……どけ!俺はお兄ちゃんだぞ!(やっと言えた)
「ついに、この日が来たか」
今日という日を乗り越えるために、俺は己を鍛え上げてきたのだ。
「……ニシノフラワー! 今日こそ貴様を倒す!」
「え、その、お手柔らかにお願いします?」
いえいえ、お忙しい中お時間ありがとうございます。こちらこそお手柔らかにお願いします。いや本当に。
「なんか腰が低くない?」
「敗者の悲哀ですわね」
シャラップ外野。千里の道も一歩から。ここから俺の覇道が始まるのだ。
「じゃ、じゃあまずは、指五本使って条件イーブンでいいですか?」
「申し訳ないんですけど、三本からにしてくれます?」
お兄さん、まだハンデなしは厳しいと思うんだ。
「この体格差で腕相撲のハンディキャップを要求しているのは、やはり感覚が狂いますわね」
「まぁ、相当ダサいわよね」
さっきから喧しいぞお前たち。これから真剣勝負をするのだ。黙って見ていられないなら帰れ。それと、これは現実を見据えた堅実な作戦だから。
「というか、クリークさんに挑みに行きなさいよ。勝ちたいんでしょ」
やれやれ、困ったものだ。物事には順序というものがある。まずはこの可愛らしい速度特化型をパワーで打ち倒すのだ。魔王に挑む前の四天王的なやつである。
「勝てる未来が見えないって正直に言いなさいよ」
「……そんなことないから。前回と違って十秒くらいは渡り合って善戦できる自信があるから」
この前はスリーカウント持ったかすら怪しかったからな。気付いたら前掛けとガラガラを持った状態でクリークの膝に寝かされていた。
「一般的に秒殺を善戦とはいいませんわよ?」
食欲に頻繁に負けてるメジロさん家のマックイーン君が言うと説得力がありますねぇ。テメェのウエストが二センチ増えたのはバレてんだよ。
「セクハラで訴えますわよ! それに、そんなに頻繁に負けていませんわ! 月一……いえ四くらいの慎ましい敗北です」
毎週じゃねーか。日アサの敵キャラかよ。
「さてと、腹がエレガンス・ライン(笑)になってるやつは放っておいて、始めるか。覚悟はいいか、フラワー?」
ふっ、お前もとうとう年貢の納め時だな。
「誰がエレガンス・ライン(笑)ですか! ちゃんと臍出し衣装にも耐えられるボディラインを維持していますわ!」
ほんとか?今のお前にエンド・オブ・スカイ着て最強の名をかけられるか?重さで飛べないとか恥だぞ。
「そっちこそ、初等部の年齢の子相手にハンディキャップ付きの勝負でキメ顔するのやめなさいよ。これが私たちのトレーナーかと思うと、なんだか泣きたくなるから」
それを言うなよ。俺だって自分の情けなさに毎日枕を濡らしてるんだから。
「……えっと、私の準備は大丈夫です。一生懸命頑張りますねっ!」
そういってフラワーが手を差し出してくる。スカーレットより更に年下なのに、いざ勝負となればこの凛々しい顔付き。年齢と体格の差をものともせず、トゥインクル・シリーズに乗り込んできた傑物なだけはある。
「ふむ、それにしてもフラワーは指先が綺麗だな」
この小さくて綺麗な指がリンゴを握り潰すんだから、三女神はなにか設計をミスしたんじゃないかと疑いたくなる。
「ちょっと変態ロリコントレーナー、警察を呼ばれたくなかったら、今すぐフラワーの手を離しなさい」
「そうですわ。舐め回したくなるような綺麗な指だなんて、とんだ変態野郎ですわ」
俺はロリコンじゃないし、舐め回したいとは言ってねーよ!そっちこそ失礼すぎるだろ!
「あ……、その、綺麗と言っていただいてありがとうございます」
ああん?なんだこの無垢で可憐な笑顔は。これがロリコンという病を生み出す元凶か?
「フラワー、是非うちのチームにこないか? 俺はいま癒しを求めているんだ」
うちのウマ娘は綺麗どころの別嬪さん揃いだが、攻撃性が強い。バランスを取るためにも慈愛が必要だ。ウマ娘としての将来性も抜群である。
「もしもし、スズカさんですか? トレーナーがついに本性を現して。はい、時代は小学生だって」
言ってねーから!翻訳の仕方に悪意がありすぎるだろ!
「誘っていただけるのは大変嬉しいのですが、私がいるとお邪魔かなって」
んん?全然そんなことないけどな。うちにはスズカっていう『スピード以外の能力? 競り合いが発生する後ろの方たちには必要なのかもしれませんね』って頭バクシンオーもいるから、いい練習パートナーになると思うぞ。
「今度、バクシンオーとレースするんだろ? アイツも言動はヘンテコだが、速さだけは文字通り群を抜いてるからな。勝つには相当なスピードが必要だぞ」
マイルならスズカの圧勝だろうけど、はたして短距離ならどっちが速いやら。
「心配してくれているんですね。でも、大丈夫です。私もたくさんトレーニングして、バクシンオーさんを追い抜いてみせますっ!」
ふむ、余計なお世話だったか。思い返せば、俺って自分からスカウトした相手には全部断られてる気がするな。
「私もトレーナーさんのこと、応援しています。ウマ娘にレースで勝つって夢、これからも諦めずに頑張ってくださいね」
……あー、なるほどね。理解したわ。これがロリコンの境地。これは是が非でもスカウトすべきか?
「ちょっと待ちなさいよ、トレーナー! ロリ属性ならすでにアタシが持っているわ! 被りはよくないと思うの!」
「そうですわそうですわ! 私もまだ中等部ですし、体系的には一番ロリってるはずですわ!」
お前ら自分がなに言ってるのか分かってる?あと、俺はロリコンじゃないって何回も言ってるだろ。俺に癒しを与えてくれる存在がロリだっただけだ。
「ロリコンはみんなそう言うのよ!」
「これは一度、教育が必要ですわね……任せてください。メジロの英才教育を施せば、すぐに上品さこそが最も重視すべき要素だと気付けますわ」
ライアンとか見てても育ちの良さは感じるけど、メジロが上品……?
「なんでそこに疑問符が付くんですの!?」
「はいはい、この話は後でな。フラワーにわざわざ時間を作ってもらったんだ。無意味に拘束するのはよくない」
「うふふ、みなさんのお話を聞いているの、とても楽しいですから。気になさらなくていいんですよ」
アホ話に付き合わせているにも関わらず、欠片も気を悪くした様子のないこの精神性。これで十歳を超えたばかりというのは本当なのだろうか。
「それじゃ、今度こそ始めよう。スカーレット、合図を頼む」
「分かったわ。それじゃあ二人とも手の力を抜いて。……レディ、ファイッ!」
「うおおおおおーーーー!!!!」
俺の腕力が小学生を倒せると信じてっ!!
このあと、めちゃくちゃ敗北した。