幼い頃からあの背中に憧れていた。
自分はウマ娘の名家メジロ家に生まれて、レースに勝つために育てられてきた。メジロブライトの名を受けて。
同年代の親戚もみんな同じようにレース勝つことだけを目指して過ごしてきたから、そこになんの疑問も抱かなかったし、不満もなかった。
みんなより早生まれのアルダン姉さん。しっかり者のマックイーンさん。明るく元気なパーマーさん。姉妹みたいに仲良く過ごしたドーベル。そして、誰よりも自分を良く面倒みてくれたライアン殿。
確かに就学前から始まっていた過酷な練習の日々は辛かったけど、みんながいたから頑張れたんだ。
「しけた面してんなぁ! アタシが来たんだぞ? おら、笑え! ほらっ!」
自分の頬を引っ張っては無理やりに笑顔を作らせるのは、キンイロリョテイというウマ娘だった。お母様たちのお客様のご子女ということで、幾度となくメジロの本邸に遊びに来ていたその暴君は、同い年だというだけで自分とドーベルが相手させられていた。この時だけは本当に嫌で、早くお客様がリョテイを連れて帰ってくれないかと、いっつも願っていた。
そして何より嫌だったのは──
「なあ、暇だなぁ……そうだ! おい、ブライト! かけっこしようぜ先に庭を一周したやつの勝ちな!」
──リョテイとのかけっこの対決だった。初めはトレーニングを始めていた自分が負けるはずがないと思っていた。しかし現実は違っていて、自分は数えられないほどリョテイに負けていた。
「ういー! アタシの勝ち〜。やっぱライアンとかいねえと、絶対にアタシが勝っちゃうから面白くねぇなぁ」
口ではそう言いつつも、なんとも楽しそうに自分を嘲笑う。同い年のリョテイに負けることが何よりも屈辱的だった。
何年もの時が経ち、リョテイがメジロ家を訪れる回数も減ってきた。聞いた話では、親に着いていくのが面倒くさくて家でダラダラしているそうだ。そんな日はドーベルとふたりで安堵したのを今でも覚えている。
更に時が経ち、自分はトレセン学園へと入学した。
「あ? お前ブライトか? ひっさしぶりだな、おい!」
リョテイもトレセン学園に来ていて、何年かぶりに再開した時リョテイは何もかもがあの頃のままだった。自己中心的な性格も、自堕落な態度も何もかもがだ。
「無視か? 偉くなったな、おい! メジロの名が泣くぞ?」
「痛たっ!? 耳を引っ張らないでほしいであります!!」
自分は昔より背も伸びて、今やリョテイは頭1つ小さな子供のようなものだった。しかし力関係は昔と何一つ変わっていなかった。
痛む耳を擦りながら、自分は出来るだけ学園生活でリョテイと関わりを持ちたくないと強く願った。
わりとあっさりそれは叶った。自分は今のトレーナーと出会い、本格的なトレーニングを始めて、メキメキと地力をつけていった。リョテイは問題児として名を馳せて、トレーナーすら付かず退学寸前に追い込まれていた。
辞めてしまったら良かったのに、とまでは思わなかった。同情はしなかったが、そういう終わり方になるのかと納得はしてしまった。
デビュー戦を勝利で飾り、さあこれからだという時。チームに新人のサブトレが配属になると聞かされ、少しだけ楽しみにしていたその翌日……キンイロリョテイがチームに入ってきた。
幼い頃の絶望が甦る。自分は頭を抱えて、不安に包まれながら練習に出た。しかしそんな自分の心配は杞憂に終わった。
「よぉ、ブライト。今日からよろしくなぁ!」
「リョ……リョテイ……」
「あっ!? おい変態! 来てやったぞ! ……っと、じゃあなブライト」
リョテイは自分に以前ほどの興味を無くしていた。成長して丸くなったのか、リョテイ担当のサブトレの手腕が良かったのか、自分にはどちらか分からない。その頃からリョテイとは挨拶する程度の仲になっていた。
