「さあ、宮中先生!
今度は上地先生が首を絞めてきますよ。」
午前五時半に幸三郎さんが起き出してきたが、私の顔を見てびっくり仰天
「その顔をどうなさったのですか?」
「実は、夢の中で変なモノに顔を斬りつけられたのですが、起きたら本当に誰かに斬りつけられたような傷が出来ていたのです。」
「それは大変だ!この集落には医者がいないのだが切り傷に効く薬を出してあげましょう。」
「ありがたいのですが、持ち合わせの薬を塗ったので大丈夫だと思います。心配をかけ申し訳ありません。」
「いやいや。そうだ!昨日言った村長なんだが、代わりに息子の拓馬くんが来てくれたから拓馬くんと見に行きなさい。玄関にいますよ。」
「はい、ありがとうございます。」
傷というか顔をスカーフで隠し、拓馬さんのところに行く。
「おはようございます。区長の息子の拓馬と言います。よろしく。」
「駒川大学の宮中志です。お世話をかけます。」
(区長の息子ということからか見るからにリーダーの素質がある好青年だ。ただ…左目がまっすぐ見ているだけでキョロキョロ動いていないと思うが…)
スカーフを巻いてる理由を説明してヒラデエジンの屋敷を私が出たら、玄関で拓馬さんが幸三郎さんに小声で、
「鬼が動いたようだね。」
「用心してる。」
と小さく聞こえたが、わざと小さな声で言ったように思えたので、とりあえず聞かなかったことにしておく。
だから私も小さくつぶやいた。
「鬼ね…」
前記の通り美朝村は小さな盆地に存在し、真西の美浅神社と真東のヒラデエジンを結ぶ道と、山を越えられる南北に伸びる道があるが山を越えると行っても断崖絶壁や急斜がきつく素人ではどうにもならないので、地区の人ぐらいしか使えない道が存在している。
その道同士が村の一番低いところの盆地のほぼ真ん中辺りで交差していて、その交差するところに道祖神が祀ってある。
私は今、朝霧を見るためにその道祖神の隣にいる。
村民が朝霧を見ようと家から出てきているのでスカーフを見られ、「不思議な格好をしている人だな。」という目をされていると感じた。
しかし、拓馬さんと一緒だろうからか地区の人で嫌な顔をする人はいない。
「そろそろ六時ですから朝霧が来ます。」
拓馬さんが教えてくれた直後、ヒラデエジンが黄色や、白に輝きだした。太陽と屋敷が重なったのだ。
すると、白く輝くヒラデエジンから煙がモクモクと地を這いながら盆地に迫ってきた。
「なぜだ?」
私が声を思わずあげ隣の拓馬くんを見ると「どうだ すごいだろ!」っという顔をしている。
ほんの二、三分で煙が盆地に溜まり我々は煙に巻かれた状態だが、端から見れば霧になっている。
地区の人達は、ヒラデエジンに向かい手を合わせたり、なぜか興奮し過ぎて高笑いする者もいる。
「言い忘れましたが、この村…すみません、みんな「市」になった実感がなくて今でも「村」と言っていますので…」
「いえいえ、「市」になったから旧名を使わなくなってはそれこそ文化がなくなると考えていますから大丈夫です。」
「そうですか…では、この村の自慢はこの朝霧とうまい飯と水と空気と良い音色は村時代からの自慢で、どこにも負けません。」
「良い音色?私は多くの地域に行きましたが音色とは?」
「あぁ?…!失礼しました。実は今日の夜に音楽イベントを私が開催するのです。都会からも音楽好きが集まり約三十人来ます。」
「あぁ!そう言えば幸三郎さんがそのお客さんたちを泊めるのでしたね。」
ここで私は瞬間的に考えた。
(といってもスタッフはいつも違うところで演奏しているのだからなにか変わることがあるのだろうか?…美朝村の盆地に音楽が反響するとかかな?)
