ぶっちゃけ知らないなら知らないでも読めるとは思うけど、知ってたほうがもっと楽しめるのも事実なのでみんなもドールズ読もう(ダイマ
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なあに、本編はたったの180話ほどさ(めそらし
最近よくテレビで見るガラル
―――ガラル地方という名前を知っているだろうか?
ここ数年、ポケモンの巨大化現象で一部有名になっていた地方ではあるが、それはどちらかと言うとトレーナー側で有名なだけであって、大半の一般の人たちからすると最近良くテレビで見る『アイドル』の出身地である、と言った認識のほうが強いのではないだろうか。
ただ一部の関係者からするとまた違った意見が出てくるもので。
ガラル地方は『ポケモンバトルの競技化』に最も早く適応し、適合し、成功を収めた地方として有名だ。
近年までポケモンバトルとは『トレーナーとポケモンの純粋な強さ』を比べる戦いだった。
そこには強者と弱者が明確なくらいにあって、トレーナーを直接攻撃してはならない、ポケモンは六体まで、などの基本的なエチケットのような『ルール』はあってもハメ技や強さのインフレを防ぐ『レギュレーション』は存在しなかった。
それはポケモンという人類の隣人が『友』であると同時に『敵』でもあったが故の妥協。
絆を結んだポケモンは人と共に戦う戦友であり、けれど野生のポケモンは人を襲う『外敵』でしかない。
そして人はポケモンほどに強くなれないが故に、人はポケモンを『戦力』とするしかなかった。
だが文明の発展、技術の発達に伴い、人の手が届かない場所というのがぐっと減った。
少なくとも、人とポケモンは『住み分け』ができるようになった。
で、あるが故にトレーナーとポケモンを『戦力』とする意味合いも薄くなった。
それに伴なってポケモンバトルは『トレーナーの知略と戦略、ポケモンの技術と鍛錬』を発揮する『競技』として発展していき、現代では戦闘というよりはスポーツとしての意味合いを強く持っていた。
今となってはどの地方でも競技としての側面が強まったポケモンバトルだが、ガラル地方は最も早く二十年以上前からポケモンバトルを『競技』とし、『興行』としていた。
今世界中で行われている『競技』としてのポケモンバトルはガラル地方をモデルとしているほどに、この分野における『先駆者』なのだ。
そんなガラル地方ではあるが、同時に観光地としても有名であり、特に自然環境を意図的に保全した『ワイルドエリア』と呼ばれる特別自然保護地区は世界的に見ても貴重な『人の手の加わっていない自然そのままの環境』が残った場所であり、生態研究などにおける重要な地区とされている。
で、あるが故に、ガラル地方は他地方からのポケモンの持ち込みが非常に厳しい。
環境保全のために一部を特区として隔離しているのに、地方にいないポケモンを持ち込まれて、持ち込まれたポケモンがうっかり逃げ出したり、捨てられて野生化し繁殖などされたら堪ったものじゃない。
というまあ理解はできる理由なのだが、それはそれとして。
「アンタ以外全員アウトってどういうことよ!!!」
プロトレーナーのメインパーティ6体中5体が持ち込み禁止というのはさすがにやり過ぎではないだろうかと思うのだ。
傍らに立った自分より少しだけ背の高い弟の足を蹴っ飛ばしながら、悪態を吐く。
「いた、痛いって姉ちゃん……仕方ないでしょ、規制に引っかかってるんだから」
「ポケモンの種族どころか、技まで規制するとか正気じゃないでしょ」
「まあ一度見せると覚えちゃう可能性、あるから。それにだったら技くらい覚え直させればよかったんじゃ」
「そんな簡単に変更できるわけないでしょ。そもそも技構成変えるなら育成コンセプトから練り直しよ」
近頃はトレーナーの分業化が進み、バトルを専門にして育成はブリーダーに任せてしまうトレーナーも増えているが、自分の場合親に倣って全部自分の手で育てている。
