ロドス・フロントライン 作:チランゴ
ズガァン、ドガァンとロドス艦内の訓練室が激しい爆発音と衝突音が聞こえる。とても訓練室から響く音とは思えないものだ。破壊音がする度に周りの床や壁が振動する。中を見なくとも凄まじさは折り紙付きであろう。なのに、訓練室の前を通るオペレーター達は特に気にした様子はない。まるで、日常茶飯事だとでもいうかのように。
悲しいことに、これがロドスの日常なのである。昨日と今日は、ある2人のオペレーターが入り浸ってるせいで余計規模が大きくなっているだけである。さすがロドス。チェルノボーグ事変を鎮圧したPMCなだけある。そして、件の訓練室で暴れ回っているのはロドスのエリートオペレーター、ブレイズと前衛なのか医療なのかわからないオペレータ、ガヴィルである。
そして、そのせいでどんどん膨れ上がる請求書、見積書、苦情、意見書、報告書、始末書、製造依頼書、備蓄補充申請書の山と修理費で私ことドクターの理性がゴリゴリとすり減らされている。なお、最近の理性回復のトレンドはジューシースターのビッグスターとDr.シナモンのセットをこっそりと完食することだ。アーミヤがたくさん貰ったのでと譲ってくれたプロモーション券で買っている。秘書が帰ってくる前に急いで済まさねば。しかし、このシナモンドリンクがまずい。理性はめっちゃ回復するのだが、もう少しマシな味にならないのだろうか。
...やべっ、戻ってきた。
「...ドクター、何か食べましたね。」
咄嗟にドクモンを机横の引き出しにしまったがやはり匂いは残るようだ。すでにバレてる。
「...」
やべ、なんかめっちゃ笑顔でこっちに来てる。
「ドクター、どこから調達してきたのですか?」
「はて、なんのことやら。」
「フフ...ドクター?」
「ハハ...」
うわぁ、すっげえ笑顔。
「はぁ...暴飲暴食は控えるように言ってるじゃないですか。一体、どんだけの労力をこの10分ちょっとの間に使ったのですか。」
「さぁ、でもね。フォリニック、そんぐらいでもしてカロリーと理性を摂取しないと仕事が回らないのよ。」
「それで、不健康になってまたいつぞやの時みたいにひっくり返ったら本末転倒じゃないですか。」
「うっ」
なんも言えねえ。あの時の俺の担当はフォリニックだったな。あのあと、うちのところに来たのはびっくりだった。
「ところで、申請は通ったっぽい?」
「話を逸らさないで下さい。一応、了承はもらいましたよ。恨みを込めた目で見られましたが。」
「なら問題ない。私たちが恨みを買うのはいつものことだ。」
問題大有りですと言うフォリニックはさておき、これで改装用の素材は確保できた。あとは訓練室のバカ2人が決着をつけてくれるのを待つのみだ。フォリニックのおかげで用済みになった書類をシュレッダーにかける。
「さてと、あとはこいつらにハンコを押すことだ。かかるぞ。」
「わかりました。適当にそこら辺の束をください。」
「あいよー。」
書類片手に、もうバレたからと堂々とドクモンを引き出しから出して飲もうと思ったらなくなっていた。あれ?と思ってフォリニックの方を見たらちょうど容器を捨てに行ってるところだった。まじ勘弁。書類はまだそこまで減ってないんだから...。後でタイミングを見計らってテキサスあたりに新しいセットを持ってきてもらおう。
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ーーー
ー
日が暮れてそらもかなり暗くなってきた頃、PTRSの音声通信に着信が入る。ケルシーからだ。
「はい、もしもし。」
「時間がそこまでないから簡潔に済ます。ロドスはこれより予定の航路を外れ、カジミエーシュのカヴァレリエルキに急遽入港する。私とアーミヤはこれからカジミエーシュ監査会の人間と交渉がある。」
「入港準備の指揮を取れと?」
「察しが早くて助かる。そう言うことだ。すまないが、もう切るぞ。」
場の空気が凍り、沈黙が支配する。
「...悪いがフォリニック。」
「お断りします。」
「そう言わずにさ。フォリニックが手伝ってくれないと結局私の勤務時間が伸びて健康管理どころじゃなくなるよ?」
「...わかりました。今回だけですよ。」
やたっ!巻き添え1人確保。さてと、地獄の時間です。夕飯返上で働きますか。片っ端から指示を出さないと。
「フォリニックは医療部と人事部、総務部に連絡、調整を。余裕があるなら追加でいくつか任せるかも。」
