ロドス・フロントライン 作:チランゴ
カジミエーシュ商業連合会。おそらく近年における騎士競技の腐敗の源ともいって良いだろう。しかし、その実態としては資本主義における民間企業の本質そのものだと見るべきだ。企業はビジネスと言う経済活動におけるただの単位にすぎない。それゆえ、利益を追い求め、自分の不利益につながるものは排除してく。必要であれば、その資本と影響力を活かして都合の良いように国のルールを変えていく。逆に、それができないものはより強大な企業に貪られる。彼らに取っては何ら不自然なことではないだろう。しかし、国家運営という観点から見ればただの脅威そのものでしかない。なにしろ、国民国家政府による領土の統治という従来の前提を覆しかねないからだ。主権国家による国の統治はオストファーレン時代からの伝統である。
これの転覆は間違いなく新時代を持ち込むだろうが、ロドスという一企業からすれば全くもって面白くない。せっかくのビジネスチャンスをぶち壊されかねないからだ。
「故に、このお祭り騒ぎに漬け込んだのか。」
「そういうことだ。ニアールの妹が参加するかもという情報も後押ししたがな。」
カヴァレリエルキの移動都市に接舷したロドス・アイランドのドクター執務室では、3つのカップからゆらゆらと湯気を立てていた。
「しかし、確かに製薬会社としてのロドスという地位をあの国に確立させることはできたが、間違いなく商業連合会の奴らの機嫌を逆撫でしたぞ。問題ないのか?ケルシー。」
「大丈夫だ。無甲冑盟というお抱えの武装組織の存在は確認されているが、監査会という対立勢力とロドスの対応力を鑑みるとそこまで問題にならない。」
いや、そうかもしれないけどさぁ。でもなんかあった時の指揮って多分俺の役目だろ?面倒臭いなー。
「でもなんだかんだで、ロドスの事業と彼らの事業は大きく被らないですし、彼らに影響を与えるとしたら騎士競技周りの商売かと。」
「それに、被ったとしても彼の国の技術力はそこまで大したことないから普通に勝てるか。」
「えぇ。無甲冑盟の存在は不穏ですが行動隊で対処できるでしょう。」
「...その際の対応は俺がやるんでしょ?」
もう少し雇用契約を精査するべきだったな...今更悔やんでも仕方がない。
「どこに行くんだ?」
「今日は久々の休暇だ。カヴァレリエルキ観光とでも洒落込むよ。」
「護衛1人はつけてくださいね。」
今日は雨か。フードジャケットでも羽織って行くか。いつものマスクは逆に面倒ごとを呼ぶから簡易マスクでいいか。
「あれ?ドクターだ。おでかけ?」
「よ、クロージャ。そんなとこだ。車両1台借りたいんだが。」
「りょーかーい。何が使えるかな。」
「何台かあっただろ。また壊したのか。」
「違うよー、オペレーターのみんなが借りてったんだよ。」
なら、君の斜め後ろでシートをかぶっている数台はなんだろうかとききたい。でもやめておこう。どうせあーだこーだ言い訳されて逃げられるからな。
「あー、あった。古いけどいい?」
「まともに走るならいい。」
1回、彼女から借りた車がひどい改造を受けてた時は死ぬかと思った。あれ以降いい車の基準が燃費、先進機能とかではなくちゃんと走るか、壊れないか、暴走、死なないかに変化した。
「とは言っても...これまたすごい骨董品を。」
「でしょ?もう数少ないからね。しっかり手入れしてるから軽く億は行くよ。」
「マジかよ...他に「ないね。」あっそうですか。」
非常に小さく、コンパクトなその見た目は可愛さ満点だ。まぁ、2人でぶらぶらするには十分な大きさか。
「ちなみにそれ、ケルシーの私物だから気をつけてね。」
「...。」
うわぁ、チョークを使う車なんて乗るの初めてだ。えぇと、電源を入れて、チョークレバーを引いて、セルモーターを回して、かかった。ミラー合わせてっと、ナビはタブレットの使えばいいか。あとは護衛を待つのみ。さっきタブレットで護衛を募集したからきっと来てくれると思う。もし来なかったら適当に呼び出すか。
「お、君が護衛か。こりゃ頼りになりそうだな。」
「はいっ、誠心誠意、ドクターの安全をお守りします。」
そこまで待たないうちにやってきたのはプリュム。もう一度指揮を取り始めてから、戦線をずっと支えてくれたオペレーターの1人だ。オペレーターとしては3スター扱いだが、正直個人的には5スターでも遜色ない働きをしてくれる大事なオペレーターだ。
「そんな気を張らなくて大丈夫だよ。そんじゃ乗って乗って。」
