ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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モチベが回復したのでまたぼちぼち更新してきます。


魔女と魔術師

 

 

 

「ってー! 全然みつからなーい!」

 

 広大なワイルドエリアの片隅で、一人の少女……アルカネットが絶叫した。

 確かに滅多に見つかるものでは無いと分かってはいるが、それにしたって残り数か月の猶予の内の数日を無駄に過ごしているのだ、さすがに焦りもする。

 だが無暗に動けばまた先日のような失敗をすると分かっているからこそ「ぐぎぎ」と悔しがる以上のことはしていなかった。

 

「困ったなあ……仮にこの調子であと1週間はかかるとしてそこから育成に取れる時間にジムチャレンジを熟すための時間……8月に間に合うかなあ?」

 

 こういう時に新人トレーナーというのは悩ましい。

 特に昨年トレーナーになったばかりのアルカのようなドがつく新人は経験が圧倒的に足りなかった。

 だから自分の育成の手腕が分からない、新しいポケモンを捕まえてもノウハウが足りないからどのくらいの時間がかかるかも分からなければどこまでやれるのかも分からない。そしてその時間を短縮するための方法も分からない。

 

 さらにいえば、ここでまだ時間を費やすのか、それとも割り切って今の手持ちでどうにかする方法を考えるべきなのか。

 

 その決断をするための判断材料も無い。

 無い、無い、無い、そんなものばかりが新人トレーナーという存在だ。

 勿論新人とはいえ正規トレーナー資格を獲得している以上、アルカもまた難解な試験をクリアしたエリートの一員である。相応以上の知識はある……が、それを現状に上手く適用するための経験が足りない。

 

「こうなれば……センセイに聞くべきかな~」

 

 嘆息しながら脳裏に1人の人物を思い描く。

 ()()()()()()()()()()()()()()ならば少なくとも相談くらいにはのってくれるかもしれない、とスマホを取り出して番号を押す。

 2,3度のコールの後、相手が出たのが分かり―――。

 

「お久しぶりですセンセイ! 今お時間大丈夫です? え、あ、大丈夫? にひひ、ならちょっと相談したいことがあるんですけど!」

 

 電話の相手に相談を持ち掛けようとして、それより早く質問が飛んで来る。

 

「え、私ですか? 今はガラルにいますけど……え、はい。まあそうですね、元はこっちの出身なんで」

 

 付き合いの長さだけでいえば10年近いというのに、そんなことを今更のように語らなければならないあたり、本当に他人の興味の無い人だなあ、と思う。

 本当によくこの人が結婚できたものだ、と未だに不思議に思っている。

 

「え、センセイこっちに来てるんですか? え、家族と一緒に? なんで? はえ? エンジンシティで合流? え、え、え? わ、分かりました!」

 

 突如放出された情報の波に一瞬頭が混乱してしまったが、相談事なら直接会って話そうと言われればそこに否は無かった。

 

「こちらは昼にはエンジンシティに戻れますから先にお待ちしてますね! ()()センセイ!」

 

 

 * * *

 

 

 『ぼうふうけん』を展開しながら移動を続けるが土地勘が無いせいで正直目的地に近づけているのかどうかすら分からない。

 よりにもよって目的地であるアラベスクタウンというのが森の中にあるのが厄介だった。

 

 逆に相手には地の利がある、どころかこの地の全てが相手の味方だ。

 当然だろう、ここは相手の領域なのだから。

 

「染みついた領域剥がすだけでも一苦労ね」

 

 ここまで派手に敵対している以上、もうただではすまないと割り切って『ぼうふうけん』で森中に染みついた森のヌシの領域を引きはがしているが、一体どれだけの年月を重ねてきたのか、剥がしても剥がしても領域は消え去ってくれない。

 1つ剥がせば次が、また1つ剥がせば次が、まるで薄皮を重ね続けたクレープのようにめくってもめくっても次が出てくる。

 

 一つ言っておくならこんなもの重ねたからといって効果が2倍、3倍になる、とかそんなものでは無い。

 ただこうやって剥がそうとする時に苦労させられるくらいであり、重ねるための苦労はその何倍にも及ぶ。

 それをここまで重ね続けているのは最早執着、或いは執念だろうか。どちらにしろ正気の沙汰じゃない。

 

「厄介なのに当たったわね」

 

