「あ、いたいた。お~いトレーナー。今日の特訓はじめるよ~」
元気な声が聞こえてきたので振り返ると、トウカイテイオーが軽やかに駆け寄ってきていた。
「こんにちは師匠。もうそんな時間か。スカーレット、今日のトレーニングはここまでだ。クールダウンしたら上がってくれていいぞ。確かウオッカと出掛ける予定があるんだったよな」
スズカもタイキシャトルに会いにいってるし、上手く予定が空いてくれたな。
「ええ、いまウオッカに断りの連絡を入れたわ。なんの特訓か知らないけど、私もトレーナーについていくから」
Why?なに言ってるのかよく分からないんだけど、どうして断ったの。ていうかそのスマホどっから取り出した。
「要注意ウマ娘と二人きりにする訳ないでしょう。テイオー、アンタいつのまにトレーナーに取り入ったのよ」
要注意ウマ娘ってテイオーのことか?レースの相手としては確かに強敵だが、俺から情報を盗み出そうなんて真似するやつじゃないぞ。
「スカーレットたちは警戒心が強すぎるよ。ボクたちは(恋の)ライバルであると同時に学園の友人でもあるんだからさぁ。それに、なんといってもボクはトレーナーの師匠だからね。お世話になってるだけのキミたちとはちょっと立場が違うんだよね~。だからさぁ、邪魔しないでくれるかな?」
ライバル発言のときのニュアンスがなんか妙だったな。やけに言葉に凄みがあるし、いったいどうしたんだ?
「それよ! 師匠ってなんなのよ。私とスズカさんに黙ってチームメンバーでもないテイオーに弟子入りするなんてなに考えてるの!」
俺がプライベートでなにしてようが勝手だろう。
「スカーレットが否定的なことばかり言うからチーム外のやつに頼んだんだよ。テイオーなのは、単純に上手いやつに習うのが近道だと思ったからだ。俺はダンスの心得なんてまるでなかったからな」
うまぴょい伝説のセンターはマスターしたから、次は『Make debut!!』の振り付けを習うつもりだ。
「だからライブは諦めなさいって言ってるでしょ! 入賞どころか出場する算段すら付いてないんだから順序がおかしいでしょ!」
「う、うるさい! 俺だって華々しくデビューして輝く未来を見たいんだよ! お先真っ暗なのはもういやなんだ!」
まだオッサンというには少し若い気もするが、伸びが期待できるのなんて後数年が限界だろう。小学生に毛が生えた程度のスカーレットとは違い、すでに猶予はないのだ。
「あ~、スカーレットってばそんな酷いこと言ったらいけないんだよ? トレーナーは必死に努力してるんだからさ。夢が叶ったときの準備を楽しむくらいいいじゃん。ねぇねぇ、トレーナー。こんな酷いこというウマ娘の担当なんて辞めてさ、ボクを担当してよ。ボクはトレーナーのやりたいことを否定なんてしないよ? ううん、むしろ全部肯定してあげる。トレーナーとウマ娘は一心同体なんだからさ。トレーナーの夢はボクの夢だよ」
テイオー師匠っ!!
