また、家に帰れない方、なにかに行き詰まっている方が一瞬でも時間が過ぎて欲しいと思っている方々の力になればいいなと思っています。
話は2016年におもいついたものです。
オリジナル作品ですが、横溝正史作品、テレビ朝日のトリック、ひぐらしのなく頃にを意識してつくってあります。
しかし、オリジナルなので楽しく読んでください。
十月二十一日(金)
東京渋谷 駒川大学 五号館二階の523教室
午後五時半頃
三十人定員の部屋には沢山の人が入っている。
「…と、まぁそういうことで来週から私は民俗の現地調査ってことで『美朝村』という村に行くから来週は休講とするが、代わりにレポートを書いてもらう。なに、そんなに難しいものじゃないさ。」
金曜の昼下がりに宮中志先生の民俗学の授業が行われるが、選択授業にも関わらず単位取得が簡単ということで、多くの学生が受講している。
「お題は 美朝村について だ。文字数は、うーん…八百字程度だな。なに?少なくて嬉しい?まあそう褒めないでくれ。提出は再来週だ。書けたら単位をあげよう。ただ書けなくてもまだチャンスはあるから安心してくれ。と、いうわけで私はまだ準備がしたいので少し早いが終わりにする。ではみんな良い週末を。」
そう言うのが早いか、早く帰りたい学生が飛び出し三分もしないうちに満杯だった教室がガラーンとなりシーンと静まり返った。
先生も資料をまとめ授業で使ったコンピューターをシャットダウンさせている。
「宮中先生。あなたもたまに無茶を言うんですね。」
急に教室の扉から声が聞こえた。
見ると扉には研究室が同室の上地先生が寄りかかり腕を組んでいた。
この先生は南の島のシャーマンの血を引く女性らしくとても褐色が良く、鋭くものを見るほか、シャーマンらしく?不思議なことも言う。
不思議なことに興味があって民俗学者になったような私はこの人にとても興味を持っている。密かに壁を隔てただけの研究室が一緒になったということを嬉しく思っていたが、この女性は若くして教鞭をとっているため学生と見間違うようである。また、一部の学生からは「上地先生は宮中先生と付き合ってるんじゃないか?」とまるで修学旅行の夜に議題に上がるような噂をされているが、実際は…おっと、この話は別の機会にしよう。
「美朝村についてはインターネットでも出てこないし、誰も本に書き残していないじゃないですか。…時間もないような学生に書けるわけないでしょ?」
私に上地先生が近づいてきて耳元でささやき顔をのぞき込んできた。
宮中先生はこの人に興味はあるがパッとした瞬間に見せるこの目が怖い。
いつもは常人のように、いや常人より優しい目をしてるが、たまに見せる蛇のように黒目が大きいがまぶたが普通の半分ぐらいしか開かなくなるこの目。
私はいつもこの目を見ると
(…あなたがシャーマンの血を引いていることは信じてます。ただ私がなにか地雷を踏んだり、タブーを犯したであろうときにするこの目をやめてほしい。)
こう願うのだ。
「…では、私が調べた結果をお見せしましょう。全て文献とインターネットで調べたものですから。」
宮中先生がこう言うと上地先生はあの目をやめ美しく優しい目に戻った。
(あの目は何のためにするのだろうか?…そもそもどうやっているのだろうか?…)
我々の研究室は三号館の二階にある。
三号館は一昨年出来たため研究室は新しい。
私と上地先生の研究室は二十畳ほどの部屋を本棚で仕切ったような造りで部屋の壁紙 本棚は落ち着く暗い白に統一されていて、ゆったりと研究ができる。
上地先生は本棚の隙間からたまに宮中先生のほうに来て文献やお菓子を持って行ったりする。
しかし、廊下側が半透明なのでなにをしているかは廊下側から見えるわけなので、イロイロ考えた人には申し訳ないがそういうことはない。
自分の研究室に入ると北は北海道 南は沖縄の伝承本、柳田國男から地方郷土史家の加藤嘉男、千島寿といった人の資料が本棚に溢れんばかりに入れられてるだけでなく、先生が個人で買った本棚にも先生の興味がある古代の製鉄 星 鉱物の資料もある。
