ロドス・フロントライン 作:チランゴ
「では、はじめる。」
暗い部屋の中に私を含めて数人。プロジェクターの光だけが爛々と輝いている。
昨日までのシエスタのお祭り気分とは打って変わって重々しい空気が広がっている。
「先ず、事態の概要を説明します。リターニア王国、ウォルモンドへ派遣されていたオペレーター アントが8月5日、標準時午後23時15分の定時連絡を行なったあと音信不通。消息を断ちました。72時間経っても連絡が取れなかったため、ロドス・オペレーター派遣規則13条第2項に基づき、通信捜索を行なったものの1週間が経過したため当該オペレーターは遭難したと断定しました。直ちに拡大通信捜索を行ないましたが空振り状態のまま間もなく2週間が断ちます。」
「よって、派遣規則13条第4項に基づき調査隊を派遣する運びとなるはずだった。この会議はそれに関することだ。」
あぁ、もう少しゆっくり白い砂浜で寝てたかった。
「はずだった?どう言うことだ?」
「ドクター、その...アントさんは...」
自分の質問に対するアーミヤの返答の歯切れが悪い。
「オペレーター・アントは遭難前後から発生したウォルモンドの情勢を鑑みて殺害された可能性があると思われる。故に私が会議を開いた。」
また巻き込まれたか。しかも死人を伴って。
「遭難前に送られた情報によりますとウォルモンドは天災に遭遇。これを避けるため冬霊山脈に沿って北進中です。」
「また、救難信号を発しているものの近隣のリターニア王国所属の移動都市の反応は鈍い模様。冬に向けての備蓄が枯渇する可能性があるとのことです。」
「結果、危機契約から我々への部隊派遣要請か。」
さっき、オペレーターから渡された手元にあるFAXされた紙をひらひらと振る。危機契約から一個分隊ほどの部隊を派遣する依頼だ。
「はい。また、フォリニックさんからアントさんの捜索許可がリs...スズランさんと共に申請されています。」
あぁ、そういえば彼女はアントの親友だな。
「私は彼女の派遣は反対だ。彼女の性格から鑑みて冷静な判断が出来ない可能性が大いにある。」
「私も同感です。また、現地では暴動の機運が高まっています。」
確かに彼女の言い分はもっともだ。ただなぁ、直前にたまたま会ったのだがあの痛々しい様子を見てるとせめて親友に別れを言う機会ぐらいは与えてあげたいと思わんでもないな。あのバカは寝ることも忘れたかのように通信室に入り浸っている。
「...では今回派遣する小隊は彼女を抜きにして編成する。隊長は...グレースロートが良いだろう。確か、アントの着任時に同行してたはずだ。」
「良いだろう。」
「では、それを元に3人の小規模の分隊を現地の治安維持協力のために派遣する。」
「足りるのか?ケルシー」
「単体ならともかく、現地の憲兵隊との協力だ。これがちょうどいいぐらいだろう。向こうのスペースも圧迫しない。」
分隊派遣の選定はケルシーに任せよう。
「本案件は私が指揮を取ろう。小隊員の選定はケルシーの方が情報を持っているだろうから任せる。アーミヤは現地の憲兵隊へ治安維持目的の分隊派遣を伝えてくれ。」
「了解しました。」
「あと今回はあくまで治安維持が目的であって人道介入ではない。補給部への調整は私が行うが長時間の戦闘に向いている者を派遣したい。」
ケルシーが首肯してくれたから、問題ないだろう。さてと、あとは彼女をどうするかだな。
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ーーー
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「おや、てっきりフォリニックかと思ったが。」
