勇者パーティを、こっぴどく追放されたけど、改造呪術の《グリッチ=コード》が覚醒したため、生活魔法で最強を目指します! 作:手嶋ゆっきー
明るい陽差しに照らされて、僕は目を開ける。
アルハーデン王女殿下の計らいで、二つだったベッドはとても大きな一つのベッドに変更されている。
この大きなふかふかのベッドは、気持ちよすぎてついつい寝過ぎてしまう。
右腕の感覚がない。
見ると、僕の右腕を枕にして眠っている人がいる。
……マエリスだ。
いつのまにこの部屋にやってきた?
せっかく別々の部屋を用意して貰ったのに……これでは、孤児院の時と同じじゃないか。
でも、目が覚めて最初に目に入るのが、大切な人の寝顔というのは——。
「リィト、おはよう」
「おはよう」
マエリスが目を覚ます。
僕は思わず、顔を近づけて彼女に唇で触れる。
「う、うーん……すぅ……すぅ。リィト……マエリス——」
突然の声にハッとする。
僕とマエリスの間で眠っているのはチコだ。
静かな寝息を立ててよく眠っている様子。
「寝てるよね? さっきの、見られてないよね?」
マエリスがささやき声で、僕に聞いてくる。
そうだな。
さっきみたいな、うかつなことは……控えないとな。
「たぶん、大丈夫」
そう答えてまたふとんに肩まで潜る。
二人の体温がきもちいい。
「なあ、マエリス」
「うん?」
「チコと一緒に、三人で——幸せになろうな」
「うん」
そう返事をしたマエリスだけど。
なぜか急に耳の先まで真っ赤に染めたと思ったら、布団の奥に潜ってしまった。
「えっ? 今の何? 何? リィト? プロポーズ?」
戸惑いつつ、嬉しそうな声が聞こえる。
今日は、もう少しこのままでいよう。
三人で、着替えて朝食を済ませて外に出る。
同じ部屋からマエリスと出るとき、誰かに見られないかと妙にドキドキした。
————
「リィト様、おはようございます」
「おはようございます。王女殿下」
「本日のご予定は、なにかございますか?」
「うーん、できれば今日はゆっくり休めたらと思っています」
ディアトリアの廃墟から戻って数週間後、僕らは未だにアルハーデン王国の厄介になっていた。
「そうですか。できたら……各領地の貴族から、様々な陳情が来ておりまして……少し話を聞いていただけたら」
「え? うーん」
僕がどうしようかと考える素振りをすると、王女殿下が慌て始める。
陳情というのは日照りが続いているので、水を集めて欲しいだとか、武器など強化して欲しいだとか。疫病で死者がでているので、なんとかして欲しいとか。
そんな感じのものだ。
「きょ、今日はごゆっくりしていただいて結構です。また、明日はいかがでしょうか?」
「じゃあ明日お話を伺いましょう」
「ありがとうございます! その、私どもは……リィト殿に気持ちよく手助けをしていただくためなら、何でもいたしますので。それと私個人でできることがあれば何なりと言ってくだされば」
「はい、分かりました。何かあればお願いします」
王女殿下からは報酬は直接貴族からもらうように言われていた。
でも大金の管理は面倒だし、その辺りも全部任せている。
どうやら、既に一生食べるのには困らないほど溜まりつつあると聞いている。
爵位を与えるのでこの国の領地を管理してみないかとも言われているけど、まだ気が向いていない。
それなら孤児院に寄付した方が良い。
まあでも、孤児院にいる子供達の将来を考えると——居場所があってもいいのかもしれない。
「マエリス、今の暮らしはどう?」
「聖女としてのお勤めは好きだけど——。リィトとチコともっと一緒にいたいな」
「僕もそう思っててさ。前約束したとおり、三人でまた冒険に出かけようか?」
そういうと、ぱあっとマエリスの顔がほころぶ。
待ってましたというような感じだ。
「うん! チコのこともあるし、いいと思う!」
「そうだな。孤児院にまた顔出してみたいし」
「うんうん!」
マエリスも、今日は聖女のお勤めを休みにして貰っていた。
チコも勉強を教えてくださる講師をつけて貰ったのだけど、今日は休みだ。
とりあえず今日は一日、二人と一緒にいてこれからの話をしよう。
僕らは城の外に出た。
「リィト……私行きたいところがあるの」
「わたしも」
「え? どこ?」
「「三人で、ピクニックに出かけたい!」」
息ぴったりのマエリスと、チコに僕は言う。
僕は、空を見上げる。
「ちょっと曇ってない?」
「それは、リィトがなんとかしてくれるでしょ?」
「なんとかしてー!」
そうだな。
天気を変えるくらい、今の僕にはそれほど難しくない。
川の近くに移動して僕は手を掲げ、呪文を唱えた。
「【
そうすると……手から水が尋常じゃない量が出始める。
いつのまにかチコが、大きなバケツを用意して水を溜めている。
水をバケツに溜めていると、周りの家からも続々と人が出てきて行列が出来てしまった。
口々に僕らを見て「魔法術者様だ」「聖女様だ」と話している。
僕らに対して祈りを捧げる人たちもいる。
「気になってたんですけど、そちらの女の子は——お二人の……親族の方ですか? お子さんにしては大きいですし……」
ふと、集まってきた人の一人に話しかけられた。
チコのことを聞いているのだ。
僕とマエリスは、声を揃え笑って答える。
「「いいえ。私たちの娘です!」」
水を配り終える頃には空の雲が少なくなっていて、青空が覗いていた。
この力は、どこまで強くなるのだろう。
「——じゃあ、ピクニックに出かけようか」
「「うん!」」
チコは笑って僕らの前を歩く。
僕は、手を繫いでマエリスとついていく。
チコは振り返り、僕らをみてにっこりとして。
以前僕とマエリスが買ってあげた花柄のワンピースが、可愛らしくとてもよく似合っていた——。
最後までお読みいただきありがとうございます。
以下最新の連載をしていますので、もしよろしければよろしくお願いします。
【最強の整備士】役立たずと言われた「スキルメンテ」で、俺は全てを魔改造する!追放先でみんなの真の力を開放したら世界最強パーティになっていた件。〜勇者のスキルが暴走?知らんがな!~