チーム練習は普通に参加するが、併せの時にニヤつきながら先行されるくらいで大した被害もなかった。チームメイトたちには効いた様だが、昔からやられてきたことに比べれば常識的でかわいいものだ。ちなみにサブトレはウエイトトレーニングの面倒見が異常にいい、ただの良い人だった。
リョテイが未勝利戦でまごついている頃、自分は重賞競走でタイトルを獲得し、オープン入りを果たし新たなチームリーダーに抜擢された。
それからぼちぼち会話はするが特に何も無く、リョテイは一悶着を起こしたのちにサブトレさんを連れて独立してチームを離れていった。自分の方はいよいよクラシック三冠のGⅠ挑戦を控え、リョテイに構っている暇などなく、気がつけばリョテイのことは割とどうでもいい相手になっていた。
「“ これはもう! フロックでもなんでもないッ! 2冠達成──ッ!! ”」
皐月賞・日本ダービーと立て続けにサニーブライアンに敗れ、GIの壁の高さに打ちのめされる。気持ちだけが前へ行き、まるで実力が着いてこない日々が続いた。
そして京都新聞杯でリョテイと再会した。ここでキッチリわからせてやろうと挑んだが、まとめてマチカネフクキタルに敗れる。「決着は菊花賞で」などと凄んでみたものの、つづく菊花賞でもマチカネフクキタルに連敗し、クラシック三冠をすべて逃したのだった。
リョテイなんか気にかけている場合じゃない。もっと……もっとチカラを付けなくてはならない。
トレーナーはまだまだ焦る様な時期じゃないといってくれた。重賞だって勝ってるし十分立派だとも。分かってはいる……重賞制覇というのが一般的なウマ娘にとってどれほど貴重で素晴らしいことかということは。
しかし、然しそれではダメなんであります。自分は……メジロなのだから……
メジロ家としての重圧と、チームリーダーとしての責任。2つの圧に潰されそうな自分を救ってくれたのは、ライアン殿だった。
「自分には……自分には何も無いのであります。宝塚を制したライアン殿。メジロ悲願、春の盾を連覇したマックイーンさん。有馬記念をとったパーマーさん。みんなメジロに相応しい素晴らしい実績をメジロにもたらしたであります。それに比べて自分は……皐月もダービーも落として、期待されていた菊花賞も……」
「そんな言い方するとアルダン姉さんや、他の人達に怒られちゃうよ? それにまだブライトはクラシック級で、これからチャンスはいくらでもあるじゃない」
ライアン殿は困ったように笑いながら励ましてくれる。そンな事は自分でも分かってるが、それでも焦らずにはいられなかった。
「でも! ドーベルは阪神ジュベナイルフィリーズを勝つことから始まって、オークスに秋華賞も勝ってもうGⅠ3勝の超一流になって……! ドーベルとは姉妹みたいに同じように育ってきたのに、自分は……自分は……GIIIしか……」
「あぁ。そういうことかぁ……そっか、それは辛いよね」
悔し涙を流す自分をライアン殿は優しく抱きしめて慰めてくれた。こんなことを言ってもコンプレックスに塗れた醜い愚痴でしかないのに。メジロに相応しくない情けない姿であるにも関わらず、ライアン殿は叱る訳でもなく慰めてくれたのだ。
「その気持ちすっごくよく分かるよ。たぶんワタシが1番良く分かる。キッついよね、優秀な身内と比べられるのってさ」
「りぁいあんどの……?」
「ワタシもメジロの至宝なんて言われてたマックイーンと同じ時期に走ってたからさ。何度も直接戦って……それで負けてた。「ライアンが1番強い。負けたのは自分が悪かったから」ってトレーナーに言わせちゃった時は、ホントにキツかったよ」
「ごめんなさい……そんなつもりは……」