「もしもし、航行長?予定変更で急遽カヴァレリエルキに向かってくれ。細かい入港手順やらはケルシーかアーミヤに聞いてくれ。」
「あ、サイレンスさん?フォリニックです...」
「補給部長はいる?君が代理?運行スケジュール大幅に変更だ。商会を手配してくれ...」
「ドクター、明後日に収容予定だった患者はどうするのかって聞かれているのですが。」
「メンテ中のバッドガイ号を飛ばせ...、あぁテキサス?突然だけど大規模速達依頼だ。」
PTRSとパソコンと紙とペンをフル活用して情報を処理しているが理性がマッハで消えていく。
『経理部です。なんですかこの発注は。現金そんなに余裕ないん「それをどうにかしてくれ。」』
「チェン?サリアとホシグマ、ショウを連れて訓練室のバカ2人を鎮圧してくれ。ブレイズはそのまま貨物輸送任務の指揮を取らせるように。」
「...ですから、入港申請をそっちで...責任者のハンコが必要?」
「...ビクトリアへのセイルプラン変更届?それうちがやるの?」
最初は俺とフォリニックのみだった部屋が、書類と荷物を届けにくる人の出入りが活発になっていく。
結局、全てのゴタゴタが終わったのは消灯時間を通り越してその日が終わりそうな時間だった。数時間前の喧騒と比べて執務室は静けさが広がっていた。
「...終わった?」
目の前の書類にハンコを押し、机に乗っていた最後の束とともに決済済みの箱へ入れる。時折、トランスポーターが回収しにきてくれていたのに、すでに高い高層ビルを形成していた。
「終わり...ましたね。」
「...夕飯食べ損ねたな。」
「ですね。」
「作るかい?」
「いえ、流石に疲れましたし、ドクターもそんな気力ないのでは?」
「そっか。なら。」
携帯を取り出し、ジューシースターのアプリを起動する。
「この夜中にジャンクフードですか?」
「何も食べないよりはマシだろう。サイドメニューをサラダにすれば問題ない。」
「ちなみに、あのサラダは健康的とは程遠いですよ。カロリーも高いですし、食物繊維もそこまで含まれてませんし。」
「まぁまぁ、そう言うお堅いことは言わない。」
「...もう...特別ですよ。」
疲れ切っているのか、思ったより反対は少なかった。
「じゃぁ、手配するね。」
クーポンを使ってと。こう言う時、ほんとアーミヤ様様だ。
「紅茶でもいかが?」
「今からハンバーガーが来るんじゃないんですか?」
「この時間帯、今からバンズを準備してとかやってると多分20分ぐらいはかかるだろ。」
そう言いつつ、フランカからもらった茶葉を取り出す。源石給湯器にヤカンをセットすると、ゴォオと水が沸かされる音がする。
「随分と本格的ですね。」
「まぁね。極東には茶道と言うものがあるそうだ。どうやら、抹茶という極東の茶を入れもてなし、心の平穏を感じると言う物らしくてな。その考えを少し取り入れてみた。何しろ落ち着く。」
「なるほど。それは興味深いですね。」
「興味あったらホシグマか龍門のフミヅキさんあたりに聞いてみるといい。」
あらかじめ予熱したティーポットへ沸騰した水を入れいく。最近気づいたのだが、最初に勢いよく入れて徐々に止めていくと美味しいようだ。一緒に湯煎して温めた牛乳や砂糖とともにサーブする。
「どうぞ。」
「いただきます。」
カチャリとティーカップから発する音以外はない。非常に静かで穏やかな空気が流れる。
「フォリニックのおかげで助かった。」
「...いえ。手伝わないとドクターが徹夜するのが目に見えてたので。」
「違いない。」
「そこは否定してください。」
ハハハと笑った後はまた静かになる。
「しかし、あれだな。たまにはこんな夜を過ごすのも悪くない。」
「そうかもしれませんね。これが毎日になると問題ですが。とは言ってもドクターの健康管理の手を緩めるつもりはありませんよ。」
「そんな気で言ったつもりはないが、ふむ。今後の交渉材料として使おう。」
「意味がわかりません。」
そういえば、今考えてみたらフォリニックとこんなふうに他愛もない話をするのは初めてはなかろうか。
「どうしました?」
「いや、なんとなくな。」
そんな中だった。配達ロボットが部屋に来たのは。受け取りに行こうとする俺を制止してフォリニックが向かう。
「...ドクター、サラダを注文するのではなかったのですか?」
「...まぁ、あれっしょ、オニオンリングは食物繊維も玉ねぎだから多いし、硫化アリルも豊富だというし...
