ポケットモンスタースカイブルー   作:水代

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遠い夢の残滓

 

 

 

 アラベスクタウンのポケモンセンターにたどり着き、宿を取るとベッドに倒れ込む。

 荷物も何もかも放り投げ、ボールだけは机の上に置いたがそれ以外の全てを投げ出して柔らかなベッドの感触に微睡む。

 

「……疲れたわ」

 

 異能者にとって最悪と呼べるほどに嫌なシチュエーションを1つ答えよう。

 それは()()()()()()()()()()()()()()だ。

 あの森でポケモンたちに囲まれた時、彼らがこちらに踏み込んでこなかったのは強力な嵐の力もあるが、それ以上に嵐の内側が()()()()()()だからだ。

 相手の異能の領域に踏み入ることはつまり、相手のルールで戦うことに等しい。

 故に領域のヌシ本人ならばともかく、その配下らしいポケモンたちが無策に突っ込んできたところで返り討ちにあうだけ……無駄に戦力をすり減らす危険性を冒さなかったが故にあの包囲だった。

 

 だがそれは逆も同じなのだ。

 

 あの嵐より外側……森の大半があの森のヌシの領域なのだ。

 足を踏み入れた時に気づけなかった間抜けさにも頭を抱えたくなるが、それ以上に相手の領域内で延々と逃げ回っていたのが過去一番というレベルの疲労の最大の原因だった。

 

「……説明は、明日で良いって言ってたし、このまま寝ちゃいましょう」

 

 ポプラからも今日は休んで明日また話を聞かせてくれ、と言われているのでまだ夕方前だがこのまま寝てしまいたいと瞼が落ちそうになる。

 せめて寝る前に服だけでも着替えなければ、とかシャワーで汗だけでも流さないと気持ち悪い、とかシノノメは隣の部屋で何をしているのだろうか、とか。

 グルグルと思考だけが回りながらも少しずつ、少しずつ瞼が閉じていき。

 

 ―――やがて視界が暗闇に閉ざされ、思考は闇に飲まれた。

 

 

 * * *

 

 

 家族で一番尊敬している人物を問われたら真っ先に母さんを挙げると思う。

 母さん……エアという名前の私とよく似た顔をしたその人は、一言でいうならカッコいい人だった。

 

 なんというか、生き方が真っすぐなのだ。

 自分に芯があって、決してブレない。

 どこまでも自分を貫ける人。

 自分の生き方と共に死ねる人。

 

 そんな姿に幼心に憧れを抱かなかったか、と言われると嘘になる。

 

 けれど親としては……どうなのだろう。

 

 ―――強い人だった。

 

 そしてその強さを、子供にも求める人だった。

 分かりやすく言えば放任主義のきらいがある人だった。

 

 大好きだし、尊敬もしている。

 愛されていることを知っているし、情があることも分かっている。

 それでも母親らしいことをされた回数を数えると、母さんよりもシア母さんのほうがきっと多かった。

 

 赤子だった頃のことはほとんど覚えてない。

 ただその頃の母さんは父さんと共に大切に育ててくれていたらしい。

 けれど私が物心ついた頃になると……甘やかされた記憶なんてほとんど無かった。

 先も言ったが強い人で、その強さを子供にも求める人だった。

 つまるところ、物心ついたのならば、自分の足で立って歩くこと……自立することを求める人だった。

 

 それが母さんにとっての育児であり、子供に求めること、そしてそれが()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだった。

 

 何度も言うが、情が無いわけではないのだ。

 愛されていることだって知っている。

 でもその愛情表現は子供が求めるそれとは異なっていた。

 

 ―――種族的な部分もあるのかもね。

 

 そんな母さんを見て、父さんは苦笑しながらその呟いた。

 私の母さんは()()()()()()()

 ……だった、だ。過去形、つまり今は違う。

 亜人種*1と学術的に分類されたその存在は、実際のところ人と何ら変わりないが故に母さんはすでにポケモンではない。

 ただし擬人種が亜人種になったからといって突然精神性がガラッと変わるわけではない。

 勿論長年亜人種として人と変わりない生活をしていく中で変容する部分はあるが、それでも母さんの精神性の根底にあるのは竜としてのソレだ。

 