「楽しそうですね。」
急に男の声が後ろから聞こえた。振り向くと、袴を着けた男が右手に杖を持ち立っていた。
「あっ!先生、紹介します。美浅神社神主の浅見一樹です。一樹、こっちが東京の先生の宮中さんだ。」
拓馬さんがとっさに私を紹介した。
「駒川大学民俗学者の宮中志です。」
「はじめまして…宮中先生。美浅神社の浅見一樹です。あなたが美朝村の民俗調査をしているのですか…なんでまた?」
「お言葉ながら、美朝村は俗世間との交流が今でも少ないとお聞きしました。もしかしたら独特、もしくは古くから伝わっている文化があるのではないかと考えたのです。また、今の世の中少子化により村がなくなったりすることが起きています。もしなくなったら古くからあった先人たちの知恵もなくなってしまっては非常にもったいなのではないかと考え、地域の保存 記録用に羽田さんから頼まれた部分もあるのです。」
「ふうん…。」
浅見さんは拓馬さんと変わらないぐらいの歳に見える。ただ、彼の目の奥にはかにかギラギラしたものが見え隠れしている。
(蛇とは違う、なにか随分と考えているような目だ。…そうだ!)
「そのほか…」
私はスカーフを下まで下ろし傷を見せる。浅見さんは見たくないものを見たような顔をした。
「ここに来て不思議な夢を見ました。斬りつけられる夢なのですが、起きたら現実にも斬りつけられたような傷が出来ていたのです。個人的にこのようなオカルト 現象も解明したいかなと思いまして…」
「……なかなか、良いのではないでしょうか?…解明してみては…」
「お世話をおかけします。」
私は頭を下げた。
「いえいえ…私、今日は午前中に用事がありますので、午後から村を案内することになるのですが大丈夫ですか?」
「分かりました。ヒラデエジンで待っています。」
浅見さんは、では。と挨拶し行ってしまった。
拓馬さんもイベントの準備を行うと言い行ってしまった。
その背中を見ていたらいつの間にか霧が晴れた。私はまっすぐ来たヒラデエジンにむかい歩きながら考えた。
(あの神職…変わったオーラがあった…なにかこの傷について知ってる感じがするな…)
私はヒラデエジンに戻り、自分の部屋で朝の出来事をノートにまとめていると朝飯が出来たということで、客間に行った。
客間には、今日の準備のためにたくさんの人が集まっていた。今日の夜の準備のために集まった村民にも苦労をねぎらうため朝飯を出すらしい。
朝飯は白米と味噌汁に納豆 菜っ葉のおひたし 目玉焼きとソーセージだ。どうやらソーセージは自家製でなく村外からのおくりものでもらったらしいがほかは自家製らしい。
「先生、どうでしょう美朝の米は?たまに来る村外の連中はうまいうまいと言っとります。」
私の隣に六十歳ぐらいの、白髪がみごとな人が座った。
「ええ、とても美味しいです。」
「せがれの拓馬から聞いたのですが朝霧は大層驚いたとか?」
「朝霧を自由に発生させるというのは驚きました。今度は理系の先生を連れて来たいと思います。」
「はははははははは!それはそれは。」
温厚そうな人だと思ったが笑い方など豪快なところがある。
「ところで、いま『せがれの拓馬』と言いましたがあなたが区長ですか?」
「そうじゃ、儂が美朝の地区長だ。地区長なんだがみんなはまだ村長と言っとる。儂は朝が弱いので息子に頼んだんじゃ。」
「…村長、実は一つ質問があります。」
「なんだ?」
小声にしてこの質問はした。
「この村に鬼がいますか?」
明らかに村長の動作が止まった。
少し考えているようだ。
(なにか隠したいことやなにか嘘をつこうとしている…。これからしゃべることは信用出来ないかな?)
