黄金の旅路 俺の愛バは凶暴です   作:くろわっさん

1 / 15
ウマ娘にハマりました。復帰作です。よろしくお願いします。


序章 メイクデビュー
キンイロリョテイとの出会い


「───ウマ娘。

 

 それは別世界に存在する名馬たちの魂と名前を受け継ぐ少女たち。

 

 彼女たちには耳があり、尾があり、超人的な脚がある。

 

 時に数奇で、時に輝かしい運命を辿る神秘的な存在。

 

 この世界を生きる彼女たちの運命は、まだ誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 ───だが、アタシには見える、見えるはず…! あと少し、あの神秘のベールの内側があとすこしでぇぇぇ!」

 

「なんかすっごい独り言言いながらスカート覗いてるやつがいる!!?」

 

 俺が見かけたのは、階段で他のウマ娘のスカートの中をとんでもない体勢で覗こうとする、頭のおかしなウマ娘。

 

 これが、俺とキンイロリョテイとの初めての出会いだった。

 

 

 

 

╤╤╤Ω╤╤╤

 

 

 

 

 日本最高峰のウマ娘育成機関、日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称トレセン学園。

 

 幼い頃からレースで走り輝くウマ娘の姿に惹かれた俺は、そのトレーナーとして共に歩むべく、血の滲むような努力を重ね、超高倍率の求人から合格を掴み取り、遂にトレセン学園へと就職した。

 

 短くも濃厚な研修期間を終えた配属初日、ついに俺のエリートトレーナーとしてのウマ娘との輝かしい栄光の日々が幕を開ける。

 

 と、思っていた矢先、俺の目に飛び込んできたのは、階段を登る制服姿のウマ娘のスカートを、上体を逸らしながら階段を登りつつ下から覗こうとするHENTAIウマ娘の姿だった。

 

 しかし、すごい体勢だ。あれはマトリックスポーズ……いや、若い子には伝わらないな。まるでリンボーダンスのように上半身を大きく後ろに倒しながら階段を登っている。とんでもないバランス感覚と桁外れに下半身……トモ*1が強靱なのだろう。やっていることはタダのヤバいやつだが、その身体能力はウマ娘の中でも最高クラスに違いない。

 

「どうせなら大きくピッチを開いて、沈み込む様に階段を登った方が見やすくないか?」

 

 このまま後ろに倒れて階段から落ちるのではないかと心配になった俺は、そのHENTAIウマ娘に思わず声をかけてしまった。無駄に前衛的なアドバイスまで添えて。

 

「お、そうだな…! サンキュー、これで楽園(エデン)が見える!」

 

 その黒髪のウマ娘は俺の声に反応してこちらを一瞥すると、首の辺りでひとつに束ねた艷めく後ろ髪を靡かせながら再び前を向いた。そしてアドバイス通り大きく脚をスライドさせて三段飛ばしで階段をゆっくりと登っていく。

 

 小柄な体格ながらも伸ばされた長い後ろ足。必然的に彼女のスカートからその大腿が惜しげも無く顕になっていく。想像通り、いや想像以上に恐ろしく靱やかで美しいトモである。

 

 階段を登っていく度に右、左、右と繰り返し披露されるその素晴らしい脚。あと少し、あとすこしで芸術的なトモの全容が明らかになると、段々と夢中になっていき無意識のうちに、俺の頭はドンドンと下へ下へと下がっていく。

 

 ふと彼女がこちらを振り返った。俺に気づくと新緑色の瞳を大きく見開き、すぐさまその目付きが鋭いものへと変わっていく。彼女の双眸に浮かび上がっていたのは明らかな敵意と怒りだった。

 

 ふと俺も我に返った。冷静に今の状況を振り返ってみよう。ウマ娘のスカートの中身を覗こうと必死になっているウマ娘のスカートの奥を観ようと必死になっている男性トレーナー……というか、それは俺だった。

 

「何アタシのスカート覗いてんだ! 神聖なる現役ウマ娘を性的な目で見るのは法律で禁止されてるんだぞ!! この変態ッ!!!」

 

「君にだけは言われたく無いんだけど!!?」

 

 謝罪でも言い訳でもなく、俺の口から迷いなく出たのはこの言葉だった。

 