 母さんは子供たちに竜であることを求めた。

 

 アオは……弟は最初からそうだった。

 生まれた時からボーマンダという最強クラスの竜として生まれた私の弟はそれに順応した。

 

 そして私は……どこまで行っても人間にしかなれなかった。

 

 どうやったって私は人であり、どれだけ人外染みた力を持っていようと、結局人であることから抜け出せなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 * * *

 

 

 机の上に1つのボールが置かれていた。

 

「……分かってたこと、なんだけどなあ」

 

 それを見つめながら、少女……シノノメは嘆息した。

 そう、分かっていたことだ。そんなこと、とっくの昔に。

 

「私は姉さんみたいになれない」

 

 咄嗟の状況で役に立つとか立たないとか、何ができるのかとか、そういうこと以前に……自分の相棒を信じることができない。

 森から抜け出す時、ポケモンと遭遇して咄嗟に投げたのはソラから預かった2つのボールだった。

 自分のホルスターに未練がましく下げられたボールに手が伸びることすら無かったのは、つまりそういうことでしかない。

 

 自分にトレーナーとしての才能なんて無いことはずっと昔から分かっていた。

 それでも少しだけ……そう、ほんの少しだけ思ってしまうのだ。

 

 ―――姉のようなトレーナーになってみたい、と。

 

 動画配信を始めたのは少しでもプロトレーナーの世界に近づいてみたかったから。

 自身は非プロながら、プロのそれもジムリーダーというトッププロに属する姉のいるシノノメは、自然とプロトレーナーというものに対する造詣が深くなっていた。

 シノノメとユウゼンは別に仲が悪いわけではない。普通に会話もするし、プロについて聞いてみれば姉は余程突っ込んだ質問以外はだいたい教えてくれる。

 そうして学んだ知識を動画や配信という形で発信する。

 

 きっとシノノメの知識はなまじのプロよりも深い。

 

 当然のことだ。

 だってシノノメはプロになりたかったのだから。

 三つ子の魂百まで、なんて言葉もあるが。

 幼少に抱いた憧れというのはどれだけ大きくなっても心の奥深くに根差して、消えない。

 

 シノノメはプロになりたかった。

 

 否。

 

 姉のようなトレーナーになりたかった。

 

 ユウゼンは幼い頃からトレーナーとしての才覚を見せていた。

 ポケモンに対する豊富な知識、そしてバトルに対する適応。トレーナーとしてこれからやっていくのに十分過ぎるものがあった。

 幼い頃にそんな姉の姿を見たシノノメもまた姉の背を追うようにトレーナーとしての知識を得て。

 

 そして実践の部分で挫折した。

 

 簡単な話だ。

 言葉にすればたった一言で済む話。

 

 ―――シノノメにはトレーナーとしての才能が無かった。

 

 各地方のポケモンリーグが統一され、統一リーグが作られた時、トレーナーの評価を数値的に表す手段として『トレーナー評価』が作られた。

 ポケモンバトルに必要とされる能力を5種類に分類し、それらにそれぞれ1~10の点数をつけ、その総数によって『ランク付け』を行うことでトレーナーとしての資質を分かりやすくする、というものだ。

 勿論その評価は客観的データに基づいたものであり、主観との乖離があることもあるが、プロトレーナーの実力を示す大まかな指標として各地方の統一リーグに受け入れられた。

 とはいえ、先程評価は1~10の点数が付けられると言ったが、実際のところ『プロとしての最低ライン』というものがあり、それが7点だと言われている。

 つまり5項目が7点に達しないようならばそれは『プロとして最低限の実力が足りていない』ということに他ならない。

 昨今プロトレーナーの条件が厳しくなり、下位リーグですらこの最低ラインがいる現在のプロの世界でそこに到達できないトレーナーはプロとして致命的といって良かった。

 

