るつぼかずら(旧題:四色の愛情ブリミア)   作:駿河鵬命

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 近付いてくる二人のうち一人は赤鬼と同じぐらいの小柄な人で黄土色の羽織のようなローブを纏っていた。私の中のイメージで完全に黄鬼という言葉が結びついた。鬼らしく胸ぐらいまである長い白髪の所為で小柄でも鬼っぽいイメージがついたのかもしれない。

 

 

 もう一人は医者のような白衣を纏ってはいたけど、インナーが緑のシャツだった。身長は私と同じぐらいでカズラより低めだ。知的な丸眼鏡をかけていたので、なんとなく知的で緑鬼ってイメージだ。

 

 四姉妹は人の容姿をしているのに、一連の行動や会話の所為か私の中ではこの四姉妹は完全に長女の黄鬼、次女の緑鬼、三女の赤鬼、四女の青鬼という先入観で結ばれたのでうっかり呼ぶ時に青鬼さんとか呼びそうだった。私から呼ぶことがあるかと聞かれれば謎だけど。

 

 黄鬼と緑鬼が吊るされた死体に近付いて、触って何やら確認を始めた。

 その際に股間の布がまた落ちたので、カズラは目を逸らしていた。

 緑鬼は軽く触っただけで直ぐに離れた。黄鬼は尻の割れ目まで確認していた。

 

 

「僕はいつも通り。全部の骨を残しておいて欲しいな。」

 

 

 緑鬼は言った。僕って一人称から緑が兄様かと思ったけど違う。さっき姉さんは骨を欲しがると言っていた。となると消去法で尻の皮膚まで見ている黄鬼の方が兄様になる。よりによって一番小柄なのに。

 

 

「まともな皮膚が殆どないな、腿の皮膚だけ残して貰えればあとはオギが食って良いぞ。」

 

 

 黄鬼の声。見た目に反して思ったより高い声なのでちゃんと女だ。でもそれを指摘すると殺されるって話だから私は余計な事を言わずに黙っておいた。

 

 

「へへへ。丁度良いや。腹の皮膚は美味そうだってアタシは思ってたんだよ。」

 

 

 対し、オギと呼ばれた赤鬼の方は、このキャラで一人称がアタシなのだ。行動以前にそこにいるだけ違和感しかない姉妹だ。

 死体の確認が終わると黄鬼の眼は私を捉えた。

 

 目が合った瞬間。ぞくっと背筋が凍る感じがした。

 

 なんていうか、この人正面からの眼がまるで節穴なのだ。怖いモノとか鋭い目って大体の所で三白眼とか四白眼ってのが通説だけど。この人は逆。黒目の部分が異常に大きくて節穴のように光を反射しないのだ。髪の毛が白いから反対色でそう感じてしまうのだろうか。兎に角、何処までも黒い節穴に見つめられて私は背筋を伸ばした。

 

 

「ほう。首に柄を彫っているのか。」

 

 兄様は皮膚を欲しがると言っていた。

 その兄様が私の首のタトゥーを見つめているのだ。

 

「お前。名前は?」

 

 黄鬼は言った。

 

『古坂荊です。』

「荊という名に荊柄の彫り物か。実に美しい。」

 

 

 座ったままの私に近付いて、目線を合わせてきた。

 怖い。なんだこの節穴の眼。まともに見つめ合ったら石にでもされそうだ。

 

 

「服を脱げ。」

 

 そう命令されたけど私は最初反応出来なかった。

 何故この場において服を脱がないといけないのか分からなかったのだ。

 

「聞えなかったのか。全部脱げ。」

 

 

 二回目を言われたあたりで、そうだこの黄鬼は皮膚を見るんだと思い出して素直に従った。

 上を脱ぐと、下も脱げと言いた気に黄鬼の目線は私の下半身に注がれる。そこで初めて私の足が折れていて、固定してある事に黄鬼は気付いたようだった。

 

 

「カズラ、脱ぐのを手伝ってやれ。」

 

 見逃してもらえるかと思ったがそうはいかない。

 

「痛いだろうけど少しの間我慢してね。」

 

 カズラは私に声をかけてから、青いマフラーの固定を外して、私の下履きも靴下も全部脱がしてくれた。

 真っ裸で椅子に座らされて、隣には元カレの死体がぶら下がっている。一体どんな映画の撮影だろうと思うけどこれは現実だ。

 

 黄鬼は私の皮膚に触れていった。きめ細かい手の平でどう考えても女性の手だった。こんなにも見た目が女なのに心は男だというからきっとこの人もこの人なりに色々あるんだろうと妙な心配をしてしまう。

 

 指先が首の柄をなぞる。ぐっと顔が近付いて節穴の眼が近くにあって怖かったので私は目を逸らすと、首筋をべっとりとした何かが這った。

 毛虫でも這っているのかと思ったが黄鬼が私の首筋を舐めていただけであった。どちらにせよ、ぞわっと鳥肌が立ち上った。

 

 

「立て。」

 

 まだ全身が鳥肌の私に無理な要求をしてきた。流石にそれにはカズラがフォローをくれた。

 

「兄様。足が折れてるみたいなんで立てないですよ。」

「ならお前が手伝えば良い。」

 

 いくら手伝いと言っても、立てるのかこの足で。私がどうやったら立てるのかと考えているうちにカズラが私の前に立った。

 

「両腕を私の肩に乗せて。抱きしめるみたいに。」

 

 カズラが肩を落としてくれたので私は指示通りにカズラに絡み付いた。

 

