黄金の旅路 俺の愛バは凶暴です   作:くろわっさん

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GII 京都新聞杯

 グレードレース。重賞競走とも言われるウマ娘のレースの最高峰。

 

 そんな高みに俺とリョテイは挑戦することになった。リョテイは3勝クラス、オープンクラス、そしてGIIIを飛び越していきなりGIIの京都新聞杯に挑むことになる。

 

 圧倒的に格上ばかりの挑戦を控えて、リョテイは怯むどころかやる気を上げてトレーニングを重ねていく。

 

 最終目標をその先の菊花賞に定めた俺たちはスタミナトレーニングを中心にひと月の時を過ごした。

 

 時折起こるリョテイの噛みつきや、フェスタのサボり。ゴルシの暴走を除けばとくに大きな問題もなくレース当日を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

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 10月前半 GII京都新聞杯 京都 芝2200m

 

 レース開始前の地下バ道。薄暗いトンネルをゆったりとした歩調で歩くのは、今回重賞競走初参加のキンイロリョテイである。その歩みからは怯えも緊張も感じられないほど堂々としている。

 

「まさかリョテイと重賞で走ることになるとは思ってもみなかったであります」

 

「あ? おう、ブライトじゃねえか」

 

 キンイロリョテイに話しかけたのは、メジロブライトというウマ娘だ。彼女が以前所属していたチームのリーダーを務めている重賞経験豊富なエースウマ娘である。

 

「そういやブライトとトゥインクルシリーズで走るのは初めてだったな。昔みたいに楽しく競走しようや。可愛がってやるからよ」

 

「昔とは違うであります! というか実績も経験も私の方が上なのに、なんでそんなに上から目線なんでありますか!?」

 

「なんでってそりゃブライトだし? それに併せ練の時だってべつにお前に千切られたりしてなかったじゃん?」

 

「千切ったら併せ練習に成らないからで、その気になればいつだって千切れたのでありますよ!」

 

 興奮気味にメジロブライトは訴えるが、キンイロリョテイは何処吹く風で意にも介さない。

 

「まったく背丈と胸ばっかりでっかくなったと思ったら、態度まででかくなっちゃってまぁ。昔の可愛らしかったブライトちゃんはどこに行ったのやら」

 

 呆れたように手を振るキンイロリョテイ。その姿にメジロブライトは握った拳を震わせて歯ぎしりする。

 

 メジロブライトの脳裏に浮かぶのは幼い頃の苦い記憶。

 

 メジロ家に他所の同年代のウマ娘が遊びに来ると聞いて、どんな子だろうと楽しみにしていたら、そこに現れたのは小さな暴君だったのだ。

 

 メジロブライトは幼馴染で親戚のメジロドーベルと共に、ヤンチャ盛りなキンイロリョテイにそれはそれはいじめられていたのだ。当のキンイロリョテイは遊んでやった程度にしか思っていないので尚のことタチが悪い。

 

 年上のメジロライアンやしっかり者のメジロマックイーンが止めていなければどれだけエスカレートしていたか、想像するだけでも恐ろしいと思っていた。

 

 それから時が流れ、トレセン学園へキンイロリョテイと同時期に入学し、自らは真面目にトレーニングに励んできた。キンイロリョテイは学校で話題の問題児になるほどに何も変わっていなかった。

 

 親身になってくれたメジロライアンと共に肉体改造にも打ち込み、鋼の肉体を手に入れ重賞競走も制覇した。クラシック三冠である皐月賞と日本ダービーでは制覇こそ出来なかったが、好成績を残し最後の一冠菊花賞に向けて更なる努力を重ねてきたのだ。

 

 ──キンイロリョテイとは格付けが済んだ。

 

 そう思っていたのだ。それが実際はどうだろう。目の前のキンイロリョテイは恐縮しているかと思えば不敵にニヤついている。未勝利戦でまごついているかと思っていたが、菊花賞のトライアルレースである京都新聞杯まで登りつめてきているではないか。

