なにをどうミスって生きればこんな状況に陥るのだろうとぼうっと夜空を見上げていた。
事故って崖から落下した車の中。私の片足は挟まれて此処から出る事は出来ないし、隣の運転席では三日前に彼氏になった男が頭から血を流して死んでいる。
意識が無い。ではなく死んでいるで確定なのだ。私だって馬鹿じゃない。頭がこれだけ潰れていて生きているかもと期待するような馬鹿じゃない。
彼氏、いや死んだから元カレっていうべきか、兎に角、隣の死体はもう当てにならない。問題は私がこれからどうするかだ。この挟まった足をどう外すか、でも、もし外れたとしてもさっきからビビる程痛いので歩くのは難しそう。じゃあ歩けないならこの車を使ってってもこれだけ潰れたこの車が直せるとも思えないし、私自身が運転免許を持っていないのでどうやったら車が動くのかすら分からない。
助けを待つにしてもこんな山道に誰が来るというのだ。公衆電話も山の麓で見たっきりで、この山道に入ってから電話や自販機はおろか、街灯すらなかったのだ。
この周りに人の気配は無い。真っ暗だ。この真っ暗の中私に見えるのは月明りだけだ。元カレの頭が潰れてるのが分かるのはさっき日が落ちる前に見たからだ。事故から多分、二時間以上経っているんだろう。
これで私も大怪我を負っていたら色々納得するのだ。ああクソみたいな人生でしたさようならって。でも現実問題私は大怪我は負っていない。この挟まれた足以外元気なのだ。
じゃあ足さえ取れればと思って色々やってみたけど、最初の一時間でやり尽くした。無理。出れない。
じゃあ救助?それが来ないんだって。こんな山ん中。
出れないしついでに寒い。クリスマスまでに彼氏を作ろうと馬鹿なノリで三日前にナンパにほいほい付いて行った馬鹿な自分を呪う。死ぬなら死ぬで楽に死にたいのに現状は死ねないし生きれないという状況だからどうにもならないのだ。本当に最悪。
何も出来ないまま私は時間を持て余していると、何やら物音が聞こえてきた。
もしかして人が?一瞬そう思ったが多分違う。この辺りには熊が出ると言っていた。冗談じゃない。生きたまま熊に食われて死ぬのは嫌だ。もうちょっと知性がある生き物でちゃんと楽に殺してくれたなら私の事を食べても良いけど、野生の熊にそんなの通じる訳がない。
呼吸を潜める。熊さん私は此処にはいませんよと精一杯アピールするけど、隣には頭が潰れている死体があるんだった。きっと動物には分かる匂いなんだろう。私の努力意味なし。
ガサッ、ガサッと山道を歩く音はついにこの壊れた車に当たり、ゴンっと金属音が響く。
ぼやっと明かりが見えて影が現れる。
「おい。ツイてるぜ。二体あるぜ。」
影がそう言った。人語。日本語。人だ。
私が声を発する前に、車の中を明かりで照らされて私は目を瞑った。
「姉ちゃん。こっち生きてるよ。」
最初の声とは別の声だった。
生きてる事をアピールする為にまだ眩む目をゆっくりと開けた。
逆光でよく見えないけど、多分私を覗き込んでいるのは二人だ。
「お前。事故って落ちたみたいだけど、頭狂ったりしてねえか?自分の名前言えるか?」
眩む目を閉じないようにしながら私はゆっくり口を開いた。
『古坂荊(フルサカイバラ)』
「隣の死体はお前の彼氏か?兄貴か?」
『彼氏……だった。』
「お前がここに来た事を知ってる奴はいるか?」
質問されて考えた。
言われてみれば私がここに来たの知っている人は誰も居ない。一人暮らしだし親とも連絡を取っていない。
つまり私がここでもし人知れず死んだりしても誰も気付いてはくれないのだ。
『誰もいないです。彼氏の方も、正直言って三日前彼氏になったばかりなんで、私の存在を知らないと思います。』
「そうか。怪我はどうだ?歩けるか?」
