美朝村の霧 〜宮中志先生シリーズ 第一巻〜   作:仲村大輝

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これが最終回です。
短い期間でしたがありがとうございました。
次の新作もご期待ください。
確認して分かったのですがこの作品は2017年3月22日には完成していたようです。



「さあ宮中先生。上地先生が…」


エンドロール 十月二十八日(金)

 三人で食事を済ませ、コーヒーでも飲んでいた午前七時ごろ。

 村の方からぞろぞろと音楽イベント参加者が警察に連行されてきて、停めてあった護送車に続々と乗せられていった。

 怒ったような目をこちらに向けてくる者もいて、とても見ていることができなかった。

 一刑事がやってきた。

「宮中さん。やりました。羽田さんの畑はやはりケシと大麻を栽培していました。また、屋敷を捜索したら植物をすり潰すための石臼や霧を出す蒸気発生器のようなものを見つけました。また、神社や有志の人の家を家宅捜索しましたらほとんどの家から大麻が出ましたので、これから本庁のほうに大半の人を輸送します。」

「…幸三郎さんは、いや羽田氏はケシや大麻を霧のように噴射していたということですか?」

「そうです。それで中毒状態に集落の人をさせておけば従わない人はいなくなるでしょう。」

「………。」

「ですが、先生は顔をスカーフで隠してましたから毒霧をあまり吸わずに済んだのです。運が良かったですな。」

「………!」

(そうか、上地先生は私が水に落ちることではなく、霧を吸わないようにと考えていたのか!…子供たちは⁈)

「子供達はもう中毒ですか?」

「羽田さんは良い人で、ケシの霧を起こすときはちゃんと予告してから起こしたそうです。子供達に吸わせたらまずいと考えていたのでしょう。また、親には「霧の中から鬼が来る」としつけるようにアドバイスしていたそうです。」

「…………」

(しまった…幸三郎さんはあくまで味方だったのか…子供達のことまで考えて…疑った自分が馬鹿のようだ…)

「羽田さんはこういう風習をどうにかしたいと考えて子供達に吸わせないようにと考えたのでしょうな。」

「私もそう思います。と言うよりそうでありたいです。」

(そうだったな。最初、私に連絡してくれた幸三郎さんは「村がなくなると村民のふるさとがなくなってしまう。若い連中も頑張ってはいるが、風習というのは消えたりする。だからそれを保存して欲しい。」と言われたんだった。逆に、「この村にはこんな風習が残っているから消して欲しい」という意味もあったんじゃないだろうか?)

「…浅見さんは?」

「浅見神職は、有志の人々と一緒に帰ってきてとりあえずヒラデエジンにいます。なにか失ったように虚空を見つめていました。」

「……鬼は?」

「村民によると、鬼だと思い込み石をぶつけたらその場に倒れたが起き上がり数歩あるって足を滑らせ川に流されたそうです。」

「なるほど。」

 そのとき突風が吹き干してあったあの布が飛びバス停に引っかかった。

 私と一刑事はバス停に布を取りに行きさっきの話の流れから、裏の崖から川を覗き込んだ。

 すると、私のジャケットを腰に巻いた男と男の回りに白い棒のようなものがたくさん流れついていた。

 警察が早速引き上げると、夜対峙した男だった。

 彫りが深く鼻が高い男前だった。

 だが額が石が当たったときにグチャっとなったようになっていた。

 もう一つの沢山の白い棒は骨であった。

 しかし、その骨はその男を取り囲むように流れついていたのが異様に思われた。

「……たしか、浅見神職の妹ってまだ見つかっていませんでしたよね?」

「そうですが…どうしてこれが神職の妹だと分かるのですか?」

 それは…と言いかけたとき、県からパトカーの応援がきたので、羽田幸三郎 美浅神社の浅見一樹だけでも輸送することになった。

 

 ヒラデエジンこと羽田幸三郎が連行されて来た。

 連行している若い警察官と比べるとどちらが逮捕されているのか分からないほど堂々としていた。

 幸三郎さんの目がこちらを向いた。

私は、

「(あなたを疑ったことを許してほしい。また、子供達は誰でも良い子ですからこの集落は大丈夫だと思います。それと、『羽田家伝記』の訳が終わりましたが、留守の間は私が補完しておきます。)」