少しすると、
「…民俗の先生だからいつか誰かが聞かれるのではないかと思ってたが流石先生、早いですな。」
「実は…昨日の夜、私の左頬を仮面をつけた誰かに切りつけられました。その後、拓馬さんに顔を隠す理由を説明したところ、拓馬さんが羽田さんと鬼がどうのこうのという話をしているのを聞いてしまいまして…その後霧を見に行って浅見神職に会ったときもなにか隠しているような動作をとられたため少し気になっているのですが、この傷は多分その鬼につけられたものじゃないかなんてことも考えてます。どうやら私も鬼にとらわれ過ぎじゃないかと思ってますが、拓馬さんと幸三郎さんが鬼という単語を使ったのが気になっていまして…、で鬼とはどのような姿をしているのでしょうか?」
「……儂は口での説明がうまくないんでな…美浅神社の本殿に鬼の面が飾ってあったはずだから神主に言って見せてもらえ。」
「そうですね。午後神主が来るとおっしゃっていたので見せてもらおうと思います。」
「…ヒラデエジンには、ヒラデエジンの家伝記があると聞いたことがある。幸三郎さんに聞いてみるか?」
「読みたいところですね。もしかしたら鬼について書いてあるかもしれませんし…」
(さすが村長だ、誰も傷つかない答えを導き出した…)
そのような鬼の話を小声でしながら朝飯を食い、私と村長は幸三郎さんにお願いし、『羽田家伝記』を出していただいた。
「古くてなにが書いてあるか分かりませんから、村の記録の一部としてどうか解読していただけないでしょうか?」
「私もすらすら読めるたちではないのですが、一つやってみたいと思います。」
そう言い、私は自分の部屋にこもった。
私はどちらかというと現地調査が得意なので、解読作業はとても根気がいる作業だ。
なにせ昔の字は「あ」だけで四つも単語があるし、筆で書いてあるから滲んで「る」が「ろ」になってたりする。
しかし、私のスマートフォンにはそのような古文でも読み取れる古文読み取りアプリがついている。
アプリを起動させた状態で写真を撮るようにスマートフォンをかざすと日本語に訳してくれるほか、現代文にも訳してくれる機能がついている。
その上、PDFにまとめてくれる機能が付いているから貯めてから読むことができる。
原本のままだと本当になにが書いてあるのか微妙なので二、三ページ訳したので現代訳を読むことにした。
するとそこに訳された言葉は
「霧が出たときに鬼が現れ三十名以上が死亡 神社に舞を奉納し鬼の鎮魂にあてる」
(なんだと!)
頭の中が凍りつく。
(いつだ!)
元号を探したがない。
中央集権とは関わりがないのでいつの年にあったのか分からない。
(とにかく鬼により三十名以上が殺されている…)
アプリでいちいち読み込むのが煩わしく感じ、「鬼」という字がどのような字か記憶し適当にパラパラと本をめくる。
すると、
「鬼により二十二名が死亡 神社に舞と酒一升を奉納」
「祭りの後にも関わらず鬼により八名死亡 辻に神を建立」
と、出てくる出てくる。
何ページか進めば「鬼」という単語が出てくる。
私は不思議な汗が出てくる。
(家伝記は本当に真面目に書いたはずなのにこんなに鬼というモノが出てくる…実在するとでもいうかのように…いろいろなところに調査に行ったがここまでたくさんの人が大量に死んでいる。それも「鬼」という抽象的なものによって…)
「…浅見さんに聞かねば。」
そう言葉にしたら昼飯が出来たと呼ばれた。
昼飯はうどんだ。野菜がたくさんと肉が少し入っている。
「どうですかな?訳しは?なにか参考になっていますか?」
隣の幸三郎さんに話かけられた。小声で答える。
「……鬼が随分と出ているようですが、幸三郎さんは鬼を見たことありますか?」
「ええ、あります。」
(鬼を見たことある!)
「どういう風貌でしたか?」
思わず声が大きくなり驚いた周りがこっちを見る。私が頭を下げたらみんなまた談笑し始めた。
「すみません。少し鬼に慎重になりすぎてますかね?実は、鬼が大量に村民を殺したという記述がでてきましてね。」
「…私も鬼と言っても、四月四日の祭りででる鬼のことなのですが…そのような伝記に出てくるような残忍な鬼は見たことありません。」
(なんだ、祭りの鬼か…でも祭りの鬼が人を殺すのか?そう考えたなら伝記に書かれていることは嘘なのか?)