「甘やかすようなこというな! なにが肯定してあげる、よ。ずぶずぶに依存させる気じゃない。アンタ、いつからそんなに湿っぽい子になったのよ。前はもっと明朗快活だったでしょ」
ふむ?テイオーが明るく生き生きしてるのは変わらなくないか。さすがに怪我をしていたときはションボリテイオーになっていたが。
「ふふ、スカーレットはまだまだ挫折の経験が浅いからねぇ~。本当に辛いとき傍に居てくれた人は離したくなくなるのさ。あぁ! 怪我でレースへの出場が絶望的だったボクに掛けてくれた『夢を諦めるな!』って言葉に籠っていたあの熱。いま思い出しても体が火照ってくるよ~」
そんなこともあったっけか。それにしてもクネクネしているテイオーはちょっと気持ち悪いな。
「というわけでトレーナー! スズカさんとスカーレットはもう立派に自分たちでやっていけるよ。ここは一つ、いまも怪我がクセになってて危なっかしいボクを付きっきりで見ていてほしいな!」
「冗談もそこまでにしなさいよテイオー! コイツは私たちのトレーナーなの。チームメンバーを増やすだけでも業腹なのに、逆引き抜きなんて許すわけないでしょ!」
なんかスカーレットも随分とヒートアップしてるな。というか、俺はさっさとダンスの練習に行ってデビューに備えたいんだが。
「へへーん、だったらいまここでトレーナーを賭けて勝負してみる? スズカさんならともかく、スカーレットならそこまで分の悪い勝負じゃないし、ボクは全然構わないよ?」
なに勝手に俺を賭けの賞品扱いしてんだよ。テイオーも怪我がクセになってるって嘘だろ。最近は走りが異常に力強くなってんじゃねーか。剛と柔と併せ持った走りで周りがドン引きしてるぞ。
「だいたい、こういうのはトレーナーとウマ娘双方の合意があればOKなんだからさ。トレーナーが応と言えばその時点でスカーレットは外野なんだよ? ……で、トレーナー。ボクのお誘い、受けてくれるよね。後悔はさせないよ?」
「え? 普通にお断りさせていただくけど」
スズカもスカーレットも中身がまだまだお子ちゃまだからな。ターフに入った瞬間に修羅みたいになるけど、それ以外は危なっかしくてまだ放任できん。
「えぇ~!? なんでだよトレーナー! この無敵のテイオーの専属になれるんだよ! 一生お金に困らせないし、名声も喝采も浴びるようにもらえるんだよ?」
おおー、改めて口に出して羅列されても全く興味が湧かないな。俺は誰よりも速くゴールしたいのであって、その後に付いてくるものはただの余禄だ。ライブだけは別だが。
「ダンスの師匠としては感謝してるけど、ウマ娘としてのテイオーってあんまり興味が持てないんだよな」
「……え?」
怪我から立ち直るときのコイツにはグッとくるものがあったが、立ち直った後はスズカと同じで無双状態である。いまコイツに付いているトレーナーも何を教えたらいいのか分からんと愚痴ってたし、組む意味もなさそうだ。
「あとお前けっこうなクソガキだしな。俺、生意気な子供は嫌いなんだよ」
小中高とウマ娘に挑んでは負ける俺を笑いものにするやつが多かったからな。そういう意味ではうちのチームはむしろ精神的に成熟しているのか?
「ちょっとトレーナー、断るにしても言い方ってものがあるでしょ。テイオー泣きそうになってるじゃない」
「いやでもコイツ、初めて一緒に走ったときに負けたのをめちゃくちゃ煽ってきたからな。俺の絶対勝ちたいウマ娘リストで最上位に入ってるんだよ」
あと俺は泥臭いウマ娘が好きなのだ。今のコイツはちょっと綺麗に羽ばたきすぎてしまっている。
「ト、トレーナーが望むんならボクなんだってするよ? 作戦だって好みに合わせるし、出るレースも全部従う。性格もスズカさんみたいに物静かでお淑やかになるから!」
いや、アイツは感情と思考のアウトプットが下手くそなだけで、別にお淑やかではないぞ。腹の内にはマグマがぐつぐつしてるタイプだ。
「そもそもチームの連中が例外なだけで、俺って基本的にウマ娘は全部クソだと思ってるしな。俺より速いやつよ、この世から消え去れ。なので師匠、弟子のために今すぐ引退してください」
「さすがにそれは嫌だよ!」
「……今日は割りと黒い部分を曝け出してくるわねトレーナー」
む、いかんいかん。担当ウマ娘の前で下らない話をしてしまったな。最近のテイオーの活躍っぷりに嫉妬心が抑えきれなくなっている。猛省せねば。
「う、うぅ……。それでもボクは絶対に諦めないんだからね! 無敗の七冠ウマ娘になってトレーナーを迎えに来るから!」
それますますトレーナー不要じゃね?
「いいえ、諦めてもらいます」
こ、この肌を突き刺すような闘気は!