「ああ! いいんだよ。確かに辛かったけど、あの悔しさがあったからこそ、宝塚記念でマックイーンに勝ってGⅠタイトルを獲れたんだって思ってるから!」
悔しさを飲み込んだライアン殿は大きく笑った。思い出したくもない筈の過去を明るく笑い去ったのだ。この爽快な健やかはみんなを明るくする。もちろん今自分も助けられている。
「ワタシが力になるよ! だからさ、ブライトも一緒に頑張ってみない?」
「はいっ! よろしくお願いするであります! ライアン殿!」
自分は涙をゴシゴシと拭いさり、明朗に尋ねるライアン殿に大きな声で肯定の返事をする。
「じゃあまずは鍛えよっか、筋肉!」
「えっ?」
「大丈夫だいじょぶ! 筋肉は全てを解決するからねっ!」
こうして自分はライアン殿と筋肉を極める特訓の日々を過ごした。
11月後半 GIIステイヤーズステークス 中山 芝3600m……1着。
ライアン殿によって解き放たれた心と、変わり始めた肉体。効果はすぐに出て、12バ身大差をつけて初のGII制覇を成した。
ハムストリングスは輝き始めていた。
1月後半 GIIアメリカンジョッキークラシック 中山 芝2200m……1着。
筋肉に目覚めた自分には中距離も勝てた。力こそパワー!
今日もヒラメ筋が煌めいている。
3月後半 GII阪神大賞典 阪神 芝3000m……1着。
有馬を制したシルクジャスティスすら、今の自分の相手ではない。これが筋肉だッ!
大腿四頭筋はもっと輝けと自分に囁いている。
GII三連勝と破竹の勢いで自分は、メジロの天皇賞・春の奪還に向けて挑む。
天皇賞・春を控えたある日。自分はメジロの本邸に呼び出され、御当主様に会うこととなった。
「メジロの悲願、春の盾を貴女に託します。メジロの名に恥じない走りをしなさい、メジロブライト」
挨拶も無しに御当主様はそう言った。御当主様は言葉にせずともこう言っているのだ。「勝て」と。それ以外の選択肢などないと。
メジロ家を背負うという重圧が自分の肩にのしかかる。
しかしッ! それに潰れるひ弱な自分なんてどこにも居ないッッ!!
どんな重荷が降り注ごうとも、ライアン殿と鍛えたこの僧帽筋と広背筋の前には羽毛も同然。全て脊柱立筋で支えきって、背負い込んで走り抜いて見せるであります。
「お任せ下さい御当主様。自分は……メジロなのでありますから……!」
全ての決意を乗せて、短く返して自分は部屋を出た。そこには聞き耳を立てていたであろうライアン殿とマックイーンさんがいた。
「立派になりましたわ、ブライトさん。私の落とした春の盾、貴女なら必ず掴めると信じていますわ!」
「マックイーンさん……はい、お任せ下さいッ!!」
自分はマックイーンさんに敬礼して、その信頼に足る結果を出すと、己に改めて誓った。
「この半年、よく頑張ったねブライト! もうワタシから教えられることは何も無いよ」
「そんな! ライアン殿がいなければ自分は──」
「──だからさ。ワタシの全部、ブライトに託した!」
そんなはずは無いと答える自分の言葉を遮るように、ライアン殿に力強く抱きしめられ激励を受ける。自分も強く抱き締め返し、決意を込めて短く返した。
「必ず……必ず勝つであります……!!」
──時は戻り、天皇賞・春。ゴール前、残り400m。
「春の盾だけは! 絶対に! 誰にも譲れないのでありますッッ!!!!」
メジロブライトが吼える。その呼吸は荒く、脚には乳酸が溜まって鉛のように重くなっていく。それもそのはず、ここまで2800mを駆け抜け、バックストレッチからの早めの仕掛け、その脚は既に限界に近かった。
だが、メジロブライトの脚はキレない。それどころかスパートの伸びが止まらないのである。
(限界なんてものはッ! 打ち破るためにあるんでありますッ!)