 プロを評価する5項目とはつまり、トレーナーに必須とされる『指示』『育成』『統率』の3つ。

 そこにトレーナー個人のスキルを加えた『技能』、最後にパーティ構築能力と言って良い『戦術』の2つを加えた合計5種。

 

 後者2つは練習と実践、そして座学で身に着けるべきもの……つまりプロとしての能力。

 対して前者3つはプロ、非プロに関係無くポケモントレーナーがポケモンバトルに際して必須となる能力。

 つまりトレーナーとしての才能そのものと言える。

 

 シノノメは前者3つが基準に満たなかった。

 

 自己評価するならば多分2点にも満たない。

 どんなプロでも最低7点は必要となる評価が、だ。

 

 幼い頃から憧れのままに走って来たシノノメだったが、年月を重ねるごとに少しずつその現実を知る。

 そして10歳の誕生日に、姉から初めてのポケモンをもらい、初めてのポケモンバトルをした時、ついにその現実を突きつけられた。

 

 ―――自分の憧れに絶対に手が届かないことをその時はっきりと理解させられた。

 

 

  * * *

 

 

「にひひ、お久ぶりです、センセイ!」

「久しぶりね、アルカ……と言っても電話だと良く話してる気がするけど」

「こうして顔を合わせるのなんて3年か4年ぶりですかね? カロスではお世話になりました!」

「もう終わった話よ……」

 

 少女、アルカネットことアルカはエンジンシティのとあるカフェで1人の女性と対面していた。

 何を隠そうアルカの幼少期の命の恩人たるその女性の名をシキと言う。

 ()()()()()()()()()()()()()()であり、元ホウエンチャンピオンだったこともある女性だ。

 

「いやいや、センセイがいなければきっと今頃私ここにいませんでしたよ!」

 

 これは冗談でもお世辞でも無く、本心からそう思っている。

 10年前のカロスは本気でそれだけ危険だった。いや、あれだけの事件があったのだから当然、というべきか……それともそれが当然になるほどの状況だったからこそあんな事件が起きたというべきか。

 まだ幼い子供だった当時のアルカは、その事情のほどを全く知らなかったが、けれど幼心に街に広がるピリピリとした緊張感と怖い顔をして家の外を見やる両親の姿を覚えている。

 

 カロス全域に根を張った巨大犯罪組織。

 カロスにおける異能者を守らんとしたテロリスト。

 カロスの裏側で暗躍した誰か。

 そしてそれらを追う国際警察。

 それに協力するポケモンリーグ。

 それら全ての勢力を巻き込んだカロス全土に影響を及ぼすほどの激しい戦いはカロスに異能者への恐怖を植え付けた。

 

 そこから始まった異能者狩り。

 かつての魔女狩りを彷彿とさせるような熾烈さを秘めたそれはまだ幼さから異能を制御できていなかった当時のアルカの生を脅かすほどの無秩序ぶりだった。

 当時何の因果かカロスにいたシキがアルカたち一家を守ってくれなければ間違いなく、アルカは両親ごと殺されていただろうと確信できるほどに。

 ミアレシティは半壊し、火災で多くの建造物は焼け、半狂乱になった人々は生贄を求めた。

 この状況に対して責任を突きつけることのできる都合の良い生贄を。

 それが異能者だった。

 

 カロスは元より異能というものに排他的な地方だった。

 魔女狩り、宗教裁判、異端審問等々、異能者というものを人として扱うこと無く徹底的に弾圧してきた歴史がある。

 それでもミアレシティの発展と共に徐々に国際交流も進み、進んだ文化が取り入れられた。

 その中で異能者というものに対するものの見方というのも変わってきた……はずだった。

 

 けれどそれも10年前の事件で大きく後退した。

 

 10年経った今なおカロスというのは異能者に厳しい地方と言われる。

 さすがに命に関わるほどではないが、それでも偏見の目はある。

 勿論、国際空港のあるミアレシティ周辺はすでにその偏見も解けてきてはいるのだが……。

 

「だからガラルに戻ってきたんですよね……にひひ」

「ホントに……あの地方は」

 

