黄金の旅路 俺の愛バは凶暴です   作:くろわっさん

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未勝利戦二戦目/三戦目

 その日の夕方。休養日だったキンイロリョテイに今後の話をするため、先輩のチームルームを借りて彼女を呼び出した。

 

 そして待ち合わせの場所に向かったのだが……

 

「んにゃ〜可愛いですにゃ〜。おーよしよし」

 

 そこには猫撫で声で野良猫を可愛がるキンイロリョテイの姿があった。正直、普段のツンケンした態度とは真逆の光景に脳がフリーズしそうになった。

 

「何してるんだ?」

 

「ん? ああ、お前か。見てわかんだろ、猫ちゃんを愛でてるんだよ」

 

 キンイロリョテイは落ち着いた様子で、俺が来ても猫を構い続ける。不良は猫好きは世界の法則だが、それを他人に見つかった場合キレるとこまでがセットじゃないのか。

 

「何意外そうな顔してんだよ」

 

「いや、猫を撫でてるのもそうだが、見た途端また噛みつかれるのかと思ってたからな」

 

「お前、アタシを何だと思ってんだ」

 

「ヤンキーカミツキウマ娘?」

 

「噛むぞ?」

 

 俺は勘弁してくれと両手を挙げて、降参の意思を示す。キンイロリョテイは猫の顎を掻きながら「あのな」と続けた。

 

「先ずアタシは不良(ヤンキー)じゃねえ。真面目に生きてないだけだ」

 

「それを世間じゃ不良って言うんだぞ、知らなかったか?」

 

「別にアタシは尖っていたいとか、プライド高くいたいとか、カッコつけたいとか思ってないしな。アタシはアタシのやりたいことをやってるだけ。そんで結果として世間様から見ると尖って見えるだけだ。全然違うっての」

 

 猫の手を持ちながらにゃ〜と言って巫山戯ているキンイロリョテイ。確かにコイツは自然体を保ってるだけなのかも知れない。考えてみればプライド高いやつなら覗きなんてしない筈だしな。

 

「授業もサボるけど、面白そうなのは出てるし、コレでもテストの成績はいいほうだ」

 

「マジで!?」

 

「マジだよ。それにトレーニングだってやりたいヤツはちゃんとやってんだろ?」

 

 俺は渋々同意する。キンイロリョテイはチームトレーニングや、自主トレは真剣に励んでいるのを知っていたからだ。出来れば俺が組み立てたメニューもこなしてもらいんだがな。

 

「ともあれ、お前が猫好きで心の底からホッとしてるよ」

 

「なんの話だよ?」

 

「こっちの話。気にするな」

 

 キンイロリョテイは頭に疑問符を浮かべていたが、その猫好きに理事長からの折檻が無くなりそうだと安堵する。

 

 突如、携帯電話が鳴った。驚いた猫が素早く逃げ出してキンイロリョテイに睨まれたが、俺の携帯では無い。つまり鳴ったのは彼女のスマホだ。

 

「げ……」

 

 渋い顔をしたキンイロリョテイは渋々電話に出た。そんな嫌な相手は誰なんだと疑問に思う。

 

「もしもし、ママ? どうしたのいきなり」

 

 どうやら電話の相手は母親だったようだ。しかし、キンイロリョテイは母親をママと呼んでいるのか。意外である。

 

「いや、それは……はい……うん……ごめんなさい……」

 

 すっかり耳も垂れてシュンとしたキンイロリョテイ。何となく分かっていたが、コイツめちゃくちゃ母親に弱いな……

 

 そんな調子で暫くペコペコしながらキンイロリョテイは電話をしていた。

 

「──えっ……うん、わかった。はい、ママが変わってくれって」

 

 キンイロリョテイはスマホをオレに手渡してきた。どうやら母親が俺に話があるようだ。俺は恐る恐るもしもしと告げて電話を変わった。

 

「いつも娘がお世話になっております。娘のワガママに手を焼かせてしまっているようで……申し訳ありません」

 

「こちらこそ、担当トレーナーとして当たり前のことしている迄です。お気になさらず……」

 

「担当トレーナーとして、ですか。あの二戦目の記事も読ませて頂きました。あれも担当として当たり前のことだと?」

 

「少々強引ではありましたが、必要なことでした。不安を感じさせてしまい申し訳ありませんでした」

 