幸いにして、ある程度自分の理想通りの育成ができる程度の才能はあったらしい、育成が得意な母の知恵も借りながら数年かけてプロトレーナーとして恥ずかしくないだけの育成は施したつもりだ。
私の数年がかりの努力は去年のホウエンリーグにおいて存分に発揮され、それなりの結果は残した。
とは言え、それなりはそれなりだ。
プロトレーナーである以上『頂点』以外に意味は無い。
で、あるが故に今年こそは『頂点』を目指す……と思っていたのだが。
「ホント……何のつもりなのかしらね、あの子」
裁縫が得意な母に作ってもらった母さんと同じような青いコートのポケットから一通の手紙を取り出す。
空に掲げ、見やるそこには差出人の名前が書かれていた。
それは招待状だ。
十数年前までのように地方間でリーグが独立していた時代ならばともかく、地方間リーグが統一された現代となってはその意味は非常に大きい。
同じプロトレーナーになったらしい幼馴染の親友ならばそんなこととっくに分かっているはずで。
それでもこの手紙は私の元に届いた、それは事実だった。
* * *
シュートシティ。
ガラル地方の最北に位置する街であり、ガラル最大の都市でもある。
毎年多くの観光客で賑わうこの街はガラルで唯一の空港『マクロコスモス・エアラインズ』が存在することからガラルにおける国際交流の玄関口となっている。
量子化による物質の保存技術によってスマホロトム一つあれば荷物の持ち運びも楽になるため数十年前のようにキャリケースやボストンバッグ抱えて行き交う人などは最早居ないとは言え、多くの人が行き来する空港内は雑多としていて広々としているにも関わらず閉塞感を感じる。
天井で空が見えないからだろうか、とそんなことを思いながら空港を出れば広がるのは広大な街並み。
「おーい」
ホウエンでもミナモシティやカナズミシティでも無ければこれほどの街並み見ることは無いだろうし、そこにガラル地方独特の建築文化が混じって何とも趣深い様相を呈していた。
なるほど観光地として人気がある、というのも頷ける話である。そんなことを考えながら視線を彷徨わせていると雑踏に紛れて誰かの声が聞こえた。
「おーい、ソラちゃーん」
今度ははっきりと、それも私の名前を呼んでいたので声のするほうへと視線を向ければ、空港から出ていく人の波に逆らうようにして走って来る少女の姿。
グレーのニットパーカーに緑のベレー帽が特徴的なその外見は、私の良く知る姿のままで。
「ユウリ!」
だからすぐにその名が出てきた。
私の幼馴染で、親友の名前が。
走ってくる親友がそのままの勢いに抱き着いてくる。
「うーん、相変わらずちっちゃいね!」
「うっさい……アンタは育ったわね」
最後に会ったのは三年前。
その頃には私とそう変わらなかったはずの背丈も今では私よりも頭一つ分ほど高くなっているし、何よりも抱き着かれた時に三年前には無かったはずの膨らみが感じられた。思わず自分の胸元に手を当ててみるが見事なくらいに真っすぐなそこへ手を当てても感じられるのは肋骨の硬さだけだった。
母さんに似ているとよく言われる私ではあるし、そのことを嬉しいと思っているのも間違いではないが、こんなところまで似て欲しくなかったと思っているのも事実だった。
「あ、アオ君もひさびさ~」
「久しぶりだね、ユウリ……元気そうで良かったよ」
隣の弟とも挨拶を交わして……っていつまで抱きついているのだ。
「離れなさい」
「あ~久し振りのソラちゃんの感触が~」
純粋な腕力ではこちらのほうが上なので抱きつく幼馴染を剥がしながら無理矢理立たせる。
そうして改めて見たその顔つきは三年前よりもずっと大人びていて……正直腹立たしい。
「ぐぬぬ……これが格差……」
私なんて五年以上も背が変わらないというのに、顔つきも胸も、いつまでも変わらないから偶に本当に人間か疑われるくらい変わらないのに!