 スカートを手で押えながら彼女は少し顔を赤くして怒っていた。彼女と俺はその場でじっと睨み合う形になる。その小さな体躯に見合わず、鋭い目付きから繰り出される迫力はいっちょ前で、大の大人である俺もちょっと怯んでしまった。

 

 直ぐに辺りがざわつきたじたのを感じる。人が集まってきたのだ。俺も彼女も大声で叫んだもので、内容が内容なだけに当然騒ぎになるだろう。

 

 HENTAIウマ娘と変態(容疑)トレーナー。言い合いになればどちらが負けるかなど勝負せずとも明確である。そして俺は───

 

「ご、誤解だぁぁぁぁあっ!!」

 

───と叫びながら脱兎のごとく逃げ出した。その時の俺は逃げることに必死で、騒ぎの野次ウマ娘の中に絶対の代名詞とも言えるウマ娘が居たことに気付きもしないのだった。

 

 

 

 

 

╤╤╤Ω╤╤╤λΞ

 

 

 

 

 

「痴漢冤罪ってこんな気分なのかな…遭った事ないけど」

 

 夕暮れの学内コース横で俺は独りごちる。あの後何事も無かったかのように配属先である先輩のチームに合流した俺は、サブトレーナーとして新人らしく雑用に勤しんで過ごした。

 

 別段、俺に疑惑の目を向ける者もなかったため、見事に事なきを得たということだろう。と、トレーニング機材を片付けながら俺は安堵していた。

 

 機材を片付けも終わり、さて帰ろうかと建ち並ぶチーム厩舎の横を歩いていた、その時だった。

 

「おお…メジロドーベルちゃん、やっぱたまんねえなあ!」

 

 厩舎の間からHENTAIチックな聞き覚えのある声が聞こえた。まさかと思い見に行くとそこには今朝の黒髪のウマ娘が、厩舎と厩舎の間に脚を突っ張り棒のように広げて、高さ2メートル程の位置にある、換気用の窓から中を覗いていた。

 

 あれは俺を冤罪に貶めようとしたウマ娘…! やはりというか相変わらずというかすごい体勢だ。脚を限界まで開いて身体支えているにも関わらず、ピタリとブレずにその場に居続けている。まず股関節、足首の柔軟性が並では無い。そしてあの驚異的なトモが安定した姿勢を生み出しているのだろう。

 

 トレーニング終わりの時間の筈なのに制服姿の彼女。両脚を180度に開いた、無駄に完成された無駄のない無駄な姿勢により、本来スカートの丈という神秘の領域からベールを脱いだ大腿筋が俺を魅了して止まない。

 

 頭の片隅で俺の中の常識人がヤバイヤバイと警鐘を鳴らしているにも関わらず、二度寝を決め込んだ時の目覚ましのスヌーズを無視するがの如く、俺の身体は意思とは関係なく歩みを進め、あのウマ娘の黄金にも思えるトモの全貌を窺おうとしている。

 

「あっ…」

 

 そう呟いたのは俺か彼女か、どちらの声だっただろうか。

 

 彼女のトモの全容を下から覗こうとする俺と奇怪な体勢で俺を見下ろす彼女。奇しくも今朝と同じような状況で俺と彼女の視線が交差した。新緑色の綺麗な瞳が見覚えのある怒気に包まれるのを俺は察知した。

 

 しかし俺は失敗を糧に前へと進める男。その持ち前の機転と学習能力でトレセン学園のトレーナーまで登りつめたのだ。つまり何が言いたいかと言うと、今朝と同じ轍は踏まないということだっ! 

