黄金の旅路 俺の愛バは凶暴です   作:くろわっさん

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GII日経賞 / GⅠ天皇賞・春

 

 次なる目標を天皇賞・春に定めたリョテイはスタミナトレーニングを中心に、相も変わらず真面目に不真面目な様子ではあるが、日々を過ごしていき……そしてGII日経賞の当日を迎えた。

 

 

 

 

 

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 3月後半 GII日経賞 中山 芝 2500m

 

 バ場は絶好の良好。リョテイは7枠10番、五番人気での出走となった。事前投票の結果はボチボチだが、リョテイなら勝てると信じて俺はレースを見守った。

 

 リョテイはスタートから後方集団に混ざり、一気に抜け出す時を今か今かと待ち構えていた。しかし、勝負所の第4コーナーを回っている時にアクシデントは起きた。

 

 外から抜け出そうとしたリョテイに、内から膨らんできた他のウマ娘が接触したのだ。転倒等の大事故には至らなかったが、ペースを乱されたリョテイは直線前に抜け出し損ねた。

 

 直線に入った時には息の上がったもの達が前を塞いでおり、リョテイは大外に抜け出さざる負えなかった。

 

「1着テンジンショウグン!!」

 

 懸命に追い縋るもロスもあり、先頭集団を捉えることは出来ずリョテイは4着でのゴールとなる。1着には現役7年目の大ベテランのテンジンショウグンが12番人気からの大穴勝利と会場は湧いていた。

 

 

 勝負の世界なのでいつも狙い通りの走りが出来るとは限らないが、実に悔しいレース展開になってしまったのは否めない。

 

 しかし、あのロスがありながらしっかり掲示板入りを果たすリョテイの能力はやはりオープン入りに相応しいものだと、俺は改めて実感したのだった。

 

 

 

 

 

 

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 パキパキと小気味のいい音を立ててウマ娘が走る。

 

 ウッドチップのコースを走り、調整を行うのは俺の担当キンイロリョテイだ。

 

「ペッペッ……割れたチップが口に入ってきやがった。なあトレーナー、芝にしようぜー」

 

「今日は脚の負担を軽くっていったろう? さあもう一本!」

 

 軽口を叩くリョテイ。しかし日経賞からひと月あまり、落ちていた体重もだいぶ戻り調子を取り戻しつつあった。俺は手元のタブレットを操作し、天皇賞までのスケジュールを確認していた。

 

 そして暫く目を離し、目線をリョテイに戻すとそこには、外ラチ越しに芦毛のウマ娘に絡むリョテイの姿があった。

 

 制服姿だが、背の低さからシップではないことは遠目でも分かる。目を離した隙にあいつは……止めに行くか。

 

「おい! 他所の娘に絡むんじゃないぞリョテイ」

 

「絡んでねえわ! フツーに話してただけだっての。失礼しちゃうぜ」

 

「あら、アークトゥルスのトレーナーさん。御機嫌よう」

 

 振り向いた芦毛のウマ娘は、チームスピカのシップの保護者担当のメジロマックイーンだった。騒ぐリョテイとは対照的にお嬢様らしく優雅に挨拶をしてくれる。

 

「メジロマックイーンだったか。すまないなリョテイが迷惑かけて」

 

「いつもゴールドシップさんがお世話になってますもの。これくらいなんてこと無いですわ。それに……まあ、昔から慣れていますし……」

 

「じゃあお互い様ってことで。それで……どうして絡んでたんだ?」

 

「絡んでねえって言ってんだろ。どっちかつーとマックイーンから喧嘩売ってきたんだつーの」

 

 そんなわけ無いだろ。そう思いつつ俺はふたりの話しを聞くことにした。

 

「別に喧嘩は売ってませんわ。ただ、今年の天皇賞・春はウチが頂くと、そう告げただけですの」

 

「あれが喧嘩売ってねえってんなら、アタシは生まれてこの方喧嘩を売ったことなんてねえな。「オーホッホッホ! 今年の春天はワタクシ達が頂きますわ〜! ごめんあそばせ〜オーホッホッホ!!」って感じでよぉ」

 

「私はオーホッホッホ! なんて笑い方しませんわ! 喧嘩売ってますの!?」

 

 売り言葉に買い言葉で騒ぐ2人を尻目に、俺はメジロマックイーンの言葉の意味を考える。確かスピカから今年の天皇賞・春に出走するウマ娘はいなかったはずだが……そうすると、ウチが頂くととは……