「いえいえ、こちらこそ。逸走の件でもお手数おかけしてしまい申し訳ありません……」

 

 俺とキンイロリョテイ母親は、暫くキンイロリョテイの件で互いに謝りあっていた。

 

「それで、大衆の面前で娘にあのようなことをしたのですから、責任はとっていただけるのですよね?」

 

「せ、責任ですか……」

 

「ええ、既に理事長からは伺っていますよ。地方でも何処までもついて行って頂けるとか。間違いはありませんね?」

 

「も、勿論ですとも。そのような覚悟で臨んでおります」

 

 まさかの母親からの追撃。俺に逃げ場はなくなった……

 

「ですが、あの子には黙っておいてくださいね。どうにも危機感が足りてないようなので、地方に行っても安心など思わせたくないのです」

 

「承知しました。私も彼女の勝利の為、誠心誠意尽くしていきます」

 

「よろしくお願い致します。不出来な子ですが、何卒。貴方のようなトレーナーなら最後まで娘をお任せできると思いますので……では、娘に変わって頂けますか」

 

「え、あ、はい。失礼します」

 

 俺はそう言ってスマホをキンイロリョテイに返した。最後まで……引退までってことだよな? などと考えていたら、変わった電話先でキンイロリョテイが騒ぎ始めていた。

 

「は? ……いや、アイツはそういうんじゃ……違うって!」

 

 なんか顔を紅くしながらワチャワチャしているキンイロリョテイ。何を言われてるのか分からんが、触らぬ神に祟りなし、触れないでおこう。噛まれそうだし。

 

 それから直ぐにキンイロリョテイは電話を切った。そして頬を赤に染めながら俺を睨んで言う。

 

「次のレース、何がなんでも勝つぞ! 今回だけは真面目にトレーニングしてやる!! さあメニューを教えろ!」

 

 と、いつになくやる気を出したキンイロリョテイ。何があったか分からないが、これ幸いと思い俺は考案したトレーニングメニューを説明し始めた。

 

 次の日から、これまでにないほど真面目にトレーニングにこなし始めたキンイロリョテイ。

 

 それからこちらが驚く程に力を付けていき、課題であった斜行癖も改善していった。

 

 そして前回の逸走のペナルティである三週間の出場停止を終え、それから1週間余りの時が過ぎた。

 

 

 

 

 

╤╤╤Ω╤╤╤

 

 

 

 

 3月後半 未勝利戦二戦目 阪神 芝2000m

 

 8枠13番、前回の件がありながら二番人気での出走となったキンイロリョテイ。

 

 スタートから順調にレースを進め、最後の直線で一気に抜け出すスタイルで先頭に立つも、最後の最後に差されてハナ差で敗北し、二着となってしまった。

 

 だが、悪い点は無かった。悔しい結果になったが、次には繋がるレースだったと俺は思う。キンイロリョテイも悔しがっていたが、次こそ勝つとやる気を落とすことなく再びトレーニングに励んだ。

 

 それから2週間後。

 

 4月前半 未勝利戦三戦目 京都 芝2400m

 

 4枠7番、前回のレース内容からか、人気は圧倒的な一番人気。

 

 少し距離を伸ばし、これまでで最長の2400mだったが、キンイロリョテイはその末脚を切らすことなく、最終直線で素晴らしい抜け出しを見せる。しかし、後ろからそれ以上の脚で伸びてきたウマ娘に差しきられ、またしても二着に終わってしまった。

 

 こればかりは相手が1枚上手だったとしか言いようのないレース。

 

 改善点を埋めて確実に勝利に近づいているが、今ひとつ勝ちきれないレースが続いていた。

 

 俺は初戦でルドルフが言ったキンイロリョテイに足りないもののことを思い返す。

 

 かつてシンボリルドルフが語っていた勝利の三ヶ条。才能、努力、そして運。ルドルフが言っていた足りないものとは、恐らくこの3つのことだろう。

 

 才能は間違いなくある。あのトモから繰り出される末脚は抜群の武器だ。そして最近になって努力も重ねている。やはり最後に必要なのは運だろうか……

 

 答えが見つからないまま時間が過ぎていった。

 

 

 

 

╤╤╤Ω╤╤╤

 

 

 

 

