同盟上院議事録外伝 自由と利益を尊ぶ国 ファイアザード国民共和国   作:山翁

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「夢だった」
「自由に商売が出来る場所が」
「自らの手で薬を作り、自分の薬を持ち、自分の薬を売ることが出来る場所」
「同盟、帝国、政府、軍、司法、警察に邪魔されない場所」
「約束された土地、それはファイアザードだった」

麻薬王 ルガール・デ・スエーニョの非公式インタビューより。


ファイアザード国民共和国 前史

ファイアザードという星の歴史は古く、銀河連邦サジタリウス準州まで歴史を遡る事が出来る。

 

初期入植期は周辺諸星域に農業生産物を輸出する農業惑星として開拓され、周辺諸星域の発展ともに交通の要衝であるこの星は交易地としても栄えた。

 

しかし、ファイアザードの素晴らしき発展の時代は銀河連邦の崩壊と共に崩れ去った。

 

準州に残った銀河連邦軍の軍閥化や食うために宇宙海賊になった者たちの餌食となった。

 

ファイアザードの人々は止まらない略奪から自らを守るために、戦略方針の転換を図った。

 

略奪に対抗するのではなく、略奪する者達との提携を。

 

それから、ファイアザードは宇宙時代のリバタリアとして存在する事となる。

 

宇宙歴649年に初代大統領トーマス・ミッソンによりファイアザード国民共和国として建国を宣言、同時に自由惑星同盟へと加盟。

 

その20年後にあのコルネリアス1世の大親征が行われ、ファイアザード2度目の発展の時代は幕を閉じたかに思われた。

 

しかし、意外にもファイアザード国民は頑強に抵抗を行った。

 

政治家達は捕まれば思想矯正所送り、広域犯罪者達は捕まれば裁判無しの即決処刑、資本家や富農は帝国本土から来た貴族により財産を没収され労働者や小作人、貧農に落ちるだろう、低賃金労働者や貧農は言うまでもない。

 

政府と広域犯罪者、富農と貧農、資本家と労働者ありとあらゆる対立を抱え込んだファイアザードだったが、大親征によって彼等を繋ぎ止める原理原則が新たに生み出された。

 

「我々に自由と利益を与えよ!我々から自由と利益を奪うものには報復を!」

 

ファイアザードは新しく生み出されたスローガンの元に帝国軍への反攻を行った。

 

その大親征への反攻も帝国軍の撤退により、終わりをむかえる。

 

政府は大親征が終わり危機が当面は去ったと判断、すぐに大親征に付き従った帝国軍からの亡命者や逃亡者または捕虜を新たなファイアザード国民として迎え入れ始めた。

 

無論、ファイアザード政府がハイネセン主義や人道主義に目覚めた訳ではなく、理由は至って経済的な問題だった。

 

同盟加盟時より人的資源委員会はファイアザードの労働環境にたいする、度重なる改善勧告をだしていた。

 

コルネリアス1世の大親征の直前など、同盟加盟資格の一時停止さえチラつかせた勧告さえ受けていた。

 

ファイアザードにとり労働環境改善は、低コスト労働者を使役する事により利潤を上げていた企業又は富農にとってコスト増を意味しており、それは周り巡って政府にとっての税収減を意味していた。

 

つまるところファイアザードは新しく合法的な低コスト労働者を欲していた。

 

低コスト労働者を探していた矢先に、現れたのが帝国軍からの亡命者や逃亡者、捕虜だった。

 

なんの事はない、大親征が終わり帝国へと帰還した帝国軍は既にファイアザードにとり過去の存在であり、人的資源委員会こそが現下ファイアザードの利益を奪い取る存在であると認識し、その対策に乗りだしたのだ。

 

こうしてファイアザードは新たに迎え入れた帝国人達を使い潰しながら、大親征後の戦災復興に邁進していった。

 

さらに政府は戦災復興の原資を集めるべく大胆な企業優遇政策を取り入れ、交戦星域となった星域からの企業誘致を図る。

 

この政策はどうにか上手くいき、ファイアザード経済は成長を迎えることとなる。

 

しかし、交戦星域からの企業誘致は同時に交戦星域からの難民流入をも齎した。

 

異文化の塊である帝国人と交戦星域からの難民流入は、ファイアザードの治安を急激に悪化させた。

 

治安悪化を前にファイアザード人、帝国人、さらに流入してきた難民(多くはティアマト人)は自警団を発足したが、それらの自警団は容易くギャング、マフィア、カルテル、ヤクザ、三合会に変貌していった。

 

そうした動きに政府は断固とした態度を取る。

 

いくら政府と宇宙海賊が公然な蜜月関係にあるとはいえ、自国内での広域犯罪組織(WAOC Wide-area organized crime)拡大は政府にとり、看過できないものだった。

 

直ちに警察(時には軍隊)を投入し、宇宙歴670年から治安戦を展開した。

 