限界を超えたその先に、GⅠ勝利の栄光がある。メジロブライトの脚は誰よりも前へ進み、単独でハナにたった。
「“ ブライト先頭! ブライト先頭だっ!! ”」
序盤から競い続けてきた二強。現役最強のシルクジャスティスを完全に振り払い、メジロブライトは栄光へと突き進む。彼女の憂いはあと一つだけとなった。
追い縋る他のウマ娘たちの中から鋭く飛び出してくる黒い影。
「“ そして! そしてなんと! 9番キンイロリョテイ!? キンイロリョテイが二番手に上がってきたッ!! ”」
誰しもがノーマークだったキンイロリョテイの猛追に会場が騒然としていく。その中でメジロブライトだけは考えが違った。
(来ると思ってたでありますよ……リョテイッ!)
彼女の中ではキンイロリョテイが上がってくることすら、想定内だった。
『トレーナーが勝つのはアタシだって言ったからだ。アタシの根拠はそれでいい』
レース前に話した時に分かったキンイロリョテイの精神的な成長。自分の為だけでなく、後輩たち、なによりトレーナーの為に走ると言った彼女の姿は、メジロブライトに変わったと十分に思わせるものだった。
そんなメジロブライトだからこそ感じ取ったキンイロリョテイの覚醒の兆し。故にメジロブライトは会場の中でただひとり、初めからキンイロリョテイをマークしていたのだ。
「チョーシくれてんじゃねえぞ人気者共ォ! アタシがッ! 勝つんだよぉぉぉッ!!」
キンイロリョテイが叫びながら追い縋る。後続との差は開いていき、シルクジャスティスを含めた集団から抜け出し、先頭を走るメジロブライト目掛けて突き抜けていく。
(あの時は本当に意外でありました。まさかあのリョテイが誰かの為に走るなんていうとは……でも、そんなものは当たり前の前提なのでありますよ)
キンイロリョテイが力強くターフを踏み抜き前へと進む。同じくメジロブライトも地面を抉りながら脚を踏み抜き前へ。
後輩からの待望とそれに答えたいという心。トレーナーからの信頼とトレーナーへの信用。それら全てを持って、このGⅠの舞台に上がってきている。この場の全てのウマ娘がだ。だからこそ彼女たちは本気で競い合い、最高の栄誉を求めて走るのだ。
キンイロリョテイはまだそのスタートラインにたったに過ぎなかった。
一方メジロブライトはその自覚をずっと前から持っていた。その上で苦渋を舐め続けてきて、乗り越えてこの場に立つ。
(自分はメジロなのであります。他の誰でもなく、自分こそが春の盾を獲らなきゃならないのであります。マックイーンさんに……御当主様に……そしてライアン殿に、メジロの全てが託されたのであります──)
「──背負ってるモノが違うでありますッ!
