美朝村の霧 〜宮中志先生シリーズ 第一巻〜   作:仲村大輝

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この話は、一日で一話進む予定です。
連載中は毎日お楽しみに。
連載が終わったら一気見でお楽しみください。

「ほら、宮中先生!
夢のなかに鬼が待ち構えていますよ。
楽しみですね。」


第1章 十月二十二日(土) 美朝村の夢

 私にとってそもそも筑野県に行くまでに電車で三時間もかかる。

 そこから佐訪市まで電車で一時間、一時間待たされてそこからバスで三時間揺られるとついに美朝村入口である。

 だが美朝村入口は名前だけでちょっとした広場が杉林に囲まれてちょっとした風で倒れそうなあばら家が「俺が駅だ!」といった感じで立っているだけだった。 

 そのあばら家の近くに

 

「美朝村まで四キロ↓」

 

というような看板が立っていた。

 十月の午後二時過ぎはほんのりとまだ暖かいし、杉林なので直射日光が当たり続けるということでもないが、私は暑くて少し汗が滲んでいる。

 理由としては簡単である。平坦の四キロではなく上り坂で四キロだからだ。そのうえ砂利が敷き詰められたような道なので歩くたびに非常にジャリジャリうるさい。

(夏目漱石もこんな道で『草枕』を考えたのだろうか?)

 そんなことを考えてながら歩いていった。

 すると前方が下の道と上の杉の間に青空の空間があった。

「やれやれ、やっと頂上だ。」

 私はこの杉林という閉鎖された空間から一時でもはやく抜け出したかったので思わず走り、青い空間に飛び出した。

 するとそこには客に出す盆のような村があった。

 首を振らず、目を目尻から目頭まで動かすだけで全ての見渡せてしまうような小さな盆地に家が二十軒程度点々としていて、その家の周りに畑や田んぼが広がりこの季節にならではと言ったらよいか、田舎特有と言ってよいか稲木干しを行なっている。

 四方はゆるやかな山に囲まれているが広葉樹の赤 紅 黄 薄茶 濃緑 黄緑といった自然の柔らかい色に染まりっている。

 ただそれを覆い隠すように四方に険しそうで高い山が立っており、この集落の人々が外に出ること、外の人が中にはいることを拒んでいるように感じた。

 今立っている場所から推測すると正面が西になり右手が北になる。

 その正面の、自分の目先より低い位置に木の鳥居のようなものと階段が見える。

 その奥には木々に守られている建物がある。きっとあれが美浅神社だ。(あさが「浅」なのは間違いでない。)

 しばらく村を眺めていると村全体がやわらかな風を受け、木々は穏やかに鳴った。

 なんとも私を歓迎しているように感じた。

「着いた…」

 朝に出発し、三度の乗り換えや九時間の移動でクタクタに疲れたという感覚と、目の前の赤 紅 黄色 濃緑 黄色 薄茶のダンスに魅せられた私がやっとのことで呟いた言葉だった。

「…東京からの先生ですか?」

 いつ近づいたのか和装に羽織を着た白髪が多い男性がいた。

 ただ腰は曲がっておらず背丈は百八十センチあるような人だ。

「はい、宮中志です。」

「お待ちしていました。羽田です。」

 彼がこの集落の実質権力者、朝切りのヒラデエジンこと羽田幸三郎である。

「これから一週間お世話になります。」

「疲れたでしょう。はやく家に入ってください。こちらです。」

(こんなに丁寧に私を案内してくれる…この集落の本当に権力者なのだろうか?)

と、私はこの人の後ろを歩きながら考えてしまうほど幸三郎は親切そうな人だと感じた。

 権力者だから村の真ん中とかに家があると思っていたらなんと一番東にあり、村を見下ろせる高さにある屋敷規模の建物だった。

 門はないが、玄関だけで生活が出来そうなほど広い玄関だ。つまり、農家特有の農作業が雨の日でも出来る土間を兼ねた玄関だということだ。ちなみにこの玄関は西向きのため集落を見下ろす形になる。