 

 まだ過去の精算は出来ていなかった。ならばどうするか。答えはひとつだ。

 

「全てはこのレースでわからせてやるであります。我々は……ウマ娘でありますから」

 

「おー。楽しみにしてるぜー」

 

 それだけ告げてメジロブライトはキンイロリョテイに背を向けターフに歩いていく。キンイロリョテイの気の抜けた返事を受けながらも、その背には絶対に勝つという強い意志が浮かび上がっていたのだった。

 

 

 

 

 

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 晴れ渡る京都レース場。バ場は文句なしの良。12人のウマ娘がゲートに並んだ。

 

 1番人気は先日の神戸新聞杯を制した1枠1番マチカネフクキタル。打倒キンイロリョテイへ気合いの入った5枠6番メジロブライトは2番人気で期待値は上々である。そしてそのキンイロリョテイは3枠3番で7番人気と真ん中の方で出走し、真ん中くらいの人気を得ていた。

 

 初の重賞競走とは思えないほどキンイロリョテイは落ち着いており、スタンドで見守るトレーナーのほうがよっぽど不安と緊張に包まれているくらいだ。

 

「“ スタートしました! ”」

 

 ゲートが開き12人のウマ娘が一斉にターフを踏み出していく。早速先行争いが始まるが、キンイロリョテイはいつもの定位置中団外側に着けていく。その内にはマチカネフクキタルが走っている。少し出遅れたメジロブライトは最後方からのレースとなる。

 

シラオキ様……シラオキ様……シラオキ様……

 

 キンイロリョテイの耳には斜め前を走るマチカネフクキタルが何かを呟きながら走っているのがわかったが、内容までは聞こえず不気味に思いながらもレースは進んで行った。

 

「いい調子だぞ、リョテイ!」

 

 勝ち星を上げた阿寒湖特別と同じようなレース展開で走るキンイロリョテイに、トレーナーは重賞制覇も見えてきたと期待を寄せる。

 

 先頭から最後方まではそこまで開きがなく、凝縮されたレース展開でまだまだ何が起こるかわからない。

 

「“ さあ第3コーナー。避けては通れない京都の坂に先頭が差し迫っていきます! ”」

 

 集団は第3コーナーへと突入にしていく。キンイロリョテイは変わらず中団6番手のままだ。しかしここでレースが動き始める。

 

「“ 後ろからメジロブライトだ! 後ろからメジロブライトが上がってまいりました!! ”」

 

 最後方にいたメジロブライトがここで仕掛けた。鍛え抜かれた筋肉とメジロのステイヤーとしての血が合わさったこの追い込みこそが、彼女の最大の武器なのだ。

 

 坂を坂とも思わぬような豪快な追い上げを見せてグングンと上がり、順位を上げていくメジロブライト。第4コーナーにはいり、キンイロリョテイも仕掛けていく。

 

 コーナーを曲がり終えて抜け出るために外に出るキンイロリョテイ。その更に外側にはメジロブライトが並んできていた。

 

「勝負であります! リョテイッ!!」

 

「望むところだッ!!」

 

 キンイロリョテイとメジロブライトは並んでスパートを掛ける。

 

「“ メジロブライト! メジロブライトだ! ここでキンイロリョテイも上がってきた! ”」

 

 競り合うメジロブライトとキンイロリョテイ。絶対に負けられない戦いが2人の闘志に火をつけ、デットヒートを繰り広げていく。

 

 わぁあああっと歓声が一気に沸き起こる。重賞では無名のキンイロリョテイが、クラシック常連のメジロブライトと互角に張り合うまさかの姿に場内はヒートアップせざるを得ない。

 

「はあああああ───ッ!!」

 

「うおおおお────ッ!!」

 

 互いに1歩も譲らない争い。しかし残り300でレースが更に動き出す。

 

「もらったでありますッ!!」

 

 メジロブライトがキンイロリョテイより頭一つ抜け出した、その瞬間だった。強烈なプレッシャーが二人に襲い掛かる。

 