「あ、ドクターさん。フォリニックさんは今は私室で休憩中です。20時間もこもっていたので休むよう私が伝えました。」
「了解、ありがとう。」
通信室にいたのはフォリニックではなくスズランだった。彼女の表情から察するにフォリニックには相当の心的負担がかかっているようだな。さて彼女の私室はっと。いやその前に格納庫の方に向かうか。ちょっと先に手回しをしておかないと。
「全く、ドクターも人づらいが荒いですね。」
「全くだ。迷惑をかける。」
「いいですよ、ウォルモンド近郊までではなく大裂溝の真ん中ぐらいですね。」
「あぁ、ただくれぐれもウォルモンドの反対側にはおろさないでやってくれよ。間違いなくぶちぎれるぞ。」
「もちろんですよ。車両搭載までやっておいて、あとは本人を待っておきますね。」
「頼んだ。」
さてと、車両と運搬手段は手配した。あとは本人次第か。やっぱ、部屋に行くのは無しにして通信室で待っておこう。お目当ての人が来るまでスズランと雑談しつつ通信室で過ごしそう。あ、書類もついでに持ってきて片せばいいんじゃないか?よし、そうしよう。
部屋に来たフォリニックは起きてすぐにこっちに来たのか髪もボサボサだし、服も少々着崩れていた。
「え?お、お疲れ様です。」
「出直してこい。」
「「え?」」
スズランまで驚かせてしまったのは申し訳ないが、今はそう言わざるを得ない。
「医療部の人間ともあろう者が身だしなみを整えずにいるとは言語道断だ。まずは、シャワーを浴びて、服を着替えて。君の捜索許可申請に関する話はそれからだ。」
「...はい。」
今の彼女は話を受け入れる状態じゃないと判断する。リサまで巻き込んでまったく。
「すまないな。スズラン。」
「いえ、気分を転換するのにちょうどいい機会だったんじゃないでしょうか?」
「君も見た目に反して大人だな。」
気づいたらスズランの頭を撫でていた。子供扱いしないでくださいって本人は言うが私からすれば十分子供だ。年端もいかないのにこんなに周りに気を配っていて逆に私が心配になる。フォリニックは十数分後にちゃんと身だしなみを整えて戻ってきた。
「さてと、フォリニック。まぁ、座りなさい。」
目の前の椅子に案内する。着席したのを確認して話を始める。
「結果を手短に言わせてもらおう。ノーだ。」
気まずい沈黙が一瞬流れるがすぐにフォリニックによって破られた。
「...なぜ...ですか?」
「なぜか?それは簡単だ。貴官が現地に赴いても冷静な決断が出来ない可能性があると我々3人が判断したからだ。」
「ですがっ」
「確かに彼女が遭難状態になって1ヶ月ほどが経つのは我々とて看過できない。ゆえに、別に部隊を編成して派遣することになった。」
「なんでですか!」
「フォリニックさん!」
スズランの悲痛な声を他所にフォリニックが掴みかかる。
「なんで、私を組み込んではダメなんですか!ドクターはそのぐらいの調整できないんですか!アントと私はずっと一緒だったんですよ!なんで私が除け者にされるんですか!なんで彼女を探しに行ってはダメなのですか!」
「これはケルシーたちとも相談して決めたことだ。貴官を派遣するのは危険だ。」
「何のための戦術指揮官ですか。そのぐらい...」
「だからだ。では問おう。貴官は1人で暴動が発生しそうな地域に単身乗り込んで周りの手を焼かせずに彼女を見つけ出し、帰って来れるのか?」
「そんなの...やってみないとわからないじゃないですか。」
「あぁだが私はドクターだ。ただの希望に縋って人的資源を費やすわけにはいかない。」
それに...