 

「仕上がりに仕上がったブライトさんが勝つと、そう言ったんですの」

 

「ああ、ウチってメジロ家ってことか」

 

「てめえも納得してんじゃねえ!」

 

「別にメジロの勝利に納得してた訳じゃないぞ。それに、勝つのはウチのリョテイだからな!」

 

「なかなかの自信ですこと。何か秘策がおありなのですか?」

 

「それは企業秘密だよ。それにトレーナーが自分の担当ウマ娘の勝利を信じてないわけが無いだろ?」

 

 メジロのブライトといえば俺の先輩チームのエース、メジロブライトに他ならない。菊花賞でも対戦した強敵だが、今のリョテイはあの時は違う。俺は俺の愛バを信じるだけだ。

 

「そうですわね。信じる相手は違えど想いは同じ……互いの健闘を祈りますわ!」

 

「ああ! よろしくな!」

 

 メジロ家代表メジロブライトと俺のリョテイの熱い戦いを祈って、俺とメジロマックイーンは固く握手を交わした。揃って不敵な笑みを浮かべ、熱い視線が交差する。

 

 トレーナーとウマ娘。更には敵同士ではあるが、俺はメジロマックイーンと確かな絆を手のひらから感じた。

 

 ──互いに目指すは天皇賞・春の盾。さあ、勝負だメジロ!! 

 

 

 

「当の本人のアタシをほっといて勝手に分かりあってんじゃねぇ────ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

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 5月前半 GⅠ 天皇賞・春 京都 芝3200m

 

 曇り空の下、京都のターフに猛者が揃う。久しぶりに勝負服を身に纏い、パドックから地下バ道を抜けて、本バ場入りしたキンイロリョテイは周囲のメンツから溢れる強者のオーラをヒシヒシと感じ取っていた。

 

 キンイロリョテイは今回十番人気と全14人の中でも下位だ。それもその筈、ここにはキンイロリョテイよりも格上の相手ばかりが揃っているのだから。

 

 先ず、前走日経賞で敗れた相手、テンジンショウグン。そして万葉ステークス、GIIIダイヤモンドステークスで連続で僅差で負かされたユーセイトップランが初のGⅠの舞台に緊張しつつも、気合十分な様子で準備をしていた。

 

 そしてキンイロリョテイが惨敗を喫した菊花賞でマチカネフクキタルに続く2着を獲得したダイワオーシュウがいる。重賞制覇こそないものの、地力を評価され三番人気のウマ娘だ。

 

 うぉおおおっと突如会場が沸いた。驚いた様子でキンイロリョテイが振り返ると、自信に満ち溢れた表情した1人のウマ娘が本バ場入場をしてきていた。

 

「ジャアァァスティスッ!!」

 

 イエーイ! というレスポンスの歓声が沸き上がる観客席に向かってキメるのは、シルクジャスティスその人だった。

 

 昨年度では日本ダービー2着。菊花賞では5着。ジャパンカップでも5着と苦戦を強いられてきた彼女は、年末のトゥインクルシリーズ総決算である有記念でその真価を発揮した。ティアラ2冠・メジロドーベル、宝塚記念覇者・マーベラスサンデー、そして重賞5勝の昨年度代表ウマ娘・エアグルーヴ。それら全てを実力で捩じ伏せて、クラシック級ながら有記念を制したのだ。

 

「「ジャスティス! ジャスティス! ジャスティスっ!」」

 

 会場からジャスティスコールが巻き起こる。トゥインクルシリーズ現役最強の一角である新進気鋭・シルクジャスティス。一番人気の大本命、大正義の登場に会場は今日イチの盛り上がりを見せていた。

 

 圧倒的な主人公を前に、主な勝ちレース“ 阿寒湖特別”のキンイロリョテイは正に端役としか言えない状態であった。お前の居場所はここには無い、と言われているような錯覚にキンイロリョテイは苛立ちそうになった。

 

「リョテイ。久しぶりでありますね」

 

 そんなキンイロリョテイに話しかけてきたのは、昔馴染みのメジロブライトだ。クラシック3冠戦でこそ上位に食い込むも惜しい戦いをした彼女は、それをバネにステイヤー路線へ踏み込み、GIIステイヤーズステークス、GIIアメリカンジョッキークラシック、GII阪神大賞典の重賞競走三連勝中の今ノリに乗っているウマ娘である。その人気はシルクジャスティスには1歩及ばなかったものの、ほぼ同率の二番人気であった。