そんな彼女を助手席に案内しつつ運転席に乗り込む。パーキングブレーキを解除して、ギアを入れ、アクセルを踏み込むと直列2気筒の小気味よい音が響き渡る。
「どうした?そんなキョロキョロして。」
「いえ、ロドスでも、ラテラーノ護衛隊にいた際に何度も車に乗る機会はありましたがこのような車は初めてでして。」
「確かに、作戦時に使用する車は軍用のサイズ、装甲、馬力マシマシのヤツばっかりだからね。乗り心地はどうだい?」
「あまり変わらない気がします。」
「あっはっは、5、60年前の車だからね。乗り心地は良くないだろうね。」
クロージャには絶対聞かせてはいけない。あいつは間違いなくそれを聞いた瞬間いじり出すだろう。いや、断言する。あいつなら弄る。ケルシーの車であっても。
「そういえば、ドクター。近々ロドスはシエスタへ向かうと聞きましたが。」
「耳が早いね。そうだよ、ちょうどいい息抜きなるだろうってケルシーが許可してくれてね。」
そんなふうに他愛?もない話をしながら運転するといつの間にか市街地の中心部に到達していた。
「思ってたよりは人手が少ないですね。」
確かに、カヴァレリエルキの街は騎士競技が行われてると言う割には人でごった返してない。下手したら、少々閑散としてるぐらいだ。
何かあったかと最初は警戒したが、すぐに杞憂だったと分かった。急に建物という建物から人がわんさかと出てきた。なるほど、試合でもあったのだろう。
「ふむ、ちょっとお昼ご飯食べて、そのあと行った方が良さそうだな。」
「どこへですか?」
「まぁ、行ったらわかるさ。」
カジミエーシュの食い物屋で良さげなとこかぁ。ふむ、どこに行こうか。目に入ったのは見慣れたロゴ。
「これって、ロドスにもありませんでしたっけ?」
「ん?あるよ?」
「ドクター、わざわざ街まで繰り出して食べるのがこれって...」
「とやかく言われずに食えるジュースターは格別だよ?なに、これからの予定に備えて小腹を満たすためだけだからな。」
「なるほどです。」
そう言いつつ、注文するのはビッグスター。流石に単品にするが。プリュムはオンゴスバーガーとか言うのをしっかり食べている。
「どこで食べても変わらない味ですね。」
「だからいいんだよ。常に決まったアウトプットを出してくれるんだから。」
「レーションと比べたらだいぶ美味しいですしね。」
「それは言わないお約束。」
さてと、ちょうどいい頃合いだろう。待ちぼうけすることもなさそうだ。いや、寄り道が必要なようだ。
「これはこれは、貴方からのお迎えが来るとは思ってもいませんでしたよ。」
こんなファストフード店に似つかわしくない礼装の男がすぐそばにくる。
「いえいえ、ロドス・アイランドの実質トップの1人が来たとなれば直々にお迎えするのが礼儀というものです。」
「それは、どうも。ここでは誰に聞かれるかわからないので、よければ私の車の中でお話しするのはいかがですか?狭いですが傍聴対策は問題ありません。」
「ほぉ...、でしたらお言葉に甘えまして。」
「ドクター、用事というのは。」
「まぁ、そんなとこだ。悪いが後席に座っててくれ。」
ケルシーの小さい車に3人は流石に狭い。だが、エンジンをかけて走らせればエンジン音で周りから聞き耳を立てられることもないし、第三者による盗聴もない。ここからさらに流れを作り出さねば。
「さてと、代弁者殿。単刀直入に貴方と貴方の上に警告させていただきましょう。これ以上ニアール家とレッドパイン騎士団に手を出さないようにと。」
「警告ですか。」
「ええ、警告です。」
「いささか物騒な物言いじゃないですか?」
「いえ、本気です。貴方がたが、無甲冑盟を使って攻撃しているのは我々の諜報部が確認済みです。ロドスを知っているということは企業理念もご存知でしょう?」
「...」
「貴方じゃないと私は想定しますが、命令を出しているだろう連合の方々にお伝えください。グリフォンの尻尾を踏まないようにと。」
「...善処しましょう。ただ、あなた方が事を構えたところで特に大したことができるとは思えませんが。」
カチャッと後席にいるプリュムがハルバートを握りしめる。近くに敵味方不明の武装ユニットがいるらしい。おそらく無甲冑盟の誰かだろう。
「...レユニオン・ムーブメントを身をもって体感した我々を舐めないことだ。」
「...」
「お話に付き合っていただき有難うございます。今言ったことを貴方の上司にお伝えしていただけると大変幸甚に存じます。こちらの玄関まででよろしかったでしょうか?」