「それでもフライドポテト並みのカロリーはあります。」
「どのみちサラダと比べて五十歩百歩なところを考えるとね。見逃してくれない?」
「...まったくもう、あなたと言う人は。」
理性が減っているのか流されてくれた。ラッキー。
「本当に今日だけですよ。」
「わかってるって。いつもフォリニックに叩き起こされているだけはあるんだからわかるって。」
そう言って、フォリニックから受け取った紙袋の中身を取り出す。開けるだけで漂うジャンキーで食欲をそそる匂いは、取り出すと部屋中に空腹で満たされた人間をどうしようもなくなる成分を撒き散らす。一応、執務机兼食卓があるが、ソファで食った方が手っ取り早いし、よりジャンキーなものを味わっている感がある。だからこそ良いのだ。と言ってもフォリニックは律儀にサラダを選んだが。
「しかし、あれだな。フォリニックがこんなふうにジャンキーなものを許すとは思わなんだ。」
「...どう言うことですか?」
「いや、君は正直な話、執拗に規則正しい生活を送っているじゃない。だから、こんな状況でも拒否するかとは思ってたんだ。」
あれ?俺地雷踏んだ?なんかフォリニックが黙っているんだけど。
「...私が、第三者に言わせれば、病的なまでに規則正しい生活を送っているのは決して健康のためではありません。」
「...」
「いわゆる規則正しい生活を送らないと、私は...寝れなくなるからです。過去を思い出して、私は、私じゃいられなくなるからです。」
彼女の話を聞いて俺は思い出した。ケルシーから聞いたプロフィールを。ウルサスという名前がいかに彼女を苦しめてきたか。いかに彼女を形作ってきたか。
「...配慮が足りなかった。すまない。」
「いえ、興醒めするようなことを言ってすみません。」
「いやいや...まぁ、これ以上言っても終わりが見えないか。とりあえずこの話は無しで。バーガーが冷める前にさっさと頂こう。」
そう言いつつ、手元のビッグスターに齧り付くと作りたてらしい香ばしいバンズの匂いと暖かい肉汁がドバッと口の中に溢れ出る。そして、2人とも寡黙に、モグモグと食べていく。余計なおしゃべりは不要。正直な話、エネルギー摂取のための食事に近い。これが実質的な金銭が発生してたら別だが、クーポン様様である。そしてもっと言うとアーミヤ様様である。
「...飲み物をはともかく、意外に美味しいですね。」
「だろ?じゃないと、艦内に出張店舗なんて出さないよ。」
「製薬会社の中にジャンクフードの店を出すなんて喧嘩を売ってるのかと思いましたが...」
「アハハハ、いえてる。」
さっきの暗い雰囲気は薄れる。そして、また沈黙だ。黙々とお互い自分の糧食を消費していく。
「...では、ドクター。ちゃんと歯磨きして、シャワーぐらい浴びて寝てくださいね。明日もいつも通りお越しにきます。」
「えー、特別に「ダメです。」...ちぇっ」
さっさと食べ終わったフォリニックは部屋を出ようとする彼女を呼び止めなちお。さっき脳裏によぎったことを伝えておかないと。
「どうしました?」
「また、ハンバーガーが食いたくなったらいってくれ。あと...」
「?どうしましたか?」
「...君が苦しみそうな時はうちの部屋にいつでも来るといい。」
「...ありがとうございます。でも、ハンバーガーはしばらく食べませんよ。」
それなら...
「それなら、食べるように君を変えて見せよう。」
「その前に、ドクターが健康的になるように変えてみせます。」
フフフとどこからともなく漏れ出る笑い声が部屋に満ちる。ロドスに訪れる一瞬に幸せな瞬間だ。
「おやすみ。」
「おやすみなさい、ドクター。また明日もよろしくお願いします。」
そして、今日が終わっていく。心の隙間を埋めたまま。
さて、8章の公開の発表、大陸では9章の発表が出ている中、自分はいまだに次の星6指名券を誰に使うか、まったく決めきってません。ドクターです。
ちなみに、弊ロドスではフォリニックが最強オペレーターの地位を確立してます。