 

「こらぁ! そこで何をしているんだ君ぃ!!!」

 

 先手必勝。何か叫ばれる前に俺が彼女を叱責する。これが少しだけ成長した俺が灰色の脳細胞フル回転させて導いた勝利の方程式である。

 

「なっ…! おまえがっ…!!」

 

「覗キナンテシテハイケナイヨー。早ク降リテ来ナサーイ!」

 

 下手人が何やら言いたそうにしていたが、俺はやや片言になりつつも大声で追撃を行った。

 

 するとどうなるか、答えは簡単。人が集まってくるのである。しかし今朝とは違い正義は完全に俺にある。俺は集まる野次ウマ娘たちに臆することなく、堂々と衆目に晒された。逆に彼女は増える野次ウマ娘に逃げ場を失っていく。今更壁から飛び降りようがもう遅い。

 

「おい! これはなんの騒ぎだ!」

 

 凛とした声が響く。するとざわめきがサッと収まり、野次ウマ娘たちがモーゼの十戒の如くふたつ割れて、そこからひとりのウマ娘が肩を震わせながらこちらに向かってきた。

 

「また貴様か!」

 

 そう言って彼女を指さしたのはこの学園の生徒会副会長である、女帝エアグルーヴだ。思わぬビッグネームの登場にこんな状況ながら、この学園に来てよかったと心が踊った。

 

「げぇ!? エアグルーヴ!」

 

「げぇ!? ではない! 今度は何をやったんだ貴様は」

 

「この子が厩舎の窓から中を覗いてたんだ。恐らくだけど……他のウマ娘の着替えを……なんて言うか、その、盗み見してたんだと思う」

 

「ちょっ! オマっ…!?」

 

 俺はエアグルーヴに言葉を詰まらせながら、見つけた悪行の報告をする。俺の説明にエアグルーヴは額に青筋を浮かべながら彼女を睨みつけていた。

 

 これはあくまで正義の行ないである。決して俺に覗き魔の冤罪を擦り付けようとした、目の前の小癪で小生意気な小娘に仕返ししようなどと小さなことを考えてやったのではない。わからせてやろうなどと思ってはいないのだ。ホントだよ。

 

「この野郎っ…! 覚えてろよっ!!!」

 

 彼女は見上げる形でキッと俺を睨みつけると、割れた野次ウマ娘の間を目指して逃げ出そうと、地面スレスレの前傾姿勢で一気に駆け出した。

 

「おい待て!」

 

 さすがは黄金のトモのウマ娘! 素晴らしい加速だ! と思わず褒めたくなるほど好スタートを切る彼女。エアグルーヴの虚をついてイナズマのようなステップで躱していく。

 

「逃がさんっ!!」

 

 エアグルーヴに意識を割いていた彼女は俺の真横を抜けていこうとするが、ラガーマンの経験のある俺を抜き去るには些か距離が近過ぎた。俺は彼女を脇腹を横から抱えるように捕まえると、逃げられないようにそのまま持ち上げた。

 

「このっ! 離せ! 離せよおまえっ!!」

 

 じたばたと俺の腕の中で藻掻く彼女。しかし身長150cmあるかないかの彼女と180オーバーの俺では、その体格差は正しく大人と子供のそれだ。逃げられるはずが無いがあまりにも暴れるので、腕の中を徐々にずり落ちていきそうになる。なので俺は逃がすまいと、グッと持ち上げ直して彼女の身体を掴んだ。

 

「なっ…!? どこ触ってんだこの野郎っ!!」

 

「何処って……腹じゃないのか?」

 

「───死ねっ!!!」

 

 罵声のあとに俺の腕に激痛が走る。真っ白になる頭の中で分かったのは、彼女が俺の腕に思い切り噛み付いたという理解し難い事実だけだった。

 

 夕焼けに輝く学園に俺の断末魔が木霊した。

 

 

 

 

 

 

╤╤╤Ω╤╤╤λλΞ

 

 

 

 

 

「失礼します。会長、騒ぎを起こしていた主犯を連れてきました」

 

「ああ、入ってくれ」

 

 穏やかだがどこか威厳のある返事を聞いたエアグルーヴが生徒会室のドアを開く。連れられてきたのは簀巻きにされた彼女、次いでに俺だ。そこに待ち受けていたのは俺の予想通りの人物。

 

「ご苦労さま、エアグルーヴ」

 

 トレセン学園生徒会会長、皇帝シンボリルドルフ。レースに絶対は無いが彼女には絶対がある、とまで言われた日本最高峰のウマ娘である。無敗の三冠という偉業。俺も学生時代にレース場へ足を運び応援に行ったものだ。

 

「やあ、キンイロリョテイ……それに、そこの彼は?」

 

「リョテイを捕まえる手助けをしてもらいました。それに今回の騒ぎの第一発見者だったので、説明をして頂こうとお連れしました」

 