 

「おー、ブライトじゃねえか」

 

 キンイロリョテイは気の抜けた返事を返す。まだ2度目のトゥインクルシリーズ最高峰の舞台に緊張することもない様子の彼女に、メジロブライトは顔を顰めた。

 

 この余裕は何なのだろうか。戦績を見れば明らかに場違いなキンイロリョテイの態度に、メジロブライトは疑問を感じていた。そしてすぐ様問いただす。

 

「余裕でありますね。何か秘策でもあるのでありますか?」

 

「あ? ねえよ、そんなモン。お前もマックイーンみたいなこと聞いてくんだな」

 

「そうでありましたか。じゃあ余り勝つつもりは無い、と」

 

「んなわけねぇだろ。勝つのはアタシだ。他の誰がどう言っても、どう言われてもそこは譲れねえ。ウマ娘なら当然だろ?」

 

「それには同意するでありますが……」

 

 同意はする。だが納得は出来ない。それがメジロブライトが抱いた感想だった。ハッキリ言って彼女からすればキンイロリョテイのこのレースへの出走は無謀としか言い様がない。努力を重ね、実績を積み上げ、「春天で勝つのはジャスティスかブライト」周囲からそう言われる彼女だからこそ、キンイロリョテイの自信は不可解としか思えなかった。

 

「ハッキリ言うと、ここにいるほとんどの人がリョテイが勝つとは思ってないのであります」

 

「ハハ、言うじゃねえか。まあ、そうだろうな。お呼びじゃねえってのはアタシが1番良くわかってるよ」

 

「では何故? 何故そこまで自身の勝利を信じられるのでありますか! 何を根拠にそんなことを!?」

 

 驚きを隠さずメジロブライトはキンイロリョテイに問うた。キンイロリョテイは顎に手を当て、少し考える素振りを見せてから、一言こう言った。

 

「トレーナーが勝つのはアタシだって言ったからだ。アタシの根拠はそれでいい」

 

 清々しいほど真っ直ぐな瞳でキンイロリョテイは答えた。それを受けて、メジロブライトは彼女の中の何が変わったように思えた。不遜で勝気な態度は以前のままだが、それでもこれまでのキンイロリョテイとは何かが違うと、そう思えてしまった。

 

「最後にひとつだけ聞かせて欲しいのであります」

 

「あ? 質問が多いな、おい。まあいいけどさ。なんだよ?」

 

「今、リョテイは何故……いや、なんの為に走るのでありますか?」

 

「はあ? そりゃ勝つためだろ……ってお前が聞きたいのはそれじゃねえって感じだな。そうだな……アタシの背中を観てる後輩たちの為、そしてアタシを信じたあのアホトレーナーの為に……って何変な顔してんだよ」

 

「いや、なんというか意外というか……」

 

「はぁぁー……アホくさ。アタシはアタシがやりたいように生きる為に走んだよ! そんだけだ!」

 

 キンイロリョテイがそこまで答えた所で、開幕を告げるファンファーレが鳴り響く。「ここまでだな」と短く告げて、キンイロリョテイは不敵な笑みを浮かべながら、踵を返してゲートへと向かった。

 

「やっぱり変わったでありますよ……リョテイ……」

 

 メジロブライトはキンイロリョテイの背を見送りながら呟いた。その背にはチームのエースとしての覚悟と貫禄が見えるようだった。

 

 

 

 

 

 

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 14人のウマ娘がゲートに収まった。キンイロリョテイは6枠9番真ん中からの出走となる。ステイヤーの頂上決戦、春の大一番天皇賞・春。ガコンッと大きな音を立ててゲートが開き、その火蓋が切られた。

 

 先行したウマ娘がハナを進み、最初のコーナーに差し掛かり序盤の並びが決まっていった。

 

「“ さあ4番シルクジャスティスはメジロブライトよりも前に行きました。そしてメジロブライトはその後ろ。阪神大賞典のようにジャスティスが前を走る”」

 

「ジャスティスー! 今日は勝たせて貰うよ、ブライト!」

 

「負けないでありますよ!」

 

 注目の本命2人はお互いをマークするように前後に付いて走っていく。レースの行方を握るふたりの展開に会場も実況も目が離せない。

 