『足が挟まってて動けないです。怪我はこの挟まった足だけで、他は無傷です。』
「全く。奇跡だな。これだけ車大破して連れは死んでるのに、足しか怪我してねえなんてな。カズラ。手伝ってやれ。」
口の悪い女がそう言うと、カズラと呼ばれた子が私の隣の車のドアを外した。目を疑った。それは壊れた車だから元々ドアが外れてたのかもしれないけど、こうも簡単に女の子が外せるものなのか。
そのまま私の隣に身を滑らせて、私の足元の潰れた車のエンジンやら何やらを押し上げて私の身体を引き抜いてくれた。あれ程私が動き回ってもビクともしなかったのに。
暗がりで浮かび上がった二人の少女をなんとなく私は赤鬼と青鬼だと思った。
口が悪く、小柄の方が赤鬼。童話に出てくる赤鬼は青鬼より背が低くて豪快なイメージがあるのと、この人が赤いチョッキを着ているからだ。
カズラと呼ばれたひょろ長い体格の方が青鬼。青いマフラーを巻いているからぱっと見でそんなイメージが湧いた。
「どう?自力で歩けそう?」
カズラに言われて、私は立とうと試みる。しかし立つ事は出来なかった。挟まれていた右足の脛は見事に腫れあがっている。
「ちょっとごめんね。」
その腫れた足をカズラが触ってきたので私は唸った。めっちゃ痛い。
「姉ちゃん。多分折れてるよ。」
「仕方ねえな。負ぶってやれよ。」
赤鬼はガサガサと車のパーツを剥がし、死体を掘り起こしていた。青鬼といいこの姉妹ちょっと力加減が異常だ。見た目はそんなに筋肉隆々とかじゃないのに。
「その前に応急処置ぐらいしてあげないと。」
カズラはダッシュボードを開けると地図の冊子を取り出した。
「ごめん。痛いだろうけど耐えて。」
私の足に冊子を巻いて、その後自らのマフラーを取って巻いて固定してくれた。
『ありがとう。』
私は彼女にお礼を伝えると、カズラは気不味そうな表情を浮かべた。
「ごめん。礼を言われるような事はしてないよ。見つけたのが私一人の時だったら見逃せたけど、姉ちゃんに見つかった以上。キミの事見逃せないんだ。」
見逃す?何を言っているんだ?一連の出来事で私はてっきり助けてもらった気でいた。
ガッシャんと盛大に金属が落ちる音がして振り向くと、赤鬼が死体を担ぎあげていた。死体はマネキンのように形を変えずにマネキンのように軽々の肩に乗せられてるけど、噓でしょ。アイツ七十キロぐらいあったと思うんだけど。
「ったく死後硬直が始まってやがる。持ちにくいな。おいカズラ。とっとと行くぞ。」
持ちにくいと言いつつ、片腕で背負う感じ赤鬼は死体を担いでいる。この小柄な体格で信じられない画だ。
カズラが私の前で背中を向けて屈んだ。おんぶの時の体勢だ。
「どちらにせよこのままだと熊の餌だから乗って。」
見逃したいけど、乗ってとはどういう意味なのか?
しかし、足の動かない私に実質選択肢なんてないのだ。私はカズラの背中に乗った。
カズラは私を背負うと、赤鬼を追って歩き出した。
「姉ちゃん。その彼氏の方でどの位持ちそう?」
彼氏の方でどの位もちそうって何を持たせる気なんだろう。
「うーん。一ヶ月ってとこかな。」
それも一ヶ月。一ヶ月持たせる何か。一体何の話だろう?
『私……このままご一緒して良いんですか?』
私がカズラに問うと、カズラは返答に少し悩んでから答えた。
「大丈夫。キミの命、一ヶ月は保証するから。」
普段は鈍感な私もこの時は無駄に勘が鋭かった。
それじゃあ、一ヶ月後には殺されるんじゃないかって。
全23話予定で1話2000文字から4000文字ぐらいで毎日連載します。
偏った趣味の残酷描写が多い作風ですが、気が合う人は是非お気に入りや評価ポイント、感想等お願いします。
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