アニメやアプリとキャラの性格が違うこともありますので悪しからず……
チーム結成から早1ヶ月。やる気を取り戻したリョテイは最低限の設備ながら気合を入れて練習に励んできた。
それに付き従うはチームの後輩ナカヤマフェスタ。こちらもリョテイに合わせて練習に参加してきた。俺から指示を出すと不服そうにするのだが、リョテイに窘められると直ぐに落ち着いているので、とりあえずは良しとする。
チームスピカと掛け持ちという形で参入したゴールドシップは気の向くままに練習に参加しに来ては、ルービックキューブ片手に走ってみたり、コースの片隅でジェンガをしていたりと自由気ままに過ごしていた。まあいるだけでリョテイが何故かいいとこ見せようと頑張るのだから文句は言うまい。
そんなこんなでレース前日。リョテイたっての希望で空路ではなく新幹線で札幌を目指していた。本当のところリョテイは自動車で行こうと強請ってきていたが、トレセンから札幌まで高速でいくなんてかなりきつい。それこそ専用の運転手でも雇わなければいけなくなる。
途中停車駅で駅弁早食いレースをしようとか言い出したゴールドシップの首根っこを掴んで車内に引き戻したり、暇つぶしのトランプでマニーを掛けはじめるナカヤマフェスタを叱ったりしつつ、俺たちは無事に札幌へと降り立った。
「はるばる来てやったぜ函館!!」
「いや、札幌な」
「こまけぇこたぁいいんだよ!」
駅から出るとゴールドシップは辺りを見回していて、ナカヤマフェスタも興味深そうにしている。ずっと寝ていたリョテイは背筋を伸ばして欠伸をかいていた。
「さて、じゃあ早速──」
「───札幌観光じゃあぁ!」
「なんでだよ!? 移動疲れもあるし、ホテルで休養するだろ」
「ウマ娘が移動疲れなんてするかよ。新幹線で寝てただけだぞ」
「おまっ……調整は!?」
「アタシにそんなもんはいらん! いくぞ! シップ! フェスタ!」
「「おー!」」
俺の話を聞かずにリョテイは2人を連れて街へと繰り出しいき、俺は思わず頭を抱えてしまった。
「何してんだよ。ほらいくぞ、トレーナー!」
戻ってきたリョテイが俺の手を引いていく。後ろで2人も笑顔を見せながら待っていた。
「ったく。しょうがないな! 夕方までだぞ!」
俺は最低限の約束をリョテイに取り付けて、引かれるままに歩いていく。
こうして俺たちは札幌観光へ向かうことになった。
───札幌時計台前
「これがあの袋麺のパッケージで有名な時計台かぁ」
「実物は意外とちっせえなあ。なんか銀閣寺が銀で出来ないって知った時みたいながっかり具合いだぜ」
「失礼なこと言うな。札幌のシンボルだぞ!?」
「じゃあとりあえず記念撮影だけしとくか」
「とりあえずとか言うなっ!」
札幌を嘗めていたゴールドシップを窘めつつ、皆で写真を撮った。
───さっぽろテレビ塔
「おお! 見ろよシップ、フェスタ。小さい東京タワーみたいなのがあるぞ!」
「あれはさっぽろテレビ塔な。まあ役割的には昔の東京タワーと同じだ」
「時計台見た後だとでかく感じんな!」
「やめんかっ!!」
───さっぽろ羊ヶ丘展望台
「クラーク博士の像だ! 少年よ大志を抱けってか?!」
「大志を抱け、か。いいね。私は好きだよ、その言葉」
「フェスタはなんか夢があるのか?」
「ああ、私は凱旋門賞を獲るのが夢なんだよ」
「凱旋門賞!? それはまた……」
「分かってるよ、無謀だってことくらいさ。でもゾクゾクするだろ? 絶対に無理だ、勝てるわけない、なんて言われるほど……勝ちたくなる……!」
「いいなぁじゃあゴルシちゃんも凱旋門賞目指すか! 本場のフレンチも食べてみたいしな!」
「デカい目標だな。でもそれでこそウマ娘だ! 俺も応援してるぞ! そういえばリョテイは海外のレースは興味無いのか?」
「海外かぁ。考えたこともなかったな。でも、アタシみたいなのが海外重賞制覇なんてなったら……面白いだろな」
夕暮れの丘で不敵に笑うリョテイの姿は、どこか不思議な凄味を感じさせた。
海外で走るリョテイ、見てみたいな。
その後、市街に戻り本場の味噌ラーメンを食べて俺たちはホテルへ向かった。そして一夜が明けて、レース当日を迎えた。
9月前半 阿寒湖特別 札幌 芝2000m
リョテイは前日の言葉通り移動の疲労もなく、仕上がり十分な絶好調でレースに挑む。相手はベテラン揃いだが、怯むことなく本バ場入りを果たし、気合を入れた表情でゲートに収まった。