「スズカ先輩! やっと来てくれたんですね」
あ、タイキシャトルもいる。おっす、久しぶりー。
「なんでタイキシャトルにはそんなに親しげなの!? ウマ娘全般が嫌いなんでしょ!」
そうなんだけどね、そうだったんだけどね。トレセン学園のウマ娘は良い娘が多すぎるんだわ。テイオーのことも普通に好きだよ。言うと引き受けなきゃいけなくなりそうだから黙ってるけど。
「テイオーさん、以前に忠告したはずです。トレーナーさんに手を出すことは許さないと。よもや、忘れたわけではありませんよね?」
「そっちこそ、あれくらいで諦めると思ってたの? ライバルが多いからね。今の段階で目を付けられて袋叩きにされないよう裏で準備してただけに決まってるじゃん」
なんだその不良漫画みたいな展開は。もしかして俺が知らないだけでウマ娘による暗闘とか場外乱闘があるのか?
「反省の色もなし、と。これは実力行使するのも致し方なしですね」
「前のボクと同じだと思ってると痛い目みるよ。たとえスズカさんが相手でも、簡単に負けてあげるつもりはないんだからね」
なんでターフでもないのにバトル漫画の戦闘開始前みたいな会話が始まってるんですかね。二人とも闘気出すの止めてくれないかな。そういうのはグラスワンダーの領分だろ。
「Oh! 二人ともとっても仲良しデスネ! ビューティフルフレンドシップです!」
このタイキシャトルの純真さよ。
「あたいのこと呼んだか~?」
呼んでないから帰っていいぞゴールドシップ。
「タイキとドトウ、うちのチームに来てくれねーかな。最近ちょっとメンバーが過激すぎて癒し要素が欲しいわ」
「……アンタそれ、本当に癒しが欲しくて選んでるんでしょうね」
他に何があるんだよ。
「ま、まぁ大きさは私も成長性込みなら負けてないし、むしろあそこでバトルしてる二人には圧勝だから拘りがあっても悪いことじゃないわね」
どうでもいいからダンスレッスン始めさせてくれないかな。
「ダンスなら私に任せてくれてノープロブレム! 本場仕込みの情熱的なダンスレッスンしてあげマス!」
タイキ師匠っ!どこまでも着いて行きます!
以下、第3宇宙から受信した怪電波(各ウマ娘の戦闘スタイル)
スズカ:
フリースタイル。圧倒的な戦闘センスと攻撃スピードで敵の意識を瞬時に刈り取る。
相手を地に伏せさせることで、誰もいない景色を作り出す。
テイオー:
アウトボクサー。軽快なステップで敵を翻弄して手数とカウンターで沈める。インファイトではスズカの攻撃に反応できなかったため考案したスタイル。最近、残像を三つまで増やせるようになったが上位勢には通用しなかった。
グラス(未登場):
どこからともなく日本刀を取り出して剣術で戦う。居合いを最も得意とするが、抜刀した状態からでもアホみたいに強い。あと怖い。エルは口を滑らせるたびにメンコを両断されている。取り出してるのはたぶん妖刀の類い。
マックイーン(未登場):
どこからともなく釘バットを取り出して戦う。グラスの居合いに匹敵するスイングスピードを誇るトレセン学園のスラッガーにしてホームラン王。あまたの敵をレース場のスタンドに叩き込んできた。叩き込んだ相手の九割九分はゴルシ。
タイキ:
以前はどこからともなく拳銃を取り出して戦っていたが、無手の連中は平気で避けるし、武器持ちは斬ったり打ち返してくるので戦闘力は下位扱いをされていた。真の弾丸は己の肉体であると銃を捨て去ったとき、全力タックルというシンプルイズ暴力な戦闘スタイルを得た。以降、戦闘力ランキングを駆け上がっている。いずれヒシノアケボノとどすこい頂上決戦する。
ライス(未登場):
ペン回しに憧れて練習していたが全然上手くなれず、試しにナイフでやったら瞬時にマスターした。以降、物を上手に切るコツも分かったらしく、ゴルシの前で鉄塊をバラしてドン引きさせた。