黄金の旅路 俺の愛バは凶暴です   作:くろわっさん

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しれっと3ヶ月振りに投稿してもバレんやろ……


二章 シルバーコレクター
ゴールデンホイップトロフィー


 

 キンイロリョテイの菊花賞での惨敗から三週間余りの時が経った。彼女とトレーナーはオープン下のレースからのやり直しを始めることとし、次のレースを3勝クラスのゴールデンホイップトロフィーに定めた。

 

 11月も折り返しを過ぎてレースでの疲労も抜け、すっかり寒くなってきたある日の事だった。

 

 昼休みにキンイロリョテイは食堂に来ていた。彼女のお目当ては好物のカツサンド。トレセン学園食堂特製のそれは、ボリューミーかつジューシーで、食は肉が第一を掲げるキンイロリョテイの好みに合致していた。

 

「おばちゃん! カツサンド2つ」

 

「あいよ!」

 

 注文すると包み紙に入ったカツサンドが直ぐに出てくる。このスピーディさも彼女がカツサンドを愛食する理由の一つである。

 ボリューミーとは言ったものの、食堂で山のような量のランチを食べるウマ娘たちに比べれば、キンイロリョテイの食事量は少食そのものである。

 

 人間ならば見ているだけで胃もたれしそうな光景を余所に、キンイロリョテイはドカッと椅子に足を組みながら座ると、包みを開けてカツサンドを豪快に食べ始めた。

 

「ほんぎゃぁあぁあぁあ!? それは……! 伝説の豊っ!!?」

 

 食堂に響き渡る大音量で叫び、キンイロリョテイのカツサンドを指さすウマ娘が現れる。それは先日の菊花賞を制したマチカネフクキタルだった。

 

「うっせえな。なんだよイキナリ?」

 

「だってそれ、その包み紙に書かれた豊の一文字! 正しく伝説の豊じゃないですか!!」

 

「伝説〜?」

 

 キンイロリョテイが怪訝に聞き直すと、マチカネフクキタルは指を立てて説明を始めた。

 

「それはこのトレセン学園に伝わる伝説のひとつ。食堂のメニューの中に極々稀に描かれる豊の印! 時に丼に! 時にお皿の底に! そして包みに! この豊印のメニューを食べたウマ娘は次のレースで急にコース取りが良くなったり、仕掛けが上手くなったりと、運命的なパワーがバリバリで勝てると噂なんですよ!!」

 

「運命的なパワーだぁ?」

 

「そうですよ! 人呼んでユタカマジック! 豊の印にはそれだけのパワーがあるのです!!」

 

「はーん。アタシは宗教とか信じてねえから、パスで」

 

「勧誘じゃありませんよ!! シラオキさまは素晴らしいですが」

 

 両手をブンブン振って異を唱えるマチカネフクキタルだったが、キンイロリョテイは聞く耳を持たない。暖簾に手押し上体だったが、マチカネフクキタルの次の一言でキンイロリョテイは目の色を変えた。

 

「何故信じないのです? シラオキ様からチカラを授かった私に菊花賞で負けたのに?」

 

「あぁん!?」

 

「ひぃ!??」

 

「喧嘩売ってんのかテメェ!! アタシが負けたのは! お前の! 実力にだっ!」

 

「いひゃい! いひゃいです!!」

 

 怒りの色に目の色を変えたキンイロリョテイはマチカネフクキタルの頬っぺたを引っ張って捏ねくり回す。最後に強めに引っ張って、パンっと手を離してやるとマチカネフクキタルの頬は真っ赤に染まって腫れていた。

 

「褒めてんだが、虐めてんだかわかんないのやめてくださいよ!」

 

「褒めてもなけりゃ虐めてもねえよ!」

 

「とにかく! 信じる者は救われるのですっ! ユタカを信じなさい〜」

 

「てめえコノヤロウ!」

 

 キンイロリョテイがまだ言うかと椅子から立ち上がると、マチカネフクキタルは素早く距離を取る。そしてマチカネフクキタルは背を向けるとスタコラサッサと逃げ出した。

 

「伝えましたからね! ユタカを信じるんですよ──!!」

 

 と、捨て台詞を吐きながら。

 

「ったく。何だってんだよ……」

 

 キンイロリョテイは包みの豊の文字を確認するように見て、残りのカツサンドを一気に平らげた。

 

「だれが信じるかってんだよっ! っと」

 

 キンイロリョテイは豊印の包み紙を乱暴に丸めると、遠くのゴミ箱目掛けて投げる。ゴミの行方など興味無いと言わんばかりに、キンイロリョテイは目線を次のカツサンドに定めて食べ始めていた。