メジロブライトが地を蹴り更に加速していく。その背に乗せたメジロの重圧が、その全てが背中を押す力に変わり彼女の身体を誰よりも速く、誰よりも前に進める。
「“ さあブライトだ! ブライトだ! ”」
「ブライトォ────ッ!!」
キンイロリョテイが前を走る背に向かって咆哮する。しかし、メジロブライトとキンイロリョテイの差は縮まらない。ゴールは既に目と鼻の先で、春の栄光が手にする者を待っている。
キンイロリョテイの伸ばしたその手は、栄光まであと少しのところですり抜ける。
「“ 2着は9番! 9番のキンイロリョテイ! シルクジャスティスは伸びなかった! ”」
そのままメジロブライトが1着でゴール板を駆け抜ける。キンイロリョテイは2バ身の差をつけられたまま、2着でゴールした。シルクジャスティスは最後に抜かれて4着でのゴールとなった。
「“ メジロ家に春の盾! 羊蹄山の麓に春~!! ”」
悲願の天皇賞・春を獲得したメジロに、会場中から賞賛の歓声と拍手のオーケストラが鳴り響く。メジロブライトは全てに答えるようにコースを1周し、漸く笑顔で大きく右手を天に掲げた。
「元気すぎんだろ……」
キンイロリョテイは荒れた息を整えながら、見上げるようにメジロブライトを睨む。額から滝のように流れ出る汗を、袖で雑に拭いながらスタンド席を見る。誰も彼もが、最高の興奮と共にメジロブライトを称えていた。
「「「メージーロッ! メージーロッ!」」」
「リョーテーイッ! うお──!」
キンイロリョテイは、万雷のメジロコールの中に1人だけリョテイコールを送るトレーナーの姿を見つけた。
「負けてんのになぁ……まあ、いいか」
キンイロリョテイは心の奥底が満たされるような感覚を受け、満足気に頬を緩ませて、場違いな賞賛を送るトレーナーを鼻で笑った。
「リョテイ!」
「あ?」
後ろから声をかけられ、キンイロリョテイは気だるげに振り向いた。そこに居たのはこの会場の主役、メジロブライトだった。
「自分の勝ちであります!」
「どうした急に? んなもん掲示板見なくてもわかんだろ?」
「菊花賞では果たせなかった勝負の決着をつけたのであります! 勝ったのは自分なのでありますよ! わ、わかったでありますか!?」
急に絡んできたメジロブライトに、キンイロリョテイは軽くイラつきながら怪訝な表情を浮かべる。しかし、視線を落とすと握りしめた掌がプルプルと小刻みに震えているのがわかった。それだけでキンイロリョテイはメジロブライトが精一杯の勇気を振り絞って、勝利宣告をしてきたことを理解した。
「よく頑張ったな、ブライト。今回はおめぇの勝ちだよ」
そう言ってキンイロリョテイは乱暴にメジロブライトの頭をガジガジと撫で回した。メジロブライトは戸惑いながら、目を竦めつつ彼女の掌を受け入れた。
少しの間、メジロブライトが慣れないキンイロリョテイの掌を堪能していた。そして、撫で終わったと同時にメジロブライトの額に衝撃が走る。
「痛ったぁ!!? なんでデコピンするのでありますか!??」
「チョーシこいてんじゃねーぞ。次に勝つのはアタシだからなぁ! 精々次会う時まで天下を堪能しとくといいぜ」
キンイロリョテイは不敵に笑うと、後ろ手を振りながら踵を返して地下バ道へと向かって去っていった。キョトンとするメジロブライトはターフに置き去りにされた。
「このあとすぐにウイニングライブで会うのでありますが……」
相も変わらずキンイロリョテイは自己中心的で、あまりにも何も変わっていなかったと、メジロブライトは思った。そしてそれと同時に──
(──自分を貫くその姿。本当にあの頃から何一つ変わらないでありますな……)
そんな彼女の背中に憧れていた。初めて会ったあの日から抱いた憧憬がメジロブライトの胸に宿っている。これは憧れに追いつき、肩を並べたひとりのウマ娘の区切りのお話。
「おーい! ブライトー!」
スタンドから呼びかける声に振り返り、メジロブライトは純粋な笑顔を浮かべて駆け出す。最高の栄誉を手土産に、彼女は自分の居場所へと帰っていく。
そして彼女は自信たっぷりに言い切れるようになったのだ。自分が“ メジロ”であると。
天皇賞・春の翌日。俺はリョテイと2人でチームルームにいた。
「昨日は惜しかったなリョテイ! お前の実力なら──」
「──1着を取れてもおかしくなかった。だから次こそはいけるさ! っ言うんだろ? 散々聞いたよ、それはぁ」
リョテイは耳をほじくりながら、気だるげに俺が言おうとしていたことをそのまま返してきた。思考が読まれているのか!? まずいっ!