 自らの領域(ナワバリ)に対する異常なほどの執着。こういう手合いは本当に厄介なのだ。

 絶対にこちらを叩き伏せるまで追うことを止めない。寧ろ叩き伏せてから見せしめにすることで自らの権利を主張しようとする。

 逆に言えばこちらが逃げることは相手にとって不都合なのだ。だから全力で囲い込む、囲い込んで逃げられないようにして、そして―――。

 

「数の暴力で叩きに来る、わよね」

 

 逃げて、逃げて、けれどいつの間にか周囲を無数のポケモンに囲まれていた。

 道中でも10体か20体くらいは『ひんし』にしてやったはずなのだがまるで減った様子も無くぱっと目算で100体は超えるポケモンたちが自身を中心にぐるっと逃げ道を塞ぐようにして立ち塞がっている。

 

「嘘でしょ、何この数……」

 

 目を見開き、驚きの言葉が漏れだす。

 明確な隙、それでも相手が動かないのは……。

 

「この“嵐”が超えられないから……ね」

 

 バトルで使っているような調整したものでは無い、全力とまでは行かないが、それでも本気で振るうこの嵐はただのポケモンの力では超えるどころか触れることすら困難だ。

 スケールこそ自身の周囲に限定しているが、それでもこの力は嵐……自然災害そのものだ。そんじょそこらのポケモンが太刀打ちできるものではない。

 まあ問題はこちらから手出しもできない、ということだが。

 

「さて、どうしたものかしらね」

 

 この“嵐”とて永遠に発動し続けられるものでは無い、がすぐにダメになるものではない。

 少なくともバトル中に発動し続けられるだけの猶予はあるのだ、こちらが何もしなければしばらくは状況は動かないだろう。

 その膠着の間に何をすべきか考える。

 

「といっても逃げようと思えば逃げられるのよね」

 

 周囲を覆う“おおあらし”だが自身がいるこの場所は文字通りの『台風の目』、無風なのだ。

 だから誰でも良いので飛べる子を出して真上に向かって飛べばそれで脱出は可能だ。

 問題はその後、だが。

 

「この群れは、どこに向かうのかしらね」

 

 そもそもの話、こうなったのは私が迂闊に能力を使ってしまったせいだがそれは切っ掛けであって根本的な要因ではない。

 この森は私が立ち入ったその時からすでに異常があって、その異常な森の中で私が作った切っ掛けから雪崩打ってこうなってしまっただけなのだ。

 結局のところ、私がどうこうせずともこの森は常とは異なる様相を見せており、切っ掛け一つでこうなったのならばそうなるまでに張りつめてしまっていたというだけのこと。

 

 ならば私がいなければ一体何が起きた?

 

 この異常性(無数のポケモンたち)は一体どこに向かう?

 

 自分の命までかけるつもりは無いが、現状対処できる他人が見当たらない以上、これを見逃して後々アラベスクタウンあたりが崩壊したと言われるのもどう考えても気分が悪い。何よりジムチャレンジ先が無くなるのは困る。

 である以上、ある程度の余裕は持ちながらもできる限りはしておきたい。

 

 まあ最終的にどうなるかは……。

 

「私の決めるところじゃないわね」

 

「ああ、そうさ。それはあたしの決めることさ」

 

 どんな地方だろうと、ジムリーダー……あるいはポケモンジムとは、こういう災害のための抑止力なのだから。

 

 とん、と森の中で杖を突く音が広がる。

 それはほんの一瞬であり、すぐに嵐の唸り声にかき消される程度の音であったが。

 

 ―――反応は劇的だった。

 

 周囲を囲んでいたはずのポケモンたちが露骨に一歩、後ずさった。

 

「なんだい、久々に会うってのにつれない反応だねえ」

 

 とん、とん、と杖の音が近づいて来る。

 同時に“嵐”を解除する。ポケモンならともかく、人を巻き込むわけにはいかないから。

 そして今ならば“嵐”を解いたところでポケモンたちは動かないだろうから。

 何せ見ている目の前で一歩、また一歩と包囲が下がっていく。

 この森のヌシはよほどこの杖の主を恐れているのだろうことが分かった。

 

「全く……森が騒がしいからそろそろだと思って来てみれば、なんだい、新しい子に目移りかい? 節操がないねえ」

 

 包囲の一角が開ける。その先から歩いて来るのは杖をついた一人の老婆。

 老いてすっかり白くなってしまった髪に、自然と曲がった背。

 杖かと思っていたそれはどうやら傘のようであり、足元は森を歩くのに適したとは思えないような靴にこんな薄暗い森の中で帽子を被っていた。

 そしてその身に纏う服は……。

 