「“ 少し後ろ、外にはキンイロリョテイ。ここまでが先行集団か。その後ろ、12番。少し離れて8番と2番ユーセイトップラン。さらに離れて11番テンジンショウグン。後ろからレースを窺う”」

 

 少し縦長の展開になりながら、バラけていく14人のウマ娘たち。コーナーを抜けて、シルクジャスティスが5番手の最ウチを走り、後ろにはメジロブライトが続く。

 

「“さあ沸き上がる! 京都レース場の大観衆。テレビを御覧の皆さんも第117回天皇賞をお楽しみ下さい”」

 

 1周目のホームストレッチを集団が地鳴りの様な蹄鉄の足音を鳴らして駆け抜けて、お返しとばかりに幾万人もの歓声が沸き起こる。国民的スポーツエンターテイメント、トゥインクルシリーズの最高峰GⅠレースの盛り上がりは伊達ではない。

 

 それもその筈。“ 人間がウマ娘にかなうはずがない”と言われるほど、人間を遥かに凌ぐ身体能力をその身に宿すウマ娘たち。その中でも才能に満ち溢れ、絶え間ぬ努力を重ね、勝利を勝ち取る豪運の持ち主たちが集い、そして競い合う。それがGⅠレースなのだ。

 

 スローペースながらも澱みなくレースは進み、第2コーナーを回る集団。順位は変わらずシルクジャスティスの少し外にメジロブライトがしっかりとマークしており、キンイロリョテイはそこから半バ身後ろで最外を走って視界に二人を捉え続けている。

 

「“バックストレッチに入ってメジロブライトが前へ出た! ジャスティスよりも前へ! 仕掛けが早いか!? 掛かっているのかメジロブライト!!? ”」

 

 直線に入り、メジロブライトがシルクジャスティスを追い越すように前へ出る。それが作戦なのか、気持ちの焦りによるものなのかは実況者には分からない。だがレースはここから動き始めたのは間違いない。観衆にはどよめきと歓声があがり出した。

 

(どいつもこいつも、やれジャスティスだ、やれブライトだとうるせえな……他にも走ってる奴が12人もいるんだぞ?)

 

 キンイロリョテイは二強ばかりが注目される現状を快く思っていなかった。視界の先で捉えるシルクジャスティスと先を急ぐメジロブライトから、引き離されることなく彼女は自身のペースで走ることが出来ていた。

 

「“ 三コーナー、下りに入って前はブライト! 後ろはジャスティス! 二強の争いになるのか!? ブライトは外、ジャスティスは内から上がってきた!! ”」

 

「ジャジャジャ! ジャスティィィスッ! 抜け駆けなんてさせないよ!!」

 

「なんでここまで走っててそんなに元気なの!?」

 

「む、無理ぃ──っ!」

 

 第3コーナーを抜けたところでシルクジャスティスも仕掛ける。既に仕掛け始めたメジロブライトを追うようだ。先行していたウマ娘たちはコーナーを回りながらその差をグイグイと詰められていく。

 

(二強の争いねぇ。もしここでアタシがぶち抜いてやったら……気持ちいいんだろうなぁ)

 

 キンイロリョテイは頭の中で並のウマ娘なら不可能だと理解出来るような妄想を繰り広げていた。そう、並のウマ娘ならば。

 

 キンイロリョテイというウマ娘には才能があった。ウマ娘である母から受け継いだ、黄金とトレーナーに評されたトモを持つ天性の肉体。天から授かった一流のウマソウル。それらが合わさり、本来ならば既にGⅠで勝利してもおかしくない程の才能だ。

 

 しかし現実はそうでは無かった。キンイロリョテイは重賞競走では勝ちきれず、菊花賞では惨敗。シニア級に上がっても主な勝ちレースは阿寒湖特別のままだ。

 

 主な原因は偏に彼女の努力不足にある。キンイロリョテイの練習態度はお世辞にも真面目とは言えないものだった。勝利を渇望し真摯に練習に打ち込む他のウマ娘からしてみれば、あれを真面目と言おうものなら憤慨ものである。

 

 無論、GIIIで2着に付けてGIIで掲示板入りを果たし、オープン入りをしているというだけでも、一流のウマ娘であることに違いはない。寧ろ才能だけのゴリ押しでこれだけの結果を残せているのだから、十分に規格外の存在だと言えるだろう。

 