 

 だからこそ気が付かなかったのだろう。もう既に運命が変わり始めている片鱗に。

 

 宙へ舞った包み紙が、放物線を描きながら綺麗にゴミ箱の中に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

╤╤╤Ω╤╤╤

 

 

 

 

 11月後半 ゴールデンホイップトロフィー 阪神

 芝2000m

 

 曇り空の元、なんとか馬場は良好を保った阪神レース場。

 

 1番人気でレースを迎えたキンイロリョテイは自らの身体に不思議な違和感を覚える。

 

(特に何もしてないのに、なんか調子がいい……)

 

 正体不明の高揚感と全能感に、キンイロリョテイは逆に苛立っていた。

 

『ユタカを信じなさい〜』

 

 キンイロリョテイの頭の中にマチカネフクキタルの言葉がリフレインする。それがまたいっそうキンイロリョテイを苛立たせた。

 

 軽快な身体とスッキリしない頭のギャップにモヤモヤしながら、キンイロリョテイはゲートへと収まった。

 

 ゲートが開き、13人のウマ娘が走り出す。キンイロリョテイは中段前方に向けて駆けていき、第一コーナーに入る時には内側の4番手に付けていた。

 

(勝てると噂の運命的なパワーってなんだよ! んなもんあったらみんな血眼でユタカを探してるってんだよ。勝負を決めるのは、結局実力だろうが!!)

 

 第2コーナーを回るキンイロリョテイ。身体が勝手に動くような感覚に、余裕の生まれた思考は余計なことを考えては、レース中だというのにドンドンと苛立ちを高まらせていく。

 

「あぁ! ムカつくぜぇえええ!!!」

 

 バックストレッチを走る頃には最早溜まったストレスを発散するために走っているような状態になる。

 

 全くもってレースに集中出来ていないキンイロリョテイ。そんな様子はスタンド前で彼女を待つトレーナーにも伝わっていた。

 

「リョテイのやつどうしたんだ!?」

 

「なんかマチカネフクキタルとあったらしいよ」

 

「俺の知らないとこでトラブル起こしてんのかよ……」

 

 ナカヤマフェスタからそう聞かされたトレーナーは頭をかかえた。

 

 掛かってるとは言えないが、こんな様子でレースを続けていてはどこかでやらかしそうだと気が気でなかったのだ。

 

 レースは進み先頭は第3コーナーを回る。キンイロリョテイも続いてコーナーに入っていく。そして第4コーナーを抜けようかというときだった。

 

 インを付くキンイロリョテイの前に、先行していたウマ娘が割り込む様にコース取りをしてこようとしていた。

 

「どけぇ!! 轢き殺されてぇのかコノヤロウっ!!」

 

 先行するウマ娘に噛み付くのではないかという勢いで、キンイロリョテイは怒気を撒き散らしながら吠えた。凡そウマ娘が出していい雰囲気ではない。

 

 その怒りに怯えたウマ娘は「きゃっ!??」と悲鳴をあげながらキンイロリョテイから離れた。

 

 そのひとりが避けたところで、その前には三人のウマ娘が先行していた。そこでキンイロリョテイは自分の意思とは関係なく、尻を叩かれるような謎の感覚を受けてスパートかけた。

 

(んだよこの感覚はよぉ……!!)

 

 キンイロリョテイは心の中で苛立つも、腹立たしいことにその感覚による仕掛けのタイミングはバッチリだった。

 

『豊印のメニューを食べたウマ娘は次のレースで急にコース取りが良くなったり、仕掛けが上手くなったり……』

 

 キンイロリョテイの頭にまたしてもマチカネフクキタルの言葉が木霊していく。

 

 残り400m。各ウマ娘が懸命にゴール板を目指す。

 

「いける!」

 

 自らと同時に仕掛けてきた娘を置き去りにし、先行していた娘を抜いて、先頭にたったとあるウマ娘は勝利を確信した。

 

 残り200になった所で、背後から怒号の如き声が響く。

 

「逃がすかぁ! オラァァァ──!!!」

 

 キンイロリョテイが驚異的な末脚を見せて追い上げてきたのだ。「無理ぃ!」と息の上がった2番手のウマ娘を1歩外に走って躱し、先頭目掛けて駆け抜ける。

 

 なお、キンイロリョテイの眼はどう見ても血走っており、レースをするウマ娘のそれでは無い。

 

「勝つのは! アタシだ!! アタシの実力だぁ──ッ!!!」

 

「なんなのこの娘ぉ──!?」

 