 どうしようも無い、と首を振るシキに苦笑する。

 聞いた話によるとシキはカロスの出身らしい。当然、というべきか自らの故郷に思うところがあるようだった。

 なまじガラルはカロスと地理的に近い分、そういう情報が入ってきやすい。

 そしてガラルはカロスとは対称的に異能者というものに寛容だった。

 

「だからカロスとガラルって基本的に仲が悪いんですよね」

 

 過去には侵略戦争があったという話も聞くが、明確な根拠は無いらしい。

 ただカロスの歴史において3000年前に戦争があったのは事実であり、ガラルにおいて3000年前といえばブラックナイトによる国家への甚大な被害があったのも事実だ。

 その被害の補填のために他国を攻めた、というのが一説らしいが先も言ったが現状だとこじつけだそうだ。

 

 それに仲が悪いといっても別に個人間で見れば別にカロス人とガラル人が険悪だ、ということは無い。

 無いのだが国家……地方規模で見ると何かと張り合っている印象がある、という意味だ。

 

「どうしようも無いわね」

 

 肩を竦めてお手上げ、とでもいうかのような表情をするシキ。

 そんな話をしている内にウェイターがカップを2つ、テーブルに置いて去っていく。

 お喋りで乾いた喉を潤さんとシキと2人、一口カップに口をつける。

 そうして再びをカップを置く、それが仕切り直しの合図となる。

 

「それで、今日は相談があるんですが……その前に良いです?」

「何かしら?」

 

 首を傾げるシキから視線を少し逸らし、その後ろ側でアフタヌーンティーのスコーンを摘まんでいる2人の少女を見やる。

 

「あちらの人たちは?」

 

 その視線に気づいたのか、少女たちがこちらへと向き、スコーンを口いっぱいに頬張ったまま首を傾げる。

 そんな2人の様子にシキが笑みを浮かべ、答える。

 

「うちの家族よ」

 

 そんな端的な答えに、目を丸くした。

 

*1
人と交わった結果、ポケモンよりも人に近くなった存在。ぶっちゃけ擬人種が人と性交したらなる存在。





【挿絵表示】

ドールズの紹介のほうではまだ出せてないシキちゃん。
因みにこっちは大人バージョンなので、ドールズのほうで出すとしたら10代バージョンになる。



因みに『ホウエン時代』のソラちゃんのトレーナー評価

名前:ソラ

トレーナー評価
指示:8   相手の行動まで織り込まれた高い指示能力。
育成:10  特に『ひこう』タイプに極めて高い育成適性を持つ。
統率:10  『ひこう』タイプのポケモンに対して極めて高いカリスマ性を発揮する。
技能:10 他に類を見ない天候支配能力。『空の支配者』。
戦術:8 世界最強の天候支配能力を使ったパワープレイ。
総評:46 Sランク 世界最高の『ひこう』統一パーティ。


1~3 低いというか未熟。論外。
4~5 低い。プロとしては話にならない。
6    平均以下だが他が高ければ補えるライン。
7    プロとして最低ライン。
8    優秀なライン。逆に言えば秀才でしかない。ある意味努力の限界。
9    天才のライン。
10   天才の中でも最上位クラス。


ソラちゃんすげーじゃんって思うけどぶっちゃけトレーナー評価が高ければ絶対強いってわけじゃないし、強かろうが勝てるわけじゃないので(


名前:ユウリ

トレーナー評価
指示:8  優秀な指示能力。
育成:8  優秀な育成手腕。
統率:8  優秀な統率能力。
技能:8  優秀なテクニック。
戦術:8  相手に関係無く、一定のリードを取れる戦術。
総評:40 Aランク ガラルのバトル文化に最も適応したトレーナーの一人。


とまあこんなチャンピオンもいますが、バトルすればユウリちゃんが勝ちます。
ポケモンバトルはトレーナーだけがやるわけじゃなからね。仕方ないね。

挿絵つけてるけど、あったほうが良い? 無いほうが良い?

  • あったほうが良い
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