「そうか……君が。ふふ、ちょうど君を探そうとしていた所だったんだ。お陰で手間が省けたよ、ありがとうエアグルーヴ」

 

 シンボリルドルフの言葉は俺にはなんの事か分からない。チラリとエアグルーヴを窺うが同じく頭には疑問符が浮かんでいた。そして残りのひとり、黒髪の小柄な彼女……その名もキンイロリョテイ。問題のウマ娘もなんの事やらと言った状態だ。

 

「とはいえ、先ずは君だキンイロリョテイ。この手の問題を起こすのはこれで何度目だったかな?」

 

「さあ? 覚えてないねえ。もしかしたら初めてなんじゃないか」

 

「ふざけるなよ貴様! 数え切れないほど多いじゃないか!」

 

「そーだったかなあ? まあいつものことだろ? 許せよ、エアグルーヴ」

 

「逆だ! それは許す側の態度だろ!」

 

 彼女らの様子を見るからにキンイロリョテイがこの手の騒動をやらかしたのは1度や2度ではなさそうだ。配属初日ながら中々厄介なことに巻き込まれたのかもしれない。

 

「はぁ……それでも誇り高き血統なのか貴様は。父はあの日静系列の役員で、母もウマ娘。しかも母方の親族にはマイルチャンピオンシップを制したあのサッカーボーイさんまでいるじゃないか! 両親やサッカーボーイさんに申し訳ないと思わんのか!!」

 

 怒りを顕にするエアグルーヴの話から分かったのは、この拗ねた顔で捕まっているキンイロリョテイは、かなり良いとこのボンボn……お嬢様ということだ。

 

 お嬢様ウマ娘というともっと「○○家の誇りにかけて負けられませんわ!」みたいな感じのを想像していたが、どうにも現実は違うみたいだな。

 

 まあ、このトレセン学園は目の前のシンボリルドルフを筆頭に、トゥインクルシリーズで大活躍するスーパーメジャーウマ娘が数多く所属する日本を代表するウマ娘の聖地。つまりウマ娘界のエリート中のエリートの集まりである訳だが、そんな中にもこいつのような度し難い輩がいるのかと驚愕させられる。

 

 俺がキンイロリョテイに冷ややかな目を向けてみると、彼女はめちゃくちゃ面倒くさそうに話をききながしていた。

 

「トレセン学園の校風は確かに生徒の自主性を重んじるものだが、生徒会が学園に便宜を図るのにも限度があるのだよ」

 

「ふぅん。それで?」

 

「我々の手を超えるとそこは学園上層部の領域だ。そして彼らは真っ先に学園のグレーとなるものを排除しようとするだろう。私としてもそれだけは避けたい、わかるだろう?」

 

「つまり可哀想なアタシを助けてくれると、流石は皇帝シンボリルドルフさまだ! アタシも出来ることなら会長みたいないい子になりたいもんだよ」

 

「君が自主的にそうしてくれると助かるんだが、それが叶わないなら私は、君の素行についてご両親に相談することになるのだが……」

 

「それだけは勘弁してくださいお願いします」

 

 会長がスマホを手に持つとある番号を表示した画面をキンイロリョテイにみせる。するとそれまで気だるげに話を聞いていたのが嘘のように綺麗な最敬礼で彼女は頭を下げた。

 

 よ、弱え……実家に弱過ぎるぞ跳ねっ返りお嬢様。反骨精神の塊みたいな感じだと思っていたのに…

 

「なら私のお願いを聞いてくれるね?」

 

「如何様にも…」

 

「良し。なら少し話しを戻そうか。ではトレーナー君、今回の件を君の口から聞こうか」

 

 ただでさえ小さなキンイロリョテイが更に小さくなって見えるようになると、シンボリルドルフは俺へと話しを振った。それに従い俺はキンイロリョテイのチーム厩舎での悪戯を、あくまで俺目線の犯行として事細かに語った。途中、キンイロリョテイが何が言いたそうにしていたが、会長がスマホを見せつけるとすぐに黙る。流石は皇帝シンボリルドルフ、恐ろしく強かな駆け引きである。

 