「これ以上人を失うわけにはいかない。君も含めてだ。」
「なんで...親友を...探しちゃダメなんですか?」
少し落ち着いたのか、それとも力が単に抜けたのか、座り込んだ。
「どうしても、探しに行きたいのか?」
コクッと頷く。まったく、期待を裏切らないやつだな。
「彼女のことに関しては、私が一番知っているつもりです...」
「フム、捜索隊は送らない。これは決定事項だ...。」
ちらっと彼女の手を見ると、爪が食い込むほど強く握りしめているのが分かる。このままだと、傷になるだろう。そろそろ頃合いかな。
「だが...少しプランを手直しする権限はある。」
項垂れていた彼女がハッと顔をあげる。
「ウォルモンドより救難信号を受信した。つまり危機契約が始動する。ロドス作戦部は危機契約機構からの要請に基づき一分隊を派遣することにしている。」
つまりだ、彼女の反応を待たずに続ける。
「分隊の展開前の現地調査として派遣することはできる。君に与える条件は2つ、オペレーター・スズランをどこへでも同行させること。また彼女をおいて勝手に行動しないこと。この2つを守るなら調整してやる。」
「行きます。行かせてください。」
「わかった。では、ロドス作戦立案室戦術指揮官として命ずる。オペレーター・フォリニックは同スズランと共にリターニア王国移動都市ウォルモンドへの情勢調査、並びに遭難オペレーター・アントに関する調査を命ずる。ただし、暴動の可能性がある。その際は遂行中の任務の一切を中断して憲兵隊と鎮圧にあたること。」
「...はい。」
さっきよりはマシな顔つきか。スズランを見ると彼女も頷く。2人とも承諾したなら、やるしかない。
「40秒で支度しな。第二ハンガーにて集合。以上解散。急げ。」
はいっと返事した2人は部屋を出て行く。自分も灯りを消して部屋を出る。
最初から準備していたのだろう。私が思っていたよりも早く2人が到着した。クールガイ号の出発前点検及びに積載物の搭載は終わっている。
「食料は中にある車に搭載されている。あとは支給されている資金で現地で調達するか捕まえてくるかだ。また、暴動鎮圧のための弾薬および医療キットも多めに搭載されている。」
「わかりました。お手数おかけします。」
クールガイ号のエンジンが始動する。
「それとフォリニック。」
「...なんでしょう。」
エンジン回転数が上がっていく独特の騒音の中、彼女を一旦止める。
「どんな結末にであろうと生きて帰ってこい。」
「...」
コクッと頷いた彼女は何も言わずに機体の中に入っていく。
発艦したクールガイ号を見送っていると後ろからケルシーがくる。
「君なら、行かせると思ったよ。」
「近しいものとの死別を直接体験するのもいい経験だろうさ。それに、今の彼女は不安定だからこそ、艦内に止めておくこと方が危険だと思っただけさ。」
「それにしては、随分と役者がかっていたではないか。」
「おや、盗み聞きとは感心しないな。」
「見守っていたと言って欲しいものだ。」
気づいた頃には、クールガイは視認できる距離を超えていた。遠くでは、大きな積乱雲が稲光を見せていた。
「今度は、どれだけの犠牲が出るのだろうな。」
「...それ以上の数を救うさ。」
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ーーー
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『オペレーター5名の収容完了。ゲートロック確認。機関前進半速。』
カタンと床が少し揺らぐ。ウォルモンドから帰った5人を拾い終わったようだ。
「...はい...はい、了解しました。報告ありがとうございます。ドクター、ウォルモンドでの任務は完了です。お疲れ様でした。」
「了解、アーミヤ。君もサポートありがとう。たまにはしっかり休みなさい。」
「くれぐれも無理し過ぎないでください。ドクターが普段よりもなお一層寝てないのは知ってますよ。」
原因は減らない普段の仕事量だからなのだがとはいえなかった。
「戦術指揮官だ。今無理せずいつ無理する。」
「...、今回派遣したオペレーター、特にフォリニックさんとスズランさんのメンタルケアは本日午後より実施するつもりです。」
「わかった。結果はPRTS経由で送ってくれ。やらなければならないことが山積みだ。ウォルモンドへの人道支援物資はどうなってる。」
「予定通り、本日1600に第一便が地上経由で出発する見込みです。」
「OK。ありがとう。」
無意味にペンを数回カチカチとノックする。今回の作戦は全体的に見れば成功であるだろう。暴動は確かに発生してしまったが委員会が一番懸念した大規模な人道危機は起こさずに済んだ。
それがたとえ、数名の現地民とオペレーターの命を引き換えにしても...だ。これが間違っているとは言えないが故人の近しい者にとっては理不尽でしかないだろう。だが世の中は等価交換とまではいかなくても、何かを行うたびに何かしらの対価は要する。犠牲無きにして大それたことはできない。支援物資と共に憲兵隊は間に合った。救われた命は確かに、散っていった者、一生残らないであろう傷跡を受けた人々よりもはるかに上回るだろう。それでもだ...