「薄情なもんだねえ、こちとら生まれてこの方の付き合いだって言うのに」

 

 ピンクとシアン色の2色カラーのその衣装はまさしくこれから向かう先、アラベスクスタジアムのジム、フェアリージムのユニフォームだった。

 

「16年前も、28年前も、33年前も、47年前も、53年前も72年前だってあたしがアンタの相手をしてあげたってのに、なんだい? 今のあたしじゃもうアンタの相手には役者が足りないってかい?」

 

 まるで誰かに言い聞かせるかのように呟きながら、その枯れ木のように細い腕がすっと1つ、ボールを手に取る。

 瞬間、周囲の緊張が高まる。

 その手のボールを投げれば、それが開戦の合図となる。それが互いに分かっているからこその緊張。

 けれど老婆本人はそんなことをまるで気にした様子も無く、不敵な笑みを浮かべながらぽんぽん、と手の中でボールを弄ぶ。

 

「今ここで、試してみるかい? あたしの力の程ってものをさ……ねえ、“白魔女”」

 

 きっとその時間はほんの10秒にも満たない間だったのだろう、だが緊張した空気の中、それはまるで1分にも感じられるほどに長く沈黙が周囲を満たした。

 そしてしばしの沈黙の後、1体、また1体と周囲を囲んでいたポケモンたちが森の暗がりの中へと消えていく。

 四方を囲んだ100を超えたポケモンたちその全てがすっかり見えなくなってしばし後、すっかり静かになってしまったその森の片隅で老婆はボールをホルスターに片付づけた。

 

「やれやれ……行ってくれたかい、全く毎度毎度厄介なことだね」

 

 その言葉に、ようやく状況が落ち着いたことを理解し、全身から力が抜ける。

 ほっと安堵の息を漏らせば、老婆がこちらを振り返る。

 

「あんた、災難だったね。それとよく引き付けてくれたね、お陰でやつらが街まで来ることは無かったからね。礼を言うよ」

「そう……それは良かった、ところでお婆さんはフェアリージムの人?」

 

 そんな私の問いに、老婆はニィと笑いながら帽子を深く被り、とんと傘を杖のように突いた。

 

「あたしはポプラ。アラベスクスタジアム担当ジム、フェアリージムの元ジムリーダーさ。ま、今は楽隠居ってところかね」

 

 肩を竦めながらそんなことを告げ、視線でそちらは? と問うてくる。

 

「私は、ソラ……一応ジムチャレンジ中のチャレンジャーよ」

「ソラ……ああ、ユウリが連れて来たって子だね。話は聞いてるよ、でもそうだね……あんた」

 

 言葉と共に近づき、覗き込むように顔を近づけてくる老婆……ポプラに思わず仰け反る。

 だがそんな私に構う様子も無く、見透かすようにじっとこちらを見つめ、それから何かに納得したようにポプラは一人鷹揚に頷いた。

 

「まあまあピンクな子だね。ちと捻てるのが残念だけど、去年のあたしならジムに誘ったかもしれないね」

「……ピンク?」

 

 意味が分からず問うように呟いたその言葉に、けれどポプラは答えることも無く、振り返って歩き出す。

 

「まあいいさ、ほら、ついてきな。帰るついでさ、あたしがアラベスクタウンまで案内してやるよ……シノノメとか言ったかね、あの子あんたの連れだろ?」

「シノノメに会ったの?!」

「森を彷徨ってアラベスクタウンのほうに来てたからね。そのまま街のほうで待ってるように言ってあるよ」

 

 その言葉に安堵する。キューちゃんたちのボールを持たせたとはいえ、シノノメは別にプロトレーナーというわけではないのだ。どうしても心配してしまっていたのだが、どうやら無事だったようだ。

 と、そんなことを考えた直後にスマホが鳴る。見やればシノノメからのメッセージが数件。

 どうやら謎の電波妨害も解消されたようだ。

 突発的な遭遇戦ではあったが、どうやらこれで無事解決……ということで良いらしい。

 

 そうしてもう一度安堵の息を吐き、それからポプラの背を追う。

 

 

 

「……やれやれ、あっさり引いちまったかい。これは次はもういよいよ後がないかもしれないね」

 

 

 

 ぽつり、とポプラが呟いたその言葉を、けれどその背を追う私は聞き取ることは無かった。

 

 

挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?

  • あったほうが良い
  • ほどほどで良い
  • 無い方が良い
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