「まあ聞け。お前から耳にタコが出来るほどアタシの実力が足りてるって事は聞かされたし、アタシ自身もそう思ってる」
何がまずい? と返されずに一安心したが、リョテイは物申すの辞めずに続けた。
「そこでアタシ様は天才的なこの頭脳で閃いた。アタシには才能も実力ある……後は運だ。んじゃ、勝つためにはどーすればいいか。答えは単純……運を掴めばいい。つーこたぁ当たるまでガチャを引きまくればいんだよ」
「ガチャ? あのガチャポンのガチャか?」
「そうだ。ソシャゲとかのガチャと同じ。勝利っていうSSRが出るまで回しまくればいつかは必ず出る! これがアタシの考えた必勝法だ!」
そのガチャ、天井あるんですかねぇ……
自信満々に壊れた確率論を立てるリョテイに不安を覚えずにはいられない。反論してダンガンロンパしてやろうかとも思ったが、次の一言で俺は言葉を失った。
「だからよ、勝つまで何十戦だって挑んでやる。お前を必ず一流トレーナーにしてやるからな! 着いてきてくれるよな?」
リョテイは歯を見せながら強気に笑い、俺に手を差し伸べてきた。少しでもコイツが勝つ気ないのではと思ってしまった自分が恥ずかしい。
「ああ、当たり前だ。どこまでも一緒に行くからな!」
俺はそう言ってその手を強く握り返し、がっしりと手を取り合った。
勝つまで挑む。シンプルで泥臭いやり方だが、そういうのは嫌いじゃない。
「そんじゃ、そんな感じでいこうや。んでそれは何だ?」
「ん? ああ、今日のウマ娘新聞だよ。昨日のレースの1面だったから買ってきたんだ」
俺とリョテイのこれからの方針が無限コンテニュー作戦に定まったところで、リョテイは俺の手に持つ新聞をひったくるように奪って読み始めた。
「ふーん。メジロブライト悲願の春の盾奪還。メジロマックイーン以来の快挙、ねえ……」
呟きながら新聞を読み進めるリョテイ。だが、暫くすると静かになり、小刻みに震えた新聞がカサカサと鳴り始める。そして──
「──なんじゃこの記事はぁぁあっ!!」
リョテイが雄叫びと共に新聞を真っ二つに引き裂いて、紙片が舞い散る桜の花弁みたいにチームルームに降り積もる。
わぁキレイ! ……って前にもこんなことあったな。あの時は治療機壊して大変だったなぁ。
「見ろよこれェ!!」
リョテイが突きつけてきたクシャクシャになって読みづらい記事を読んでみる。
“ キンイロリョテイ大健闘、下バ評を覆して2着に食い込む。これで累計6度目の2着で、後一歩がもどかしいシルバーコレクターである”か。中々好意的に書いてくれてるじゃないか。
だがリョテイは納得できないようで怒り心頭のご様子で、新聞をぶん投げると立ち上がって大きく吼える。
「アタシはシルバーコレクターじゃねぇえええ──ッ!!!」
リョテイの怒りの叫びが、夕暮れのトレセン学園に木霊した。
こうして、リョテイのサジェストには“ 阿寒湖”に続いて“ シルバーコレクター”が追加されるようになったのだった。
5月後半 GII 金鯱賞 中京 芝2000m
「“ 先頭ゴールイン! サイレンススズカ圧勝っ! ”」
10バ身以上の大差を着けて、レースを制したウマ娘がいた。
後に“ 異次元の逃亡者”と呼ばれるウマ娘、サイレンススズカがその頭角を見せ始めていた。
───黄金の旅路と逃亡者の路が交わる刻は近い。
ここまでお読みいただきありがとうございます。良かったら感想や評価お待ちしております。
ほぼオリ主オリキャラ状態で前哨戦が終わって、漸く次回から実装ウマ娘たちがたくさん出てくる……はずです。
次回もよろしくお願いします!