 吠えるキンイロリョテイ。その声にビビりながらも逃げる先頭のウマ娘。

 

 残りは50m。その差はほとんどなく身体が重なるほどに並んで2人が駆けていく。そしてほぼ同時にゴール板を抜けた。

 

 どちらが勝ったか分からないほどの僅差でのゴール。キンイロリョテイは自らの勝ちを確信すべく、息を切らしながら頭を上げた。

 

 掲示板には1着11番の表記があった。2着には7番、つまりキンイロリョテイの敗北が確定した瞬間だった。1着との差は僅か0.1秒で、クビ差での惜敗となった。

 

「クッソォオ─────ッ!!!」

 

 キンイロリョテイの悔しさがこれでもかと詰まった叫びが、阪神レース場に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

╤╤╤Ω╤╤╤

 

 

 

 

 

「なにがユタカだこのヤローっ!!」

 

 壁にジャージを叩きつけて、リョテイは怒りを露わにしていた。

 

 レースが終わり、控え室に入った俺が見たのは滅茶苦茶にキレ散らかしているリョテイの姿だった。

 

 ユタカって誰なんだよ……俺はそう思わざるおえない。コイツはいったい誰にキレているのだろう。

 

「落ち着けリョテイ。そんなに怒るほど悪いレース内容じゃ無かっただろう?」

 

「悪くなかったからキレているの! わかんねえかなぁ!!?」

 

「いや、わかんないけど……」

 

 レース内容が悪くないけどだからこそ怒っているってなんだよ。

 

 持ち味を生かした走りは十分に出来ていたし、末脚の伸びも良かった。途中のコース取りも良かったし、終盤も文句なしだった。

 

 ただ、最後にひとり躱す時のロスがクビ差に繋がったのは間違いない。あれが無ければ勝ちきれたと思うと、やるせないとは思うがそんなに怒るほどのことなのか? 

 

「あそこまでくるとあとは運としかいいようがないだろ?」

 

「運だぁ!? ふざけやがって! 運で勝てたらレースは要らねえんだよ!!」

 

 リョテイが投げつけたタオルが俺の顔面にかかる。リョテイの汗を吸って重くなったそれは確かな重量を持っていて、ベチャリとした湿り気を嫌という程俺に感じさせた。

 

 俺もトレーニングを趣味とするのでよく分かるが、運動後の汗を吸ったタオルというのは汗臭い。その日の初めての発汗ともなれば、汗腺に溜まっていた老廃物も多く混ざっており尚更臭うのである。

 

 不思議なことにリョテイから投げつけたタオルから嗅いだ匂いは臭くなかった。ウマ娘だからか、若年女性のホルモンを捉えたのかは分からないが、個人的な感想としては臭くなかった。まあそれはそれとして、湿ったタオルを投げつけられるのは普通に不快だ。

 

 文句のひとつでも言ってやりたいところだが、キレ散らかしているリョテイにそんなことを言うのは得策ではない。それて俺の職業はトレーナーで、俺の仕事はこの荒れたリョテイを鎮めることなのだ。

 

 俺はタオルを掴んで顔から離し、冷静にリョテイへ問いただした。

 

「何をそんなに怒ってるんだ?」

 

「あぁ!? それがよぉ──……」

 

 リョテイはそれから先日の話を始めた。簡単に纏めると、マチカネフクキタルから伝説のユタカの話をされて、いざレースに出てみるとその効果を実感してしまい、意固地になったら負けたということらしい。

 

 ウマ娘には様々なジンクスやオカルト、科学では解明できていない部分が多くある。運命やウマソウルがその代表だろう。

 

 マチカネフクキタルが話したそれもそのひとつなのだろう。結果として2着に終わってしまったが、今日のリョテイは怒りで平静を失っていながらもかなりいい走りをしていたし、これがそのユタカのパワーだったのかもしれない。

 

 俺はひとりで納得しながら無意識に手に持っていた物で手遊びしながら考え込む。

 

「てめえはいつまでアタシのタオルをニギニギしてんだよっ! この変態トレーナー!!!」

 

 毎度おなじみと言えるほど馴染みのある激痛が俺の腕に走る。もちろんリョテイが俺の腕に噛み付いた以外の理由はない。

 

 阪神レース場の控え室で理不尽な暴力に襲われた俺の叫びが木霊した。

 

 

 ───ユタカ、侮りがたし……俺はそのことを胸に刻み、いつの日かこのことを思い出すだろう。

 





お読みいただきありがとうございます。恥ずかしながら帰って参りました。

不定期更新ですが気長にお待ちいただいて、気が向いたらお読み下されば幸いです!
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