意気揚々と探索を開始したは良いが早速迷ってしまった。
ぐるぐると庭を回り、ここを潜れば台所へ辿り着けるかと進んだ先は、昨日あの四姉妹と対面したガレージであった。
ガレージの中へ入ると、吊るされた元カレの死体はもう無かった。
何処に行ったのだろうと見渡すと、ガレージの端の方に座り、何かを咥えながら私を見つめる姿があった。
「なんだ?過保護のカズラは一緒じゃないのか?」
ガサツに立膝で座り何かを食いながら、赤鬼ことオギは言った。私が最初なんとなく赤鬼のイメージと表現した赤いチョッキは健在で、汚い咀嚼音も相まって人間らしさを感じなかった。やはり鬼。人食いの鬼だ。
それも食っているのは〔何を〕じゃない。〔誰を〕の話だ。
「お前の元カレあんまり美味くねえな。不摂生な生活していたろ。」
人肉を主食するあんたに不摂生とは言われたくないと思ったが、私は元カレがどんな生活してたかなんて知らない。付き合って三日しか経ってないんだから。
『知らないよ。三日しか付き合ってない。』
「そうだな。昨日もそう言ってたな。三日付き合って、三回ヤッて死んだってとこか。」
昨日は助けてくれる人かもと思って多少、緊張感と礼儀を持って接したけど、今となっては敵みたいな部分もあるので自然と言葉が雑になる。というかコイツのガサツな喋り方に合わせるというかつられるというか。
『大体そんな感じ。』
「ちんこ小っせえ男だけど良かったのか?」
『膨張率は良かったんだよ。』
で、何を言ってるんだ。私は。
相変わらず。オギは生肉を食っていた。そもそも論。人じゃなくても平気で生肉を食べる身体をは一体どうしてそうなってしまったのだろう。皮膚や骨は集めるの話だが、オギの場合食べるなのだ。
『アンタはなんで人食うの?駄目なの?牛とか豚じゃ。』
「そりゃ無理な話だ。お前だって今からベジタリアンになれって言われて無理だろ。それと同じだ。アタシは主食が人の肉ってそうやって育てられたからそうやって頭も胃袋も出来てるんだ。」
訓練次第で生肉の消化も可能ではあるんだろうけど、人に拘る理由がまだ見えない。人の肉も選択肢に入ってくるならまだ理解は出来るけど。
『人じゃなくて、他の肉食えば良いじゃん。人ってコスパ悪いし。』
「馬鹿かお前?命乞いのつもりか?じゃあ聞くけどよ、お前は人の糞を見て美味そうだと思うか?」
随分無茶な質問だ。
『思う筈ないじゃん。質問の意図が見えない。』
「だからよ。お前が糞を見て食い物ではないと認識するようにアタシからしてみればお前らが食ってる肉こそが食い物とは思えないんだよ。」
『人の肉しか食い物としか思えない?』
「そうだよ。そうやって育てられたしそういう身体なんだよ。」
そんな非現実的な事を彼女は当たり前の雑談のように語り、お菓子を食べるかのように私の元カレの肉を食っている。
『それでカズラの父親も食べたの?』
「ああ、アイツが殺しちまったからな。死体余ってるなら食うしかねえだろ。勿体ねえし。」
カズラが殺した?そんなまさか。
『カズラが殺したの?』
「そうだよ、あんな育て方されたら嫌気だって差すよ。兄様がカズラにどれだけヤバい育て方されてどれだけ不遇な状況かを説いたんだよ。そしたら勢い余って殺しちまったんだよ。」
確かにカズラは、父親は姉ちゃんが食べちゃったとは答えたけど、誰が殺したかには言及していない。嘘は吐いていない。自分が殺した事を言わなかっただけだ。
「お前さ。カズラに随分懐いているみたいだけど、アイツだって下衆いぜ、なんたってアイツの親父は、」
そこまでオギが言った所で、ガンっと盛大に物音が響き私とオギは物音の方。ガレージの入り口を見た。
カズラが、ドアを殴るようにしてこちらを見ているのだ。多分オギの言いかけた事を聞いていた。
怒ったように、カズラはズカズカと入って来て、私の車椅子を掴んだ。そのまま押してガレージの外へ向かって行く。
「どうした、カズラ。飲みに来たんじゃないのか?」
そんな怒ったカズラに唆すようにオギは言う。
「今は要らない。気が変わった。」
怒気の籠った声で振り向かずにカズラは告げた。
苛々と、まるでオギを閉じ込めるかのようガレージのドアを強く締めた。
盛大な鉄の物音の中オギの、
「いつまで猫被ってんだよ。」
捨て台詞はちゃんと聞こえた。
少し歩いて、カズラは暗い顔のまま部屋に向かう。
「父さんが私をどうやって育てたか聞いた?」
何も知らないで居て欲しいのが見て取れた。
『まだ何も聞いてないよ。』
実際聞いていない。気にはなるがカズラとの友好関係を取りたかった。私は敢えて黙った。
部屋のドアを開けて、私を部屋に入れると、カズラはまた夕飯の続き作ってくるとい言い残して出て行った。
部屋には、カズラが読んでいた虐待の本が置いてある。
毎日2000~4000字更新全23話の6話目更新