「“ 内からマチカネフクキタルだぁ───っ! ”」

 

 直線の外側でキンイロリョテイとメジロブライトが張り合っている反対側からマチカネフクキタルが驚異的な末脚で一気に駆け上がってきたのだ。

 

「あぁシラオキ様っ! 私はっ! 私はぁああ───!!」

 

 マチカネフクキタルの双眸が怪しげに光り輝き、信奉する神の導きを一身に受けて突き抜けていく。

 

 その身に宿すのは狂気か信心か。しかしその脚には尋常ではない何が宿っていた。

 

 正しく神がかったその末脚でキンイロリョテイ、メジロブライトを置き去りにして誰よりも早くスタンド前を駆ける。

 

 キンイロリョテイもメジロブライトも信じられないものを見たような顔になってしまい、突き抜けるマチカネフクキタルの背を見せつけられる。

 

 必死に追いつこうと走るも、その差は縮まらず開いていく一方であった。

 

「“ マチカネフクキタルゴールイン! 神戸に続いて京都にも福が来た───!! ”」

 

 そのままマチカネフクキタルはゴール板を駆け抜け、キンイロリョテイと鎬を削ったメジロブライトは最後に3番人気のパルスビートに抜かされ3着に。キンイロリョテイはそれから1と半バ身離されて4着でゴールした。

 

 蓋を開けてみれば上位を人気の3人が埋めるという、順当とも言える結果で京都新聞杯は幕を閉じた。

 

 キンイロリョテイは7番人気ながら掲示板に入着する大健闘を果たした。しかし当の本人は全く納得していなかったようだ。

 

「クソっ!!」

 

 肩で息をしながらキンイロリョテイが悪態をついた。

 

 そのキンイロリョテイの顔に影がかかる。メジロブライトが何がいいだけにして歩いてきたのだ。

 

「リョテイ」

 

「なんだよ? 勝ったって言いてえのか? 掲示板見れば分かるよ!」

 

「違うであります。これでリョテイに勝ったなんて思えるほど腐ってるつもりはないでありますから」

 

「なら……なんだよ?」

 

「決着は菊花賞に取っておくであります。GⅠの舞台で私が1着を取って……そして私の勝ちだと貴様に言ってやるのであります」

 

 幼い頃からの決別は最高の舞台で着けると、メジロブライトはその意志をキンイロリョテイにぶつけて踵を返した。

 

「言いたいことだけ言いやがって……菊花賞か。上等だよ……!!」

 

 キンイロリョテイはメジロブライトの背を見送りながら拳を固く握りしめて、次の舞台でのリベンジを己に誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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 京都新聞杯から1週間後。チームルームで俺とリョテイ、そしてフェスタは先の反省会を改めて開いていた。

 

「京都新聞杯は惜しかったな。結果としては4着だが、初の重賞で中団から最後に抜け出す自分の走りを出来ていたと思う」

 

「それでも負けは負けだろ?」

 

「確かにそうだが……最終コーナーでもう少し上手く前を躱すことが出来れば、消耗せず最後まで加速できていたかもしれない。1着のマチカネフクキタルとの差は0.4だったから、十分に勝ちは狙えた筈だ。あくまでたらればの話だがな。でもお前は誇らしいレースをしたと俺は思う! リョテイなら重賞勝利だって全然夢じゃなく、射程圏内に十分にあるさ!」

 

 俺は京都新聞杯でのリョテイをそう評価した。あれ以来若干落ち込み気味なリョテイには少しくらい大袈裟に伝えないと、変に思い違いをしてネガティブ取られてしまう可能性があるからな。

 

 そしてそれを聞いたリョテイは、顔をやや赤らめてそっぽを向いてしまった。

 

「勝ってねえのに褒めすぎだ……アホ……」

 

「おー? 照れてんのかい?」

 

「こらフェスタ、照れてねえよ!」

 

「図星かぁ」

 

「図星じゃねえ!!」

 