多分母さんの遺伝だ、きっとそうだ。
それはそれとして三年ぶりに再会した幼馴染である。
「それで、何なのよこれ」
ポケットから出した手紙を目の前でひらひらと揺らす。
差出人は目の前の幼馴染だった。
「うん、そのことなんだけど……まあ立ち話も何だし、どこかお店に入らない?」
「そうね……お願いしようかしら、それで良いわよね、アオ」
後ろでこくり、と頷く弟へと視線をやりながら嘆息する。
「少しお腹空いたわ。朝からまともに食べてないし」
ホウエンからガラルまで飛行機に乗ってそれなりの時間がかかる。
朝まだ陽が昇る前から飛行機に乗って現在昼過ぎと言ったところ。
道中で機内食は出たが私も弟も結構食べるほうなので物足りない感じは否めなかった。
「カレー食べよう! カレー! ガラルに来たからにはカレー食べないと!」
何やら思い入れがある様子で、熱心に語る幼馴染だったがそれはそれとしてカレーは嫌いじゃない、いや寧ろ大好物と言って良い。
「良いわね。じゃあユウリ案内頼んでも良い?」
「オッケー! おススメのお店紹介しちゃうよ!」
一応振り返ってアオにも確認するがアオも大丈夫らしいので幼馴染に案内を頼み、お店に向かった。
* * *
ガラル地方で現在一番好まれている料理が『カレーライス』だ。
地方ごとに名物料理というのは結構色々あるわけだが、そんなレベルではなく家庭の味から専門店までだいたいどこの町に行ってもカレーで染まっている。
町ごとに店ごとに家庭ごとに独自の味付け、調理法、材料などがあるらしいがそれでも料理としては全部ひっくるめて『カレー』である。
昔はそうでも無かったらしいが近年になってガラルで大流行、以来右を向いても左を向いても『カレー』『カレー』『カレー』である。
というのもガラル地方は『カレー』作りに欠かせないスパイスの原産地らしい。
以前までは基本的に肉料理などだけに使われていたスパイス類だが、これをどうにか売りにできないかと試行錯誤した結果が『カレー』ブームらしい。
シュートシティはガラルの玄関口となっているため観光客向けの店が多く、そしてやはり相応にカレー専門店が多い。
口から火を噴くアチャモ印の『コッコイチバンカレー』や以前のチャンピオンの決め台詞から名前を決めたという『真のチャンピオンカレー』、ワイルドエリア原産食材を選び抜いた『ワイルドカレー』、55種のスパイスが味の決め手と謳っている『55カレー』などガラル全土にチェーン店を持つ有名店の本店が立ち並んでいて、日々凌ぎを削っている。
まあつまり、だいたいどの店を選んでも味は保証されているのだ。
「これは……ダイオウドウ級……」
ぱくぱくと貪ると言ったほうが正しいのではないかと言わんばかりの勢いでカレーライスを掻きこむ幼馴染の姿にそれで良いのかと思わなくも無いが、まあ確かにそうしたくなるくらいには美味しいのは事実だった。
真っ白なライスの上にハンバーグを乗せてカレーをかけるだけのシンプルな『からくちハンバーグカレー』だったが、カレーのスパイシーさに負けないくらい濃厚で肉の旨味が溢れるハンバーグが食べ応え抜群の一品だった。
私は比較的味の好みも母さんに似ているのか、辛い物が好きなのでスパイシーなカレーを頼んだのだが、逆にアオは辛いのが苦手らしく『ヤシのミルク』で味をまろやかな味に調えられ渋みのあるきのみを入れた『しぶくちココナッツカレー 』を美味しそうに食べている。
「ふう……美味しかった。まあまあの店だったね」
からん、とスプーンを皿の上に置きながら一皿ぺろっと平らげてしまった幼馴染がお腹を擦った。
十分美味しいと思うのだが、これがまあまあなのだろうか? なんて思いながら少し間をおいて私とアオも食べ終える。
「それにしてもこっちでもカレーが食べれるのね」
「寧ろカレーライスが流行ったのここ十年前後の話らしいのに、ソラちゃんのお家で昔食べたことのほうが驚きだよ」
まあ確かに実家以外ではカレーライスなんてお目にかかったことが無いので、私はてっきり家庭料理か何かだと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
「多分父さんじゃないかしらね……色々料理にうるさいみたいだし」
ホウエンでは見かけないような食材も、ホウエンでは見ないような料理も知っているようだし、私の父親は存外グルメなのかもしれないと今更に思う。
まあそれはさておき、だ。
「それで、いい加減聞かせてちょうだいな」
再びポケットから差し出した封筒を机の上に置くとユウリが一度それに視線を落とし。
「そう、だね」
ゆっくりと息を吐く。
呼吸を整えるように。
緊張を誤魔化すように。
「実は」
少し言葉を溜めて。
「私、昨年このガラルのチャンピオンになったんだ」
飛び出してきた言葉に、目を見開いた。
今回一番戦々恐々しながら書いた部分……コッコイチバンカレー。