「...お伝えはします。お送りしていただき有難うございます。ここで結構です。」
「...ドクター。」
「周囲警戒を厳としつつ余裕を見せてろ。」
「了解しました。」
商業連合の建物までチャルニーを送ると本来の道に行く...つもりだったが、追跡を警戒して一旦街中散策をすることにした。やはり、腐敗が進んだ国とはいえども歴史があるだけある。数世紀前からの面影を残す街中は観光にはもってこいだった。
「どうだ、いるか?」
「いえ、途中で離脱しました。」
「何かあったんだろうな。」
道端の店で買ったアイスに舌鼓を打ちつつ散策するふりをしているとお目当ての場所に辿り着いた。
「ここが、本来の目的地ですか?」
「そうだ。ここに最近よく出入りする人間に用があった。」
なんと運がいいことだろうか。ちょうど、この家の住人が見窄らしい格好をした男を追い払っているところを見つけた。
「もう、ほんっとしつこいわね。入団は考えてないって何度言ったらわかるの?ってあら?」
「どうも...貴方はマリア・ニアールさんですね。あなたのご活躍は拝見させて頂いております。」
「また入団の勧誘?」
「いえ、そのようなものではありません。あなたのお姉様、マーガレット・二アールと関係がある者です。これをお渡しに参りました。では。」
渡すもの渡してさっさと引き下がる。ロドスは、まだ行動を起こしていない。防衛対象との接触は最小限にしておかなければ。あとは帰り道に着くだけだ。
「...これだけのことをするのに、あんな時間をかけたんですか?」
「これをするからこそ、カモフラージュが必要なんだよ。せっかくだし、バーによって行かない?なんか美味しいとこがあるらしいよ。お酒は飲めないけど。」
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「さてと、作戦会議を始めよう。」
会議室に集まったのは私、アーミヤ、ケルシー、ニアール、あと複数人の作戦部と諜報部のオペレーターだ。
「大騎士長との調整は?」
「全てアーミヤが予定通りに進めてくれてる。」
「征戦騎士の一部部隊も予定通り越境するようです。」
これで、無甲冑盟を分断できるはずだ。できなくとも、片方の目標は簡単に達成できる。
「商業連合の動きは?」
「相変わらず手を緩めるどころかエスカレートの兆候を見せてます。特に、焔尾騎士と灰毫騎士に対する攻撃とマリアさんに対する攻撃は熾烈さを増してます。現状、焔尾騎士等の2人は潜伏してます。」
「また、サルカズの傭兵2人と接触した形跡が認められます。おそらく、決勝戦に出場させるものかと。」
アーミヤの回答に諜報部のオペレーターが補足する。
「敵さんの真打か。」
「この2人は相当厄介そうだぞ。間違いなく相手は対象のペアを排除するだろう。」
ケルシーが問題の2人の詳細な情報を見せる。なるほど、相当な薬物乱用者か。間違いなく殺しにきてるな。
「そうすると、彼女1人になるが間違いなく対処できないな。」
「そこで、どうするかだ。」
「妙案があるぞ。」
「なんだ。」
「二アールを飛ばす。」
会議室が静まる。
「ニアールの戦闘力と対象の援護能力ならこの2人を叩けるだろう。」
「いや、今の沈黙は続けろって意味ではない。何を言ってんだという意味だ。」
「何か変なこと言ったか?」
「いや、もう良い。どうやって飛ばすつもりだ。それに彼女1人でいけるのか?」
「せっかく航空機があるんだ。途中までは二アールがそれに乗って、残りは飛んでいけば良い。あとシャイニングとナイチンゲールには先発隊ですでに向かってもらってる。いけるか?二アール。」
「ドクター、飛べるには飛べるが。そんな命令までするとは思わなかったぞ。」
「せっかくある能力だ。使えるものは使う。それが作戦立案というものだ。」
だめだ、こいつという雰囲気は置いておいて。実際もう勝手に実行してるから後戻りはできない。
「開始時刻は明朝0800。バッドガイ号に対空対地装備を念の為搭載しておけ。競技場進入後の行動はオペレーター 二アールに全権を委任する。」
「了解した。」
これで問題ないだろう。奴らの軍事的脅威は想定よりも低そうだ。少なくとも第三軍団よりは楽ちんだ。ついつい頬が緩む。
「まったく。あんだけ警告したのに。ロドスという企業に喧嘩を吹っかけるなら相応の対価を払ってもらうよ。商業連合会の皆さん。」