るつぼかずら   作:駿河鵬命

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 辿り着いたのはレンガ造りの西洋屋敷であった。こんな辺鄙な場所にこんな建物が存在するなんて驚きだ。戦前にお金持ちが別荘として建てたのだろうか?このような外観は昼ドラか田舎のラブホの外観でしか見た事がない。

 

 中に入ると外観に負けたボロい内装であった。嘗ては綺麗な建物だったんだろうけど、手入れがされず朽ちていったのだろう。

 

 私が最初に降ろされたのはガレージの中だった。ガレージ内の椅子に座らせる形で降ろしてもらった。

 どうやらこのガレージ内には電気がなく、赤鬼とカズラは幾つかの松明に火を灯した。

 

 ガレージ内が明るくなると、カズラは私の事を舐めるように上から下までしっかりと見てきた。特に首元が気に入ったらしくまるで締め上げるような仕草で両手で首筋を包み込んで撫でてきた。

 

 

「名前。荊さんだよね。この柄も名前にちなんだって事かな?」

 

 

 この柄。私は首から肩までタトゥーを入れている。荊という名前の通り荊柄のトライバル彫っているのだ。

 

 

「タトゥー入れてる女の人初めて見た。男より女の人のほうが肌がきめ細かくて綺麗だね。」

 

 

 彫師にもそんな事を言われた。あの人はタトゥーは女性のものって考えを持っていて顧客は専ら女ばかりだった。そういえば彼氏だったこの死体も私の首のタトゥーの事を最初に褒めてきた。

 

「カズラ。あんまり触ると兄様に怒られるぞ。」

 

 赤鬼に言われて、カズラが私から離れた。

カズラが私の目の前から退いたせいで横たわる死んだ元カレの顔が見えた。片目は無かったけどもう片目は健在で私と目が合って気持ち悪い。

 

 本当は彼氏が死んだってもっと嘆くべき事なんだと思う。でも私は違った。こいつと付き合った所為で事故にあったし変な姉妹に変な家に連れてこられてしまった。付き合わなければ良かったとまで思ってしまった。

 

 そりゃ、死体を見て取り乱したり。そんなのもあるよ。でもあの事故から何時間経ったと思う?なんかもうこの死体に見慣れてしまったのだ。

 

 ふと赤鬼が死体に近付いた。何をするんだろうと見ていると、赤鬼は死体の眼球に手を当て、そのままびゅっと引っこ抜いた。視神経が切れるぶちゅっていう気持ち悪い音がしただけで血が溢れたりはしなかった。冷静に考えれば心臓が止まってるから血が噴き出るとかあり得ないんだけど、血が噴き出ない所為で私に変な安心感を与えてしまった。なんていうか、物っぽいというか。

 

 まるで人形を見ている気分だった。これが血が溢れたりとか叫んだりしたら私も怖い気持ちになったんだろうけど、本当に人形を見ている気分なのだ。

 赤鬼はそのまま取り出した眼球を握り潰した。

 

 

「目玉は美味くないんだ。その上目玉が残ってると死んでからも見られちまう。最初に外すもんなんだ。」

 

 

 赤鬼はそう言ったけど、美味くないとか見られるとか何を言ってるのか全然分からなかった。

 

「姉ちゃんはそういう宗派みたいなとこかな。死者の眼はいつまでも見えているってのを信じているだけだよ。いつもの事だからそんなに気にしなくて良いよ。」

 

 

 カズラが私の事を見てそう説明してくれた。この間もカズラの視線はしっかりと私の首筋にあった。

 次に赤鬼は、死体の服をビリビリと破き始めた。豪快に破いて投げ捨てていく。

 

 トランクスまで剝ぐとカズラは目を逸らした。

 

「姉ちゃん。ソレは気持ち悪いから隠してよ。」

「ったく。お前も慣れろよ。いい加減。」

 

 