と念じたら、ホッとしたような顔を見せ、パトカーに乗り込んだ。

 次に浅見さんが来た。

 包帯で巻かれた腕がとても痛々しい。

「一さん、三分ほど会話できますか?」

「…良いですが、容疑者はあなたになにかもってますから気をつけてください。」

 私が浅見さんに近づくと浅見さんの護衛警察官が緊張した面持ちをしていたが、浅見さん本人は昨日までの「東京の学者をどうにかしてやろう。」という眼の輝きが全くと言っていいほどなくなっていた。

 すべての生きる意味がなくなったかのような眼だ。

「…俺は、親友を救おうとしただけなんだ。」

「はい。」

「あんたが、…あんたが頭が良くて…運が良くて…全部失敗させやがった…。」

「はい。」

「………。」

 浅見さんはしゃべるごとに段々と顔を下げていったが、私のそっけない態度に怒ったのか、なにか言いたそうに顔を上げた。

 だが、私と眼を会わせたら声にならない口を動かし黙ってしまった。

「…浅見さん、これを見てもらってもいいですか?」

 懐から足に絡まっていた布を出した。そのとき「あっ!」と浅見さんが声をあげた。

「妖怪岩に引きずり込まれた時によどみに掛かっていました。…見覚えはありますか?」

「妹のです…。なんで?…」

「この説を立証するためにはもう一つ証拠がいるのですが…浅見さん、稲葉さんと妹さんは両思いかなにかでしたか?」

 黙ってゆっくりうなずいた。

「分かりました。すべて立証しましょう。…浅見さんは、妹が連れさらわれたとおっしゃっていましたが本当はそうではなく、鬼のようになってしまった妹さんが稲葉さんを救おうとしてなんらかの原因で妖怪岩に落ちたのです。だからいままで行方不明だった…。」

「けれど…、たしかに私はあのとき稲葉が妹を棒で殴り殺すのを見たはずですが…。」

 私はスマートフォンから一枚の写真を選び浅見さんに見せた。

「これは先ほどバス停の下に流れ着いていた遺体と遺骨ですが、この骨に布と同じ片が付着していました。…妹さんで間違いないと思います。そしてこの頭蓋骨。一カ所もひび割れがない。すなわち、殴られていても致命傷ではなく、稲葉さんを追って森に入って妖怪岩にまよいこんだのではないかと…。」

「そんな…」

「そのうえ…あなたが、…鬼がそんなことをするはずがないと思っていたから協力していたのでしょう?」

「……。」

「…浅見さん、私はあなたが何のために私を鬼にしようと考えたのか聞きはしませんが一ついいですか?」

「…なんでしょう?」

「警察から帰ってきたらなにをしたいですか?」

「えっ?!」

「予想外の質問でしょう?…もう起こってしまったことはどうにもなりません。だからこれからは、これからのことを考えるんです。…さあ、帰ってきたらやりたいことは?」

「……まっ、祭りの支度をしないと!」

「ありがとうございます。答えてくださって…。それを支えに頑張ってきてください。」

 一さんがそろそろ。

と言ったので浅見さんがパトカーに乗せられる。

 だが、のせられる直前に

「宮中先生!ここは…この村はこの先どうなるのでしょう?」

と叫んだ。

(なるべく簡単に分かりやすく言わなければ…。)

「圭吾 岳斗 香和 三郎がいる。」

浅見さんは叫んだことで、強引にパトカーに乗せられていたが私の声を聞いたら静かにおとなしく、すべて分かったような顔をして乗り込んで行った。

 

 

十月二十九日(土)