「なぜ私に鬼の存在を最初に教えてくださらなかったのでしょうか?それと拓馬さんと鬼がどうのこうのという話もしていたじゃないですか!」
おもわず声が強めになる。。
「まさか祭りでしか鬼がでないのに外部から人を狙うとは思ってもいませんでした。鬼などこの世にいるわけがないので拓馬がそんなことを言ったときは驚きましたよ。」
(奴はなにをするか分からんと言ってたから知ってるじゃないか。それと俺の答えになってないじゃないか!)
と言いたかったが言うとまずそうだし、感情的になりすぎと思い黙った。
食べ終わると同時ごろに浅見神職が来たので集落を案内してもらうことにした。
東の山はヒラデエジンのもので滅多には立ち入れないこと、北の山に川があり漁場として使っていること、道祖神が昔は鬼による殺人があるごとに建立されたためたくさんあったこと、今は電灯付き電柱が道祖神のところに一つあることなど、隅から隅まで見せてもらった。
私は最後に一番知りたかった神社に連れて行ってもらった。
神社は西の端の長い石段の上にあり階段は木が覆いかぶさり石段はヒラデエジンから隠れしていただけだったが、とても長いものだと思った。
階段の長さに思わず一回休憩したくなったが浅見さんがホイホイ登ってしまうのでいつ声をかけようと考えている間に着いてしまった。
ヒラデエジンから見えている部分は赤い鳥居だけなので神社がどのような造りだろうと想像していたが、なんとヒラデエジンと似たような造りの建物が鳥居から続く石畳の直線上にあり、左手に八畳ほどの神楽殿があるだけだ。
「本殿は…あの建て物ですか?」
「ええ、本殿があの建て物であり社務所であり私の家でもあります。」
「…日本にもいろいろな神社があるのですね。ここは何の神が祀られているのですか?」
「コノハナサクヤヒメですが、どうやら明治になってから祀られたらしくどうやら江戸時代までは違う神であったそうですが、私もお年寄りから聞いた話では「神」というだけで名前はないそうです。」
「………」
(ということは、コノハナサクヤに見せかけて違う信仰があるってことか。)
建て物の中に入れてもらう。
するとどうだろう。ヒラデエジンと左右が逆なのとは行ってまっすぐはヒラデエジンだと応接間の部分になっているがここはそこに神が祀ってある。
「なぜヒラデエジンと左右逆の造りなのですか?」
「この村はだいたい似たような造りになっています。びあさはごさんはご存知ですか?」
「びあさごさん?」
浅見神職は杖で地面に「美朝御参」と書いた。
「ヒラデエジン、美浅神社、それと村長の家。この三つは村でも大きな力を持っている家ということで御参と言われています。とくにヒラデエジンはこの神の力により栄えたとされており、神の力により朝霧を起こしこの村を束ねているとされています。よって御参と言われても私と村長もヒラデエジンには逆らえません。ただ、なにかあって御参と呼ばれるように神社は常任、村長は選挙により変わるという形になったのです。」
「神が力を与えた?」
「はい。どのような力かは分かりません。」
「……」
(なかなか面白い。)
「神楽殿も気になるですが…」。
「どうぞ。」
建て物を出て神楽殿に行く。
この神楽殿、変わったところは舞台と地面が異様に近いことだ。裏に回り込み浅見さんと向かいあった。
「ここで四月四日に祭りを行います。」
「鬼が出て踊るのですか?」
「踊る前に鬼はヒラデエジンから朝霧と共に出てきます。」
「ヒラデエジンから霧とともに鬼がでてくる?」
「はい。…鬼の面があるのですが見ますか?」
「ぜひ見させてください。鬼は興味がありますので。」
「あれです。」
浅見さんは天井を指さした。私は指の先を見た。その瞬間おもわず後退りした。
「先生?大丈夫ですか?」
あまりの恐ろしさに足がすくむというが、浅見さんが声をかけた瞬間日が落ち一気に暗くなったこと、この神社の庭、不思議な神楽殿と相成りその面は生気無く飾られているように感じとり、とてつもなく恐ろしいと感じた。