「せーので立つから、私に体重載せて。いくよせーの。」

 

 宣言通りカズラがゆっくり立ち上がったけど、この瞬間に電気でも流れたんじゃないかってぐらいに折れた足が痛んだ。

 

 身体のバランスを崩しそうになったけどカズラが支えてくれた。

 その間にも、黄鬼は私の背中を撫でた。

 

 お尻の割れ目も一度広げられたり、なんなら陰部も覗かれたりしたけど、足が痛くてそれどころじゃない。多分怪我してなかったら凄く恥ずかしかったんだろうけど、痛みのお影でそういった羞恥心は麻痺してくれた。

 

 黄鬼の触診が終わると、私は再び椅子に座らされた。痛かった。目が若干涙ぐんでいるのが自分でも分かる。

 

 

「折れている脛の部分、左手首部分以外全部取っておけ。」

 

 

 黄鬼が告げた場所は今の私にとって外傷がある部分だった。骨折の部分は勿論腫れて変色している。左手首には昔リストカットをしてしまった時の痕が残っている。そこまで深くは切ってないから、薄っすらとしか残ってないけど、黄鬼からしてみればこの部分も要らない皮膚らしい。

 

「頭皮も要らねえよな?」

 

 今のは赤鬼こと、オギの質問。

 

「ああ。地毛が金髪なら欲しかったが、その金髪は薬品で脱色しただけだろう。要らん。オギにやる。」

「アタシは確かに大食いだけど、髪の毛は食わねえって。」

 

 オギの返答を背に黄鬼は用が済んだとばかりに、ガレージの出口へと向かって行った。

 

 

 振り向いて最後に一言。

 

「首の柄に傷を入れたらどんな事があっても殺すからな。」

 

 言い残して黄鬼は出て行った。

 

 

 

「おー怖い怖い。兄様が執着した大事な皮膚相手なら、アタシも腹立っても殴れないな。」

 

 オギもガレージの外に向かって行く。

 

「カズラ。いくらお気に入りだからって手を出すなよ。兄様に殺されるからな。」

 

 オギはそう告げるとニヤリと笑った。その笑った時に見えた牙が肉食獣のように大きく鋭かったので、ああこの人は本当に肉を食う人なのかもしれない思った。

 オギが出て行き、全裸の私とカズラと緑鬼だけが残された。

 

「さてと。荊ちゃんだっけね。足折れているんだろう。今痛み止めと固定器具を持ってくるから少し待っていてね。」

 

 今度は緑鬼がそう告げて出て行く。

 残りは私とカズラのみ。正直言って安心した。多分この中で一番まともに話が出来るのが青鬼のカズラだからだ。

 

「姉さんは医者だから安心して。」

 

 医者。確かに白衣は着ていたけど、何故こんな異常な家に医者がいるのか。

 私が色々質問しようとした瞬間に、カズラはちょっと待ってて直ぐ戻るからと言い残して走って出て行ってしまった。

 

 早く戻って来て欲しい。だって今私一人と、吊るされた死体しかいないんだ。いくら人形みたいと思ってもつい一昨日セックスした男が隣に吊るされているんだ。嫌な気分だ。

 

 一人になった事で小さな音も気になる。

 ぴちゃぴちゃという小さな水音は死体から出ている音であり、死体から落ちる血液がドラム缶に溜まって落ち続ける音だった。

 嫌な音。カズラは早く戻って来ないかと思っていたら、本当に直ぐに戻って来た。

 

 私に辿り着く前に、一度死体の横に落ちた破けたトランクスを拾い上げてちゃんと死体の股間に被せてから、私の元に戻って来た。

 

「多分今日はお風呂入れないだろうから、服着る前に身体拭くよ。」

 

 ありがたい気遣いだった。カズラは濡れタオルを取りに行ってたらしい。

 自分で拭けると言おうとしたが、カズラがそのまま拭いてくれたので黙っておいた。特に首回りを綺麗に拭いてくれる。黄鬼に舐められたからだろうか。それともカズラもこのタトゥーに執着しているのか。

 

 拭き終わると今度は床に落ちていた私の服を拾ってくれた。とてもじゃないけど、自力で拾い上げるには体勢的に苦しかったので助かる。

 私が服を着終わると丁度緑鬼も戻って来た。

 

 

 医者というだけあって、手際よく足を固定してくれた。足首は折れてないけど、下手に歩こうとする時に力んでしまうからと言って、足首まで固定してくれた。確かに言われた通り固定する前と後ではだいぶ痛みに差がある気がする。

 飲み薬の鎮痛剤と抗生物質を貰い。それを飲むとカズラに負ぶられて、カズラの部屋に連れていかれた。

 

 

 

 緑鬼の部屋は此処から近いらしく、もし痛みが酷かったらもっと強い鎮痛剤を貰いに行くから言って欲しいとも言っていた。

 

 

 カズラの部屋で私はカズラのベッドに寝かされた。

 聞きたい事は大量にあったが、鎮痛剤の所為かこんなにも異常事態の中私の身体は一気に眠くなっていた。

 

 

 

 部屋に電気が通ってなくて松明を消したら真っ暗になった所為かもしれない。

 意識は真っ暗に引っ張られていった。

 




全23話予定で1話2000文字から4000文字ぐらいで毎日連載します。
偏った趣味の残酷描写が多い作風ですが、気が合う人は是非お気に入りや評価ポイント、感想等お願いします。
小躍りして喜びます。

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