 朝から美浅神社に着替えのバック、ヒラデエジンに『羽田家伝記』を取りに行き、私はバス停に向かった。

 子供達四人が着いてきてくれたほか、三郎は新しい鶏を連れていた。

 私は最後に四人別々に話をした。

圭には、

「君は一番年上でないかとみんなを引っ張ろうと頑張らなければならないと思うが、壊れてしまう前に誰かに頼ること。」

岳斗には、

「香和と三郎を引っ張ることはもちろんだが、圭が困っていたら支えること。」

香和には、

「あと何年か後、もしかしたら圭か三郎が君を好きになるかもしれない。ただ断るときには、乱暴な言葉を使うと男はすごく傷つくから優しい言葉を使うこと。」

そして三郎には、

「新しい鶏がもらえてよかったな。三郎の優しさを先生はよく知っている。一生大事にしろよ。年上ばかりだがみんなを笑わせて楽しく過ごせよ。」

と、先生らしいことを言った。

 三郎の父親が土産に卵を六つ、藁でカバーし渡してくれた。

「先生、これからこの集落はどうなりますか?」

「…ヒラデエジンは、この大麻霧を暴いて欲しくて私を呼んだと考えています。しかも、大麻を子供達に吸わせないように工作していましたね?」

「はい。」

「その時点でヒラデエジンはまだまだ信用できる人物です。私が一筆、警察にしたためて置きます。」

「浅見さんは?」

「浅見さんもたぶん証拠不十分ですぐ帰ってきます。…また、あの人は人のためならどんな犠牲も払わない人なのでしょうから、とてもいい人になって帰ってくるはずです。今年の祭りは例年以上盛大に行われるのでしょうな?…鬼の供養も込めて…。」

「なるほど。」

「あの音楽イベントなんですが、私が大学に戻ったら音楽が出来る学生に声をかけてみて行って来いと言うつもりですが…、あのイベントはまだやりますかね?」

「あのイベントについても話し合いになると思いますが、先生がそうおっしゃられていたと言っておきます。」

「あるがとうございます。」

 そのとき、大きい音を立てながらバスが来た。

 ただ、一台でなく後ろから様々なメディアの車が付いてきていた。

 バスからも野次馬がゾロゾロと降りてきた。

 私はバスから全員降りたらそそくさとバスに乗り込んだ。

 降りてきた人は「こんなビッグニュースがあるのにどうしてバスに乗るのだろう?」といった顔をしていたが、誰もこの事件を公に出した人だと気づいていないようだった。

 バスが動き出した。

 バスから外を見ると五人が手を振っていた。

 私も振り返したが、バスはすぐ加速し見えなくなってしまった。

 私は席に座り直すと、スマートフォンでニュースを見た。

 

「伊野県佐訪市美朝集落 二十人を大麻所持容疑で逮捕」

 

というような記事がならんでいた。

チャットも確認する。

 

「音楽イベントに見せかけた大麻吸引会」

 

なんてスレを見つけた。

だが、こんな恐ろしいスレも見つけた。

 

「美朝村の大麻事件を暴いた男」

 

無茶苦茶なことが書いてあるんだろうと思って開いたら、なんと私の名前が挙がっている。

(しまった!もう大学にばれてるはずだから対応がこれからめんどうくさいぞ…。)

 ただ、本当にそれまでは良かった。

 ある違うスレを見つけたとき思わず顔を上げ、外を見た。

 バスの大きさでは落っこちてしまいそうな細い道を丁寧に走っている。

 右前方に佐訪地方を代表する佐訪連山が見える。高い山ではもう雪を被っている。佐訪県特有の二、三月までの長い冬が来るのだ。

 左側は木が茂り景色はよく分からないが、たまに木が途切れて一瞬景色が見えると、青く清らかな川が見えた。

(さらば佐訪市美朝集落、ヒラデエジンが出てきたら来るからな。)

 

「さてと…どうしたらいいものか…。」

宮中先生はまたスマートフォンに眼を落とした。

 

 

「駒川大学専任講師上地 失踪 犯行は威羅夢の可能性大」

 

 

 

~宮中志の章 完~

 

 




いったんこれで作品は終りますが、いろいろ謎が残る終わり方だと思います。
実はこの鬼と浅見神職から見た話も実在しています。
その話ものせる予定ですが少々お待ちください。

次は魔法使いと宮中先生は闘います。
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