ウマれた意味を探すRPG   作:ゆーり

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育成の下手さを認識させてくるジェミニ杯嫌い。
負かした相手のブーツを追剥ぎできるレジェンドレース好き。
マックイーンのブーツは家宝にします。


ダイワスカーレットⅡ

「ほら、早く言いなさいよ」

 

 なんでここまで偉そうになれるのだろうか。

 

「スカーレット、お前が一番だよ」

 

 いきなり俺の部屋に突撃してきたかと思えば、ソファにふんぞり返って『私が一番と言いなさい』と命令してきた。

 

「ふふん。ええ、そうでしょうね。そうでしょうとも! ところで、具体的にどの辺りが一番なのかしら?」

 

 面倒な酔っぱらいみたいな絡み方をしてくるんじゃないよ。

 

「ええーっと、態度のデカさ?」

 

 正直、相手するのが面倒で他に思いつかない。

 

「ちょっと! 最後までいい気分に浸らせなさいよ! 大体、私の態度のどこがデカいのよ!」

 

 全体的にだよ。もう女王様かと思うくらいにデケーよ。

 

「それで、急にどうしたんだよ。なにかあったのか?」

 

 自己顕示欲と承認欲求が強いスカーレットではあるが、無理矢理同意をさせるようなことは基本的にしてこない。

 

 あくまで自分の実力で周りに認めさせるタイプなのだが。

 

「ウオッカのやつが、変なこと言うから喧嘩になって……」

 

 なのだが、こうやって定期的に己の目標に疑問を抱き、他者に同調を求めてくる。

 

 大抵の場合、トリガーになるのはルームメイトであるウオッカとの喧嘩だ。

 

 『一番』と『カッコイイ』。どちらも抽象的ではあるが、幾分ウオッカの方が芯を持っている。正しくは自分の中に明確なイメージがあるというべきか。

 

 スカーレットが適当なことを言っている訳ではないのだが、一番の対象範囲がかなり広い。レースの強さ、ファンの数に留まらず、人間性やら頼りがいやら割と見境いなしだった。

 

 最近は求める一番がなんなのか、ある程度の輪郭が定まったようだが、まだまだ成長途中の身だ。自分の思い描く夢の形が変わることだってある。

 

「アイツのこと思い出したらむしゃくしゃしてきた。今日は後100回は私のことを一番だって言ってもらうから覚悟しなさいよね!」

 

 いやだよー、時間がもったいないよー。面倒だよー。

 

「スカーレット。声に出して伝えるだけが全てじゃない。俺はいつだって心の中でお前が一番だと思っているよ」

 

 キリッとした表情をしてスカーレットの目を見ながら告げる。最近気付いたのだが、こうすると相手から追求が弱まり面倒事を躱しやすくなるのだ。なんでかは分からないが。

 

「ほ、本当に? スズカさんやテイオーよりも?」

 

「…………ごめん」

 

 やっぱ嘘は吐けねーわ。

 

「少しは粘りなさいよ! 私にだって二人に勝ってるところの一つや二つくらいあるでしょ! ……あるわよね?」

 

 自信あり気に見えて、悪い想像をすると一気に落ち込んじゃうんだよな。これがマックイーンなら適当なスイーツを上げておけば絶好調になるんだが、スカーレットは簡単にいかない。

 

「そりゃあいくらでもあるけど。スカーレットの望む内容かと言われるとなんか微妙なんだよな」

 

「とりあえず聞いてあげるから言ってみなさい。変なことでも怒ったりしないから」

 

 チームの連中にこう言われた時、正直に話すとほぼ怒られることを俺はよく知っている。

 

 だがまぁ、おべっか言うような話でもないか。

 

「困ってるやつが居れば手を差し伸べることを厭わない。誰かのために進んで貧乏くじを引ける。気が利いて周りをよく見ている。後は先行策を取ったときの駆け引きと勝負根性は大したもんだな」

 

 私生活については大部分が優等生のキャラ作りから来るものだが、そのために自分の身を粉にできる時点で面倒見の良さがある証拠だ。

 

 チーム内の母親役が誰かと聞かれたら、天然マイペースやポンコツ令嬢ではなくスカーレットになるだろう。

 

「い、いきなり褒め過ぎよ! それに母親って、つまり男性のアンタが父親役であたしの夫ってことで……」

 

 なんかボソボソと呟きだしたが、よくあることなので放っておこう。

 

 レースでは最後の直線で競り合いになったときの負けん気がとてもよい。ウオッカというライバルが居るからだろうか。並ばれても、そこから簡単には抜かせないのだという気迫がある。

 

「そう言えば、なんでウオッカと喧嘩したんだ?」

 

