るつぼかずら(旧題:四色の愛情ブリミア)   作:駿河鵬命

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 私が部屋に入るとカズラは起きていた。

 上半身が包帯でぐるぐる巻きだ。

 

 

 

「探しに行きたかったけど、まだ動く気力がなくて。」

 

 

 

 笑いながらカズラは言った。

 

 

 

『当然だよ。暫くは安静にしないと。ご飯とか私が作るよ。』

 

 

 

 私はカズラの横に座ろうと、近付くとカズラに止められた。

 

 

 

「ごめん、座る前にそこの棚にナイフがあるから取って欲しいの。」

 

 

 

 指示通り私はナイフを取ってからカズラの横に腰掛けた。

 

 

 

『カズラ。ごめんね。私を庇う為にそんなに怪我して。』

 

 

 

 何を言ったら良いのか分からないが、まずはそこから切り出した。

 

 

 

「うん。いいよ。でも今回の件でよく分かった。私は兄様が怖いよ。キミを守りたくて恐怖を怒りで誤魔化してただけで全然駄目。話にならないよ。兄様が怖い。」

 

 

 

 悲しい目だった。諦めている。そんな言葉が良く似合う。でも普通に考えてそうだと思う。あれだけの暴行があれば戦意喪失というか。抵抗したらもっと酷い事をされるのではとどんどん弱気になる。そういうもんでしょ暴力による制圧って。

 私だって、痛い思いしながら無抵抗に命蠟(めいろう)に抱かれたのだ。多分これが傷が一番浅く済むって諦めて。

 

 

 私はカズラの背中の傷に気遣いながらカズラを抱きしめた。

 

 

 

「姉さんがさっき言ってたけど、愛してると触りたくなっちゃうんだって。服の上からじゃなくてお互い皮膚同士でね。体温を感じ合うように。キスしたり、首とか胸とか舐めて下に指挿れたりとか。それは良い事なんだって愛し合うのは当然だし凄く気持ちが良い事だって。私にとってそれは……つまりセックスは凄い怖い事だと思ってたのに。父さんも兄様も怖くて。」

 

 

 

 辞めろよカズラ。もう思い出さないでくれ。一緒に逃げよう。いいよもう二人で犯罪者になろう。病院から血を盗もう。この家じゃなくても生きていける。カズラの血を飲む件もいつかなんとかとかなるって。

 

 

 

「だから兄様が私に身体を求めるのも愛情なんだって。私がいつも怖いって思うのは私が兄様を愛していないからなんだって。私は兄様を慕ってる筈なのにそれは愛じゃないかもしれないって。

 じゃあ愛情って何って考えたら私は多分荊さんが好き。荊さんとずっと一緒にいたい。」

 

 

 

 カズラの指先が私の首のタトゥーを撫でていく。命蠟の様に所有物にマーキングするような気持ち悪い触り方ではなくて、もっと触れたいと尊く願う優しい撫で方で。

 

 

 

「狡いなあ、どうしてキミは兄様のものなんだろう。こんなにも愛してるのに。」

 

 

 

 すっとその手に力が籠って、自分でも首の脈がドクドク動いてるのが分かる。カズラは私の血流を触って飢えた笑みを零す。

 カズラにはナイフを取ってと頼まれたんだ。

 ナイフ何処に置いたっけなと目線を動かすとちゃんとカズラの手元にあった。

 

 

 

『殺したい?私の事。首から全部の血を飲みたい?』

 

 

 

 まさかあとカズラは悪戯っぽく笑う。その笑顔の時、牙が良く見えたので、純粋な笑顔もなんだか恐ろしい物に映った。

 

 

 

「でも喉乾いたから少し分けて欲しいなあって思っているよ。」

 

 

 

 カズラが私の手首を取って、刃を当てる。

 妖艶に飢えた目で、切って良い?と聞いてくる。

 私が頷くとカズラは刃を引いて直ぐに血が滲む。

 鋭い痛みが走った。強い痺れだと思う。結構深い。その傷にカズラは唇を当てて私の血を吸うのだ。

 血と唾液を吸う音。舌を使って舐める時のあの音。結構な勢いでカズラは私の血を啜っていくので、寒くなってきた。人間って血を吸われると寒くなるんだろうか?

 

 そんな疑問を持った所で血を吸われるなんて普通に生きてたら有り得ない事なので考えるだけ無駄なんだろうけど。

 体力的な疲れも精神的な疲れもあったと思う。

 大して飲まれてない筈なのに私の意識は一瞬飛んでしまった。カズラの胸に倒れ込んでしまったのだ。

 

 流石にカズラも飲み過ぎたと思ったらしく、私の傷の方の手を抑えて上げる。

 手を上げたまま。カズラは私の首に頬擦りをするのだ。首の脈を感じるようにずるずると頬を滑らせる。

 

 

 

「弱いといつまでも怖いままなんだって。強くなると怖いなんて思わなくなるんだって。だって自分が強ければ誰も私に怖い事をしないんだ。」

 

 

 

 そして一度だけ、私の首筋の舐め上げてから言った。

 

 

 

「噛みつきたいなあ。」

 

 

 

 私の精神も多分限界に近かったんだと思う。

 噛みつかれても良いやと思ってしまった。

 

 

 

「一番強いのは執着の愛だって姉さんが教えてくれたんだ。」

 

 

 

 決して傷にならないように、吸血鬼は私の首筋に甘噛みを施すのだった。

 

 

 

 この事件があってから、私はこの家の食事を三日間作り続けた。食事だけじゃなくて、鳥小屋の掃除もした。つまりカズラがやっていた家事を私一人で代行した。

 しかし、誰も食堂で食事をする事はなく、台所に置いておけば、各自が勝手に持っていく。そんな感じなので私はカズラ以外とは顔を合わせずに過ごした。

 

 丁度、明日からはカズラも家事をすると宣言した日だった。

 

 

 

 私はオギに呼ばれた。

 




短いので一時間後くらいに‡20上げます

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