 5月に入り、いよいよ明日にレースを控えた日。珍しくキンイロリョテイが誰かと話している姿を遠目に見かけた。近づいてみると相手はルドルフで、どんな話をしているのか気になった俺は、興味本位で姿を隠して聞き耳を立ててみた。

 

「惜しいレースが続いてるようだね、リョテイ」

 

「うるせー。明日のレースはアタシが勝つ。あとは運さえ良けりゃ勝てるはずなんだ」

 

 キンイロリョテイは俺と同じ結論に至ったようだ。その通りだと思って聞いていたが、ルドルフは訝しむようにキンイロリョテイに尋ねた。

 

「本当にそれだけだと思うのかい? 私にはまだ君に足りてないものがあると思うが……」

 

「ああ? 勿体ぶらずに言ってくれよ。何がアタシに足りてないってんだよ?」

 

「……君は、トレーナー君のことをちゃんと信頼しているのかい?」

 

 胸がドキリとした。俺の頭の片隅にもあったその考え。あえて見ない振りをしてきた事実にルドルフはズバリ触れてきた。

 

 キンイロリョテイは俺に頼ったことがない。俺が考案したトレーニングも恐らく母親に言われたからやってきたのだと、薄々は感じていた。だがそれはあくまでも俺の指導力不足だと、新人故に理解を得られないのだと、勝手に思ってやっていた。

 

 知りたくもない核心に触れる。このまま聞いていて良いのだろうかと思いながらも俺の足は動かない。

 

「それがレースにどう繋がんだ? アイツの立てたトレーニングメニューはこなしてる。結果はイマイチだけど、レースで走ってるのはアタシだ。ならそれはアタシの問題で、アイツは関係ねえだろ」

 

「そう思っているのは君だけだ。口を挟むつもりはなかったが、君は彼の想いを蔑ろにし過ぎている!」

 

「想いだあ? なんだそりゃ。トレーナーとして優秀なウマ娘を育てることか? ならアタシを捨ててさっさと別の娘をスカウトすりゃいいじゃねえか。まあそうなってねえってことは、アイツもアタシと同じで組んでくれる奴がいなかったんだろ?」

 

「巫山戯るな……彼がどれだけ君を庇ったと思う。どれだけ君を信じていると思ってるんだ。彼は言ったぞ、キンイロリョテイはいつかGⅠタイトルだって勝ち得ると。それをキミは……」

 

「言うだけタダじゃねえか。誰だって夢を見る。アタシにだってそんな時期はあったしな。アイツは今がその時期なだけなんじゃねえの?」

 

「そんな人間が自分の進退まで賭けて、君を信じるわけが無いだろう!! 中央から地方まで堕ちても着いていくなど、軽々しく理事長の前で宣言出来る訳が無い!」

 

 ヒートアップしていくルドルフとキンイロリョテイ。俺は逃げ出す機を完全に逃し、立ち尽くすことしか出来なかった。ルドルフ、お前は……

 

「ちょっと待て。なんだそりゃ……中央で結果が出なきゃ地方転向ってのはアタシと親の間の話な筈だ。そこになんでアイツが関わってくる!?」

 

「何も話していないのか……何処までも彼らしいというか……そのままの意味だよ。年内に結果が出なければ君と共に地方トレーナーに転向する。彼は私の前でそう言ったんだ」

 

「なんでそうなる!? 天下のトレセン学園のトレーナーだぞ!? 地方に行ってダメだったんで中央に戻ります、なんて通用する世界じゃねえだろ!!」

 

「そうだ。君の言う通りだよ、リョテイ。だからこそ彼がどんな覚悟で──」

 

「──なんでそんなん成るまで追い詰めてんだよ!! おい! 生徒会室ん時みたいに、お前がそうなるように誘導してたんじゃねえのか!?」

 

 聞こえる怒号に顔を出してみれば、そこにはルドルフの襟首を掴んで今にも殴りかかりそうなキンイロリョテイの姿があった。それを見た瞬間、俺は考えるより先に身体が動き、物陰から飛び出していた。

 

「待て待て! なんでお前がそんなに怒ってるんだ」

 

「トレーナー君!? 聞いていたのか!」

 

「何考えてんだよお前はよぉ!?」

 