 話を終えてこれで俺の小さなリベンジは完了、そして俺は日常へと帰れる。そう思っていたのだが…

 

「なるほど、今日は夕方にもそんなことがあったのだね」

 

「ん? 夕方にも…?」

 

「ああ、実は朝もキンイロリョテイが騒ぎを起こしたと報告が上がっていてね」

 

「そ、そう…知ラナカッタナー」

 

 なんか話の流れが変わってきたぞ。嫌な予感が止まらない。思わずシラを切ってしまったが、正直、心当たりしかない。

 

「このキンイロリョテイと男性トレーナーが生徒のスカートの中を必死になって覗いていた、という話なんだが…」

 

「それ! こい──」

 

「──まだ会長が喋ってるでしょうがぁぁっ!!」

 

 俺は咄嗟にキンイロリョテイを口を覆って黙らせる。全くもってスマートではない力技だが、冷や汗の止まらない俺はそれだけ心の余裕がない。ムームーと騒ぐキンイロリョテイ抑えつつ俺は苦笑いを浮かべながら、極力冷静に見えるように気をつけながら続きを促した。

 

「ふふっ。それでそのトレーナーの特徴というのが身長180センチ、髪は茶、筋肉モリモリのマッチョメンの変態だったということらしいんだが…」

 

「へ、へぇ…」

 

「実は私もその場に居合わせていたんだよ。男の顔はチラリとしか見えなかったが、君は何か知らないかな?」

 

「いやぁ…そのぉ……」

 

 またしても話をはぐらかそうと俺は口篭る。

 

 シンボリルドルフの笑顔の圧がハンパない。もう無理か……? いや、まだだ! ここまでなんバ身のリードを保ったと思っている。キンイロリョテイを壁にして大逃げしてきたんだぞ。ゴールまであと200! 逃げ切れる!! 

 

「ところで、このシンボリルドルフには1度見た人の顔を忘れないという特技があってだね──」

 

「──違うんです誤解なんですごめんなさい」

 

 差しきってゴール! 1着はシンボリルドルフ! 着差以上の勝利を見せました! という実況が頭に浮かびながら、俺は皇帝に平伏した。

 

「誤解、か。つまり君は邪な思いで彼女のスカートの中を覗こうとしていた訳ではないと?」

 

「勿論ですとも! 俺は彼女の黄金と見違えるほど輝くトモを観ていたんだ! 靱やかさと力強さを併せ持つそのトモは、度を超えた上体逸らしや一切のブレを感じさせない壁への張り付きを可能にしていた! 浮かび上がる大腿四頭筋*2、特に大腿直筋*3なんてターフに聳えるゴール版のような主張をしていた! それにハムストリングス*4の全体バランスも申し分ない! こんなに完成されたトモに興味を持たないなんてソイツはトレーナーとして不能としか言えないだろう。俺は違う! あんな美しいものを見せられてしまったら観ずにはいられないんだ! あの脚はどんな走りをするのだろう、そのトモはどこまでウマ娘の身体を前へと進めるのだろう、このウマ娘はターフでどんな景色を見て、どれだけ俺を魅せてくれるのだろうかと思わずにはいられないほど、彼女の脚は素晴らしかった!! そう、素晴らしかったという言葉では済まされないほどキンイロリョテイのトモは可能性の塊だったのだよ!! 結果としてトモの全貌を窺うためにスカートを覗き込むような体勢になってしまったのは否定しない! 否定はしないが、そこには一切の性的な視線などなく、邪な思いなど抱いてはなかったと三女神に誓おうっ!!!」

 

 自分の口から出たとは思えないほどの早口で俺は語りきった。そして静寂が生徒会室を包む。やってしまった。そう思って皆の顔を窺うと、エアグルーヴはドン引きしていた。キンイロリョテイは顔を赤くして俯いており、シンボリルドルフは満足気に生暖かい目を俺に向けていた。

 

「ふふふ、実に情熱的じゃないか。ここまで褒められる気分はどうだい、キンイロリョテイ」

 

「この変態め…」

 

 キンイロリョテイは羞恥の念を込めて俺を上目遣いで睨みつける。少し小っ恥ずかしいことを口にしたと、反省したが後悔はしていない。

 