そのほか各地で知り合った方から頂いた贈り物もコンピューターのある席周りに置いてある。
宮中先生は慣れた手つきで贈り物の山を通り抜けコンピューターを起動させる。
上地先生は自分の部屋から椅子を持って来て、コンピューターの近くの少し空いているところに椅子を置いた。
「美朝村 筑野県南部の佐訪市に属する旧村名。大昔に合併されたらしいのですが現地では美朝村の方が通じます。なぜか…」
書き溜めておいたレポートを見せながら説明する。
「美朝村の あさ は、昔は浅いの浅だったらしいですが、もっと昔はまた違った字だったらしいです。それは美浅神社という神社があるので分かりました。この神社の祭神は木花咲耶姫。ですが本当は土着の神が祀られていたらしいです。」
上地先生が興味を持ったのかやたら近い。
髪が黒くストレートで美しく、肌は小麦色でとても健康的だ。
「インターネットで調べたらこの神社は最近世代交代したらしく、若い人たちを他の地域から呼ぶために音楽イベントを企画したりしているそうです。現地に入ったらこの人に案内してもらう予定です。」
その他、神社 地区会長(今でも村長などと言われている。)権力者の羽田氏(ヒラデエジンといわれる。)を美朝御参といい逆らうとまずいこと、神社の祭りが四月四日だということ、ヒラデエジンは別名朝切りのヒラデエジンと呼ばれていることなどを話した。
「へぇー、いろいろ出てるんですね。」
上地先生はコンピューターの前に蛇が身体を移動させるようにヌルッと身体を移した。
「だけどまだまだです、全然足りません。だから現地に行って調査したいのです。この村にはなにか特別ななにかがあると私は思います。」
上地先生がこっちを振り向いた。
とてもあの蛇の目をしていたとは思えない。美しい目だ…
「荷物をまとめるのは大丈夫ですか?」
「!…なんとかなると思います。」
「そう…じゃあ一週間後に会いましょう…あっ!ちょっと待っててください。」
上地先生はそういうと椅子を持って出て行き、本棚の隙間からそれこそ蛇が侵入するように出て来た。
「これを口周りに巻いていったほうがいいと…私は感じました…」
そういうと一枚のスカーフを見せた。
上地先生はシャーマンの血に関わらず特別な力を持っていると私は思う。
前に、飲みに誘われたことがある。
断ったがどうしてもと言うので行ったら、終電の時刻になったので別れて駅に向かったら、私がだいたいいつも通っているらしい時刻に車が人を挽いて大幅な遅れが出ていたがついさっき通常運転に戻ったそうだった。
また別の日は、「研究室の贈り物を全て欲しい。」と言ってきたので全て与えたら、地震があった。
私の席に迫るようにに高々と重ねてあった贈り物はだいたい重いものが入っていたので上地先生が受け取ると言わなかったら危ないところだった。
なんてことはザラだからだ。
「マスクがわりにもなるのでどうぞ。」
「すみません。ご丁寧に。」
私はスカーフをクルッと首に巻いてみせた。
「…口と鼻を隠したほうが良いと思います。」
一瞬、目の白い部分が真っ黒になったように感じた。
「そっ…そうですか…」
グッとスカーフを引き上げると泥棒のような姿になったが、上地先生はこれで大丈夫ともかっこいい。と言ってくれた。
蛇の目も治った…
「では、私はこれで。」
と言って宮中先生は研究室から家に帰っていった。
宮中先生の部屋には上地先生だけが残った。
電気を消したら深く沈んだ青が部屋を包む。
すると上地先生の部屋の方から一匹の全長が1メートルぐらいの赤い斑点のついた蛇が本棚を這って出てきた。
「クロ…あの人はあれで生きて帰れるかしら?」
蛇はぺろぺろと舌を出したり引っ込めたりしている。
「まぁ、だけどもう幕が上がってしまったからもう逃げられないわね。この三部にもおよぶ喜劇から…」
蛇はペロペロと舌を出し入れしてるだけだった、まるでなにか狙っているように…