「やってらんねえなぁ。」
誰もいない執務室でつい声に出して言ってしまう。
今日の業務もほぼいつも通りだ。時計の頂上過ぎても手を止めず、書類仕事に精を出す。秘書は定時に上がらせた。湯沸かし器と紅茶ポットを机の隅に常備しつつカタカタとパソコンを打つ。書類にサインをする。いつになったらデジタルに統一できることやら。
「また夜更かししてるんですか。」
「思ったより早くここに来たな。」
そんな風に数日間夜遅くまで仕事してた時の日だ。何の連絡もなく部屋に入ってきたのはフォリニックだった。全く急に入らんでくれ。
「もう夜の1時ですよ。消灯時間とっくに過ぎてるじゃないですか。」
「仕事が終わらなくてね。ちょうどいいや。手伝っておくれ。」
「お断りします。」
「と言いながら、普通に秘書の椅子に座ってんじゃん。」
「...薬葉弾でも撃ち込まれたいのですか?」
ごめんなさい。調子乗りました。
多少気まずい空気が流れながらも仕事は進む。彼女がきてくれたおかげで3時前には寝れるかもしれない。カリカリ、カタカタとただひたすらペンの走る音とキーボードを叩く音のみが部屋を支配する。普段だったら軽く口の一つや二つはあっただろう。ただ、私ですらなんと言えばいいのか分かりかねる。下手な言葉は逆効果だ。
「...ドクター...」
ただ、耐えきれなかったかのようにフォリニックが声を出す。
「私は、私たちはどこで道を違えたのでしょうか。」
「...というと?」
「私でも大体気づいています。この事件はビーダーマンの画策で起きた物ではないことを。おそらく、もっと深く、我々だけでは理解できない領域にあることを。」
「それでも、私にはわからないんです。なぜ、アントなのか。なぜ、私たちが苦しまなければならないのか。犠牲の上に立つ正義は正義たりえるのかを。」
...多少荒療治が過ぎたのだろうか。
「...ふむ、正義か。では正義の話をしようか、フォリニック。」
「...。」
「正義って確かに難しいね。感染者の権利を守る。これは我々が掲げる正義だ。レユニオンから非感染者である一般市民を守る。これも正義だ。では、人道の危機に際し一人でも多くの人命を救うのはどうかな?」
「...第三者から見れば正義かと。」
「そうだね、少なくともそのスタンスそのものは称賛に値される行動であろう。では、例え話だが...何もせずに100の人間を助けるのと1人を犠牲にして150の人間を助けるのとだとどちららが賞賛されるだろうか。」
「...それは...」
明らかに言葉を詰まらせるフォリニック。そりゃそうだ。これは一種の思考実験と呼ぶべきだろう。トロッコ問題と性質上はほとんど一緒である。
「では、何もせず200の人間を見殺しにするのと別の150の人間を殺してをその200人を救うのはどうだろうか。前者は200人が死ぬがもう片方では最終的にプラスで50の人間が生き残る。」
「では、ウォルモンドも...」
「そう言うふうに捉えるべきだろうし、君も半分わかっているだろう。アントを含めた8人を殺すことによってウォルモンドを飢餓から救える。君が為政者ならどうする。」
秘書席に座ったままだが、俯いて手は止まっている。
「危機契約、ケルシーについている君だったら何度も耳にしているだろう。」
椅子を軽く下げ、足と腕を組む。最近ホシグマに言われて気づいた自分の長話する際の癖だ。
『出身不問、種族不問、善悪不問。
―――全ては、より多くの命を救うために。』
「彼らの謳い文句だ。天災、オリパシー、人災からいかに効率的に人類を救うかを目的とする国際機関。国家・企業問わず様々な団体が名を連ねている。このロドスもだ。」