「夢の中で見ました…」
「えっ! …この鬼の面をですか?」
「はい。」
「…見間違いでは?」
思考が停止し首を振ることぐらいしか出来ない。けれどなんとか声を絞り出し、
「いえ、この面をつけたモノが私を斬りつけました…あっ!」
「!どうしました?」
「この鬼は踊る時にどのような格好をしますか?」
(まさか夢の格好で踊るんじゃ…)
「…祭りの写真があります。見ますか?」
二人で神楽殿から母屋に移った。
「この部屋で待っていてください。」
私は客間に通され、浅見さんはアルバムを探しに行った。
六畳ほどの日本風の部屋だ。ただ、ここにはさっき見たのとは違う女性らしい面が飾られている。
じっと凝視するとなにか異様な空気を感じられる。
なにか見透かしてやろうとしているような…
その女系能面はどうも見覚えがない。
「どうですか?」
面を見ていたら浅見さんがアルバムを抱え現れた。
「この面は四月四日の祭りに出る面を模して作られたもので触っても大丈夫ですよ。」
「この面は鬼とどういう関係なのですか?」
「これは、コノハナサクヤヒメです。もっと言えば鬼がヒラデエジン、コノハナサクヤヒメがこの美浅神社です。」
(コノハナサクヤの面と言うことは、そんなに古くないのか?)と思ったがいまはそれどころではない。一刻も早く鬼の格好を確認したいとしか考えられない。
「…分かりました。写真 お願いします。」
パラパラとアルバムをめくりあるぺージでこちらに見せてくれた。
「………。」
鬼は頭と口周りを手ぬぐいで覆い、目の周りは彫刻の入った仮面をつけているため誰だかわからない。
服装は和装で、たすきを掛けている。
「…この格好で本当に踊るのですか?」
「えぇそうです。」
「…村人はこれが鬼と思っているのですね?」
「そうです。」
「…やはりこの鬼がほぼこの格好で夢に出ました。」
「⁈」
「ただ、和装ではなくズボンを履いていましたが…」
「えっ⁈」
浅見さんが声をあげた。
「どうかしました?」
「いえ、…変わった格好をしていると思いまして…鬼が…基本は和装なので…」
「あっ!これは見覚えありませんか?」
私はショルダーバックから昨日あった手ぬぐいを探し出し浅見さんの目の前に出した。
「………」
(さあ、なにかあるかな?)
「昨日の夜、私がこの傷に気がついたあと、顔を隠そうと探していたらこの手ぬぐいを見つけました。…私はこの集落についてすぐ寝てしまったので、神社関係者が置いて行ったのではないかと考えていましたが…」
(さて、なにか反応を見せろ!)
私はこの浅見神主が裏でなにか考えているのではないかと思い初めていた。
(普通に考えれば、寝てる人のところに来て勝手にバックに手ぬぐいを入れるなど考え難い。さて、俺になにか言ってみろ。)
そう思っていたら・
「差し上げます。私が明日の準備のために配ったものですが誰か置いて行ったのでしょう。なんなら今からその手ぬぐいを顔に巻けばどうでしょう?そのハンカチよりその手ぬぐいの方がこの村では見栄えが良いでしょうし…」
「たしかに手ぬぐいには変わりないでしょうし、美浅神社の物でしたら変な目で見られもしないでしょう。」
そう言い、私は顔を巻く布を変えた。
(この男、なかなか頭がいいじゃないか…よし!)
「ところで、鬼なのですが文献を見るとちょくちょく鬼が出てきては大量に殺人していくようですが最近は鬼が出たりしたのですか?」
「二十年前に十名近く、五年前に私の妹と幼馴染だった一人が…」
(やはり、…と言っても少し気の毒だったかな?)
「…それは辛いことを思い出させてしまい申し訳ありません。」
「いいえ、いいんです。それと先生。この村はまだ外部者を嫌う風習が残っています。十分にお気をつけください。とくにヒラデエジンには…」
「そうですか…」
(なにが言いたい?)