リョテイは8枠13番の大外からの出走となったが、人気は三番手と上々だ。俺はゴールドシップとナカヤマフェスタを引き連れてスタンド前からレースを応援している。
俺がソワソワしながらレースの開始を待っていると、隣のゴールドシップは大きく手を叩いて気合を入れた。
「いよいよだな! よし、ナカヤマ! 念を送るぞっ!!」
「念?」
「いいか、見てろよ。こうやって……勝て〜勝て〜」
ゴールドシップは腰だめに両手を合わせると、バッと前に掌を突き出す。端的に言うと男の子なら誰でもわかる“ 波”を出すポーズだ。
「こんな感じだ! ほらやってみろ!」
「ヤダよ。私、もつ煮食べてるし」
隣で2人がワイワイと騒いでいると、最後の一人がゲートに収まる。そろそろ大人しく応援してて欲しいんだが……
「“ 係員が離れて、スタートしました”」
そうこうしているうちにレースが始まった。リョテイは出遅れることなく定位置の中団外側につけて第1コーナーへと向かう。
第2コーナーを回るリョテイを見ながら俺は先日の作戦会議のことを思い出していた。
『今回の阿寒湖特別ではリョテイは外の8枠からのスタートだ。そして相手はベテラン揃いで、すいれん賞でのリョテイの走りを見ているならきっと最終コーナーでインを開けてこないだろう』
『ならどうするんだ? こじ開けてぶち抜いてやろうか?』
『リョテイの体格でそれは厳しいだろ? だから今回は中盤まで脚を溜めつつ様子を見て、第3コーナーで大外から仕掛けるんだ。余分に走ることになるけど、2500を余裕で走りきれるリョテイなら行ける筈だ。そして最後は……』
『得意の直線でごぼう抜きにしてやればいいんだな? いいぜ、その作戦で行こう』
『ああ、力任せな作戦だけど、リョテイの脚は参加しているウマ娘の中でも群を抜いてて、正に抜群だからな。強いレースで圧倒してやれ!』
『了解だぜ、トレーナー!』
リョテイの力強い笑顔と返事を思い返しながら、オレは現実に回帰する。そのリョテイはバックストレッチを6番手で駆けていた。
そしてレースは進み、第3コーナーへと集団が差し掛かる。
「“ おおっと! 外を突きましてキンイロリョテイが先頭集団目掛けてすーっと上がってきました!! ”」
リョテイは作戦通りコーナーで仕掛けて、グングンと上がってくる。そして第4コーナーを回る頃には6番手だったのが2番手まで上がってきた。
「うおお!! 勝負どころだ!! 勝てーッ! 勝てーッッ!! おい! ナカヤマ! お前も早く念を送れッ!!」
「ええ……」
「早くしろ! 間に合わなくなっても知らんぞっ!! アタシたちの海鮮がかかってんだ!」
「しょうがないな……勝て〜勝て〜」
騒ぐゴールドシップに負けたナカヤマフェスタは片手にモツ煮の器を持ちながら、残る右手を前に出して気だるげに念を送り始めた。
リョテイは第4コーナーを回り終えて、最終直線へと入る。前を走る先頭ウマ娘との差は二~三バ身といったところだ。
ここから伸びれば確実に差しきれる! いけ! リョテイ!!
「もっと自分を解放するんだナカヤマ! お前はまだ全力を出し切ってねえぞ!! 爆発させろ! 力を!!!」
「はあ!?」
「おまえは恥ずかしさから心のダメージをアタマのどっかで考えてんだ! 気にするな! ダメージは高級海鮮食べ放題を食べれば元に戻る!!!」
おい、高級食べ放題に連れてくなんていってないぞ。
ゴールドシップとナカヤマフェスタの念を送る応援も、ラストに向けて熱を上げているのは分かるが、もう少しマトモな応援しててくれ。
「か、勝てー!」
「まだだ! ナカヤマ! パワーが足んねえぞッ!!!」
「勝て──っ!」
「トレーナー! ナカヤマのパワー足んねえよな!!?」
俺に振るんじゃない。
お前らの勝て勝て波のパワーの強弱なんぞ俺は測れんぞ。せめてスカウター持ってこい。
「“ キンイロリョテイが上がってきた! 13番キンイロリョテイが先頭に立つか!!? ”」
残り200。リョテイが先頭を捉えた。同時にその背には上がってきた他のウマ娘が迫っている。
最後の勝負どころ。ここから先は根性の末脚勝負。つまりリョテイの得意分野だ。
「いけぇ! リョテイ──ッッ!! 勝て────ッ!!!」
「今だァ!!!」
「「はぁぁぁぁぁ──────ッ!!!!」」
ゴールドシップとナカヤマフェスタの叫びがユニゾンし、俺の声と重なり合ってリョテイへと送られる。それに答えるようにリョテイはグングンと上がり、遂に先頭ウマ娘に並んだ。並んでからもリョテイの加速は止まらない。