「ウォルモンドにおける事件。君は本事案における犠牲者の遺族ともいうべき位置に値する。巻き込まれる側としては不条理そのものだろう。だが彼らからすれば副次的な被害、コラテラル・ダメージにしか過ぎないのだ。彼らは生きる人間の数字を大事にする。たとえ、アントや他の難民が犬死しようとな。」
「...今の言葉...取り消してください。」
フォリニックがツカツカと距離を詰めたと思えば気づいたら天井を向いていた。彼女が押し倒したことをすぐに理解した。頭が割れるように痛いが自分を守る気配に手出ししないよう合図する。
「今の言葉、取り消して...謝ってください。」
「それで君は納得するのか?この悲劇の連鎖を。オリジニウムが引き起こす不条理を。君がそんなことで満足する安い人間だったのであるなら私は人を見る目を鍛えなければならなさそうだな。」
頬を大粒の涙が濡らしてくる。
「正直に話そう。君だから話せる。我々ロドスのトップはこの事態を予見していた。君を派遣する前からだ。危機契約から部隊派遣要請が来た時点でな。そして君も半分予見していただろう。」
「...では、ケルシー先生も知っていて黙っていたのですか?彼女の死を。」
「時には口を紡ぐことも最善の方法と言えよう。」
一瞬の沈黙が訪れる。フォリニックが啜り泣く声意外は何も聞こえない。肩を掴まれる力がだいぶ抜けている。これだったら抜け出せるな。
「他に救いはなかったのですか?」
「今のこの世のシステムにはないだろうな。」
「ただ、世界が動くシステムが変われば話は別だ。我々ロドスは黙って波に揉まれる集団ではない。そんなクソルール覆せばいい。」
彼女の頭を撫でてみる。人が泣いてる時にすべきことって確かこうだったよな。
聞こえてるといいなと思いつつーー
「ちょうど1週間後、私直属の遊撃小隊が発足する予定だ。そこの隊長として君を置くつもりだ。」
彼女には、区切りをつけるきっかけが必要だ。
「この世のシステムをひっくり返したいのなら、この不条理に争いたいのなら12時に第二ハンガーに来るように。」
その後はひたすら宥めることに徹するのみだった。仕事は終わってないがケルシーに話をつけておこう。しばらくしたら泣き疲れたのか寝てしまっていた。このままでは風邪をひくだろうし彼女をベッドに連れて行って自分はソファで寝ることにした。
端末のアラームがいつも通りに叩き起こしてくれる。ほんと空気も読まないこのクソアラーム。ふと自分にベッドの毛布がかかっていることに気がついた。どうやらフォリニックは自分の部屋に戻ったようだ。
グムが差し入れてくれたクラブサンドイッチを食べながら書類を弄っているとケルシーがくる。なんで医療部のみんなは連絡どころかノックもなしに入ってくるんだろうか。
「うちのフォリニックが世話になった。」
「一応作戦部の所属だしな。上司が面倒見るのは当然のことよ。」
「それにしては結構深入りしてなかったか?」
「また盗み聞きか。」
ケルシーはさて、なんのことやらと言わんばかりに肩をすくめると自分の机に座ってきた。そこ椅子じゃないんすけど。
「遊撃隊、通称D1小隊の人選は任せるとは言ったがフォリニックを隊長にするとはな。」
「彼女は頭がいい。支援がメインになりつつも咄嗟に火力を投射できる柔軟さがある。感情的になりすぎる弱点はあるが他にいい人選が思い浮かばなくてな。」
「そんなクソルール覆せばいい、か。『君』ならそう言うだろうと思った。」
「良くも悪くも『自分』も知恵がよく回るのでね。」
ふっと笑いつつ立ち上がったケルシーはそのまま出口へ行く。
「どうか『君』のままであることを願うよ。堕ちてしまった君はもういらない。」
ーーーーー
ーーー
ー
2日後、ロドスの最上甲板に運用最低限以外の職員を除いてオペレーターたちが集まる。