 それより驚いたのはこの屋敷にいる男女問わずの人の数。みんな忙しく料理をつくったり運んだり部屋を掃除したり布団を運んだりしている。

 幸三郎さんはそのなかを縫うように屋敷にあがり、私を案内しながら奥に進む。

「凄いですね、十人 二十人が働いているとは…」

「えっ?いやー、いつもは手伝いがいないのですが、明日音楽イベントがあるということで、都会から人を泊められるように掃除をしてもらって食事も作って貰っていますのでたくさん人がいるのですよ。なんでもいつもは一人で住んでいて、昼間は年寄り連中の話し相手や子守なんぞしかやることがないですから。その代わりに世話をしている人の家族から米や野菜を貰うという生活にしているのです。」

「そうなんですか。」

 私は頭の中で色々考えるのに絶対的な自信はあるが聞けそうなことなら見境なくなることがありそれが炸裂してしまった。

「……今思ったのですが、もしかして朝切りのヒラデエジンという言い方は、ここが一番に日を当たるから朝という言葉が使われているのですか?」

 歩いていた幸三郎が下を向きながらこちらを向いた。

 どうやら笑っているようだ。

 この人は人に笑い顔を見られたくない人らしい。

「朝を切るということでは合っていますが、朝霧を起こすことが出来るというのもあると思いますよ。」

「朝霧を起こせる⁈」

 おもわず声を上げた。

「明日の日の出前、…六時ごろに朝霧を起こしましょう。五時半ごろ村長に来てもらうよう頼んでおきます。」

「すみません、ご迷惑をかけます…。」

(霧を自由に出せるだって⁈)

 幸三郎さんはまた歩き出し、便所の場所や風呂の場所など教えてくれながら一番奥に通してくれた。

「さぁ、今日は疲れたでしょう。夕食は六時ごろに準備させますのでそれまでゆっくりしていてください。」

 開けると六畳の和室に、布団と五段のタンス、一人用なのか小さいこたつが置いてある。

 一段高くなってるところには、七分咲き程度のあやめの掛け軸、日本人形、茶碗などが飾られていて、この部屋は他の部屋と比べて日本風…東山文化が強いというような部屋だった。

 ちなみに他の部屋は襖で仕切られていたためつくりを確認することは出来なかった。

「ご丁寧にありがとうございます。出来ればですが、仏壇があれば手を合わせたいのですが…。」

「お気持ちはありがたいのですが、この辺りは仏教の考えがないため仏壇がないのです。すべての先祖は美浅神社で我々を見ていてくださっているというのがこの辺りの考えなのです。」

(なるほど、とても面白い。こういうことはきちんと書いておかなければ)

と思った。

「人に会わないといけないので…」

と言って幸三郎さんは出て行った。

 その後私はふすまを閉め早速こたつに入り持ってきたノートに今日あったことを書き留めておくことにした。

 私の記録の仕方は話を聞くときはメモを取らず聞いたことを思い出し書く方法である。

 だが大量に覚えることになったり、風景などというのはこっそり録音機や動画を使う。

 こっそり使うのは、メモや、「撮られている」と思うと、人の真髄に迫れないからだと確信しているからだ。

 だが、この作業は別に村についてすぐ部屋に入ってしまったようなものなので書くことが続かない。

 しょうがないから日記風にして終わりにした。

 ノートを閉じたら急に睡魔が襲ってきた。こればかりはどうにもならない。

 急いでスマートフォンの目覚まし機能を二時間後にセットし、こたつから這い出し布団に潜りこんだ。

 

すると、不思議な夢を見た。

 

私は白い部屋?

空間と言うべきか、そういう場所に大の字に貼り付けされている。

縛られているのか、身体が押さえつけられるように動かない。

手足も動かない。

(たまに現実と見間違うほどはっきりとした夢を見ることがあるのでまたそうか)

と寝ながら思った。

すると真正面に異様なものが現れた。

明らかに人であるがビジュアルが不気味なモノだ。

頭と口周りを手ぬぐいで覆い、目の周りは彫刻の入った仮面をつけているため誰だかわからない。

異様だ。

上は、たすき掛けにしている。ということは和装?と思ったがズボンを履いている。

異様だ。

きわめつけは、武器だ。

奴は武器を持っている。

右腰に鉈と鎌 左腰に斧 ベルトにも二本小刀、背中に日本刀を担ぎ、手には山刀を持っている。

異様だ。

いや、ここまで来たら異様というどころではない。

(奴は私を殺そうとしている! おいこら!俺、起きろ!)