 赤鬼は破いたトランクスをくたっとした男性器に被した。ちなみに私も初めて見た。そりゃ三日しか付き合ってないんだ。勃起時しか見てないから、普段はこんなに小さいんだと無駄な事を考える。

 

 ほぼ全裸で横たわる元カレの死体。おまけに死後硬直で横たわってはいるけど、足だけ変に立っている。その状況下で今度は姉妹は剃刀を持ち出し、毛深い脛毛や胸毛を剃り始めた。

 

 なんだか不思議な気分だった。どうして事故って、私だけ助かって、死んだ元カレは変な姉妹に毛を剃られてるんだろう。この二人の意図が全く分からないのだ。

 私のその視線に気付いたのか、またカズラが解説してくれる。

 

 

「兄様が皮膚を欲しがるんだ。だから毛を剃っておくんだよ。頭は使わないから頭以外を全部剃る。あとは骨は姉さんが、肉は姉ちゃんが、血は私が貰うから、残るのは内臓だけ。欲しいならあげるけど。」

 

 

 要る?と言いたげにカズラがこちらを見てきたので私は首を横に振った。意味が分からない。というかもし今のカズラの言葉が本当なら分かりたくないというのが本音だろうか。

 

 

「そろそろ兄様が来るけど、兄様に向かって女だって絶対に言っちゃ駄目だからね。兄様は身体は女だけど、男として育てられたから心の性別が曖昧で女の身体である事が凄くコンプレックスなんだ。多分その事を指摘したら一瞬で殺されるから絶対に女扱いしちゃ駄目だよ。」

 

 兄様は本当は女性。つまりカズラの話だけでいくと、ここには四姉妹でいる事になる。察するにカズラが四女で姉ちゃんという表現から赤鬼が三女。姉さんが次女兄様が長女。敬称だけで想像するとそうなる。

 

 しかし、姉妹といってもこの赤鬼とカズラの時点で全く似ていないのだ。まず骨格からして違う。身長だけでもゆうに二十センチは差がある。

 

 

 

 

 剃毛が終わると、毛を払って、今度はガレージの梁に引っ掛けた縄を持ち出してきた。

 

 縄を足首に巻き付けて、逆さ吊りにした。相変わらず死後硬直が取れてないのでポーズを決めたマネキンのようだ。吊るし上げる時にトランクスの布が落ちたので、カズラはすかさず股間に布をかけなおしていた。どうしても見たくないらしい。まあ見ていて気持ちの良いものではないかもしれない。死体相手にその表現もどうかと思うけど。

 

 今度は吊るした死体の真下にドラム缶を置いた。

 赤鬼が死体の首筋を剃刀でバックりと切ると、頭を伝ってボタボタと血がドラム缶に落ち始めた。最初首筋に剃刀を当てた時、ドラマみたくバッシャーと血飛沫が舞うのを想像したけど、そうだ。これは死体なんだ人形と同じ心臓が動いていないから、引力に従って下に落ちるだけなのだ。その様子がより一層元カレじゃなくて、物らしさを醸しだしていて、私の中で悲しみとか何も湧いてこず。ただ頭から流れ落ちる血を見つめていた。

 

「やっぱり私、男の人苦手だなあ。鮮度が良い筈なのにあんまし美味しそうに見えない。」

「その贅沢病克服しろよ。都合よく女ばっかり手に入ったりしないんだからよ。」

 

 

 

 何を喋っているのか理解したくなかったが、ここまできたら想像してしまう。

 もしかしてこの姉妹はこういった迷い人を解体して……

 

 

 私が嫌な事を考えているとギイイイと大きな音を立ててガレージの扉が開いた。

 

 二つの人影が見える。どうやらその兄様と姉さんが来てしまったらしい。遂に異常な四姉妹が揃ってしまったのだ。

 




全23話予定で1話2000文字から4000文字ぐらいで毎日連載します。
偏った趣味の残酷描写が多い作風ですが、気が合う人は是非お気に入りや評価ポイント、感想等お願いします。
小躍りして喜びます。
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