 フェスタが珍しくリョテイを弄り、やいのやいのと楽しそうにしている。きっとフェスタもリョテイが盛り下がっているのを気にかけていたのだろう。

 

 リョテイが元気になったところで、次の話をするべく俺は大きく手を叩いて流れを切りかえた。

 

「さて、惜しくも菊花賞の優先出走権は逃してしまったんだが……」

 

「悪かったな、勝てなくて」

 

「待て待て、そうじゃない。その菊花賞なんだが、獲得賞金順でなんとか滑り込めて、無事出走が決定しましたー。はい、拍手ー」

 

「おお、良かったじゃないか」

 

「阿寒湖特別の1着と京都新聞杯の4着が効いたんだ。GIIだと4着でも1勝クラスの1着くらいの額が出るからな」

 

「へへっ」

 

 リョテイは鼻の下を擦りながら少し照れていた。しかしこれで次のレースは菊花賞に決まったのだ。

 

 そこで俺は予め持ち込んでいた荷物をリョテイに手渡すことにした。

 

「なんだよこれ?」

 

「お前の実家から届いてた荷物だよ。開けてみな」

 

「この流れで渡すってことは……」

 

 俺はリョテイに荷解きをするように促し、一旦チームルームから出ていく。

 

 リョテイも察していたが、きっと嬉しいプレゼントに違いないな。

 

 暫く時間を潰してから、ノックをして俺はチームルームへと戻った。

 

「どう……似合ってるかな?」

 

 リョテイは言葉を詰まらせながら俺に尋ねた。

 

 その身を包むのは黒を基調とし、名を冠する金色に縁取られ飾られたゴシックワンピース。胸元には大人びた黒いレースがタイのように伸びる。ワンピースに合わせるようにデザインされたケープには華とも十字架ともとれるモチーフの白いアクセサリーが飾られている。靱やかな脚を包むのは濃いデニールの黒いタイツ。そして黒のブーツは爪先と踵が白く彩られていた。

 

 何を隠そうリョテイの母から預かっていたのは、この勝負服だったのだ。

 

「よく似合ってるよ、マ子にも衣装ってのはこのことだな」

 

 俺は心の底からそう思った。これで黙っていればまるでクールなウマ娘のようだ。

 

「だから褒めすぎだっての……」

 

 リョテイはまたしても頬を赤らめてそっぽを向いてしまった。

 

「照れてんのかい?」

 

「照れてねえ! しっかしママの送ってくれたこの服にタイツがあって良かったぜ」

 

「ん? なんでだ? まあ似合ってるとは思うが」

 

「短パンと違ってどっかの変態トレーナーにジロジロと生脚を見られなくて済むからな!」

 

 誰が変態だ。息するように毒を吐きおって……

 

「人を勝手に変態扱いするんじゃない。俺はお前の脚の状態を観るためにレース前やレース後にしっかりと確認しているだけだ」

 

「そういう言い訳が変態だって言ってんだよ」

 

「はぁ……黙ってればただの美少女ウマ娘だってのに、やっぱり俺の考えは間違ってなかったな。勝負服でもカミツキ問題児は変わらなかったか」

 

 俺がそれだけ言ったところでリョテイの方を見ると、リョテイは俯いて耳を真っ赤にして、怒りを堪えるようにプルプルと震えていた。

 

 まったく、余計なことを口走るもんじゃなかったぜ。

 

 そう心の中で呟き終わった時、リョテイの鋭い牙が俺の左手に食いこんだ。

 

 昼下がりのチームルームに俺の断末魔が木霊した。

 

 

 

 

 

 次のレースはクラシック三冠最後の一冠、京都の秋の祭典菊花賞。

 

 俺とリョテイはトゥインクルシリーズの最高峰へと挑む。





キンイロリョテイのウマーマンがまさか黄金バットとは思いませんでしたね。この二次創作も解釈も壮大な怪文書みたいなもんなので実質これもウマーマンシリーズ。

次回もよろしくお願いいたします!
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