それから約10年ほどで、政府は広域犯罪組織に対して降伏する。

 

原因は明快であった。

 

乱立する広域犯罪組織に対して治安戦を続ける程の資金、人材等が政府に無かったのだ。

 

それにギャング、マフィア、カルテル、ヤクザ、三合会はファイアザードのスローガンに忠実だったのも、政府にとって最悪だった。

 

「我々に自由と利益を与えよ!我々から自由と利益を奪うものには報復を!」

 

彼等はこのスローガンの通り、治安戦を展開した政府高官、警察、軍、司法関係者、ジャーナリスト、市民に対して報復行動にでた。

 

有名なのは宇宙歴680年にあった、「報復の権利」事件は当時の司法大臣、最高裁判所判事、治安警察のナンバー2、ファイアザード地上軍の師団長、市民運動家を含む10人が殺害された。

 

これを切っ掛けに広域犯罪組織に対する扱いを、政府はファイアザードの伝統ともいえる政策へと切り替えた。

 

広域犯罪組織との提携。

 

なんの事はない、宇宙海賊とした事をそのまま広域犯罪組織にスライドさせたのだ。

 

政府高官いわく「公然と国民を殺害すること無く、戦災復興と経済成長を助けるなら黙認する」

 

まさしく降伏だった。

 

そして、ファイアザード政府高官の話は同盟中を駆け回り、同盟中の犯罪組織がファイアザードへの引っ越しを開始した。

 

幾ばくかの税金と少々のルールさえ守るなら犯罪組織を許容する楽園の様な星だと、嘯きながら。

 

 

そうしてファイアザードは「宇宙時代のリバタリア」に続き「罪深き楽園」と言われる事となる。

 

 

そうした広域犯罪組織は更に政治へと加入しだした。

 

 

ファイアザードの政治体制は宇宙歴649年の建国時に整えられ、制度としては一般的な民主共和制であった。

 

大統領の任期は6年の再任はなしの、直接選挙制度を採用している。

 

共和国議会は上院と下院に分かれ、それぞれ定数が256議席と500議席とされている。

 

上院は6年、下院は3年を任期とし議員に関しては連続再選が許されている。

 

上下両院を合わせて共和国議会とし、議会には立法権が与えられている。

上院は条約承認、構成邦軍の派兵承認等を、下院では予算承認、国債発行等を専管事項としている。

 

また議員はいずれかの政党に所属せねばならない。

 

 

広域犯罪組織はこの中で大統領権限と上下両院における政党に手をつけた。

 

 

宇宙歴682年に政府との間に停戦協定を結ぶと政府高官、両院議員、治安当局、ジャーナリスト等に賄賂を盛大にバラ撒き始めた。

 

 

全ては理想の犯罪国家−Crime nation−を作り上げるために。

 

 

手始めに大統領権限の中に、最高裁判所判事の人事権(最高裁判所判事任命候補リスト作成、なお上院の可決が必要)を付け加えた。

 

また、最高裁判所以外の各裁判所人事権を握る共和国司法最高会議のメンバー選出において従来の上院及び最高裁判所によって選出されていたメンバーに、大統領が指名する候補も入れる様に変更させた。

 

まずは間接的な司法へのアクセスルートを手に入れ、自らの安全保障を確立した。

 

 

上下両院の諸政党に対しては「祖国の戦災復興と帝国軍対策を迅速かつ強力に行う為」という美名の元に、保革大合併を推進させた。

 

そして極右政党、極左政党、一部左派政党を除いた主要政党を賄賂と脅迫により合流させ宇宙歴683年に包括政党「ファイアザード自由革命党 FLRP Firezard Liberal Revolutionary Party」を結党。

 

広域犯罪組織や従来の宇宙海賊は自由革命党のスポンサーとなる事で、立法権への間接的なルートを手にし利権拡大への足掛かりとした。

 

しかし、この動きに待ったをかけた存在がいた。

 

戦災復興の為に誘致された企業連だった。

 

企業連は日に日に強くなる広域犯罪組織に対して、自らの利益が侵犯される危機感を抱いだ。

 

そうして企業連は広域犯罪組織や宇宙海賊に対して、こう言った。

 

彼ら曰く「俺らも混ぜろ」

 

企業連は広域犯罪組織や宇宙海賊と、社運や権益をかけて争う気は毛頭なかった。

 

逆に彼らと手を組み、ファイアザードそして同盟内での利益拡大を選ぶことにしたのだ。

 

こうして企業連も自由革命党のスポンサーに収まり、党を通じて企業有利な企業特区、企業租界地、企業自衛権を手に入れていった。

 

 

宇宙歴690年頃からファイアザードは新時代を迎え、半世紀以上の繁栄と平和を謳歌する事となる。

 

 

国家を犯罪者と企業が支配する事になるのと引き換えに。

 

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