るつぼかずら   作:駿河鵬命

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 朝の目覚めは、鳥の鳴き声と足の痛みだった。

 

 レンガ造りの石壁の窓から陽が射し込む。身体を起こすと窓から見える景色は森の中で、オーガニックなホテルの一室かと思いきやそれが理想である事を足の痛みが告げる。

 

 

 私は昨日事故って崖から落ちて、そして変な姉妹にこの変な家に連れてこられたのだ。

 

 本当なら恐怖して直ぐ逃げるべきなのだろう。

 

 しかしこういう時の人間の正常化バイアスというのだろうか?今の私の中に危機感という文字が欠落している。

 

 

 死んだ元カレを見てもそれは人形だし、私の首の皮膚が欲しいと言われても、一ヶ月の命は保証すると言われてもなんだか嘘のように思えてしまう。いや嘘である理由を探している。

 

 

 第一もし全てが本当で私が一ヶ月後殺されるとしてもまだ猶予が一ヶ月あるし、この足だと今すぐ逃げる事は出来ないのだ。

 

 冷静に四姉妹達の情報とこの屋敷の位置だとか。どうやったら、この山だが森だかの林の中を抜けられるのかとか諸々考えないと、まず話にならない。

 

 

「起きた?」

 

 

 私の起き上がる姿を見てカズラは言った。カズラの方を見ると、彼女は椅子に座って、パンを齧りながら本を読んでいた。

 

 

「足痛いよね。姉さんが鎮痛剤持ってきてくれたから朝食後に飲んでね。」

 

 

 彼女は気遣いの出来る優しい子。そんな子だと思った。緑鬼は医者というだけあってまだ優しさが見えたが、あとの二人は本当に鬼としか言いようのない感じだった。

 

 

『四人は義理の姉妹なの?』

 

 出されたパンと薬を飲んだ後に私は聞いた。

 

 

「まあ似てないから分かるよね。一応、私と兄様だけは姉妹っちゃ姉妹なんだよね。腹違いで。」

 

 

 長女と四女だけが実際の姉妹。随分複雑な家庭だ。

 

 

「でもそれも信じられないぐらい似てないよね。兄様は凄く小柄だし。兄様を生んだ母はかなり小さい体躯で、しかも兄様自身未熟児で生まれたって。それもあってあの頭おかしい父さんが、男として育てるって意味不明な事をしていたんだけどね。ちなみに私の母はかなり大きかったって。逆に女らしくない大きい身体だから女らしく育てるって……」

 

 

 そこでカズラは目を伏せた。次に何て言うべきか考えた後、

 

「だから男の人が苦手になった。」

 

 

 カズラは女らしく育てられて男の人が苦手になった。文章として全く繋がらないけど、言いたくない事というのは察したので、私は話題を切り替えた。

 

『ご両親もこの屋敷に住んでるの?』

「私の母さんも兄様の母さんもどうなったのかは私は知らない。ただ、私と兄様の父さんは……」

 

 

 父さんは……?

 

 

「姉ちゃんが食べちゃった。流石に兄様も父さんの皮膚は要らないって。結局姉ちゃんが皮膚も食べちゃったし、骨は多分姉さんが部屋に置いていると思う。」

 

 

 やっぱり戻ってきた。この異常な言葉たち。今カズラは姉ちゃんが食べたとハッキリと言った。あの赤鬼ことオギが食ったと。

 

『食べるってどういう意味?』

 

「そのままの意味だよ。生食でも火入れしてでも。普通に肉として食べてる。ああでも姉ちゃん元気だからたまに性的な意味で食べてる時もあるよ。私は男の人が苦手だからそんなの絶対に嫌なんだけど、アレの何が楽しいんだろう。正直いって気持ち悪いよ。それで良いだけヤッたら殺して食べちゃうんだもん。姉ちゃんは怖いよ。」

 

 

 カズラが嘘を言っている態度ではないし、昨日から見てきたあの怪力。そして死体相手とは言え躊躇う事なく血抜きをしたりする動作。どうみても慣れている人の動きだった。三女が人食いなのは間違いないんだろう。

 

『私も食べられるの?』

 

 私の質問にカズラは悩んだ。言葉を選んでいる。

 

「多分一ヶ月後に。」

 

 私の顔を見ないようにカズラは告げたので、まるでこの事を告げるのが心苦しいと言いた気だった。

 

 

「私は食べるのは反対なの。」

 

 

 昨日あれだけの事を協力しておきながらカズラの考えは意外なものだった。

 

 

「兄様の皮膚を集める趣味もあまり良いとは思えないし、姉さんの骨を集める趣味は人の骨なら何でも良いからわざわざ殺す必要はないって。墓を掘り起こして骨を盗むだけでも構わないって。でも現状だと骨だけ余ってしまうから余った骨を有効活用させてもらうんだって。」

 

 

 それでいうとこの四姉妹達考えが割れている。

 

 

 人殺し派の長女と三女。生存派の次女と四女で。考えは二対二で話し合いの余地はある筈なのに、現状人を殺すが前提に家庭が回っているのだ。

 

「同族なんだから殺しは良くないよ。痛いし苦しいんだから。」

 

 これだけ、人を食う皮膚を剥ぐ。そんな話をしているのに彼女の中では同族と認知しているのが私にはよく分からなかった。

 

 でも私も、昨日元カレの死体を人形だと思っていたんだ。本来同族で定義しないといけないものを異物と定義してしまっている。カズラに何か言えた義理は無い。

 

「ねえ。どうせ暇だよね。キミだってその足じゃまだ脱走出来ないだろうし。一ヶ月は私と共同生活すると思って仲良くしよう。屋敷の中案内するよ。」

 

 そしてカズラは少女らしい瑞々しい笑顔で、カズラって呼んで。と付け足した。

 多分この子は、私を殺す気はないし、殺したくないんだろう。ただ、姉たちを前にどう振舞うか。きっとそんな駆け引き。

 

 しかし、この子。確かこの子も異常なモノを欲しがっていた。

 

 

 

 兄様は皮膚を、姉さんは骨を、姉ちゃんは肉を、私は血をって。

 

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