 突然俺が現れたことに、驚愕するルドルフに、怒りの矛先を俺に向けるキンイロリョテイ。反応はそれぞれだ。

 

「お前はアホか? こんな不良債権抱えて中央から地方まで堕ちるなんて正気じゃねえぞ!」

 

「確かに俺はお前と地方まで行く覚悟で着いていくとは言った。でもな、お前は大きな勘違いをしている……」

 

「勘違いだ? 何が違うんだよ。トレーナーが居なくて可哀想って同情か? なめんな!」

 

「全然違う。そもそも俺は地方に堕ちる気なんてサラサラない。俺はお前とトゥインクルシリーズを戦い抜くって、そういうつもりで言ったんだよ!」

 

 俺はキンイロリョテイの肩を掴みながら、正面からぶつかってゆく。彼女はビクリと身体を震わせ、ピンと張っていた耳がしなって垂れる。

 

 ここでキンイロリョテイに間違えたまま終わってもらっては困るのだ。

 

「お前現実見えてるか? 5戦5敗だぞ? こんなところで燻ってるウマ娘に何望んでんだよ……」

 

「お前が勝つこと。お前なら必ず重賞戦線で戦えるって信じてるんだよ、俺は」

 

「なんでそんなに信じられるんだよ……訳がわかんねえよ……」

 

 キンイロリョテイは今にも泣きそうなくらいの表情でオレを見上げる。怒ったりしてたと思えば、いまはこの表情。恐らくキンイロリョテイは揺らいでいるのだ。

 

 ここだ。ここで間違えてはいけない。俺の想いを真っ直ぐに、偽りなくこいつに伝えなくてはいけない。

 

「俺はお前の走りを初めて見た時、自分でも驚く程心惹かれた。初めてレースを見た時みたいに胸が踊ったんだよ。だから憧れた! 俺はお前に焦がれるほどの夢を見た! 俺は見たいんだよ、お前が勝って、誰よりも輝く、そんな姿がっ!!」

 

 キンイロリョテイは肩を震わせ俯いていた。そして俺の手を弾くと、一歩下がって自らの手で肩を抱く。

 

「重いよ……そんな夢を背負える程、強くないんだよ、アタシは……」

 

「お前一人で背負わなくていいんだよ。俺とお前で叶える夢なんだから、俺も背負うに決まってるだろ」

 

「それでも……アタシは……」

 

 俯いたキンイロリョテイの表情は窺えない。俺はどう声をかけていいか分からなかった。どうすれば分かってもらえるのか、何を思っているのか……そんなことを考えていると、黙っていたルドルフが口を開く。

 

「因循姑息だな、リョテイ。彼にここまで言わせたのだから、何が言ったらどうだ」

 

「いんじゅん……何言ってんのか分っかんねえよ……」

 

臆病(ヘタレ)ていると言ったんだ。彼の手を取るなら今だろう。そんなに彼が信じられないか? いや、君が恐れているのは──」

 

「──うるさい! うるさいうるさい! アタシは……アタシはッ!!」

 

 ルドルフの言葉を遮るようにキンイロリョテイは叫んだ。まるで見透かされた心を塞ぐように。

 

 その勢いのままキンイロリョテイは踵を返して走り出した。いや、正確にはこの場から逃げ出したのだ。俺が追おうとすると、ルドルフに肩掴まれた。

 

「彼女は私が追うよ。ウマ娘の脚に君では追いつけないだろう」

 

「すまん、迷惑かける……」

 

「元はと言えば私が煽ったのが原因だ。しっかり話してくるさ、任せてくれたまえよ」

 

「ああ、わかった。よろしく頼む、ルドルフ」

 

 歯痒さを感じながらも、俺はルドルフにキンイロリョテイを託した。ルドルフの背中を見送りながら、俺はトレーナー室で二人の帰りを待つ。

 

 しかしその日にキンイロリョテイは俺の前に姿を現すことは無く、明日のレースには出走することと一人でレース場に向かうことの旨がスマホのメッセージで送られてきただけだった。

 

 そして一夜が明け……

 

 

 

 

 5月前半 未勝利戦四戦目 東京 芝2400m

 

 レース開始時刻まであと1時間。

 

 東京レース場にキンイロリョテイの姿はまだない。

 

 

 

 

 




シリアスは筆が進まないですね……


次回もよろしくお願いします!
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