「君も若い。皆美しい女性の姿を持つウマ娘をそういう目で見てしまうことは決して不自然ではないと私は思う。実際ファンの中にはそういう者もいるだろうし、我々としても黙認しているところはある……それでも君は彼女に対してそういった思いは一切抱かなかったと?」

 

「ははっ、エアグルーヴみたいなグラマラスならまだしも、こんなチンチクリンにそんなもん欠片も抱かないよ」

 

「───死ねっ!!!」

 

 無意識でポンポンとキンイロリョテイの頭を撫でていた俺の手に激痛が走る。痛みから一拍おいてキンイロリョテイが噛み付いてきたのだと把握した。

 

 日も落ちきった生徒会室に俺の断末魔が木霊した。

 

 

 

 

╤╤╤Ω╤╤λλλΞ

 

 

 

 

「まったく……トレーナー界のエリート中のエリートが集まるこのトレセン学園に、こんな度し難い輩がいたのかと驚愕させられる。会長、コイツは間違いなくクロです。然るべき処分をくだしましょう」

 

「まあそう怒るなエアグルーヴ。同性の私から見たって君は魅力的なウマ娘だ。彼がそれをふと口にしてもおかしくは無いよ」

 

 身体を両腕で抱きながら嫌悪感を撒き散らすエアグルーヴ。シンボリルドルフの言葉に少し揺れているように見えるが、怒りは収まりそうにない。先程は口を滑らせてしまったが、そんな姿も正直可愛いです。

 

「私の見立てでは彼はシロだ。先程の熱意に嘘はないように見える。だろうトレーナーくん?」

 

「もちろんです!」

 

「自分で言うのもなんだが、私はこれでもこの学園では信頼されていてね、私がシロだと言えば君の疑惑もなかった事になるだろう」

 

「助けてください、何でもしますから!」

 

「なんでもすると言いきるか。ホントに君は話が早くて助かるよ」

 

 シンボリルドルフが浮べる不敵な笑みに、俺はまた早まって口を滑らせたのではないかと、少し後悔をした。だが俺の社会的地位は今、皇帝シンボリルドルフに握られていると言っても過言ではない。皇帝に訂正は許されないのだ。

 

「さて、そういうことなら話をキンイロリョテイに戻そう。実は彼女は既にデビュー戦を控えているんだが、まだ所属するチームも担当トレーナーも決まっていない状態なんだ」

 

「まあ……この態度なら仕方ないんじゃないか。こんなじゃじゃウマ娘の担当なんて誰もやりたがらないだろ。にしてもそんな状態でデビュー戦が決まるものなのか?」

 

「うるせー。アタシだってやりたかねえけど、アタシの運命がそう言ってんだよ」

 

 不服そうにキンイロリョテイが俺に告げる。運命…ウマ娘として生まれたからには運命からは逃れられないと言われている。つまりコイツは問題児過ぎて担当がいないまま1人で走る事になるのか…? 残念ながら当然とも言える現状らしいが、それはあまりにも…不憫だ。

 

「そこで君だよ、トレーナー君。君にキンイロリョテイの担当トレーナーとなってもらいたい。二人でトゥインクルシリーズに挑むんだ」

 

「「この変態と!!?」」

 

「「はぁ!?」」

 

 俺とキンイロリョテイは顔を合わせてユニゾンしながら互いに抗議した。シンボリルドルフは早速息があっているじゃないかと笑っているが、こちとら冗談ではない。

 

 しかし、シンボリルドルフはスっと表情を変え、真剣そのものといった面持ちで続けた。

 

「不服かい?」

 

「そりゃそうさ! こんな変態がトレーナーなんて冗談じゃない! アタシはひとりでだってやれるっ!!」

 

「残念だが、君の置かれた状況はそう簡単なものではない。担当トレーナーが居なければ君はレースには出られない。そしてレースに出られないということは、ウマ娘としての運命に抗う……いや、走らなければ運命そのものに見放されることになるだろう」

 

「でも! 運命にない走りを続けているウマ娘だっているじゃないか…」

 

「そう、かくいう私もそのひとりだ。しかし私は運命から見放されたのではない。運命が役目を果たして還っていったんだよ。それでも私は私の意思で、シンボリルドルフというウマ娘として走り続けているんだ。これは大きな違いだよ」