 十分な素質を持ち、日々ハイレベルな練習に打ち込んだトレセン学園の生徒ですら、中央で一勝も出来ずにターフを去ることもある。その中で怠惰ながらもそれなりの結果を残すキンイロリョテイは、それらの娘たちからすれば、正真正銘の天才で才能の暴力を振るうものに他ならない。

 

「“外からブライト! 外からブライト来たっ! 真ん中を割ってジャスティスも来た!! ”」

 

 最終直線に入り、二強が体勢を整えてスパートを計る。大外を回ってメジロブライトが突き抜けていき、前の開けたシルクジャスティスがバ群の中央から抜け出そうとしている。

 

 ──キンイロリョテイは届かない。

 

 そんなキンイロリョテイもメジロブライト、シルクジャスティスといった超一流の前では歯が立たなかった。キンイロリョテイと同等かそれ以上の才能を持ち、頂点に登り詰めるため尋常ならざる努力と、勝利への執念を兼ね備えた最高峰のウマ娘たち。GⅠで勝利を掴むのはそう言った本物中の本物なのだ。

 

「イェアァァァ─────ッ!!」

 

 シルクジャスティスが吠える。有記念を制した末脚を発揮するため、2冠目の頂きを乗り越えるため、その能力を解放するため、咆哮と共にターフを踏み抜き前へと進む。己が正義を執行するために。

 

 ──キンイロリョテイでは届かない。

 

「春の盾だけは! 絶対に! 誰にも譲れないのでありますッッ!!!!」

 

 メジロブライトが自らを鼓舞する。3つのGIIを制したステイヤーとしての最高のチカラを余すことなく発揮して、2800m以上走ってきたとは思えないほどの健脚で、誰にも譲れない先頭をひた走る。

 

 ──キンイロリョテイには届かない。その筈だった。今日、この日までは。

 

 主な勝ちレース阿寒湖特別であるキンイロリョテイが入り込む余地など、このGⅠの頂上決戦にはある筈がなかった。不真面目な彼女では、辿り着ける筈がなかった。

 

 しかし、不真面目ではあったものの、キンイロリョテイは走ることだけは辞めなかった。トレセン学園に入学してからずっとだ。

 

 問題ばかり起こしてトレーナーすら付かなかった時も。トレーナーの指示を無視して好き勝手やっていても。立て続けの敗北に塗れイラだちに苛まれても。彼女はただただ走ってきた。

 

 ウマ娘ならば当たり前のことではあるが、その当たり前だけは何があっても続けてきた。滅茶苦茶でマイペースな歩みであったが、キンイロリョテイは前へと進んできた。

 

 1粒が砂粒のように小さな歩み。ひとつひとつ積み上げられた莫大な基礎の砂山の上に立ち、漸くキンイロリョテイは手が届く。彼女の中に眠る才能の本領へと。その身に宿るウマソウルに火種が投げ込まれた。

 

「“ ブライト先頭! ブライト先頭だっ!! ”」

 

 メジロブライトが抜け出て先頭を走る。続いて2番手にはシルクジャスティス……では無かった。有の覇者は続いていない。メジロブライトに続いて駆け上がってきたウマ娘、それは。

 

「“ そして! そしてなんと! 9番キンイロリョテイ!? キンイロリョテイが二番手に上がってきたッ!! ”」

 

 届かないはずだったその決戦の舞台に、キンイロリョテイは遂に足を踏み入れる。想定外の自体に実況者も、観客も、走るウマ娘たちも驚きを隠すことが出来ない。

 

 黄金の末脚を振り抜いて、キンイロリョテイが駆け上がる。

 

 先頭はメジロブライト。追うようにキンイロリョテイ。そのすぐ後ろにはシルクジャスティス。

 

 ジャイアントキリングが起こるのか。ステイヤーの猛者が覇者へと変わるのか。有の正義が勝つのか。読めない展開に観客たちのボルテージが最高潮へと達し、歓声が嵐のように巻き起こる。

 

「チョーシくれてんじゃねえぞ人気者共ォ! アタシがッ! 勝つんだよぉぉぉッ!!」

 

 ウマ娘がその能力を最大限に発揮すると言われる状態がある。その名も“本格化”。

 

遅咲きの金蓮花が花開く。キンイロリョテイの本格化が、今始まろうとしていた。

 

 ゴールまで残り200m。トゥインクルシリーズの最高峰・GⅠレース天皇賞・春。その頂点が目の前にある。

 

 ──キンイロリョテイの伸ばしたその手が、届く。

 

 




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