奴はズン ズンズンとこちらに歩いてくる。

「やめろ!こっちに来るな!」

夢なら起きるのではないかというほど大声を出したが起きれない。

まさか現実か⁈

そう考えている間に奴は山刀を私の左目の下あたりに押し付けた。

ここまでやられたら声を出すために顔を歪めただけでもっと深く刃がはいると思い、声をあげるのをやめた。

そんなことをしたためか奴は調子に乗り刀をツーーっと下におろし、私の左頬を切り裂いた。

「やめろ!というか起きろ俺!」

刃が頬から離れた瞬間大声を出した。

痛い

怖い

次も奴は私を傷つけるという恐怖!

だが夢から覚めない。

今度は奴が私の右頬を横に切ろうとやいばを押し当てようとした時、

「やめなさい!」

聞いたことのある声がした。

奴が声の方向を向く。

私は動けば歯が当たりそうなので目だけ動かす。

そこには、絹のとても柔らかそうなヒラヒラしたような服を着てシュッとした袴を身につけ、首には赤を主体とするキラキラとしたネックレスをつけた、まるで日本神話の女神のような格好をした上地先生がいた。

奴は上地先生の姿を見て少し考え、山刀を降ろし、回れ右でスタスタと戻っていった。

その時追いかけたかったが、まだ拘束が解かれていなかった。

上地先生が私の目の前に来る。

「…宮中先生、あなたをこの村が待ち構えているのはあのような輩ばかりです。誰にも心を開かないで、それと周りの話はあまり聞かないで。」

「待ってください。これはどういう状況で…?」

突然上地先生が私の口にあのスカーフを巻いた。

「この傷が治るまではこのスカーフで口と鼻を覆ってください。鼻と口両方をスカーフで覆うのです。しなければ大変なことが起こります。」

「……あなたは一体?」

「もうすぐ朝になるからあなたは起きる。けど私の言ったことは覚えておいて。じゃあ帰って来たら話を聞かせてね。」

 

はっ!っと目が覚めた。

 辺りは日が落ちて少したったような濃い藍色が広がっていると思ったがスマートフォンで時間を見たら四時半。

(しまった!あのままぐっすり寝てしまった。幸三郎さんに申し訳ないことをした。)

と思って、口周りに手を持っていったら何やら冷たく痛い。

 はっと、さっきあった夢を思い出す。

 殺人鬼に襲われ上地先生に助けてもらった夢。

 スマートフォンのカメラ機能を自分が映るバージョンに変えたら私は絶句した。

 なんと夢の中で斬られたように左頬に刀傷が出来ている。

 しかも血は止まっているが新しい。

 何時間か前に付けられたような傷だ。

「傷が治るまではスカーフを巻いていなさい。」

 話しかけられたのではないかと思うほど頭をこの言葉が駆け巡った。

 私は村にボストンバックに数日の着替え ショルダーバックに貴重品とノートそしてスカーフを入れて持って来たのを思い出し、ショルダーバックを漁る。

 するとスカーフではなく見たことがない手ぬぐいが出て来た。

(このバックには長方形の布類は入れてないはずなのに…それよりスカーフは…おっと、首にそもそも巻いてたんだ。)

 私はスカーフを首から外し夢での御告げ通り鼻と口をスカーフで覆った。

 息苦しいと思ったがそうではないようだ。

 こんな不気味な現象があったら否応にも上地先生の御告げを守らないと精神がもたない。

 冷や汗が吹き出し、怖くて寝る気にもならないが布団を被り静かにしていた。

 布団に入るといろいろまた考えてしまう。

 

(誰が頬に傷を付けたのか?

 あの夢は傷がついているときに見たのか?

 そうだとしたら傷を付けたのはあの殺人鬼なのか?

 殺人鬼がいるのならこ 美朝村の住人は大丈夫なのか?

 上地先生はスカーフを持っていった方がいい理由、即ち私の頬に傷がつくのを知っていたのか?

 私のショルダーバックに入っていた長方形の布はなんだったのか?

 ん⁈長方形の布?

 もしかしたら殺人鬼がわざとバックに突っ込んだものかもしれん。殺人鬼が私に挑戦状?)

 

 ガバッと起きだしバックを探り、布を掴むとスマートフォンの電灯機能を使い、なにか手がかりがあるのではないかと探ることにした。

 するとその手ぬぐいは「美浅神社」と書いてあることが分かった。

「とにかく今日美浅神社の神主に会えるから聞こう。」

 私はもう一度ショルダーバックに手ぬぐいを突っ込んだ。

 

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