「…そろそろ音楽イベントが始まる時間ですが先生は行かないのですか?」
唐突に話題が変わった。
「こんなに明るい時間からやるのですか?」
「この村の公民館で八時まで行い、子供らを帰した十時ごろから神社で夜通し行われるので、そろそろ人が来るのです。」
「そういうことですか。では公民館まで行って見ます。ありがとうございました。」
その後、私は浅見神主と別れ公民館に向かった。
公民館といってもそれも古民家である。美朝村は本当に昔の建物が残るまさに村一つが文化財級なのである。
その公民館に人の集まりが出来ていて、イベント関係者が最終調整しているようだ。
関係者会議の中に拓馬さんを見つけた。むこうもこちらに気づいたらしく、こちらにやってきた。
「手ぬぐいを変えたのですか。どうでしたか?神社は」
「私は外部の人間なのであのような神社が日本にあるとは思っても見てませんでした。」
「はははははは!イベントに来た人があの神社を見ればみんなそう言います。」
「この音楽イベントはどのくらい歴史があるのですか?」
「いえ、地域振興か目的だったのですがコアなファンに広がり都会から人が集まるようになりまして、引っ越してくる人まで出てきたのです。」
「地方が寂れてるところが聞いたら飛びついて来そうな理由なんですね。」
「はい。どうでしょう?今日はもう調査をしないのなら一杯やってからイベントを楽しみませんか?」
「…そうしますかな?」
その後、私は村民イベント参加者とそう遅くはない時間から飲み出し、第一部終了で一度休むべくヒラデエジンまで帰って来た、一人で帰れそうだったが拓馬君ともう一人にあまりにも千鳥足だったので送ってもらった。
二人はやることがあったので速攻帰って行った。なにが二人を駆り立てていたのだろう。
ヒラデエジンの自分の部屋の障子を開けた瞬間、
上地先生が蛇の目をして私の首を絞め上げてきた。
「かっ!……上…」
「先生、私の約束を破るのですか?」
「なっ?…」
(物凄い力だ。息が出来ない。)
「その顔を隠しているのはなんですか?私のスカーフはどうしたのですか?」
「………す…すみませ…ん。…か、カバンに入っ…」
息も苦労するのに質問などされては受け答えも出来ない。
「早く巻きなおしなさい。早くしないと手遅れをなる。」
「はっ…はっ…。」
(目の前がボヤ〜っとしてきた。まずい、本当に殺される…だめだ…)
私はこの苦しみから逃れるように目をゆっくり閉じた。
「先生!先生!」
(幸三郎さんの声がする。)
かっ!と目を開けた。
心配そうに幸三郎さんがのぞき込んでいる。
どうやら私が倒れた音を聞き、来てくれたようだ。
「どうなさったのですか?自分の首を絞め上げて、しかも力いっぱい。」
「えっ?」
(誰かに絞められるのではなく自分で?)
「苦しそうだったのに自分で自分の首を絞めていたのですよ。」
「…多分酔っぱらったせいでしょう。酒は強いはずなのですが…」
「気をつけてくださいね。」
「はあ、どうもお騒がせしました。…ところでここに若い女の人がいませんでしたか?」
「いいえ、若い女性はみな公民館ですからここには年寄りしかいませんでしたよ。しかも入ったのなら分かるほど今日は人がいますし。」
「…そうですか…」
そう言い部屋に入り布団に入った。
(おかしい!明らかに私は上地先生に首を絞められそれから逃げるために自分の手を上地先生の手にかけたが自分では自分を絞めてはないはずだ!
しかも、誰も上地先生を見ていない…)
そのとき上地先生の声がはっきりと聞こえた。
「私のスカーフを…」
背筋が凍りつく。
幻聴かもしれないが聞こえた。バックから大慌てでスカーフを取り出し、顔を隠した。
布団を頭まで被り、
(さっきあったこと 今日一日であった鬼の大量殺人並びに夢の中に出て来たのはこの村の鬼だということ。とりあえず、拓馬さんか村長が羽田さんに聞かないと…)
などを考えていたら疲れと酒の力に負け眠ってしまった。