「“ キンイロリョテイが先頭にたった! そして抜けてゴールインッ!! ”」
そして四分の三バ身ほど差を開いて、1着でゴール板を駆け抜けた。
「“ 13番キンイロリョテイが僅かに追い比べを制しました! ”」
「よっしゃあぁ!!! これで北の海はアタシたちのもんだァ!!」
喜びを大きく露わにするゴールドシップとナカヤマフェスタ。独特な応援方法だったが、リョテイには効果は抜群だったようで、こちらに向かって大きく手を振りターフを駆けていく。
こうしてリョテイは大外の不利を覆し、着差以上の強さを見せながら阿寒湖特別を制したのだった。
俺はリョテイの強い走りを見て、ある大きな目標が頭を過ぎったのだった。
リョテイが見事に1着を取ったので、俺は約束通り札幌の海鮮料理屋に来ていた。流石に高級は無理だが、賞金でチームの資金が潤うことを考えればこの程度は必要経費だろう。
「「「…………」」」
初めはテンション上げてウニだイクラだと騒いでいた3人だったが、今は無言である。
カニ食べてる時って何故か無言になるよな。
ゴールドシップが静かになるのは、これ幸いと俺はリョテイに今後のことを話すことにした。
「なあ、リョテイ。クラシック最後の一冠、菊花賞を目指してみないか?」
「んー、菊花賞?」
リョテイはこちらを一瞥するも、気の抜けた生返事を返す。
リョテイはタラバガニの太い足を1本手にとると、関節の根元から力強く折った。パキッと小気味のいい音をたてて、赤に染まった足から新鮮な飛沫が飛ぶ。予め切込みを入れられている殻は、引っ張るとするりと抵抗をするこなく剥けて、これまた見事な紅と白のコントラストの肉厚な身が姿を露わにする。プルプルと揺れる身を、そっと小皿に挿したポン酢につけると、繊維状の身に染み渡るように褐色の線が入っていった。リョテイはそれを大きな口を開けて、一口で頬張るとカチンと音が鳴るくらいに噛み締めて一気に足を引き抜いた。脚からは綺麗に身が剥げて2本の筋だけになり、みずみずしい蟹のエキスとリョテイの唾液が混ざったであろう糸を唇から伸ばす。指でそれを断ち切り、暫く咀嚼した後に一息で飲み込むとふぅと息を吐いて、満足気な表情で笑ったのだった。
こいつめちゃくちゃ美味そうに食うな。
「さて、菊花賞だったっけか? いいぜ、ついにアタシが大舞台に立つ時が来たってことだろ?」
「ああ、今日のリョテイの走りを見て俺はイけると思った。結構でかい目標だとは思うんだが……」
俺が言いかけたところでリョテイはビシッと人差し指でオレを指すと、ゆっくりと動かして斜めに掲げて言った。
「少年よ大志を抱け。目標はでかけりゃでかいほど面白い。だろ、フェスタ?」
「違いないね」
「つーわけで、目指そうぜ菊花賞」
不敵に笑うリョテイに、俺は大物のオーラを感じざるを得なかった。
クラシック三冠。ウマ娘が一生に1度しか挑めない栄光の冠。
皐月賞、日本ダービーにはリョテイの地力が着くのが間に合わなかったが、今の上り調子のリョテイならば十分に闘えるだろう。
「わかった。それなら次のレースは菊花賞のトライアルレースのGII京都新聞杯にしよう」
「なんだよ、直ぐに菊花賞に乗り込むんじゃないのか?」
「2着までに入れば菊花賞の優先出走権がとれるんだよ。出たいからって出れるレースじゃないんだ。それに京都新聞杯だって重賞競走でレベルはこれまでとは段違いだ」
「でもアタシなら勝てるって、トレーナーはそう思ったんだろ?」
リョテイがあまりにも真っ直ぐに俺を見つめてそう訊ねるものだから、思わず乾いた笑いが口から零れる。
GIIは高い壁だが、俺はリョテイなら勝てると心の底から信じている。それは揺るぎない事実だとリョテイからの問で改めて思わされた。
「そうだな。じゃあ京都新聞杯に乗り込んで、京都の舞台にキンイロリョテイの名を轟かせてやろう!」
「おう! 任せとけよトレーナー! バシッと1着でゴールして菊花賞だって取って、お前を一流トレーナーの仲間入りさせてやるからよ!」
強気な笑顔を浮かべてリョテイは言い切った。
こうして、俺たちの札幌遠征は阿寒湖特別で勝利を納めて終わった。
次のレースはGII京都新聞杯。リョテイと一流ウマ娘たちとの勝負の時が来た。
安田記念のインディチャンプくんは惜しかったですね。ステイみのある戦績なのできっと来年から本気だしてくれると信じています。
次回もよろしくお願いします!