 

「…………っ!」

 

「君は選ばければならない。ウマ娘として走るか、ウマ娘を辞めるかを…」

 

 シンボリルドルフの言葉に、キンイロリョテイは黙り込んでしまい、悲痛な表情を浮かべた。

 

 生徒会室に静寂が満たされる。

 

キンイロリョテイもシンボリルドルフも黙し、先程まで怒り心頭だったエアグルーヴも悲しげな瞳をしていた。そして俺も一人のウマ娘を愛する者として、その過酷な宣告に言葉を失った。

 

「話しを続けようか。トレーナー君、君の場合はもっとライトな問題だ。リョテイのトレーナーを辞するということなら、君の学園での居場所は無くなるというだけだ」

 

「全然ライトじゃねぇ!!?」

 

 全然、ライトな問題じゃねえ! 普通にヘビーな問題で、思わずそのまま口から言葉がこぼれ落ちてしまった。

 

「おや? 君はリョテイのトモに、脚に、引いては彼女と言うウマ娘に多大なる期待と興味を持っていたと理解していたが?」

 

「それは…そうなんだが。いや、しかし…」

 

「それともあの情熱的な言葉の数々は、全て私を誤魔化すためのデマカセだったというのか? ならば私はトレセン学園生徒会長として、我が校のウマ娘に性的な視線で覗き行為を図った不届き者を告発し、然るべき処分を下して貰わなくてならないのだが……どうなんだい?」

 

「確かに…キンイロリョテイのトモは黄金…ぐぬぬ!」

 

 これが皇帝シンボリルドルフのやり方か。恐ろしく強かに相手を追い詰めかつ逃げ場も用意して、そこは袋小路ときたもんだ。

 

 出来ることなら、こんな凶暴噛み付きウマ娘とは今後関わりを持ちたくない。食べていいよと与えてやったら俺の腕の肉を喰うんじゃないかと思うくらいだ。

 

 ああ、コイツに噛まれた腕と手がジンジンと痛い。しかしコイツが担当ウマ娘になることを考えたらズキズキと頭が痛くなってくる。なんでこんなことになったのかと思ったらしくしくと心まで痛くなってきた。

 

「なに、難しく考えることはないじゃないか。君は欲していた才能溢れるウマ娘をスカウトするまでもなく、担当することが出来る。トレーナーとしてはまたと無い機会だと思うが?」

 

「それはそうなんだが…キンイロリョテイは、ねえ?」

 

「彼女の素行については君なら大丈夫だろう。既にやられているが、普通のトレーナーは彼女に本気で噛みつかれたら痛いでは済まないよ」

 

「どうして俺の頑丈さが勘定に入ってるんですかねえ」

 

「ぷっ…くくっ。頑丈(がんじょう)勘定(かんじょう)…なかなか面白いじゃないか」

 

 なにわろとんねん。こちとら洒落じゃ済まない状況なんだが? と思っていても俺はそれを口に出せない。なぜなら今の俺の立場はこの場で最底辺と言ってもいいからだ。

 

「ふむ、どちらにせよ君には選ぶしかないのだよ、偉ぶるつもりは無いけれどね」

 

 もしかしてダジャレ言った? 俺の社会的生死がかかったこの場面で? 俺のたまたまの発言に対抗して?

 

「ふっざけんなよ!!!」と言いたいとこだが、それは出来ない……会長に挑めば僕は死ぬ。僕は生きろと命じられた……! 

 

 今にもこの皇帝をギャフンと言わせて、ションボリルドルフにしてやりたいのはやまやまだが、俺の生死は会長の掌の上。生殺与奪の権を他人に握らせるなとはよく言ったもので、まさに為す術もない……これからは冨岡教の信者としてこの金言を布教して生きていこう。

 

「それでどうする? 先程も言ったようにリョテイには時間が無い。急かすようで済まないが、この場で答えを出して貰わなくてはならない」

 

「お、俺は……俺はっ……!!」

 

 俺は苦悶し、顔を顰め悩み抜く。念願のトレセン学園トレーナーになれたというのにこの仕打ちである。辛い。

 