 喧嘩と言っても痴話喧嘩とかじゃれ合いの類だが、時々ウオッカが痛いとこを突いてくるんだよな。本人には悪気ないんだろうけど。

 

「『あたしが一番って言ってるけどチーム内ですら一番じゃねーじゃんか』って」

 

 とんでもない顔面ストレートじゃないか。やっぱり悪気あるんじゃないのか。

 

 うちの中で一番ということはスズカを超えるということだ。それは、そのままトゥインクル・シリーズで一番と言い換えてもいい。

 

 それを成せるだけの才覚がスカーレットにもあるとは思うが、そこに至るにはまだ時間が足りない。

 

「というかウオッカも摸擬レースではスズカにボコボコにされたよな?」

 

 本番のレースでご一緒したことはまだないが、トレーニングでは何回かスカーレットと二人揃って大差を付けられてたはずだ。

 

「そうなのよ! あいつ、自分だって負けた癖に私の目標にばっかりケチつけて! あんたからも文句言ってやってよ!」

 

 俺に実害はないし……いや、この時間自体が実害か。

 

「なら、俺にいい考えがある」

 

 傍目から見ている分には可愛いものだが、互いにヒートアップして拗れるかもしれん。その度に一番を連呼させられるのは困るし、頻度が少なくなるに越したことはないだろう。

 

「……碌な考えじゃないとは思うけど、一応聞いてあげる」

 

 ジト目で胡散臭そうに反応された。博学博識な俺に対して失礼ではないだろうか。

 

「そう難しい話じゃない。スカーレットは全部で一番になりたいが、いきなりは無理だ。だから順番にこなす必要がある。その最優先事項として、まずはウオッカの一番になればいい」

 

「ウオッカの一番?」

 

 レースの順位のように客観的に明らかな一番だけではなく、『カワイイ』のような印象に基づいた一番もある。

 

「ウオッカならカッコイイ奴が一番だと考えるだろう。つまり、ウオッカがぐうの音も出ないカッコよさをスカーレットが身に付ければ、アイツはなにも言えなくなるってことだ」

 

 文句も言われなくなるし、自分のほうが上だって証明にもなる。一石二鳥だろう。

 

「ふーん。あんまり自分のカッコよさなんて興味ないけど、ウオッカの鼻を明かすのは面白そうね。やってやろうじゃない!」

 

「ああそれと、しっかりとウオッカに宣言してやるんだぞ。向こうにも意識させておいた方が話が早いからな」

 

 そう伝えると、早速ウオッカにとってのカッコイイとは何かリサーチしてくると部屋を飛び出していった。

 

「俺も自分のトレーニングをやってこようかね」

 

 これで二人とも大人しくなってくれればいいんだが。

 

 

 

 

 

 

 

「うわーーーーん!! トレーナー、お前スカーレットになにを言ったんだよー!」

 

 翌日、ウオッカが泣きながら部屋に飛び込んできた。

 

「おいおい、どうしたんだよ。またスカーレットと喧嘩したのか?」

 

 俺の伝授した秘策はまだ実行されてないのだろうか。

 

「スカーレットのやつがいきなり『ウオッカ、あたし決めたわ。あんたの一番になる!』とか言い出したんだよー!」

 

 さすがはスカーレット。やると決めてから動き出すまでのスピードも一番か。

 

「しかも『あんたの求めるカッコイイになってみせるから、あたしから目を離さず見てなさいよね!』って!」

 

 うんうん、しっかりとカッコイイを目指すことを明言してウオッカにも意識させている。完璧なムーヴだが、ウオッカは何で泣いているんだろう。そんなにスカーレットのカッコよさが圧倒的だったのだろうか。

 

「いきなりそんな告白されても困るだろ!」

 

 挑発してきたのはウオッカなんだから告白、もとい宣戦布告されるのも仕方ないんじゃ。

 

「こ、これからどんな顔して部屋でアイツに会えばいいのか分かんねーよ」

 

「スカーレットの宣言通りに一番だと認めてあげればいいんじゃないか?」

 

 それで一件落着。俺もハッピー。

 

「そ、そそんなことできるか! 俺もアイツも女同士だぞ!」

 

 いや、ウマ娘は全員女性だし性別が何か関係あんの?

 

「ああーー! 分かってはいたけどトレーナーは役に立たねー! どうすればいいんだよー!」

 

 頭を抱えて叫びながら部屋から出て行った。いったいなんだったんだろう。




オリトレーナーとウオッカはよくカッコイイもの談義をする仲。
男女とか恋愛的な話は鈍感拗らせ勘違い野郎と初心な小学生なので全く噛み合わない。
マックイーンのブーツを入手できた嬉しさを共有したくて前書きのために急遽書いた。

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