るつぼかずら   作:駿河鵬命

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「単刀直入に言う。兄様の命令だ。ついてこい。従わないとカズラを痛ぶる。そう言えって言われた。」

 

 

 

 丁度、私が台所に一人でいてカズラには聞かれていないのを良い事に私は脅された。

 

 

 

「なんならアタシからもお願いだ。無駄に人を傷付けたくないから、無抵抗でついてきて欲しい。」

 

 

 

 先日のオギを見ていた所為で嫌味でないのも直ぐに分かった。なんていうか、オギも辛いんだなと思ってしまった程だ。

 

 

 

 

 

 

 私が連れてこられたのは鳥小屋の奥。半地下構造の石造りの離れ小屋。嘗てカズラが父親に監禁されていた部屋である。

 

 

 

「この部屋ならカズラが怖がって近付かない事をみんな知っている。だからお前をこの部屋に隔離する事になった。」

 

『へえ。それでどうするのさ?』

 

「二日後。兄様はお前の身体に最高の芸術を施す。かなり時間がかかるし苦痛もある。出来るだけお前の身体を綺麗に保つ為にこの二日間の断食で消化器官のものを全部出しきってもらいたい。」

 

 

 

 多分一ヶ月前のオギだったら今の言葉をこんな表情で言わなかった。

 もっと高圧的で私に対して餌の扱いで言った筈だ。しかし今は困惑しかない。何故自分がこんな役回りを担当しているのか分からないと言いたげに。

 

 

 

『糞漏らすほどの苦痛って早く死にたいって思うだろうね。』

 

「アタシはお前を楽に殺してやりたい。でも兄様には殺すなって言われた。本当は今すぐにでも首を斬って死んだ事も気付かないぐらいに一瞬で楽にしてやりたい。」

 

 

 

 多分。これが映画ならとんでもない悪役の言葉なんだ。でも変だな。オギにとってこれは最善で精一杯な愛情の言葉なんだ。

 

 

 なんだかな、この家にドロドロと巣食う間違った愛情過多で吐きそう。

 

 

 

『カズラにはなんて説明するの?』

 

「お前が脱走したと説明する。アタシがお前の脱走を手伝ったからもう大丈夫だって説明する。」

 

『嘘だってバレたら?』

 

「バレたくないな。今度こそアイツは壊れちまうかもな。」

 

 

 

 想像力が足りないと揶揄されたオギの限界がこの発想なんだろう。カズラが壊れる。具体的にどんな風に?

 でもそれは私だってもう分からない。分からないよ。この姉妹達の間違った価値観が。

 

 

 

「兄様はお前を芸術作品に昇華させることは愛だと思っている。」

 

 

 

 それは朔蛾(さくが)命蠟(めいろう)がそう思うだけあってアイツの行為は一般論で拷問だ。

 

 

 

「アタシは出来るだけ苦しまないように殺すのが愛だと思っている。」

 

 

 

 それもおかしいよ。愛で殺しは正当化出来ない。

 

 

 

「緑姉さんは性行為が愛だと思ってて、カズラは一緒にいることが愛だと思っている。」

 

 

 

 そうだね。カズラが一番まともに近い。それも今私が此処にいる事を知ったら壊れてしまいそうだけど。

 

 

 

「なあ。アタシの想像力は合ってるか?」

 

 

 

 オギなりに考えて考え抜いた結果なんだろう。真っ直ぐに苦しそうな目線だった。

 

 

 

『大体合ってると思うよ。価値観が合ってるかは別として想像の内容は正解に近い気がする。』

 

 

 

 そうかと。オギが安堵した表情を浮かべた気がした。

 

 

 

「そこにあるデカい壺が排泄用だ。臭いとか抑えるようの薬剤は緑姉さんがくれたものだから、蓋閉めればそんなに気にならないと思う。こっちの壺は水だ。二日間でこの量だから考えて飲め。アタシはもうお前と会う事はない。次に会う時はお前が芸術作品になった時だ。」

 

 

 

 じゃあ、とオギがドアを閉める。鉄作りの重いドアで脱走なんてとても出来ないだろう。元々離れにある石造りの半地下の小屋なんて監禁ぐらいしか用途がない訳だ。監禁用の小屋をそう簡単に脱出出来る筈はないだろう。

 

 

 

「そういえば、その部屋。カズラが親父をぶっ殺した時のままだからクソ汚いと思うんだ。もしかしたら部屋の隅にカズラが親父の頭をカチ割った斧が置きっぱなしかもしれねえ。」

 

 

 

 扉の向こうでそれだけ言うとオギの足は離れていった。

 

 

 

 

 

 嘗てカズラが監禁されていて、それで父親を殺した場所。

 

 カズラは此処で血を飲む習慣を教育されて日常的な性的暴行の元で育った。

 壁には命蠟のアトリエのように手枷が埋めてあった。壁に両手を付いたまま拘束できるタイプのものだ。床置型のもあった。手枷の先は鉄球に繋がれていた。

 これらの拘束具がカズラに使われたのか、それともカズラの食料に使われていたのか。どちらの用途も満たしていたのか。どちらにせよ見ていて気持ちの良いものではない。

 

 

 鉄球の傍に斧が落ちていた。

 

 

 オギが言っていた、カズラが父親を殺した斧だろう。

 当時のまま置いてあればきっとそれはサビていると思ったがそんな事はなかった。

 

 ご丁寧に刃が研ぎ直してある。どう考えても最近研いだものだ。カズラが?いや、

 

 

 

『出来るだけ苦しませないで殺すのが愛ね……』

 

 

 

 オギの精一杯の愛情だろう。

 命蠟の残酷な手でなく、私が先に自ら命を絶つ選択をくれたのはきっとオギの中で考えて考え抜いた結果の事だろう。

 きっと。これが最善だ。命蠟に拷問にかけられるよりずっと楽に死ねる。この歪な愛情の押し問答を終える。

 

 

 死のう。自分の中の意思は意外にも直ぐに決まった。ただ、命蠟に殺されるまであと二日猶予がある。あと二日あるならもう一度カズラに会えないかなあと思って、私は床に座り込んだ。

 

 

 半地下の格子から川が見える。この川の進めば嘗てオギが住んでいた家がある。

 どうしてオギはカズラが監禁されているのを知っていたのに助けださなかったのか?

 多分当時のオギにはカズラに対して可哀そうって感情を持ち合わせてなかったんだ。

 

 

 カズラだけじゃなくて他者全般に。

 

 そう考えると、この斧を用意したあたり赤鬼は人間になったなあと少し私の心が安らかになる気がした。

 




‡23で完結するのであと三日で完結します
お気に入りやしおりの数が上がると私の気分が爆上がりしますのであと三日よろしくお願いします。
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