「今回のウォルモンドにおける暴動で我々の大事な仲間であるオペレーターが殉職したのは皆きいてのことであるだろう。テラの大地は我々を平等に飲み込んでしまう。であれば、せめて彼女の名前が、魂がここに帰還したことをこの鐘と共に表するのみだ。」
しとしとと降り続ける雨の中でケルシーが淡々と原稿を読んでいく。皆黙祷を捧げる中、カァンカァン鐘の音だけが虚しく鳴り響きまたその音も大地に飲み込まれていく。
「ドクター、少しお時間よろしいでしょうか?」
「なんだアーミヤ?」
「D1の件ですが、本当に彼女を任命するおつもりで?」
「あぁ、そのつもりだが?」
「ですが、本人はまだー」
「まだ返答していないな。」
ふと当の本人の方を見てみると項垂れたままアントの名前が刻まれた碑の前に立ち尽くしていた。
「だが、信じるのみさ。私は区切りをつける種を蒔いた。後はこの雨がそれを芽吹かせるのを待つまでだ。」
数日後、ロドス本艦第二ハンガー内に11名のオペレーターが横一列に並んでいる。自分が一番信頼する実力のある者たちだ。
「さてと、本日1200をもって戦術指揮官直轄機動遊撃戦遂行部隊、MSOE(エムソー)の発足だ。貴官らには大型作戦における遊撃戦、危機契約等に対処するための非正規戦と色々な作戦を遂行してもらう。ここまでは既に話した通りだ。」
微動だにしない彼らの威圧感を前に自分も負けるまいと堂々とあろうとする、がやっぱり圧巻だな。
「そして、多分君たちは自分の隊長はどこにいるのだろうかと思うだろう。まぁ、俺から言うのもなんだし本人に来てもらって自己紹介でもして貰おうか。」
そういって登場を促すとフォリニックが奥の方からやってくる。ぱっと見一緒だが、結構服装が変わってるな。これは俺も知らなかった。
「この度D1小隊、MSOE隊長を拝命したフォリニックですーーーー」
「しかし、よく彼女は引き受けたな。」
横からケルシーが囁いた。
「俺も正直そこは確証がなかったからな。まぁ、今の彼女は多少は芯が鍛えられた子だよ。」
「私の弟子だからな。そのぐらい鍛えてあるさ。」
「ーーーそれぞれ違う正義があると思いますがまずは勝利を勝ち取るのみ。以上です。」
彼女のスピーチが終わる。よく即興で作り上げたな全く。
「本当は先に調整訓練を行いたいがそうは問屋が卸さないらしい。早速だが仕事だ。サルゴンにおけるとある軍閥への強襲。最優先目標はロドス人員、およびその他人質の解放、首謀者の討伐と捕獲、可能なら生きた状態で。詳細は追って伝える。以上、かかれ。」
第二ハンガーからバッドガイ号が引き出されエンジンが始動していく。小隊の面々が乗り込む中フォリニックが横に来た。
「ふふ、随分と発足の際に大立ち回りりしたそうじゃないですか。ケルシー先生から聞きましたよ。」
「君のためだとは一言も言ってないし、今回は全く別件だがな。」
「誰も私のためとは一言も言ってませんよ?でも、あなたは私に区切りをつける機会をくれました。」
「それはよかった。」
「今から数日離れますが、その間の健康管理はススーロさんに頼みましたから。」
ウゲェ、抜け目のないやつ。
フォリニックはそう言い残すと輸送機の方に向かっていった。だが乗り込む直前にこっちを振り返ったかと思うと
「ーーーーーーーーーー」
「...なんて?」
彼女の言葉はエンジン音にかき消されていた。まぁ、大体なんて言ったのかは想像はつく。前回彼女を見送った時に見えたのは積乱雲だったが今回は青い空が広がるばかりだった。
さてと、白衣の秘書が帰ってくる前にちゃんと仕事をしておかないとガミガミ言われそうだしな。こんな感傷に浸ってないで我らがCEOにどやされる前に仕事に戻るとするか。