 一瞬、これまでのようにレース場で観客席からウマ娘たちの輝く姿を後方トレーナー面で見守ることが思い浮かんだ。レースに白熱し、最高の興奮のままウイニングライブでペンライトを振り回す。そうして脳裏に美しく輝くウマ娘の姿を刻み、最高の気分のまま家に帰り、ベットでレースの盛り上がりを思い出してまた興奮するのだ。うん、悪くないじゃないか。

 

 ふと、隣に立つキンイロリョテイの方を見た。彼女は俺を見ていた。表情はなく、感情は読み取れない。それでも新緑色の双眸が真っ直ぐに俺を捉えて離さない。

 

 俺が断るということ。それはコイツにとって担当トレーナーを得る機会が無くなるということ。そしてコイツに着いてくれるトレーナーはこの学園には既に居ないであろうということ。

 

 ウマ娘として生まれたのに、輝く機会を与えられず、挑むことすらままならないで、その運命を手放す。それはダメだ。認められない。そんなことを認めしまっては、俺は俺を許せない。

 

 超満員のレース場のターフで、数多の光に包まれたアリーナで、その中で一番に輝くキンイロリョテイの姿が頭に浮かぶ。

 

 

 

 ───俺の答えは決まった。

 

 

 

「やります……やらせてください! 俺は、キンイロリョテイの担当トレーナーです!!」

 

 心のサードチルドレンを呼び覚まし、俺は宣言した。シンボリルドルフは満足気に頷き、凛々しくも優しい笑顔を見せた。

 

「良い返事だ。ありがとうトレーナー君。そういう事だがリョテイ。君の答えは?」

 

「それしか選択肢は無いんだろ? しょうがねえから暫くはこいつと組んでやる」

 

 これでもかというくらい不服そうにキンイロリョテイは、ため息を吐きながら頷いた。だが「でもな」と続けて俺を指さす。

 

「オマエは別のトレーナーが見つかるまでの繋ぎだ! 直ぐにおまえなんか捨ててやるからな!!」

 

「なにィ!?」

 

「アタシはいつもアタシのことを一番に考えてくれて、アタシの言うことを何でも聞いてくれる、そんなトレーナーに担当してもらうんだよ! お前みたいな変態トレーナーと違ってな!!」

 

「俺だって、いつもは凛々しいのに弱った時は俺に甘えてくるような、俺を誰よりも信頼してくれるウマ娘を担当したいんだよ!!」

 

「うわキモっ!」

 

「キモくない!」

 

「夢見んな、変態クソデカ筋肉ダルマ!」

 

「こっちのセリフだ、HENTAIちびっ子ウマ娘!!」

 

「───死ねっ!!!」

 

 前言撤回したい。そう思いながら既に慣れ始めてしまった激痛が俺の腕に走った。

 

 月明かりが照らす学園に俺の断末魔が木霊した。

 

 

 

 

 

 

λλΞ╤╤Ω╤╤╤

 

 

 

 

 

 静かになった生徒会室。そこには会長席に腰掛けるシンボリルドルフと傍に控えるエアグルーヴがいた。

 

「騒々しい奴等でしたね……学園の問題児を変わり者の新人トレーナーに組ませる。これらは全部会長の計算通りですか。いったい何時からこんな計画を?」

 

「人聞きが悪いね。あくまでこれは彼らの運命なのだと思うよ。それにいいコンビだったじゃないか、相性◎といった所かな」

 

「まあ…似たもの同士ではありますね」

 

「だろう? それに、あの二人ならなにか我々の想像もつかないようなことを成し遂げてくれる。そんな予感がするんだ」

 

 シンボリルドルフは机の上で腕を組んで、不敵な笑みを浮かべ彼らの行く末に想いを馳せた。

 

 

 ───狂気のウマ娘キンイロリョテイと変人新人トレーナー。二人の黄金の旅路が始まる。

 

 

*1
臀部から脚部にかけての総称。ウマ娘の推進力の源になる。

*2
太腿の前側の筋肉群

*3
大腿四頭筋の真ん中にある筋肉

*4
太腿の後ろ側の筋肉群




プリティとダービー要素どこ?ここ?

次回はレースする予定です。


お読みいただきありがとうございます。皆様のお気に入り、感想、評価お待ちしております。次回もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。