なの! マックイーンちゃんも関係してることなの!」
紹介が遅れたが、この『なのなの』言ってるウマ娘はアイネスフウジン。ピンクが目立つ勝負服を着ており、適正は砲撃とシールドだ。動きをバインドで封じてから放つごん太ビームは、敵の戦意を根こそぎ刈り取る悪魔の一撃として有名である。
「作品が違うの! 適正は逃げとマイル・中距離なの!」
そういえばそうだったな。そして得意技は遠隔斬撃だ。
「視界内の物体を伝播する斬撃も撃てないの!」
なんだよ、だったらなにができるんだよ言ってみろ。
「なんでそんなに偉そうなの!? トレセン学園付近のお買い得情報なら一家言あるのと、レースならトレーナーさんには完勝できるの!」
は?いい度胸だ、いまから勝負しようじゃねーか。
「いや、今はそれどころじゃなくって。困ってるから助けてほしいの」
そういえばそんなこと言ってたな。マックイーンがどうとか言ってたけど、アイツまたなにかやらかしたのか?
「そんなマックイーンちゃんをトラブルメーカーみたいに言うのは可哀想なの。実は庶民の食べ物を味わってみたいとかで、ガイド役としてファインちゃんやヘイローちゃんと一緒に牛丼屋さんに連れて行ったことがあるんだけど、また似たようなことを頼まれちゃったの」
牛丼にガイドもなにもないだろ。と言いたいが、チェーン店ごとに方式が違ったりするから意外と恥ずかしい失敗をする可能性はあるんだよな。
「次はハンバーガー屋とかか? セットのサイドメニューとかサイズ指定とかは初見だと難しいのかもな」
ちなみに俺がよくやるのはコンビニのコーヒーをレギュラーとSサイズで言い間違えることだ。この辺は名称を統一してくれないものだろうか……。
「ハンバーガー屋も疲れそうだけど、今回は難易度が比じゃないの。誰に相談していいか分からなくて……」
難易度が比じゃないって、ニンニクヤサイアブラマシマシカラメを頼むラーメン屋にでも行きたいのか?
「それが、自動販売機のホットスナックを食べてみたいって言われて」
それは注文の難易度じゃなくて、もう実物がほとんどないんじゃないかな……。
「探すよりも一から作らせた方が簡単そうだな。その三人の財力なら特注できるんじゃないか」
落ち着いて考えるとそんなに美味しいわけでもないはずなんだが、旅行先とか夜に食べた思い出補正なのか異常に旨かったと記憶してるんだよなアレ。
「こういうのは現場のライブ感を大切にしたいって言われてて……」
適当に肌寒い夜に冷凍食品をレンチンして外で食えば似たような気分は味わえるし、それでいいんじゃないか。
「でも、皆キラキラした目でお願いしてくるから断りづらくって」
と言っても現物がある場所まで行こうとしたらそれなりに手間が掛かるだろうしなぁ。
「深夜に外で食べるカップ麺は同じくらい美味いぞ。おススメはカップ焼きそばだ」
なぞの非日常感が味わえるので良い経験になるぞ。
「もう、それでいいかな。でも深夜だと寮の門限があるし難しいの」
学園内でやるのなら、俺が監督役として居てもいいけどな。寮の敷地内は休日って条件付ければフジとヒシアマ姉さんなら許可してくれそうな気もするが。
「でも、それだと別の問題が出てしまうの」
寮の門限以上の問題なんてあるか?
「東京だとやき○ば弁当を売ってるお店が少ないの」
そこはU.F.○とかでいいんじゃないかな……。
「ダメなの! こういうのは最初の一回がすごく重要なの! どうせなら一番美味しいカップ焼きそばを食べてもらわないと」
戦争になりそうな話題はよすんだアイネス。
「提案しておいてなんだが、夜のカップ焼きそばかぁ。またマックイーンのエレガンス・ラインがエレファント・ラインになっちまうかもなぁ」
吸収が良すぎるのか、本当にすぐカロリーがウエストに反映されるんだよなぁ。
「それ、絶対にマックイーンちゃんに言っちゃいけないの。競技者としてもだけど、乙女としても必死になんでもない風を装って維持してるの」
食べた分は動けばいいから短期的なことは気にしなくてもいいんだけどな。限界まで追い込める根性もあるから、それこそアイネスとかと比べると少し心配になるよ。
「あたしはよく走ってよく食べるがモットーなの!」
だよな。アイネスも先月より体重が増えてるもんな。ウエストは……。
「そこまでにするのトレーナーさん。育成者としての目線であっても、真昼間から女の子に向けてはいけない視線というのがあるの」
おっと、これは失礼。バストとウエストが増えたことは内緒だな。
「……ふんっ!」
ぐふっ……!なかなか良いブローじゃないか。俺の鋼の腹筋じゃなかったら穴が開いてたぞ。
「そりゃあ、ちゃんと相手は選んでやるの。ウマ娘が普通のヒトを殴ったら吹っ飛んじゃうの」
とりあえず、アイツらがカップ焼きそばで納得するかは聞いてみるといいさ。学園でやるなら俺が監督と寮までの引率はするから、アイネスが付き合う必要はないぞ?
「こんな楽しそうなイベントから仲間外れにするのは酷いよ! それにトレーナーさんが監督役をしてくれるなら、あたしも羽目を外す側に回れるから平気なの! ……折角だからライアンちゃんも誘おうかなぁ」
どうせならスズカやスカーレットも呼ぶか。絶対に夜のカップ麺とか食べないタイプだよな。
「スズカちゃんはあんまりお腹を空かせているイメージはないし、スカーレットちゃんは絶対に我慢しちゃうタイプなの。相部屋のスぺちゃんとウオッカちゃんは食べてそうだけど」
スぺはカップ焼きそばとか一口で飲み込みそうだよな。
「おいおいおい、ちょいと待ちなトレーナー。焼きそばの話題でこのゴルシちゃんを通さないってのはどういう了見なんだぁ?」
鉄板で焼いた焼きそばの旨さは縁日とかスポーツ観戦で味わうものであって、寮でってのはなぁ……。
「はぁ!? なんも分かってねぇなぁ! イカ焼きのタレの香りにチョコバナナと人形焼き、それが縁日の醍醐味だろうがぁ!」
縁日の話題にすり替わって……いや、縁日では焼きそば以外を楽しめということなのか?
「分かったよゴルシ。カップ焼きそばだけじゃなくて明☆鉄板焼きそばも用意する。そういうことだな?」
「なんだよ、やればできんじゃねぇかよ~。それじゃ、今日の夜十二時に体育館に集合な! ばいなら~」
……これたぶん体育館に行かなかったら拗ねるんだろうな。
「なんでいきなり部屋に出現したゴルシちゃんと普通に会話してるの……」
……あれはもう、そういう生態なんだと受け入れたほうが気が楽だからな。
アイネスとマベちんが良い子すぎて困る。